初等量子力学試験解答例


[問い1] 
  1. 「不確定性関係というのがあるから、運動量が確定した状態(∆p=0)だと、位置座標が完全に不確定(∆x=∞)になってしまう。つまり粒子がどこにいる かの手がかりがまったくないんだから、確率密度が場所や時間によらなくなるのはあたりまえだよ。もし確率密度が動いている状態を作りたかったら、∆p ≠0の状態、つまりいろんな運動量を持った波の重ね合わせを作らなきゃいけないんだ。重ね合わせ状態を考えて、その波がうまく重なって強めあっている場所 がどう動くかを考えると、粒子の運動がわかるんだよ。」
    (「運動量固有状態では位置の不確定性が最大になる」ということと「古典的粒子の運動は群速度で考えるべきである」ということがあなたの言葉で説明されていればそれでよい。∫ψ*ψdx=1と勘違いして「規格化されているから」という答があったが、ここで問うているのは積分する前のψ*ψ。)
  2. 「あなたが計算しているのは位相速度。これは波の頭が動く速度ではあるけど、波の塊(wave packet)の移動する速度じゃない。波の塊の移動する速度は群速度といって、[dω/dk]で計算できる。今の場合、ω = [hbark2)/2m]なので、[dω/dk] = [(hbark)/m]つまりvになるんだよ」
    (位相速度と群速度の違い、群速度を計算すればちゃんとvになることが指摘されていればよい)
  3. 「エネルギーの原点をずらすと、E→ E+E0のようにエネルギーの値が変わる。エネルギーEを持つ波動関数はe−[i/((h/2p) )]Etという形の関数になっているから、エネルギーの原点ずらしで、e−[i/((h/2p) )]Et→ e−[i/((h/2p) )](E+E0)tのように変化する。ところがこの変化分であるe−[i/((h/2p) )]E0tは、ψとψ*のかけ算をする時に必ず消えてしまう。量子力学で物理量を計算する時にはかならずψ*ψのかけ算が出てくるから、量子力学でもエネルギーの原点はずらしてもいいんだよ」
    (エネルギーの原点ずらしは量子力学でも不変性として成立するので、その点をちゃんと書くこと)


[問い2] 
  1. この系のエネルギーを計算すると、双方がR· θの速度で回るので、1/2m(R· θ)2 ×2=mR2(· θ)2のエネルギーを持つ。角運動量pθ=2mR2· θを使って書き直すと、エネルギーは[((pθ)2)/(4mR2)]となる。このpθを−ihbar[∂/∂θ]におきかると、ハミルトニアンは−[(hbar2)/(4mR2)][(∂2)/(∂θ2)]と書ける。
    (古典力学におけるエネルギー(ハミルトニアン)を素直に書き直せばよいのだが、ほとんどできてなかった)
  2. 式に代入すると、

    hbar2
    4mR2
    l2 eilθ−iωt = hbarωeilθ−iωt
    となって、[(hbar2)/(4mR2)]l2 = hbarω。
  3. lは整数でなくてはならない。
    (el=1まで出して、「だからl = 0」とやっている人がいたが、eは周期2πの周期関数なのだから、lは0でなくても(1でも2でも3でも)、el=1である)
  4. エネルギーは[(hbar2)/(4mR2)]l2となり、lは整数である。つまりエネルギーは離散的な値を取る。1/2kTが最小のエネルギー単位である[(hbar2)/(4mR2)]より小さいと、十分なエネルギーが分配されなくなる。
    (エネルギーが離散的な値を取るので、等分配されない、というのは黒体輻射の話でやったこと。古典力学が破綻する場所の一つなので、よく理解しておいて欲しい)。


[問い3] 
量子力学においては、正準方程式は期待値の形で実現する。すなわち、 < x > =∫ψ* x ψdxや < p > =∫ψ* p ψdxの間に正準方程式が成立する。
まず[d/dt] < x > を計算すると、



d
dt
< x > =

d
dt


*xψ) dx
=



∂ψ*
∂t
xψ+ψ* x
∂t
ψ
dx


ここでシュレーディンガー方程式とその複素共役を使えば、


=

1
−ihbar

((Hψ)* xψ−ψ* xHψ)
=

1
−ihbar

ψ*(Hx−xH)ψ


となるが、

Hx−xH=[H,x]= ∂H
∂p
[p,x] = −ihbar ∂H
∂p


となるので、

d
dt
< x > = ψ* ∂H
∂p
ψdx = < ∂H
∂p
>
以上の計算をx,pの立場を入れ替えて行えば、

d
dt
< p > =− < ∂H
∂x
>
を得る。
(これは宿題としてやってもらった問題そのまま)


[問い4]
  1. 光電効果では、電子が飛び出すかどうかは、光の強さには関係なく、振動数だけで決まる。古典的な波だと考えると、振幅が大きければ大きなエネル ギーを運んでくるはずなので、強さに関係なく振動数だけで決まることは説明しにくい。光子のエネルギーがhνという大きさを持つことは、飛び出してきた電 子の持つエネルギーがE=hν−W(Wは電子が飛び出す時に失うエネルギー=仕事関数)となることにあらわれている。
    (「電子がすぐに飛び出すこと」を指摘していた人もいた。)
  2. 例1:黒体輻射。光のエネルギーがhνをひとかたまりとする不連続な値を取るために、高い振動数の(エネルギー量子の大きい)光にはエネルギーが分配されなくなる。
    例2:コンプトン効果。光子が電子に衝突する時に与える運動量から、光の運動量が[h/λ]という塊であると解釈できる。
    (コンプトン効果で重要なのは、光のエネルギー、運動量が連続的にどんな値をとってもよいのではなく、決まった値を取るということ)


[問い5] 
  1. 領域Iでは、hbarω = [(hbar2 k2)/2m]+V、 領域IIでは、hbarω = [(hbar2 k2)/2m]。
  2. 位相速度は[ω/k]であるから、領域Iでは[(hbar k)/2m]+[V/(hbar k)]、領域IIでは[(hbar k)/2m]。 群速度は[dω/dk]であるから、どちらでも[(hbar k)/m]。
  3. (1)で求めた式より、[(hbar2 (k領域I)2)/2m]+V=[(hbar2 (k領域II)2)/2m]。V > 0なので、領域IIでのkの方が大きくなる。すなわち、増加した。
  4. kが増加しているのだから、位相速度[ω/k]は減少する。また群速度はhbar kωmなのだから増加する。位置エネルギーが高いところから低いところに進んだのだから、その分運動エネルギーが増えるはず、と考えると古典的速度に対応 する群速度が増加することは物理的に正しい。一方、運動エネルギーが増加するということは運動量も増加するということで、これは波長が短くなるというこ と。位相速度はその分遅くなる。
    (計算できていた人でも、物理的解釈について書いている人が少なかった。計算して終わりではなく、解釈もちゃんと行う癖をつけること)


[問い6]
  1. 加速度は[(v2)/r]なので、[(mv2)/r] = evBである。
  2. p=mvとして、一周2πr。よって、2πrmv = nh。
  3. 物質波と考えると、波長はλ = [h/mv]。円周が波長の自然数倍でなくてはいけないから、2πr=[nh/mv]。これはさっきの答と同じ。
  4. 運動方程式より、r=[mv/eB]と書ける。量子条件にこれを代入すると、 2π[mv/eB]mv=nhとなるので、 1/2mv2=[nheB/4πm] である。
    (系の全エネルギーを計算する場合はさらに磁場との相互作用を入れることが必要だが、この問題ではそこまで問うていない)
  5. ∆xは2r。∆p = 2mvであるから、かけ算すると4mvr。これは[2n h/π]であり、最小でも[2h/π]。
    (不確定性関係は最小値を論ずるものだから、最小で満たされていればそれでよい)


[問い7] 
  1. ψ(x)は−a < x < 0ではψ(x)=−H/axであり、0 < x < aではψ(x)=H/axである。絶対値の自乗を積分すると、

    a

    −a 

    H2
    a2
    x2 dx = H2
    a2


    1
    3
    x3
    a

    −a 
    = 2H2
    3a2
    a3= 2H2 a
    3

    よって、H=√{[3/2a]}とすれば規格化される。
  2. ψの絶対値の自乗をとるので、−a < x < aにおいて、[3/(2a3)]x2
  3. 対称性より0。
  4. 虚数部分の絶対値の自乗が定数−[3/(2a3)]x2であればよい。たとえば定数を[3/(2a3)]とすれば(絶対値の自乗が負にならない限り、どうおいてもかまわない)、虚数部の絶対値の自乗が[3/(2a3)](1−x2)となるので、虚数部は i√{[3/(2a3)]}√[(1−x2)]となる。



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On 7 Aug 2005, 14:00.