先週まででのエントロピーについての大事な情報は、以下の通り。
以上をまとめた後、教科書にしたがってClausius流の視点と、エントロピー原理の例を紹介した。
等温操作において、熱が$\Delta Q$だけ流入するときに $$ \Delta S={\Delta Q\over T} $$ のようにエントロピーが変化する、というのがClausius流のエントロピーの定義である。一般の操作においては、それを微小な等温操作と微小な断熱操作の繰り返しと考えて $$ \Delta S=\int {\mathrm dQ\over T} $$ のように極限では積分になると考える。
この考え方においてはエントロピー増大則は以下に述べるように「熱は高温から低温に流れる」という法則になる(熱力学第2法則はKelvinの原理やPlanckの原理として出てきたが、三つめの表現としてこれがある)。
上の図のように、温度$T_1$の系と温度$T_2$の系($T_1 < T_2$)が接触し、熱の移動により最終的に温度$T_f$になったところで平衡に達したとしよう。
微小な(まだ温度が変化しない程度の)熱移動を考えると、そのとき左の系のエントロピーは${\Delta Q\over T_1}$だけ増加する。一方右の系は$\Delta Q$の熱が出て行ったから、エントロピーが${\Delta Q\over T_2}$だけ減少する。結果として全系のエントロピーは $$ {\Delta Q\over T_1}-{\Delta Q\over T_2}=\Delta Q\left({1\over T_1}-{1\over T_2}\right) $$ だけ増加する($T_1 < T_2$だから、この式は正である)。
つまり、「エントロピーは増大する」ということは「熱が高温から低温へ移動する」というある意味「あたりまえ」のこと(経験則)を表現していることになる。
こう考えると、温度差があると平均化されてしまう、というのがエントロピー増大則だ、とも言える。前回も少し話したが、宇宙全体がエントロピー増大則をそのまま適用して考えると、最後は宇宙の全てが等温、等質になって、面白いことが何も起きなくなる(宇宙の熱死)。
系が$(T;X)\to(T';X')$のように変化するときに断熱操作ならエントロピーは減らない、ということはここまででみた。では系がいろんな温度の系の集合(複合系)であった場合にもエントロピーは減らないのだろうか、ということを考えておく。
図のような複合系の変化が断熱変化で起こりえるかどうかは、 $$ S(T_1;X_1)+S(T_2;X_2)+S(T_3;X_3)+\cdots $$ と $$ S(T'_1;X'_1)+S(T'_2;X'_2)+S(T'_3;X'_3)+\cdots $$ の大小を比較すれば(大きくなっているなら可能、小さくなっているなら不可能と)わかるだろうか?
それを判断するには、それぞれの状態から断熱準静操作だけを使って温度を調整した、以下のような状態を考える。
上の段と下の段は断熱準静的操作でつながっているので、エントロピーは変化していない。そして、下の段は温度は均一なので、 $S$と$S'$を比較して$S < S'$なら可能な操作だと結論できる。こうして、上の段に関してもエントロピーの大小で可能な操作かどうかが判断できる。
上で述べたように熱が高温から低温に流れる、という法則があるとすると、クーラーなどというものは存在できない(クーラーは、冷えた室内の熱を暑い室外へと運んでいる)。このとき、クーラーも含めた系を考えるとエントロピーはちゃんと増大している。
たとえば図のように考えると、下にあるピストンが左の系から熱をもらいつつ、膨張していく。膨張した気体は仕事をするからその仕事を(摩擦などで)熱に変えて右の系に供給すると、左の系は温度が下がり、右の系は温度が上がる。
結果を見ると上の二つの系は(熱が低温から高温へ移動したことになって)エントロピーが減少しているが、下にあるピストンは膨張することでエントロピーを増大させており、この増大の方が勝つので、系全体のエントロピーは増大する。
実際のクーラーは膨張圧縮だけでなく、気化・液化などの現象も使って熱を輸送している。
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