第0章 電磁気学の歴史とその意義

0.1 電気と磁気はどのように発見されたか

人類が最初に電磁気現象を発見したのはいつなのか、定かではないが、磁気現象については、2世紀の中国ですでに磁石が南北を指すことが知られていた。紀元前(抜けてました)6世紀には小アジアのマグネシア地方で磁石が見つけられたという話がある(magnet という言葉は、このマグネシア地方から来ている)。当時の哲学者タレスは、磁石で鉄をなでると鉄も磁石になるという現象を発見している。タレスはまた、琥珀をこすると物を引きつける性質を持つことも見つけている。これは静電気の発見である。

磁石はのちに羅針盤の発明を生み、大航海時代を支えることになる。1600年、ギルバート*1は「磁石論」という本を書き、その中で地球が大きな磁石であることなどを示したが、同時に琥珀の力と磁石の力は別物であることも述べている(それ以前はこの2種類の力に、明確な区別はされてなかった)。ギルバートは琥珀などに生じる静電気を、琥珀を表すギリシャ語(elektron)からelectricsと名付けた。これが静電気学の始まりだと言える。

0.2 電磁気学の発展

電磁気学の歴史的発展の様子は

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に示した通りである。この表からわかるように、18世紀後半から19世紀に電磁気は爆発的に発展している。これはいわゆる「古典物理学」が完成する時期だといってもいい*2

ここで「1800年代から急激に電磁気の実験で大発見が続くんだけど、それはどうしてだと思う?」と聞いてみた。最初はぴんと来なかったようだが「ある物が発明されたおかげです」と言うと、

電池ですか??

という返事が返ってきた。そうそう。電池によって一定電流を流し続けることができるようになったおかげで、電磁気の実験はとてもやりやすくなったのである。

電気の間に働く力、磁気の間に働く力がクーロンの法則という形でまとめられ(1700年代後半)、電気と磁気が互いに相互作用していくことがアンペール、ファラデーらによって発見されて法則化され(1800年代前半)、ファラデーがその現象を「電場」と「磁場」という「場」の考え方で統一的に理解しようとする。それらをマックスウェルが数式を使って見事に定式化し、1865年のマックスウェル方程式という形で結実したものが現在の電磁気学である。

電気と磁気が相互作用するということは、たとえば電磁石(電流→磁場)や電磁誘導(磁場の変化→起電力)に現れているわけである。1800年代は現象としてこのようなことが発見されていき、それを元に電気と磁気の対応が考えられていったわけであるが、現在完成された電磁気学の立場から振り返れば、

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のような対応があることがわかる*3。電荷が動くことが「電流」なのであるから、電場と磁場が深く関係するのは当然である。

電荷に働く力と電流に働く力のアナロジーを説明しようとしたら少し脱線した。+電荷と+電荷は反発し、+電荷と−電荷は引き合う。では平行な2本の電流は引き合うのか、反発するのか??―と聞いてみたところ、半々ぐらいだった。答は引き合うのだが、電荷の場合は同種は反発するのに、電流は同方向が引き合うのはなぜだろう???

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上のように、引っ張り合う場合にできている電気力線と磁力線を図に描いてみると、この二つの引力が、どちらも「電気力線(磁力線)が短くなろうとする」という性質から来ていることがわかる。つまり電気力線や磁力線はゴム紐のような力学的性質を持っているのである。電場と磁場は違うように見えて似た性質を持っている。

なお、電場、磁場と電流の相互作用についてぴんと来てないみたいだったので、次の図を書いて説明した。

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上の図は磁石に向かってリング状の回路(1巻きコイル)を誰かが手で動かして接近させているところ。この時、リング内の電荷(ここではプラス電荷としよう)も一緒に上昇するから、これは上向きの電流であると考えることができる。一方、この場所の磁場は概ね下向きであるが、少し外側にふくらんでいる(磁力線が広がるから)。すると、図の右側では磁場は少し右向き(左側では少し左向き)である。電流が上向き、磁場が右向きだと、フレミングの左手の法則により、こちらに向かう向きの力が発生する。この力は、図の赤矢印のように電流を流す力となる。これが電磁誘導である。つまり、磁場中を電荷が運動することが、起電力(=電圧)を生む。

つまり、「電場が動けば磁場ができる(あるいはこの逆も)」という現象が起こるわけだが、これが「同じ物理現象を、運動しながら観測すると違う現象のように見える(しかし、物理的内容は変わらない!)」という認識を生み、ついにはそれがアインシュタインの特殊相対性理論に発展する。20世紀が始まった直後の1905年に発表された特殊相対論は(古典)電磁気学の最後のone pieceとなり、これで古典的電磁気学は完結すると言っていいだろう*4

0.3 現在における電磁気学と、電磁気以後の物理学

掃除機・冷蔵庫・テレビ・携帯電話と、現在の我々の生活を支える電器製品はすべて、電磁気学の成果を使って作られている。掃除機などに使われるモータは「磁場中の電流は力を受ける」という法則に基づいて作られたものだし、テレビや携帯電話は、マックスウェル方程式を解いた結果として出てきた電場と磁場の波である「電磁波」を使って遠いところとコミュニケーションすることができる。また、どのような電子機械にもトランジスタやICなどを使った電子回路が組み込まれているが、これらもまた電磁気学なしに製作することはできない。このように現在の生活の基盤に密着した技術の基礎となるのが電磁気学である。

電磁気学が重要である理由はこれだけではない。電磁気の基本方程式であるマックスウェル方程式が相対性理論を生み出すことはすでに説明したが、それ以外にももちろん、電磁気学はたくさんの物理を生み出している。20世紀前半までの常識ではこの世にある「力」は電磁気的な力と万有引力だと思われていた。現在ではその他に「弱い力」と「強い力」が存在していることがわかっている*5。そしてこれら4つの力は全て、現代物理にとって非常に重要な「ゲージ理論」と呼ばれる種類の理論で記述できることがわかっている。ゲージ理論を拡張することによって、重力・電磁力・弱い力・強い力を統一的に記述できるような理論ができあがるかもしれない。電磁気学はそのような「統一理論」へと続くゲージ理論の中でもっとも最初にできあがったものであると言える。つまり、この世の全ての力を記述するための基盤は、電磁気学にある。

0.4 電磁気学の成功の理由

なぜ電磁気学はこうも現代物理のキーポイントに成り得たのか?---電磁気の特徴のうち、現代物理を作っていく上で重要なものになっている点を述べよう。

([実験的成功])

まず何より指摘しなくてはいけないのは、電磁気学は非常にうまくこの現実を記述していることである。技術的、工学的応用もすばらしい成功を収めている。テレビが映るのも、携帯電話で話せるのもすべて電磁気学のおかげである。この講義の範囲からは外れるが、電磁気学を量子力学的に考えた「量子電磁力学」も非常によい精度で実験と一致する結果を出している。

([近接作用論])

ファラデー以後の電磁気学の重要な概念が「場」である。

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ファラデーは、電気的な力が働く時、電荷と電荷の間に直接力が働くのではなく、そこに「電場」という媒介物が(目には見えないけど、空間に!)存在していると考えた*6。つまり、二つの物体に力が働く時、それは直接に「力」が伝わっているのではなく、それぞれの物体が「場」を作り(電荷は電場を作る、電流は磁場を作る)、その「場」の中にいる物体が力を受ける(電場は電荷に力を与え、磁場は電流に力を与える)と考える。これを「場の相互作用(interaction)」 という呼び方をする。

大事なことは、電荷が場を作るのも、電場が電荷に力を与えるのも、その場所各点各点で起こる現象であり、遠い向こうの状態が今この場所に直接影響を及ぼしたりはしないということである(媒介する場なしに直接力が及ぶとする立場は「遠隔作用論」と言う)。

近接作用と遠隔作用の差を知るために、こんな思考実験を考えよう。

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いま、ある正電荷と負電荷が引き合っており、つながれたばねによる引っ張り力とつりあって静止しているとする。この状態で、さっと負電荷の方を取り除いたとする。その時正電荷はどうなるか。もしこの正電荷と負電荷の間に働いていた力がクーロンの法則に完全に従うものであったならば、即座に正電荷のつりあいは崩れるであろう。しかし力が「電場」によって媒介されて伝わっているものならば、正電荷のつりあいが崩れるのは電場の変化が正電荷周辺に伝わってから、ということになる。

実験的には(この通りの実験が行われているわけではないが)、後者が確認されている。つまり、「電場」の変化が伝わって始めて電荷の間に力が変化する。ちなみに、電場の変化が伝わる速度は光速である*7。光速は秒速約30万キロと、日常の感覚からすれば充分速いので、通常はこれを実感できない。

重力場の場合もこういう遅れってあるんですか?

ありますよ。やっぱり光速で伝わると言われてます。二重星のように重い物体がぐるぐる回っていたりする場合、物体の作る重力場が遅れるものだから、そこで波が発生して、「重力波」というのが出ると言われてます。

じゃあ、空間が振動しているんですか?

と、言われてます。ただ、その振動はものすごく弱いので、測定は難しいんです。この重力波は今実験で測定しようと世界中の人ががんばっているところなんだけど、まだみつかってません。だけど、重力波もエネルギーがあるので重力波を出すと星の回転エネルギーが減って遅くなるんですが、その遅くなるという現象は観測されてます。

このように近接作用で物理が表現できる場合、それを表現する方程式は微分方程式となる。微分方程式は、「ある場所の物理量」と「ある場所の物理量の変化の様子(微分)」の関係を表現する式である。つまり、「この場所の電場」と「この場所の電場の変化の様子(微分)」の関係が、ある方程式によって決定される。遠隔作用を考えている場合、「この場所の情報」だけでは現象が記述できない(遠くにある電荷による力を考えなくては現象が予言できない)ので、微分方程式では法則を書き表すことができない。遠くにある物体の状態を知らないとここで起こる現象が予言できないような場合、理論は「non-local(非局所的)」であると言う。現在知られている物理法則はみな微分方程式の形で書ける。つまり、non-localな物理理論はない*8

([ローレンツ不変性])

電磁気学に出てくる電場、磁場の持つ対称性として大事なのがローレンツ不変性である。ローレンツ不変性とは、「ローレンツ変換」と呼ばれる、時空間の対称性に対する不変性である。詳しい話は3年前期の「相対論」の授業で行うが、特殊相対論によって、時間と空間は別々のものではないことがわかる。空間というのは4次元時空というものを適当な断面で切った切り口(3次元物体を切ると2次元の平面ができるように、4次元時空を切ると3次元空間ができる)にあたることがわかる。電磁気学は実はこのローレンツ変換(ひいては相対論)と深く結びついている。相対論以前の電磁気の勉強の中でも「静止した電荷は電場を作り、動く電荷(電流)は磁場を作る」という形でローレンツ対称性が見えてくる。ローレンツ対称性は特殊相対論につながるだけでなく、その後に続く量子場の理論、素粒子論、宇宙論などの現代物理の柱となっている。

以上のように、電磁気学は現代物理の骨格となる部分を作り出した母体であり、そして今なお現代物理の中心課題を占めている。電磁気を征服することなく現代物理を理解することはできない。電磁気は現代物理の基礎的な考え方が詰まった宝石箱である。この1年の授業の中で、電磁気学の神髄をつかんでいただきたい。それが現代物理への扉を開くことになる。

学生の感想・コメントから

+の電荷の限りなく近いところでは電気力線はどうなっているのか知りたい。

電荷が点状のものだとすると、その点から放射状に電気力線が放出されることになります(そこには電気力線がぎっりと詰まった状態になっている)。

今日の図で、無限遠での電気力線はどうなるのか。

+から出て−に入らなかった電気力線は、無限遠まで飛んでいきます。一方、無限遠からやってきて−に入って終わる電気力線もあります。

電磁気・力学の重要性や、相対論と電磁気の結びつきが強い事は正直驚きました。電磁気は苦手だったけどこれを機にがんばりたいです。(似たような感想多数)

実は電磁気というのはとてもとても大事な学問なのです。しっかりやりましょう。

電磁力・重力・弱い力・強い力の他に、力はなぜないのですか?

うーん、「ない」とは言い切れないでしょう。もしかしたらあるかもしれない。一応、今見つかっている(実験や観測にかかっている)力を分類するとこの4種類になる、ということです。

ファラデーはえらいと思った。

えらいですよ。この後の授業でも何度も触れると思いますが。

重力波がどうしてできるのか、わかりません。

実際にちゃんと計算するには一般相対論がいるんですが、簡単に言うと、重力場を作っているものが高速で回転すると、物体の動きに周りの重力場がついていけずに、振り落とされてしまうわけです。それが空間を伝わっていく。

家電などに電磁気学がどう使われているのか聞きたい。

電器製品を流れる電流も電磁気学だし、電子レンジで物が暖まる理由は電磁波だし、IH調理器で物が焼ける理由は電磁誘導ですよ。。

重力は遠隔作用だと思っていたので近接作用だと知って驚いた。

ニュートンの時代には遠隔作用だと思われていたのですが、現代における重力の理論であるアインシュタインの一般相対論では完全に近接作用として記述されてます。

なるべく図を使って説明してくれると助かります。

そうする予定です。図でも、数式でも、両方でわかることが大事です。

これから暑い時期になるのでうちわとかパタパタさせるのは大目に見てください。

それくらいなら問題ありません。後ろの人に迷惑にならないように気をつけてね。

板書は下の方に書かれると後ろから見にくいのでどうにかしてください。

なるべく上に書くようにしていきます。

近接作用論で考えると、自分たちも重力によって引きつけられるというより、重力場によって動かされていると考える方がいいのかな?

そうですね。重力場の中にいるから「重力」を感じるわけです。

引力が磁力線の輪っかが縮まる力だという話がありましたが、斥力はどう考えたらいいのですか?

電気力線と磁力線にはもう一つ「混雑を嫌う」という性質があるのです。これについてはまた今度ゆっくり話をしましょう。

少ししゃべるのが速い(多数)

ごめんなさい。いつも言われるんですが、ついついのってくると速くなってしまいます。気をつけていきます。


*1 ギルバートはcgs単位系の磁位の単位Gb(ギルバート)にその名を残しているのだが、残念なことにはcgs単位系も、磁位という概念も現在ではあまり使われていない。
*2 物理において「古典(classical)」とは「量子(quantum)」力学以前だということ。ゆめゆめ「古典は古いから勉強しなくていいんだろう」などとは思わないこと!
*3 電場と磁場の相互作用が発見される前は、電場は電荷が、磁場は磁荷が作っていると考えられていた。実際には、「磁荷」は存在しない。少なくとも、(発見しようという努力は精力的に行われたにもかかわらず)実験的には発見されていない。
*4 相対論に関係する部分は、3年前期の「相対論」の授業で話そう。
*5 この「弱い力」「強い力」は固有名詞である。つまり、そういう名前の(電磁力や万有引力とは全く別種の)力が存在しているのである。
*6 ファラデーはもちろん、単なる思いつきで「場」の存在を主張したわけではない。電荷と電荷の間に絶縁体や導体を置くと電荷の間に働く力が変化するという実験事実を踏まえて「空間に何かが伝わっているから力が働くのではないのか?」と考えたのである。
*7 これが光速と同じなのはもちろん偶然などではなく、ちゃんと意味のあることだ。詳細はずっと後で述べよう。
*8 例外と言えるのは量子力学における波束の収縮やEPR相関などだろうか。しかしこれはもちろん電磁気学の範囲を外れる。

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Last-modified: 2020-05-03 (日) 10:18:04 (25d)