今日の授業の最初の15分ぐらいは、はく検電器とエボナイト棒やアクリル板を使って、静電気の実験をやってみせた。

さらにその後45分くらいは、静電場を理解するためのJavaアプレットを動かしてみせて遊びつつ、静電気学のざっとした説明を行った。

残りで数式などを使って具体的な説明を行った。以下は数式を使った説明の部分のみを載せておく。

第1章 真空中の静電気力と電場

この章からしばらくの間は、「真空中」で、かつ「どの電荷も運動していない」という特別な場合について考える。非常に限定された状況での考察をしていることになるが、まずはこの簡単な場合から電磁気学を始めよう。ただ、電磁場に対する空気の影響はさほど大きくないので、空気中の話をしていると考えてもそんなに大きく外れたことにはならない*1

1.1 クーロンの法則

1.1.1 逆自乗則

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真空中に、距離rだけ離れた置かれた電荷Qと電荷qの間には、

$$ F= {Qq\over 4\pi \varepsilon_0 r^2}$$

(クーロンの法則)

で表される斥力(Qq>0の場合)が働くというのがクーロンの法則である。

Qq<0の場合、すなわち異符号の電荷の場合は、この力は引力となる。この法則は1769年にロビソンが、1785年にクーロン*2が見つけているため、「クーロンの法則」と呼ばれている*3

式(クーロンの法則)はSI単位系と呼ばれる現在広く使われている単位系を使った場合で、電荷q,Qはクーロン(記号はC)で表す。$\varepsilon_0$は「(真空の誘電率)」と呼ばれる量で、SI単位系における具体的な値は$8.854187817\cdots\times10^{-12}$F・m${}^{-1}$である*4

クーロンの法則は「逆自乗則」とも呼ばれる力の一種である。「逆自乗則」とは名前の通り、距離の自乗に反比例するような力であり、万有引力、それから磁力も逆自乗則に従う。

逆自乗則が物理の世界に何度も現れることは偶然ではない。これは空間が3次元であることと密接に結びついていることなのである。クーロン力よりも直観的にわかりやすい「逆自乗則」の例として、点光源による光の明るさを考えよう。我々の目が感知する「明るさ」というのは結局、目に飛び込んでくる光のエネルギーに関係している。

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原点に100W の電球があるとすると、(100Wとは1秒間に100Jのエネルギーを消費するということなので、)1秒あたりに100Jのエネルギーを持つ光が空間に放出されていることになる*5。この1秒間に100Jのエネルギーが空間にまんべんなく広がっていくとするならば、t秒のちには半径ct(cは光速度。約秒速30万キロ)の球面の上に広がることになる。したがって、距離rだけ光源から離れた場所を考えると、面積$4\pi r^2$の面を1秒に100Jのエネルギーが通過していくことになる。当然、距離が広がれば(抜けていくエネルギー自体は変わらないが、断面積が増えるので)エネルギーの密度は$4\pi r^2$に反比例する形で減っていくことになる。これが逆自乗則が現れる理由である。もしこの世が2次元(平面)なら、光は球面ではなく円周の形で広がるので、エネルギー密度は$2\pi r$に反比例するだろう。

クーロン力は電球から出た光の場合のような「流れ」ではないので、厳密にはこの比喩は正しくはないが、ある一点を源とし、何か(電球の場合はエネルギー)を保存するように広がっていく時には、逆自乗則が現れると思ってよい。


この部分は授業では話さない可能性もあるが、その場合は読んでおいてください。

単位系について、少し補足しておく。クーロンの法則の前に係数${1\over4\pi\varepsilon_0}$がついているのはうっとおしい限りであり、これが1になるように電荷の定義をやり直せばよいではないかと思うかもしれない。実際一部の教科書ではこの係数が1になるようにしたガウス単位系という単位系も使われている。また、「${1\over4\pi}$がつくのはすでに述べた逆自乗則の成り立ちから当然としても、$\varepsilon_0$が1になるように定義してもいいじゃないか」と思うかもしれない(こういう単位系の例としてはヘヴィサイド有理単位系というのがある)。

しかし、現在広く使われているSI単位系では${1\over4\pi\varepsilon_0}$が必要である。これはSI単位系では、電流をまず定義して、1アンペアの電流が1秒間に運んでくる電気量をもって1クーロンを定義するという方法を使っているためである。一部の教科書では${1\over4\pi\varepsilon_0}=k$と書いて省力化を図っている。$k=8.987551787\times10^9$[N・m${}^2$/C${}^2$]である*6

電磁気の単位系は昔からいろいろなものが使われていて注意が必要であるが、現在はSI単位系を使うのが時代の流れというものなので、このテキストでは全てSI単位系で記述することにする。

誘電率が入ることは、物質中だと意味があるのではないですか?

物質中だと、電場が物質の影響で真空中より弱くなったりするので、その比が誘電率の比になります。今は真空中なので、誘電率が出てくる理由は単なる電荷の定義の問題です。

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実は距離の逆自乗になるということ自体は、「電荷が帯電した金属の殻の内側のどこにいても、電気力は働かない」という実験結果から理論的にキャヴェンデッシュが導いている(1772年のこと)。こうなるためには殻の上の一方の側にいる電荷による力と逆側にいる電荷による力がうまく消し合わなくてはいけないが、そうなるのは逆自乗の力が働く場合だけである(このことは後で具体的に計算しよう)。それゆえ、クーロンが実験的に直接確認するより前に、この法則は「たぶん成立しているだろう」という予想がされていた*7

1Cの正電荷二つが1mの距離にある時、働く力は、$8.9875518\times10^9$Nとなる。ざっと1億キログラム重であるから、かなり大きい。ゆえに、日常では1Cの電荷が孤立している状況に出会うことはまずない。というのは、普段我々が眼にする物質は原子でできており、原子は正電荷を持った原子核と、ちょうどそれにつりあうだけの負電荷を持った電子が集まってできている*8

ここで人間の身体の中にどれだけの電荷があるかを概算してみよう。体重100kgの人間を考える。人間の質量のほとんどは原子核の中身である陽子と中性子でできていて、陽子の質量はだいたい$1.67\times10^{-27}$kg、中性子はこれよりちょっと重い程度であるから、人間の身体には${100\over 1.67\times 10^{-27}}=5.99\times10^{28}$個の陽子または中性子がある。人間の身体を作っている原子のうち、炭素や酸素などではだいたい陽子と中性子が同じ数だから、この半分が陽子とすると、$2.99\times10^{28}$個の陽子があることになる。陽子一個の持つ電荷は素電荷($1.60217733\times 10^{-19}$C)であるから、これだけの数の陽子の持つ電荷は $2.99\times10^{28}\times 1.60\times10^{-19}=4.79\times10^9$クーロンである。

もし人間の身体に他に電気がなければ、1メートル離れた二人の人間の間には、 $${ 8.99\times10^9\times\left(4.79\times10^9\right)^2 \over 1^2}=2.06\times10^{29}[N]$$ という莫大な力が働くことになる。

しかし、実際には人間の身体は電気的にはほぼ中性であり、ほぼ同数の電子がこの電気を打ち消しているのである。マイナス電気による力がプラス電気による力を打ち消していると考えればよい(すぐ後で述べる重ね合わせの原理のおかげである)。

もし、人間の持つ電気が完全に打ち消し合わずに1%ほど残っていたとしても、その時に働く力は $${ 8.99\times10^9\times\left(4.79\times10^7\right)^2 \over 1^2}=2.06\times10^{25}N$$

である。これでも十分大きい力である*9。冬などに静電気がたまることがあるが、その時にたまっている静電気というのは、人間の体にある莫大な正電荷と負電荷のバランスがほんの少し狂ったことによって生まれる。

なお、電荷の量は現在知られているいかなる物理現象(化学反応、核反応、素粒子相互作用の全て)の前後で変化することはない。例えば

中性子(電荷0)→ 陽子(電荷e)+電子(電荷-e)+反電子ニュートリノ(電荷0)

という反応(β崩壊と呼ばれる)があるが、この反応の前後では粒子の種類が変化しているものの、電荷の総量は変化していない。これを「電荷の保存則」と言う。これもまた、実験的に強く支持されている物理法則である。

きちんと説明したのはここまで。ここ以下もアプレットを見せながら概説はしたが、きちんとした内容は次回にもう一度ちゃんとやる。

学生の感想・コメントから

電気力線の

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はどうなっているんですか?

そこはよどみ点という奴になっていて、電場が0になってます。ぴったり打ち消すところなんですね。

前の授業で地球も大きい磁石と言ってましたが、それなら地球を南北に動けば電気が流れるのか?

南北じゃだめですね。磁場と垂直な方向(東西)に動くと起電力が発生しますよ。

プログラムで、クーロンの法則がイメージできた(多数)

まずはイメージすることが大切。プログラム作った甲斐がありました。さらにそのイメージを数式で補強していくと、立派な物理屋になれます。

物理を勉強していて「なぜクーロンの法則の中に4πが入っているのか?」「なぜrでも$r^3$でもなく、$r^2$なのか」と漠然と思っていたので、それが解決して満足です。

物理の数式にはいろいろと深い意味が隠れているので、そういう疑問を持ってどんどん解決していくのはいいことです。

なぜ静電気は起こるのか? なぜアクリル板はプラスでエボナイト棒はマイナス?(同様の質問多数)

おっと難しい質問だ。単純な答えとしては、こすれあった時に一方から一方へと電子が移動する(移動先はマイナスに、移動元はプラスになる)ということなんですが、物質によって違うのは物質それぞれが持っている、電子を引きつける性質の違いと考えることができるでしょう。

人間の中にそんなに電荷があって、しかもこうも見事なバランスを保っているとは!(と驚く人多数)

原子や電子の数って、普段認識しないけど、それだけにすごい数なんですよ。

みんなからの質問もたくさん出て楽しい授業だった。

私も話していて楽しかった。これかもどんどん質問お願いします。

人間の身体は中性になっているそうですが、人間を電場の中においても何の影響も受けないのですか?

人間の身体の中の物質が分極(プラス電気を持った部分とマイナス電気を持った部分が分離すること)を起こすことになりますね。よほど強力な電場でない限りは危険はないと思いますが、影響なしってことはないでしょう。

キャヴェンデッシュの実験、逆自乗則を予想していたのはすごいと思った。(複数)

後でちゃんとした証明もやりますが、それもなかなか面白い証明になってます。

電荷が電気力線を出す時、エネルギーは必要ですか?(複数)

いいえ、電荷がこの世に存在した時、同時に周りの電気力線も存在してます。図で描く時は「電荷から出る」という書き方をしますが、物理現象として電荷から何かが出ることでできるものじゃないので、エネルギーは要りません。

$F={Qq\over 4\pi\varepsilon_0 r^2}$で、Qを∞にして、rも∞にしたらどうなりますか?

二つの∞の∞の成り方によって違います。Qが$r^2$より速く発散すればFも∞。逆に$r^2$の方が速く発散すれば0。

正負の電荷が近づいて距離が0になると無限の力が働くということは、宇宙はある程度の大きさを持って生まれたか、今ある電荷はすべて中性子のβ崩壊で生まれたということですか?

3年の量子力学の中でやりますが、二つの粒子が距離が0に近づくことは、量子力学の制限からできません。というわけで、宇宙の始まりにも量子力学が大事になってくるはずです。今ある電荷が何から生まれたかはいろいろでしょう。とりあえず宇宙の始まり、特に距離が0に近づく極限の話は、量子力学抜きには語れないと思います。3年までしっかり勉強してね。

電気力線の縮もうとする力をA、互いに反発する力をBとすると、A=Bとなる地点で正負電荷は止まるということですか?

いいえ。実は「静電気力だけでは物体は静止してつりあい状態になることはできない」という定理があって、止まったままではいられないのです(静電気力以外の力が働けば別)。そもそも、Aは電気力線に沿った方向、Bは電気力線と垂直な方向の力なので、大きさがA=Bでもつりあうことはできません。

静電気がバチッと言う時は、身体の中でプラスかマイナスの電気が減っているんですか?

歩いたりしているうちにため込んだプラスかマイナスの電気が、どっと身体から逃げ出す時の音です。

クーロンの法則から、自然界の法則は良くできていると思った。

それを見つけていくところが物理の面白さです。

電磁気学にも作用・反作用の法則が生きていることがわかった。でも、なぜ作用・反作用の法則のがあるのかがわかりません。

「なぜ」というのは常に答えるのが難しい質問です。ニュートン力学の前提なので、そういうものだ、と言えば言えます。授業中も話しましたが、もし作用・反作用の法則が成立しなかったら、エネルギーを使わずに加速することができたりして、世の中めちゃくちゃになってしまいそうなので、「作用・反作用の法則が成立していてよかった」という考え方もできます。

正負電荷の絶対値が等しい時、電気力線は外にはいかないのですか?プログラムでは少し出てましたが。

無限に遠くまではいけません。しかし、有限の距離には少しだけですけど出て行けます。プログラムの画面は有限なので。

電気力線は磁力線に似ていて面白かった。

磁力線は、Nから出てSに入りますが、そのあたりは電気力線と一緒。違いは、電流の周りをぐるっと一周回ったりできることです。


*1 当たり前のことだが、最初に電磁気学の実験が行われた時、実験は空気中で行われている。空気中の電磁気が真空中とは全く違ったものであったら、きっと電磁気の発展は歴史とは全く違ったものになったであろう。
*2 クーロンは物理学者というよりは土木技術者で、いろんなものを測る技術にたけていたそうである。
*3 「磁極に対するクーロンの法則」というのもある。後で出てくるが、式としては全く同じ形をしていて、1760年にマイヤーが見つけ(ただし発表は1801年)、1789年にクーロンが再実験している。
*4 ここにF(ファラッド)という単位が登場するが、この単位の意味するところは先にいかないとわからない。組み立て方から考えると、$\varepsilon_0={Qq\over 4\pi r^2 F}$であるから、$\varepsilon_0$の単位は[C${}^2$/N・m${}^2$]ということになる。FはC${}^2$/N・mに等しい。
*5 実際の電球では、熱など光以外のものにもエネルギーを消費するので、100Wの電球と言っても1秒で出てくる光のエネルギーは100Jよりは小さい。
*6 このkの値は、実は「光速度(299792458m/s)の自乗$\times 10^{-7}$」と表現できる。$10^{-7}$が入るのは単位の定義の問題であり、光速度の自乗が入るのは光も電磁気現象の一つであるからである。これについてはずっと後で明らかになる。
*7 もう一つ、クーロンの法則が「たぶん成立しているだろう」と思われていた理由は、この法則が万有引力の法則とよく似ていることである。
*8 原子がこのような構造を持つということは、1911年のラザフォードの実験で明らかになった。ラザフォードは薄い金属箔にアルファ線(正電荷を持つ粒子)をあててみたところ、非常に大きな角度で跳ね返されることがあることを見つけた。正電荷を強く跳ね返すということは、原子の中に正電荷の集中した「芯」があるということを示していた。これが原子核である。
*9 ちなみに地球の質量は$5.974\times10^{24}$kgである。この力で、地球を3.45m/s${}^2$で加速することができる。

添付ファイル: filedenba05KOKO.png 246件 [詳細] filetamanonaka.png 291件 [詳細] filedenkyu.png 292件 [詳細] fileCoulomb2.png 289件 [詳細] filea.png 132件 [詳細] fileCoulomb.png 229件 [詳細]

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Last-modified: 2020-05-03 (日) 10:16:55 (206d)