3.2.2の続き

$$ \vec B(\vec x)={\mu_0I\over 4\pi}\int Rd\phi \left(z\vec e_\rho-x\cos\phi\vec e_z+R\vec e_z\right)\left({\frac {1}{\left({{z}^{2}+{ x}^{2}}\right)^{3/2}}} +{3 x R \cos\phi\over \left( {z}^{2}+{ x} ^{2} \right) ^{{\frac {5}{2}}}}+\cdots\right)$$ となるが、まずRの1次の項を考える。 $${\mu_0I\over 4\pi}\int Rd\phi \left(z\vec e_\rho-x\cos\phi\vec e_z\right){\frac {1}{\left({{z}^{2}+{ x}^{2}}\right)^{3/2}}}$$ 今、φで積分するのだが、φが変化すると変化する部分は$\vec e_\rho$と$\cos\phi$しかない。一周(たとえば0から2π)積分するということを考えると$\int d\phi \vec e_\rho$も$\int d\phi \cos\phi$も0である。よってRの1次の項は積分結果に効かない。

では次に$R^2$の項を計算する。 $$\begin{array}{rl} &{\mu_0I\over 4\pi}\int Rd\phi~ R \vec e_z{\frac {1}{\left({{z}^{2}+{ x}^{2}}\right)^{3/2}}}+{\mu_0I\over 4\pi}\int Rd\phi \left(z\vec e_\rho-x\cos\phi\vec e_z\right)\left({3 x R \cos\phi\over \left( {z}^{2}+{ x} ^{2} \right) ^{{\frac {5}{2}}}}\right) \\=&{\mu_0I R^2 \vec e_z\over 4\pi\left({{z}^{2}+{ x}^{2}}\right)^{3/2}}\int d\phi+{3\mu_0I xR^2\over 4\pi\left( {z}^{2}+{ x} ^{2} \right) ^{{\frac {5}{2}}}}\left(z\int d\phi \cos\phi \vec e_\rho-x\vec e_z\int d\phi \cos^2\phi\right)\\\end{array}$$ となる(2行目では、積分と関係ない量をどんどん積分の外に出した)。各々の積分は、$\int d\phi=2\pi,\int d\phi \cos\phi\vec e_\phi=\pi \vec e_x, \int d\phi \cos^2\phi=\pi$と実行できる*1ので、答は $${\mu_0I R^2 \vec e_z\over 2\left({{z}^{2}+{ x}^{2}}\right)^{3/2}}+{3\mu_0I xR^2\over 4\left( {z}^{2}+{ x} ^{2} \right) ^{{\frac {5}{2}}}}\left(z\vec e_x-x\vec e_z\right)={\mu_0I R^2 \vec e_z\over 4\left( {z}^{2}+{ x} ^{2} \right) ^{{\frac {5}{2}}}}\left(3xz\vec e_x+(2z^2-x^2)\vec e_z\right)$$

(円電流の式)

と求めることができる。じゅうぶん遠方での円電流による磁束密度の式である。

ここで、z軸方向を向いた電気双極子pのつくる電場が $$\begin{array}{rl} \vec E=& {p\over4\pi\varepsilon_0}\left( 3(x\vec e_x+y\vec e_y+z\vec e_z) {z\over \left(x^2+y^2+z^2\right)^{5/2}} -\vec e_z {1\over \left(x^2+y^2+z^2\right)^{3/2}} \right)\\ \to& {p\over4\pi\varepsilon_0\left( x^2+z^2\right)^{5/2}}\left( 3 x z\vec e_x+(2z^2- x^2)\vec e_z \right)\end{array}$$

(電気双極子の式)

だったことを思い出そう。2行めでは、上の計算で使った位置座標に合わせてy=0とした。円電流の式)と([電気双極子の式)を見比べると、電気双極子モーメントpと$I \pi R^2$という量が対応関係にあることがわかる(比例定数は除いて比較した)。

dipole.png
dipole2.png

クリックするとフルサイズで見れます。

静電気の場合、正電荷qと負電荷-qが$\vec \ell$だけ離れている時そこには$q\vec \ell$の電気双極子モーメントがある。同様に磁気に関しても双極子モーメントを考える。磁極というものが存在するとすれば、正磁極mと負磁極-mが$\vec \ell$離れていれば${1\over\mu_0}m\vec \ell$の磁気双極子モーメントである、と考えればよい。ここで${1\over\mu_0}$がつく理由は電気双極子モーメントが電場$\vec E$をかけた時にどのようなモーメントが発生するかで定義されているのに対し、磁気双極子モーメントは$\vec B$($\vec H$ではなく)に対して定義されているからである。

実際には磁極は存在せず、磁気双極子モーメントを作るのは電流であるが、その電流の大きさと磁気双極子モーメントとの関係は、 $$\vec p=I\vec S $$ となる。$\vec S$は電流が囲んでいる面積を表すベクトルで、向きは電流に関して右ネジで面の法線方向である。

dipole3.png

クリックするとフルサイズで見れます。

これを正方形コイルの場合で確認しておこう。右の図のように、正方形コイルに磁場をかけた場合と、磁気双極子に磁場をかけた場合を比較する。どちらも回転する力のモーメントが起こる(電流は磁場と垂直になりたがるし、磁気双極子は磁場と平行になりたがる)。 $$ IL^2 = {m\ell\over\mu_0}$$ という関係が成立していれば、二つのモーメントは全く同じになる。遠方から見ると、そこに小さな周回電流があるのか、磁気双極子があるのかわからなくなるのである。

つまり「どんな磁場を作るか」という点でも、「磁場に対してどんな力を受けるか」という点でも、磁気双極子と周回電流は区別がつかない、ということ。

前に「磁極等という物は存在しない。磁場を作るのは電流である」ということを述べた時、少なからず驚いた人もいたかもしれない。しかしこうして円電流の作る磁場と磁石の作る磁場を見比べてみると、式の上でも(遠くからでは)全く区別のつかないものになってしまった。古い時代の物理学者が磁場の源が何であるのかがわからなかなったのもの仕方ないことかもしれない。

circles.png

なお、微小な円電流が一面に整列しているところを考えると、(ストークスの定理の証明の時のように)隣りあう電流どうしは消し合うので、外側にだけ電流が流れていると考えてもよいことになる。磁気双極子が面の上に並んでいるような状況は、その面の縁に電流が流れている状態と近似して考えることができるのである。

3.2.3 ソレノイドコイル

レノイドコイルについてはアンペールの法則でも求めたが、ここでビオ・サバールの法則を使っても出せることを確認しておく。

まず、円電流を二つ重ねたものを考えよう。円電流一つによる磁場はすでに計算したから、これを足せばよい。たとえばz=0面と$z=\ell$面に二つの円電流があるとすれば、それは円電流の作る磁場の式に、その式で$z\to z-\ell$と置き直したもの(こうすればz方向に$\ell$だけ平行移動したことになる)を足せばよい。つまり、 $$ \vec B(\vec x)={\mu_0I\over 4\pi}\int{Rd\phi \left(z\vec e_\rho-x\cos\phi\vec e_z+R\vec e_z\right)\over\left(z^2 + R^2 + x^2 -2R x\cos\phi\right)^{3/2}}+{\mu_0I\over 4\pi}\int{Rd\phi \left((z-\ell)\vec e_\rho-x\cos\phi\vec e_z+R\vec e_z\right)\over\left((z-\ell)^2 + R^2 + x^2 -2R x\cos\phi\right)^{3/2}}$$ となる。

円電流が二つでなく、もっとたくさんならば、zを少しずつ平行移動させながらこの式をどんどん足していけばいいだろう。 $$ \vec B(\vec x)={\mu_0I\over 4\pi}\sum_{n=-\infty}^\infty\int{Rd\phi \left((z-n\ell)\vec e_\rho-x\cos\phi\vec e_z+R\vec e_z\right)\over\left((z-n\ell)^2 + R^2 + x^2 -2R x\cos\phi\right)^{3/2}} $$ のように、円電流の影響をどんどん足していけばソレノイドコイルの場合の磁場が出せるだろう。

しかし、無限和$\sum_{n=-\infty}^\infty$を計算するのは少々面倒である。そこで、$\ell$が非常に小さいと考えて、 $$ \sum_{n=-\infty}^\infty \ell \to \int_{-\infty}^\infty dz$$ と考えることにする(ここで和記号の後に$\ell$があるのは、それがあってちょうど、無限和の極限が積分と一致するからである。図を参照)。

「図を参照」と書きながら、テキストに図を挿入していなかった。以下のような図である。つまり、ある関数f(z)があって、

$$\sum_{n=-\infty}^\infty \ell f(z-n\ell)$$

という和を取るとすると、それは図で言うと階段状の部分の面積に相当する。一方積分

$$\int dz f(z)$$

はf(z)のグラフの下の面積である。階段の幅すなわち$\ell$を0にする極限で、この二つは一致する。

kaidanicchi.png

よって、和記号を積分に置き換えた後、$\ell$で割るという計算が必要になる。$\ell$は「一巻きの長さ」なので、これで割ると「単位長さあたりの巻き数」が出る。いつものようにこれをnと置こう。

$$ \vec B(\vec x)={\mu_0nI\over 4\pi}\int_{-\infty}^{\infty}dz\int{Rd\phi \left(z\vec e_\rho-x\cos\phi\vec e_z+R\vec e_z\right)\over\left(z^2 + R^2 + x^2 -2R x\cos\phi\right)^{3/2}}$$ という計算をすればよいわけである。

ここで、zに関して奇関数ならば答はz積分の結果は0になる。分母は偶関数だから、分子にある$z\vec e_\rho$は積分すると消える。磁場はz成分しかないことになり、 $$ \vec B(\vec x)={\mu_0nI\over 4\pi}\int_{-\infty}^{\infty}dz\int_0^{2\pi}d\phi{R\left(-x\cos\phi+R\right)\vec e_z\over\left(z^2 + R^2 + x^2 -2R x\cos\phi\right)^{3/2}}$$ 例によって、$z=\sqrt{R^2+x^2-2Rx\cos\phi}\tan\theta$と変数変換して、 $dz=\sqrt{R^2+x^2-2Rx\cos\phi}{d\theta\over \cos^2\theta}$を使うと、 $$\begin{array}{rccl} \vec B(\vec x)=&{\mu_0nI\over 4\pi}&\int_{-\infty}^{\infty}dz&\int_0^{2\pi}d\phi{R\left(-x\cos\phi+R\right)\vec e_z\over\left(z^2 + R^2 + x^2 -2R x\cos\phi\right)^{3/2}}\\=&{\mu_0nI\over 4\pi}&\sqrt{R^2+x^2-2Rx\cos\phi}\int_{-{\pi\over2}}^{\pi\over2}d\theta{1\over \cos^2\theta}&\int_0^{2\pi}d\phi{R\left(-x\cos\phi+R\right)\vec e_z\over\biggl(\left(R^2+x^2-2Rx\cos\phi\right)(\underbrace{1+\tan^2\theta}_{={1\over\cos^2\theta}})\biggr)^{3/2}}\\=&{\mu_0nI\over 4\pi}&\int_{-{\pi\over2}}^{\pi\over2}d\theta~\cos\theta&\int_0^{2\pi}d\phi{R\left(-x\cos\phi+R\right)\vec e_z\over\left(R^2+x^2-2Rx\cos\phi\right)}\end{array}$$ のように計算が進み、θに関する積分の答は$\int_{-{\pi\over2}}^{\pi\over2}d\theta~\cos\theta=2$である。

φに関する積分は少々面倒に思えるが、この式の背後にある図形的意味を考えると、あっという間にできる。実はこの$d\phi{R\left(-x\cos\phi+R\right)\vec e_z\over\left(R^2+x^2-2Rx\cos\phi\right)} $という量は「半径Rの円運動している車を、円の中心からx離れたところで人がじっと注視している。車が$d\phi$だけ回る間に、この人はどれだけの角度目線を動かさなくてはいけないか」という問題の答なのである。

guruguru.png

なぜそうなるのかは純粋に図形の問題なので、右の図を見て考えるとわかる。ABは車の移動で、長さ$Rd\phi$である。この時P点にいる人の目線の動く角度は、${{\rm AC}\over {\rm AP}}$である。${\rm AP}=\sqrt{R^2+x^2-2Rx\cos\phi}$であり、${\rm AD}=x\cos\phi-R$である。後は、三角形ABCと三角形APDが相似であることを使うと、

三角形ABCと三角形APDが相似である理由を説明するのに戸惑ってしまって時間を使ってしまったが、角DAEと角PACがどっちも直角であることから(点Eはテキストにはありませんが、上の図には付け加えてあります)、角DAP=角CABであること、角ADPと角ACBがどちらも直角であることからわかる。

$$ {\rm AC}={\rm AB}\times{x\cos\phi -R\over \sqrt{R^2+x^2-2Rx\cos\phi}}$$ となるので、 $$ {{\rm AC}\over{\rm AP}}=R d\phi {x\cos\phi -R\over {R^2+x^2-2Rx\cos\phi}}$$ となる。できる。なお、以上の計算においては「弧」であって曲線であるところのABは(角度$d\phi$が微小なので)直線と考えた。

こう考えると、$x>R$であれば、0から2πまで積分すれば0になるのはすぐにわかる。なぜなら、外から見れば車はあっちいったりこっちいったりを繰り返しているので、一周分で目の動く角度を積分すれば0となる。

一方、x<Rであれば、車が一周する間にこの人の目線も一周するから、積分結果は2πである。

結局、内側では${\mu_0 nI\over 4\pi}\times 2\times 2\pi={\mu_0 nI}$という答が出る。これはアンペールの法則を使って出した式と全く同じである(アンペールの法則を使った方が簡単であることは言うまでもない)。

なお、先週見せたプログラム(3Dで見るビオ・サバール)がWindows上でうまく動かない、と言う人は、 C:/Program Files/Java/Java3D/1.5.1/lib/ext/の中のファイルをC:/Program Files/Java/jdk1.6.0_03/jreなんとか/lib/ext/にコピーしてみてください。これで動くこともあります。

学生の感想・コメントから

積分が強敵でした。自分でやれと言われてもできるようになりたいです。

今日やった以外にも解法はありますよ。挑戦してみれば??

最後の積分は図形書かなくてもできますか?

できますよ、いろいろあるので考えてみてください。ややこしい部分である$R^2+x^2-2Rx\cos\phi$をどう料理するか、というのがポイントです。

長い計算でしたが、最後のあの積分が、円を回る車を見るという見方をするというのは感動しました。

面白い見方ではあります。

MRIの磁場は人体に影響ありませんか?

そりゃもちろん、大丈夫じゃなかったら病院で使いません。

ビオ・サバールの法則とアンペールの法則が一致するのは当たり前のことかもしれないけど、証明は大変だなと思いました。

コイルの場合、アンペールなら簡単なのにわざわざビオ・サバールの法則を使ったので、余計にそう見えるかもしれません。これら二つの法則のつながりは一般的に証明することができますよ。

とても長い磁石があったとすると、その中心はN極とS極どっちなんですか?

そりゃ、どっちでもありません。N極というのは結局「磁力線がわき出るところ」でS極は「磁極線が吸い込まれるところ」ということになりますが、中心部はどっちも起こってません。

原子に電流が流れていて磁石になるということですが、磁石でない物質には電流は流れてないのですか?

「流れているけど、いろいろな方向に流れているため、互いに打ち消し合って消えている」ということも有り得ますね。実際の原子の場合はそういうことになります。

やっぱり、ある程度の図形の知識は必要ですか

この程度(今日やった程度の三角形の相似だとか、角度が等しいことの証明とか)はやはり必要です。

アンペールの法則はほんとに楽なんだな、と感動した。

その通りです。使える時にはとても楽な法則です。

ビオ・サバールの法則は難しいけど、慣れていけば大丈夫だと思いました。疑問があれば先生の部屋にガンガン行きます。

ガンガン来てください。

2章からいきなり3章になっているんだけど、なぜですか?

ミスです。内容はジャンプしてないので、気にしないでください。

(上のことに関して)式の数が多いので、結構な数のtypoだと思うのですが。

章や式の番号は、LaTeXが自動でやってくれているので、一カ所間違うだけで全部狂うのです。

zの部分が奇関数であると判断できた理由がわからない。

? z→−zと置き換えて符号がひっくり返ることを確認してみてください。

微小部分(電流)による磁場を積分して磁場を求める方法には「ビオ・サバールの法則」という名前があるけど、電場の場合はありますか?

そういえばありませんね。あるのかもしれませんが私は聞いたことがないです。

ビオ・サバールの法則とアンペールの法則はどっちが先に発見されたのですか

ビオ・サバールの法則の方が先です。もっとも、最初は電流と電流の間の力の式として書かれていたようです。

磁場中に電荷があると回転するのならば、磁場中に原子がある場合、原子核と電子は回転するのですか?

電荷がただあるだけでは回転しません。ただし、原子に電流が流れているような場合、その電流と磁場の間の力によって、原子は回転します。磁場をかければ、原子は複雑な影響を受けるものです。


*1 2番目の積分は、まず$\vec e_\rho=\cos\phi\vec e_x+\sin\phi\vec e_y$と分けておいてそれぞれ積分する。$\int d\phi \cos\phi \sin\phi=0$である。

添付ファイル: filekaidanicchi.png 263件 [詳細] filedipole.png 335件 [詳細] filedipole2.png 329件 [詳細] filedipole3.png 314件 [詳細] fileguruguru.png 283件 [詳細] filecircles.png 253件 [詳細]

トップ   編集 凍結 差分 バックアップ 添付 複製 名前変更 リロード   新規 一覧 単語検索 最終更新   ヘルプ   最終更新のRSS
Last-modified: 2020-05-03 (日) 09:28:54 (575d)