相対論講義録2006年度第12回


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8.4  質量の増大?

 よく相対論の本では「運動すると物体の質量が増大する」という意味のことが書 いてある。この講義ではここまで一貫して質量mを定数として扱ってきた。で はこのmは増大するのだろうか?
 もちろん、しない。では「運動すると物体の質量が増大する」とはどういう意味 なのか。ここで「そもそも質量の定義とは何か?」ということに立ち戻る必要が ある。 ニュートン力学における質量は運動方程式
fi = m d2 xi
dt2
   もしくは   fi = dpi
dt

(8.25)
によって規定されている。相対論的力学でも、力としてfμの方(4元力 Fμではなく)を使えば、ニュートンの運動方程式と同じ形の、
fμ = d Pμ
dt

(8.26)
であるが、運動量Pμはこの場合4元運動量であって、3次元運動量piと は少し違う。具体的には
Pi = m dxi
dτ
= mvi

sqrt(1-v^2/c^2)


=

m
静止質量 


vi

sqrt(1-v^2/c^2)

 4元速度の空間成分




 
=
m


sqrt(1-v^2/c^2)

 相対論的質量




 



vi
3次元速度 

(8.27)
となるわけであるが、この運動量のどこまでを「質量」と考え、どこまでを「速度」と考えるかには、上の二つのような流儀がある。なお、どちらかと言うと単 に「質量」という時にはm、すなわち運動しているかいないかに関係なく同じ値をとるものを指す方が普通である。
 どちらの流儀で考えるにせよ、ある力fiをdt秒間加えた時、[(mvi)/(√{1−(v/c)2})] がfi dtだけ増大するのは同じである。 なお、実際にPiを時間で微分したとすると、


dPi
dt
=

d
dt

( m vi


sqrt(1-v^2/c^2)
)

=

m dvi
dt


sqrt(1-v^2/c^2)
+
m vivj dvj
dt

c2 ( 1− ( v2
c2
) ) 3/2

 


(8.28)
となる。つまり、力fiの方向と加速度[(dvi)/dt]の方向は必ずしも一致しない。速度viと 加速度[(dvi)/dt]が直交しているような場合は第2項が消えるので非常に簡単になる。磁場中を走る荷電粒子の場合、ローレ ンツ力q→v×→B45を受けて円運動するが、加速度は速度 と垂直(中心向き)に[(v2)/r]となるので、
qvB = m

sqrt(1-v^2/c^2)

v2
r

(8.29)
となって、半径がr=[mv/(qBsqrt(1-v^2/c^2))] となる。非相対論的な計算では分母のsqrt(1-v^2/c^2)は表れない。実験によって支持される のはもちろん相対論的な計算であり、荷電粒子を磁場中で加速する(サイクロトロンなど)実験装置ではこのいわゆる「質量増大」の効果を考えて設計せねばな らない。
 逆に、運動方向と加速度が同じ方向を向いていると、また話が少し変わる。この場合、viも[(dvi)/dt] もx成分だけが零でないとすると、


dP1
dt
=

m dv
dt


sqrt(1-v^2/c^2)
+
m v2 dv
dt

c2 ( 1− ( v2
c2
) ) 3/2

 

=

m dv
dt

( 1− v2
c2
)


( 1− ( v2
c2
) ) 3/2

 
+
m v2 dv
dt

c2 ( 1− ( v2
c2
) ) 3/2

 

=

m

( 1− ( v2
c2
) ) 3/2

 

dv
dt


(8.30)
となり、この場合はむしろ質量が[m/((1−[(v2)/(c2)])3/2)] に増えていることになる。こちらを「縦質量」、さっきの[m/sqrt(1-v^2/c^2)]を 「横質量」として区別する場合もある。縦質量の方が横質量より大きいのは、横方向に押す場合はvの大きさは変化しない(つまり運動量の分母は変化しない) が、縦方向に押すとvの大きさを変える(運動量の分母も変える)のに余分な力が必要になるからである。このように、「質量が増大する」という考え方は、 「質量」と「速度」の両方が時間的に変化すると考える分だけ、計算がかえって複雑になる場合もあり、あまり推奨されない。質量は常にmで一定だと考えて、 運動量の式には分母にsqrt(1-v^2/c^2)があるのだとした方が簡便である。どちらの流儀で も、「相対論では運動量がmvではなくmvγになる」ということを把握しておけば問題はない。mの部分を「質量」と呼ぶか、mγの部分を「質量」と呼ぶか は定義の問題である。ただし、上に述べたようにμγを「質量(または相対論的質量)」と呼ぶ流儀はかえってややこしくなることも多いので、最近はあまり使 われていないので、使わないようにした方がよさそうである。
 ここで、fμが有限で時間経過も有限である限り、Pμは有限の値を取ることに注意しよう。速度を増やして いくと、v=cとなったところでPμは無限大となる。ゆえに、有限の力で有限の時間加速している限り、光速に達することはない。こ のことは光速cが物体の限界速度であることを示している。

8.5  運動量・エネルギーの保存則

 ニュートン力学においては、運動量の保存則がどのように導かれたかを思い出そう。質量mi(i=1,2,…, N)のN個の物体が それぞれ→piの運動量をもち、i番目の物体からj番目の物体へは 力→fijが働くとすると、

d →
p
 

i 

dt
=
��
j ≠ i 

→
f
 

ij 

(8.31)
である。これをiで足し上げると、 


��
i 

d →
p
 

i 

dt
=
��
[i,j || i ≠ j] 

→
f
 

ij 

(8.32)
となる。
作用・反作用の法則により、→fij=−→fji(i番目がj番目に及ぼす力は、j番目がi番目に及ぼす力と同じ大き さで逆向き)である。��i,jの和を取る段階でかならず→fijと→fjiの両方の和が表れるので、この二つが消し合うことにより、  

d
dt

(
��
i 

→
p
 

i 
) =0
(8.33)
となる。すなわち、運動量の和��i →piは 保存する。
相対論的力学においても[(dPμ)/dt]=fμが成立しているので、fμについ て作用・反作用の法則が成立していれば、同様にPμの和が保存する。ここで、保存則が[d/dτ](��Pμ)= 0ではなく[d/dt](��Pμ)=0であることに注意せよ。固有時τ は粒子一個一個について独立に定義されているものだから、複数の粒子の運動量の固有時微分[(dPμ)/dτ]を足すことには意味 がない。作用・反作用の法則が成立するのも、Fμに対してではなくfμに対してである。
 なお、相対論では運動量とエネルギーは同 じ4元運動量の空間成分と時間成分という形にまとまっているので、運動量だけが保存してエネルギーが保存しないと か、あるいはこの逆のことなどはあり得ない。違う座標系に移れば時間成分と空間成分は入り交じる(たとえば、P′0=γ(P0−βP1) というふうに)ので、全ての座標系で運動量保存則が成立するためには、エネルギーも保存していてくれないと困るのである。これは相対性原理からの帰結であ る。ニュートン力学では「摩擦があるからエネルギーが保存しない」という状況が許されたが、相対論的力学では摩擦によって失われたエネルギーもちゃんと勘 定して保存する形になっていなくてはいけない。
 上では作用・反作用の法則が成立ということを仮定したが、相対論の場合にはこの仮定にも注意が必要である。なぜなら、相対論では空間的に離れた場所での 同 時刻には意味がない。上の図では、離れた物体との間で力が「同時に」働いているかのごとく書いているが、実際にはそんなことは起きない(そもそも、力も光 速より速く伝わるはずがない!)。したがって厳密には、作用・反作用の法則を単純に適用してよいのは、物体と物体が接触して(同一時空点に存在して)力を 及ぼす場合である。クーロン力を「二つの電荷の押し合い(引き合い)」と考える場合、作用反作用の法則が成立しているとは限らない。ただし、クーロン力を 「電荷と、その場所の電磁場との相互作用による力」と考えるならば、ちゃんと作用・反作用が成立するのだが、その場合は「電磁場の持つ運動量」を計算して やらなくてはいけない。
 まずは物体が接触して衝突するという単純な問題の場合で相対論的な場合と非相対論的な場合にどのような差があるかを確認しておこう。


 静止している質量mの物体に、同じ質量の物体が運動量→p0を 持っ て衝突したとする。結果として二つの物体の運動量が→p1,→p2になったとすると、

→
p
 

0 
= →
p
 

1 
+ →
p
 

2 

(8.34)
という式が成立する(運動量保存)。この式は→p0,→p1,→p2が 三角形を形作ることを示している。一方、非相対論的な計算では、エネルギーの保存則が

| →
p
 

0 
|2

2m
=
| →
p
 

1 
|2

2m
+
| →
p
 

2 
|2

2m
    す なわち     | →
p
 

0 
|2 = | →
p
 

1 
|2+ | →
p
 

2 
|2
(8.35)
となる。これから→p0,→p1,→p2で 作った三角形がピタゴラスの定理を満たすこと、すなわちこれが直角三角形となって、→p1と→p2 が垂直であることがわかる。これはビリヤードの玉などでも確認できる現象である。
相対論的な計算では、エネルギー保存則は

√

| →
p
 

0 
|2c2+m2c4
 
+m c2 = √
| →
p
 

1 
|2c2+m2c4
 
+ √
| →
p
 

2 
|2c2+m2c4
 

(8.36)
となるので、もはや→p1と→p2は直角ではなくなる。細かい計算は省略するが、角度θは90度より小さ くなる。この現象は霧箱の中にβ線を入射させて、電子と衝突させるなどの実験で実際に起こることが確認されており、相対論的力学が正しいことの証拠の一つ となっている。

8.6  質量とエネルギーが等価なこと

  最初に注意しておくが、この節で扱う質量は、静止質量である。
 すなわち、エネルギーE、運動量pとした時、
E2 − p2 c2 = m2 c4
(8.37)
で定義されるところの質量(つまり速度や座標系によらずに定義される質量)である。物体が静止している場合はp=0となっ てE=mc2と なる。エネルギーの負符号は許さない。許してしまうとエネルギーE=−√[(p2c2 + m2 c4)]はpが大きくなることによっていくらでも(−∞まで)小さくなれる。「物体はエネルギーの低い方に行きたがる」という原則 からすると全ての物体がみなE=−∞へと落ち込みたがって具合いが悪い。エネルギーには底がないといけないのである(図参照)。
すでに述べたように、エネルギーは「運動量の時間成分×c」であり、物体が静止している場合でもmc2だけあることになる。cが3 ×108[m/s]であるから、これは非常に大きなエネルギーである(1gの質量は、9×1013[J]、 すなわち90兆ジュールのエネルギーに対応することになる)。
 しかし、たとえエネルギーがmc2 だといっても、これよりも低いエネルギーの状態がないのなら、これには意味がない。エネルギーを取り出すには、状態をエネルギーのより低い状態に「落す」 ことによってその差をもらいうける必要があるが、このエネルギーは最小値がmc2であるから、このエネルギーを取り出す方法がな い。取り出せないエネルギーはいくら大きくとも意味がない。


  質量を持った物体と質量を持った物体が反応してその総質量を変えるような過程があれば、この質量の差が物理現象にエネルギーの差として表れてくる。そこで 以下で、そのような過程を相対論的に考えると(すなわち、ローレンツ不変性を要求していくと)どのような結果が得られるかを考察しよう。
  今、質量mの二つの物体が逆向きの速度→vと−→vを持って正面衝突 して合体したとしよう。単純に考えると質量2mの静止した物体が残る、と言い たいところだが、はたしてこんな現象は相対論的に正しいだろうか。
 これらの物体の4元運動量を考えると、保存則の成立から
衝突前:(mcγ,mvγ,0,0)と(mcγ,− mvγ,0,0)
(8.38)
であるから、
衝突後:(2mcγ,0,0)
(8.39)
となることになる。γ = [1/sqrt(1-v^2/c^2)]は1より大きいから、衝突後の質 量は2mより大きくなっていることになる。
こうなることが相対論的に考えれば必然であることを確認しよう。相対性原理により、同じ現象を、速度−→v を持って運動している観測者が見たとしても同じことが結論できねばならない。この時、速度の合成則を使わねばならないので、速度−→vで動きながら速度→vの物体を見 た時の速度は、2vではなく、[2v/(1+[(v2)/(c2)])]であることに注意せよ。この速度に 対応するγは、

1

  √

1− ( 2v
c(1+[(v2)/(c2)])
) 2

 
 
=
1+ v2
c2


√

( 1+ v2
c2
) 2

 
− 4v2
c2
 
=
1+ v2
c2


√
1−2 v2
c2
+ v4
c4
 
=
1+ v2
c2

1− v2
c2

(8.40)
なることに注意して、二つの座標系で運動量とエネルギーを計算してみる。
 もう一方はもちろん静止して見えるので、
衝突前: (
mc ( 1+ v2
c2
)

1− v2
c2
, 2mc v
1− v2
c2
,,0,0 ) と(mc,0,0,0)
(8.41)
のような運動量を持っていることになる。この二つの和を取って、
衝突後: ( 2mc
1− v2
c2
, 2mc v
1− v2
c2
,,0,0 )
(8.42)
となる。
 [2m/sqrt(1-v^2/c^2)]=Mと書くと、

( Mc
sqrt(1-v^2/c^2)
, Mv

sqrt(1-v^2/c^2)
,0,0 )
(8.43)
という形になり、質量Mの粒子が速度vで動いている時の式となる。
 以上からわかることは、二つの粒子が合体するという過程で、エネルギー保存、運動量保存を満足させたなら、必然的に質量は保存しないというこ とである。
 このことは以下のように考えることができる。そもそも質量はm2 c4 = E2 − p2 c2という式を満たしている。2個の粒子のエネルギーを足す時、Eは常に正であるから、純粋に足 し算される。ところが運動量を足す時は、この二つがベクトルであるため、運良く同じ方向を向いていた場合以外は、単純な和よりも小さくなる。たとえば(E1,→p1)というエネルギー、運動量を持った粒子と(E2,→p2)というエネルギー、運動量を持った粒子二つをひとまとめに考えると、 全エネルギーはE1+E2であり、全運動量は→p1+→p2であって、この大きさは|→p1|+|→p2| より大きくなることはない(たいてい、より小さい)。つまり合体の結果、より「時間成分が多い」ベクトルができあがる。これが質量を単純な和よりも大きく するのである。
相対論的に考えれば、かならずある座標系で見れば→p1+→p2=0となる。そうなってもE1+E2は もちろん0ではなく、しかもこの大きさはm1c2+ m2 c2よ り大きくなることがすぐにわかる。
  左図のような4元ベクトルの足し算では、和の結果は元のベクトルを単純に足したものより長い(4次元的意味で、長い)ベクトルになるのである。
   
  アインシュタイン自身は1905年の論文で以下のようにして質量とエネルギーが等価であることを導いている。今、静止した、質量Mの物体が反対向きに2個 の光を出す。光のエネルギーが一個あたりEだとすると、物体のエネルギーは2E減るはずである。しかし、逆向きに飛び出したのであるから、物体の運動量は 変化せず、今も止まっているはずである。これを、物体が速度V で動いて見える座標系から見たとする。Vの方向は光の飛び出した方向と同じだったとする(註:アインシュタインは角度θの方向に飛び出すとして一般的に解 いている)。光はエネルギーEと運動量の大きさpの間にE=pcの関係があるので、物体の静止系ではエネルギーEで運動量±E/cである。運動している系 では、これをローレンツ変換した量となる。表にまとめると、

静止系 運動系

エネルギー 運動量 エネルギー 運動量
物体 Mc2 0 Mc2γ MVγ
光1 E E/c γ(E−VE/c) γ(E/c−VE/c2)
光2 E −E/c γ(E+VE/c) γ(−E/c−VE/c2)
放射後の物体 Mc2−2E 0 (Mc2−2E)γ (M−2E/c2)Vγ
であり、この式を見ても、放射後の物体がM−2E/c2の質量を持った物体として振る舞うことがわかる。なお、アインシュタインが この式を導いた時、光のエネルギーと運動量が運動系でどのようになるのかはローレンツ変換によってではなく、電磁気の法則から導いている。アインシュタイ ンはこのような考察から、どんな形であれエネルギーが放射されるとその物体の質量はE/c2だけ減少するであろうと結論した。
  同様に、熱も質量に貢献する。熱が移動するということはミクロにみれば分子の運動エネルギーが増すということである。N個の粒子からなる系があるとして、 書く粒子が4元速度PIμを持っている(Iは粒子を区別する添字とする)とすると、全体としては��I PμIの4元運動量を持つことになる。このN個の粒子が箱に閉じ込められた気体だとして、箱の静止系で見れ ば運動量の和��I PiI=0となる(全体として気体が動いてないのだから)。しか し��I P0Iはもちろん0ではなく、単なる静止エネルギーの和��I mI c2より大きくなる(P0I = [mc/sqrt(1-v^2/c^2)])。つまり、箱に入った気体のよう に、個々の構成粒子は運動しているが全体としては静止しているような物体の質量は、その運動エネルギーに対応する分 だけ、大きくなるのである。

 このあたりで時間が来てしまい、以下の説明は駆け足になったので、来週も う一回繰り返してやります。
  E=mc2という式は原子力などでのみクローズアップされることが多いが、もちろん原子力特有のものではなく、全てのエネルギーで 成立すると考えられる。たとえば伸び縮みしたばねは、自然長のバネより[(1/2kx2)/(c2)] だけ質量が大きいであろうと思われる。ただしこのような日常的なレベルではc=3×108という数字の大きさのために、観測可能な ほどの差にはならない。
  実はE=mc2という式は、アインシュタインが作ったものでもなければ、相対論によって始め て導かれたものでもない。純粋に電磁気 学的な計算から、電子のような荷電粒子を動かす時の抵抗(慣性に相当する)が、回りの電場のエネルギーの分だけ増えることを電磁気の法則から導かれてい た。簡単に言うと、電子を動かそうとすると、回りの電場も動かさなくてはいけない。しかし、電場は電子と全く同じように時間的に変化することはできず、電 場の変化は電子の運動に、少し遅れることになる。この遅れた電場は電子を加速と逆方向にひっぱるのである。
  電子を加速するためには、その力の分だけ余計な力が必要になる。これがあたかも「電子の周りの電磁場も質量を持っている」かのように作用するのである。ポ アンカレやローレンツの計算により、この質量は電磁場のエネルギーに比例し、かつ[m/sqrt(1-v^2/c^2)] と同じ速度依存性を持つことも計算されていたのである。 もちろんこれだけでは、電磁的なエネルギーを起源とする質量以外に対しても同じ式が成立するかどうかは、実験してみないとわからない。ただ、ローレンツ変 換に対する不変性を考えると、そうであることがもっともらしい(相対論的には自然な結論である)ということが言えるのみである。幸いにも、実験はそれを支 持している。
  たとえばヘリウム42He(2つの陽子、2つの中性子、2つの電子からなる)の質量は 4.0026032497u(原子質量単位)であって、重水素(1つの陽子、1つの中性子、1つの電子よりなる)の質量2.01410177779uの2 倍より少し軽い。そもそも原子質量単位は126C の質量を12uとして定義されているが、水素11H の質量は1.0078250319uである。このように原子は構成要素である陽子や中性子の質量の和を取ったものよりも軽くなる。これを質量欠損と呼び、 その原因は原子が作られる時に、γ線などのさまざまな形でエネルギーが放出されることである。鉄など、周期表で真ん中あたりにある元素は質量欠損の割合が もっとも大きく、その分安定であり、ウランなどを核分裂させるとエネルギーが得られる理由はこれである。

 なお、ウランが核分裂することやその時にエネルギーを出すこと自体はE= mc2を知らなくてもわかっていたことなので、核爆弾や核エネルギーが相対性理論から生み出 された、と考えるのは間違い。
  ポアンカレやローレンツは相対論的見地を持って計算したわけではなかったのに、このような結果が出た。しかしそれは驚くにはあたらない。相対論はそもそ も、電磁気学(あるいはマックスウェル方程式)を尊重することによって生まれたものである。だからマックスウェル方程式にしたがった計算を正しく実行すれ ば、相対論的にも正しい結果が出るのは当然なのである。特殊相対性理論がマックスウェル方程式によって記述される電磁気学を正しく発展させた結果生まれた ものであることがこの事実からもわかる。むしろ、相対論を持って電磁気学が完結すると言ってもよい。


Footnotes:

45ここでは説明しな いが、qvBで表されるのがfなのかFなのかは、電磁場をローレンツ変換した時どうなるべきかということから決まる。


学生の感想・コメントから

 物理学を勉強していくと、当たり前のことがそうではなくなっていく。もっとこの不思議な現象 を面白く感じるために、数学を勉強しておきたい。
 結局のところ、数学がわかって物理がわかって、始めて本当の面白さがわか るようになると思います。がんばってください。

 1gの物体が 消えると原爆なみのエネルギーというのはすごいなと思った(複数)。
 すごいからこそ、1gの物体を消すのはものすごくたいへんなわけなんで す。

 質量が保存しないのはびっくりした(複数)。
 これも、我々の日常ではたいてい保存しているように見えますからね。でも 我々の日常だけが全てではないのです。

 単純計算から長く離れているので、急にやると疲れます。
 物理の学生がそんなこと言っててどーしますか。

 物体を点と考えてましたが、波だと考えるとどうなるのでしょう?
 量子力学でやった通り、E= ihbar∂/∂t、p= -ihbar∂/∂xとやるんですよ。

 バネが伸びただけで質量が増えるとはびっくりしました。
 このあたりについては、来週またゆっくり話しましょう。

 静止質量ってどうやって測るんですか?
 静止させて測るか、動いている時のエネルギーと運動量を測定して、E2-p2c2=m2c4に代入するか、などの方法があります。

 エネルギー保存則と運動量保存則が同時に成立・不成立するというところがわからなかった。
 相対論では、この二つの法則は一つの法則になってしまうので、一方が成立 するなら他方も成立します。

 原子爆弾は原理もわからず偶然できたってことですか?
 原理はわかってました。核分裂です。核分裂という現象自体はE=mc2という式とは無関係に発見され、知られていました。

 質量は結局増えるものなのか、一定のものなのか、どっちなんですか?
 増えたり減ったりいろいろです。状況によって違いますね。

 E2-p2c2=m2c4 に、E=hνp=h/λを入れると左辺は0になるから、光の質量は0なのですか?(複数)
 まさに、その通りです。

 原子が消えるとすごいエネルギーになるというのがわかりません。
 質量はエネルギーになるのですか?
 なる、というより、質量とエネルギーは換算すれば同じものなのです。

 質量欠損って、放射性元素の核エネルギーだけじゃなかったんですか?
 違います。ありとあらゆるエネルギー全部について成立することです。

 二つ合体したら重くなると言う話と、陽子と中性子集めて炭素作ると軽く鳴るという話は逆です が??(複数)
 合体の話ではエネルギーは外に出て行きませんでしたが、核融合をした時は ガンマ線など、いろんな形でエネルギーが外に出ます。だから、その分軽くなるのです。

 高いところにあるものの方が重くなったりするんですか?
 もちろん、重力の位置エネルギーも質量に利きます。


File translated from TEX by TTHgold, version 3.63.
On 11 Jul 2006, 10:59.