4.2 導線の受ける力と動く電荷の受ける力

電流素片$Id\vec x$が磁束密度$\vec B$の磁場内において、 $$ d\vec F= Id\vec x\times \vec B$$ の力を受ける、ということは既に述べた。ところで電流とは結局は荷電粒子(たいていの場合電子)の運動である。そこでこの力を荷電粒子一個一個に働く力の和だと考えることにしよう。荷電粒子一個に働く力はどのように表されるであろうか。

4.2.1 ローレンツ力

qvBIBL.png

今、ある微小体積dVの中に電荷密度ρで電荷が存在していて、それらが速度$\vec v$で運動しているとしよう*1。今考えている荷電粒子の一個の電荷をqとすれば、この場所には${\rho dV\over q}$個の電荷がいる。この微小体積の、電流が流れている方向の微小な長さを示すベクトルを$d\vec x$とし、電流が流れだす部分の微小面積を示すベクトルを$d\vec S$と書く*2と、微小体積dVは$d\vec S\cdot d\vec x$となる(角柱を底面積×高さで計算している)。

ここで$Id\vec x$の部分は $$ I d\vec x = (\vec j \cdot d\vec S) d\vec x= \vec j (d\vec S\cdot d\vec x) = \rho \vec v dV$$ と電流密度を通じて荷電粒子の速度を使った式に書き換えることができる。この計算の中で、$\vec j$と$d\vec x$が同じ方向を向いているので、$(\vec j \cdot d\vec S) d\vec x= \vec j (d\vec S\cdot d\vec x)$となることを使った*3。最後では$\vec j=\rho \vec v$を代入した。

qvB.png

よって力は$\vec F=\rho dV \vec v\times \vec B$となるので、これを荷電粒子の個数で割れば一個あたりの力が計算できる。すなわち、 $$ {d\vec F\div {\rho dV \over q}}= q\vec v\times \vec B$$ である。

この力$q\vec v\times \vec B$は磁場中を運動する電荷の受ける力を表す式である。電場中の電荷が受ける力$q\vec E$と併せて、 $$ \vec F= q\left(\vec E+\vec v\times \vec B\right) $$ を「ローレンツ力」と呼ぶ。これはローレンツの論文の中でこの式が導かれて有名になったためだが、実はそれ以前から知られている力である。 磁場による力$q\vec v\times \vec B$の部分だけを「ローレンツ力」と呼ぶこともある。

磁場から与えられる力$q\vec v\times \vec B$は磁場とも運動方向とも垂直である。運動方向と垂直だということは重要で、これによって、「磁場は荷電粒子に対して仕事をしない*4」ということが結論できる(運動方向と垂直な力は仕事をしないので)。特に、磁場と運動方向が同じ方向を向くと、力は0になる。

4.2.2 ローレンツ力を受けた荷電粒子の運動

荷電粒子が一様な外部磁場によるローレンツ力だけを受けて運動するとき、どんな軌道を描くかを考えよう。まず働く力は常に磁場に垂直であるから、この粒子の磁場に平行な方向の運動にはまったく磁場の影響は表れない。したがって(重力などのそれ以外の力が働かない限り)、磁場に平行な方向には荷電粒子は等速運動する。

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では磁場に垂直な方向はどうかというと、常に運動方向に垂直な力を受け続ける。上で述べたように磁場は仕事をしないので、粒子の運動エネルギーは増えることも減ることもないまま、運動方向を変えつづける。このような運動は等速円運動である。半径rで等速円運動するとして、その運動方程式を書けば、 $$m{v^2\over r}= qvB$$ である。これから、 $$\omega={v\over r}={qB\over m}$$ という式を作ることができる。すなわち角速度ωは(粒子がどんな大きさの円を描くかとは関係なく)一定値をとる。またこの式は $$ mv=qBr$$ とも書ける。すなわち、円運動の半径を見ればその粒子の運動量を決定できるわけである*5

cyclotron.png

この時、この円運動の周期を計算すると、 $$ T={2\pi r\over v}={2\pi m\over qB}$$ となり、半径rによらず一定となる。これを「サイクロトロン周期」と呼び、その逆数を「サイクロトロン振動数」と呼ぶ*6。さらに、この運動は「サイクロトロン運動」と呼ばれる。サイクロトロンとは、磁場中で粒子を回転させつつ加速していく実験装置である。円運動している粒子に、サイクロトロン振動数と同じ周期で振動する電場をかける。例えば図のように電極を配置して、荷電粒子がA点に来た時は左の電極の電位が高くなり、B点に来た時には右の電極の電位が高くなるようにしておくのである。この電場によって荷電粒子はどんどん加速されていくことになる。加速されればされるほど円運動の半径が大きくなっていき、最後には装置から飛び出してくる。

rasen.png

こうして、磁場中の荷電粒子は円運動もしくは、磁場と垂直な面内を円運動しつつ、磁場の方向に並進していくような螺旋運動をすることになる。螺旋運動の「円」が見えないほどに遠くから見ると、荷電粒子は磁場の方向にしか動けないように見える。つまり、磁場を使って荷電粒子の運動を制御することができる。

これは核融合におけるプラズマの閉じこめなどにも使われている。自然現象ではオーロラが北極と南極でしか見ることができないのはこの磁場の性質のためである。太陽から荷電粒子が地球に降り注いでいるのだが、地球にやってきた荷電粒子は地球磁場によって方向を変えられるため、(大きい目で見ると)磁場に沿った方向への動きしかできなくなる。ゆえに、地球磁場が上下方向を向く極地でのみ地球にたどり着くことができるのである。極地上空で大気圏に進入し空気で減速された時に、荷電粒子がそのエネルギーを放出して発する光がオーロラである。

4.2.3 ホール効果

Hall.png

磁場中の導線内を流れる電子に働く力が導線にどのような結果を及ぼすかを考えよう。簡単のため、電流の流れる方向と磁場を垂直にし、電流の方向をx軸と逆向き(導体内の電子はx軸の向きにが流れている)、磁場の方向をz軸に取ろう。導線を流れる電子の速度をvとすれば、evBの力がy軸方向に働く。これによって電子はy軸正の側に偏って存在するようになり、この部分がマイナスに帯電する。逆にy軸負の側はプラスに帯電する。もともと導線内は電気的に中性だから、マイナスに帯電するところ(つまり電子が過剰となるところ)があれば当然、プラスに帯電するところ(電子が不足するところ)ができるわけである。こうして導線にはy軸方向に電位差Vが生じる。電位差によって、導線内にy軸の方向を向いた電場${V\over d}$ができる。

Hall2.png

この電場は電子をy軸負の方向に引っ張るので、この二つがつりあえば電子は本来流そうとした方向すなわちx軸方向に流れることができる(二つの力がつりあわなければ電子は曲がってしまう)。よって、

$ evB=e{V\over d}$  ゆえに、 $V=vBd$

となり、vBdで表現される電位差がこの導体に発生する。これを「ホール電圧」または'「ホール起電力」と呼ぶ*7

電子の静止系で考えるとどうなるんですか?

おっと・・そりゃいい質問だ。電子の静止系では力qvBが消えてしまうからね。つりあわなくなってしまいそうだよね。実はその問題の解決には相対論が必要なので、3年まで完全な解答は待って欲しいんだけど、運動している人にとっては電場が磁場に見えたり、磁場が電場に見えたりするんです。そういうわけで、この場合電子の静止系では「運動している磁場が電場に見える」という電場がもう一つ現れて、電場同志で消し合うことになります。

ホール電圧の面白い(そして有用な)ところは、これがキャリア(導体内で電流を運ぶもののこと。上では電子だとして説明した)の電荷と速度によって変わることである。たとえば導体内を走っているのが電子ではなく正に帯電した粒子だとしよう。この場合この粒子の運動方向は-x方向になる。つまりこの電圧を測定することで、「導線の中を流れているのは正電荷なのか、負電荷なのか」を決定することができる*8。また、これからその電荷の流れる速度vもわかる。vと電流Iには、I=envSという関係があった(Sは導線の断面積、nは荷電粒子の単位体積当たりの個数)。この関係から、nすなわち、「この導体内にはどの程度の密度のキャリアが存在するか」を推定することもできる。というわけでホール効果は、導体や半導体の性質を研究するための重要な情報を与えてくれるのである。

Hall3.png

電子はこの電場による力と磁場による力の両方を受け、結果として直進する。ところでこの節の最初では、磁場が導線に及ぼす力が荷電粒子一個あたりどれだけかを考えて$\vec F=q\vec v\times \vec B$という式を作った。しかし今考えたように電子に働く力は電場によるものと磁場によるものが相殺している。では「磁場が導線に力を及ぼす」という時、導線が受けている力とは何なのだろうか???

電子だけを考えているとこの問いに答えることはできない。実際には金属であればプラスに帯電した金属イオンの中を電子が走っている。そして、金属イオンの方は運動していないから、磁場からは力を受けず、金属内にだけある電場によってのみ力を受ける。これが「磁場が導線に及ぼす力」の正体なのである。「電子が磁場から受ける力」と「電子が電場から受ける力」は大きさが同じで向きが反対である(つりあいの式)。また「電子が電場から受ける力」と「金属イオンが電場から受ける力」も大きさが同じで向きが反対である(電子の総電荷と金属イオンの総電荷は、同じ大きさで逆符号の筈だから)。よって「電子が磁場から受ける力」と「金属イオンが電場から受ける力」は向きも大きさも等しい。このようにして、ミクロな「電子が磁場から受けた力」がマクロな「導線が磁場から受けた力」へと伝達されるわけである。

なんか自分で自分をひっぱっているようで気持ち悪い(授業後に出た質問)

実際には、まず電子が磁場にひっぱられて動き、次に移動した電子が電場を発生させ、その電場が導線の中の金属陽イオンをひっぱるわけです。だから「電子が陽イオンをひっぱる」ということで、けっして自分で自分を引っ張っているわけではありません。

p型の半導体ではホール効果はどうなるんですか?(授業後の質問)

p型の場合、動いているのが正電荷なので、ホール効果による電圧は逆向きに発生します。だから電圧の向きで半導体がp型かn型かが判定できます。

以下のベクトルポテンシャルについては、ざっと概念を述べただけ。数式での説明は避けました。図で納得しておいてください。

4.4 ベクトルポテンシャル

電場の場合、電位Vを定義して、その勾配として電場を表現する ($\vec E=-{\rm grad} V$)ことができた。同様のことは磁場でもできるだろうか?

VandA.png

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磁場に関しても同様に磁位$V_m$を定義して$\vec H=-{\rm grad} V_m$のようにして磁場を計算することもできるが、${\rm rot}\vec H\neq 0$であることが災いして、一価関数でなくなるなど、少々使いにくいものになってしまう*9。こうなった理由は明らかで、磁場というのは磁極が作るものではなく電流が作るものなのに、電荷がつくる電場と同じ形式でポテンシャルを書こうとしたことに無理が生じたのである。

この節では「電流のつくるポテンシャル」である「ベクトルポテンシャル」を導入しよう。うまく使えば、磁場に関係する計算を楽にしてくれるものである。ただし、電位との単純なアナロジーで定義できるものではないことに注意しよう。

4.3.1 数学的な定義

電場$\vec E$に対してポテンシャルを考える時、数学としては以下のように考えた。

まず、${\rm rot}\vec E=0$であることに着目する(これは、静電場が仕事をしないという条件であった)。ここで数学的に「${\rm rot$が0になるようなベクトル場は、スカラー場の${\rm grad}$で書ける}」という定理があったので、$\vec E=-{\rm grad} V$となるような関数Vを定義することができた。これを「電位」と呼んだわけである。式で書くと$\vec E=-{\rm grad} V$であるが、これは「Vという『架空の高さ』を持った山を滑り降りる方向に働く力が$\vec E$である」ということになるが、つまりは「何かの微分という形で電場を表現する」ことに成功したわけである。

では磁場はというと、残念ながら${\rm rot} \vec H$(あるいは今は真空中なので、${\rm rot} \vec B$でも同じこと)は0ではない。つまり、「$V_m$という『架空の高さ』を持った山」を考えると、その山は「高い方へ高い方へと上り続けると一周して元の場所に戻ってしまう」というまことに奇妙な(エッシャーの絵にそういう構図があるが、あれは絵だからできることである)状況が出現してしまう。

しかし幸いなことには、${\rm div} \vec B=0$である。そこでこれを手がかりに「磁場に対するポテンシャル」を考えよう。

数学ではもう一つ、「${\rm div$が0になるようなベクトル場は、別のベクトル場の${\rm rot}$で書ける}」という定理がある。そこで我々は


ベクトルポテンシャルの定義式 $$ \vec B = {\rm rot} \vec A$$

として$\vec A$を定義することができるのである。

とはいえ、こんな数学的定義を持ち出されても「なんだこれは?」としか思えないのが正直なところだろう。いったい上の式で、われわれはどんな物理量を定義したのであろうか??

そこで、そもそもポテンシャルとは何なのか、をもう一度整理しておこう。

4.3.2 物理的意味

電位の定義は「単位電荷あたりの位置エネルギー」であった。別の言い方をすれば、「電位に電荷をかけると電荷の持つ位置エネルギーが計算できる」ということになる。そこで我々としては「単位電流あたりの位置エネルギー」としてベクトルポテンシャルを定義する。あるいは「ベクトルポテンシャルに電流をかけると電流の持つ位置エネルギーになる」という計算をしたいのである。

ベクトルポテンシャル$\vec A$は、これまで出てきたポテンシャルとは、ずいぶん性質が違うもののように感じるかもしれない。そもそも、ポテンシャルがベクトルとはどういうことだ??と不思議に思うだろう。しかし、「ポテンシャルとは何か?」という本質を理解すれば、ポテンシャルがベクトルになることはその本質に沿っていることがわかるだろう。

電場に対するポテンシャルであるところの電位とはそもそも「単位電荷の持つエネルギー」であった。そして、電場の源は電荷であったが、磁場の源は電流である。すると、「単位電流の持つエネルギー」のようなものこそ「磁場に対するポテンシャル」と呼ぶべきであろう。つまり、(電荷)×(電位)で位置エネルギーになったように、(電流)×(ベクトルポテンシャル)で位置エネルギーになってくれるのではないだろうか?

しかし、電流は向きのあるベクトルなので、「電流とかけてエネルギーになるもの」もベクトルでなくてはならない(もちろん、この場合の掛け算は内積である)。

式を先に出そう。電流が持つ位置エネルギーは $$ U= - \vec j \cdot \vec A$$ で計算できる(そうなるように、ベクトルポテンシャル$\vec A$が定義されたのである!)。

電位の場合にはつかなかった符号がつくが、それは電流とベクトルポテンシャルが同じ方向を向いた時(つまり、$\vec j\cdot\vec A>0$の時)にエネルギーがマイナスとなり、下がるということを意味している。すぐ後に図でわかるように、このようにエネルギーの符号を取れば正しく物理現象を記述できる。

というわけで、「単位電流の持つ位置エネルギー」を作ると、それはベクトル量となったのである。そして、電位(スカラーポテンシャル)が正電荷のあるところで高く、負電荷のあるところで低くなったように、電流に近いところではその方向を向き、大きさが大きくなっていく(遠ざかれば弱くなっていく)という性質を持つ。

まずは絵を描いて、そのような「ベクトルポテンシャル」のrotが磁場を表してくれそうであることを確認しよう。

vecPote.png

直線電流の場合を考えよう。図のようにz軸方向を向いた直線電流はz軸方向を向いたベクトルポテンシャルを作る。そして、そのベクトルの大きさは遠方にいくほど小さくなっていく。このベクトルポテンシャルのrotを考える。$\vec A$を水流のような流れと見た時、その流れによってそこにある物体がどう回転するか、と考えると${\rm rot}\vec A$のイメージをつかみやすい。rotは図の右側では時計回り、左側では反時計回りとなる。すなわち、右側では紙面表から裏へ向かう向きの磁場が、左側では紙面の裏から表へ向かう磁場ができる。これはまさに直線電流によって右ネジの法則が示す方向に作られた磁場である。

電位は「正電荷のある場所では電位が高くなる(電位を表現するゴム膜が``上に引っ張られる)」「負電荷のある場所では電位が低くなる(電位を表現するゴム膜が``下に引っ張られる)」「電荷がないところでは、ゴム膜は上に凸な部分と下に凸な部分ができてひっぱりあってつりあっている」というイメージで捉えることができた。それと同様にベクトルポテンシャルは「電流があるとその付近にはその電流の方向に向かうベクトルポテンシャルができる」というイメージで捉えることができる。

ちなみに、電場や磁場の「場」は英語ではfieldであり、つまり野原(フィールド)に草が生えているイメージである。場所によって長い草が生えてたり、短い草が生えてたりし、生える方向も場所によって違う。各点各点で違う大きさで違う向きのベクトルがあるというのが「field」のイメージなのである。

vectorPotential.png

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電場と磁場の違い(電位とベクトルポテンシャルの違い)を確認しておこう。

電場は$\vec E=-{\rm grad} V$という式で示されるように「電位Vが減る方向」へ向かうベクトルになった。磁場は$\vec B={\rm rot} \vec A$であるから、$\vec A$という流れが作るrot(渦)の軸(その向きは、もちろ右ネジの法則で決まる)の方向のベクトルとなる。

このようにベクトルポテンシャルができているところにもう一つの電流(試験電流)を持ってくると、その試験電流は$-\vec j\cdot \vec A$のエネルギーを持つ。試験電流が磁場を作っている電流と同じ向きなら、このエネルギーはマイナスであり、$\vec A$の大きさが大きくなるほど小さくなる。位置エネルギーが低くなる方向へと力が働くと考えれば、これは同じ向きの電流が引き合うことを示している。もし試験電流が磁場を作る電流と逆向きであれば、エネルギーはプラスとなるから、離れた方がエネルギーが小さくなる。すなわち、逆行電流は反発する。

vecPote2.png

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また、そこに方位磁石を持ってきたとする。小さな方位磁石は、小さな円電流と等価である(実際には、方位磁石を構成する原子の中でミクロな電流が流れている)。電流の持つ位置エネルギーは、$-\int d^3 \vec x \vec j\cdot \vec A= -I \int d\vec x\cdot \vec A$であるから、これが小さくなるような位置が安定である。左のように図を書いてみるとわかるように、このエネルギーが小さくなる位置というのはつまり、磁場の方向と方位磁石の方向が一致する方向なのである。

つまり「方位磁石が磁場の方向を向く」という物理現象も、「電流とベクトルポテンシャルによって作られるエネルギーを小さくしようとする」という力学で解釈することが可能になる。

磁石同志の力も同様である。二つの棒磁石があればN極とS極が引き合ってつながって一つの磁石となろうとする(そういう方向に力が働く)。磁石の正体を内部に流れる電流と考えば、これは電流が平行になろうとする、ということである。電流が平行になると、電流・電流の相互作用による位置エネルギーが小さくなるわけである。一方の作る電流のベクトルポテンシャルと同じ向きに別の電流が入れば、位置エネルギーは小さくなる。

vecPote3.png

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円電流の場合のベクトルポテンシャルを図示すると、図のように、電流と同じ方向に渦をまうようにベクトルポテンシャルが発生するだろう。このベクトルポテンシャルのrotを考えると、円の中心軸で上向きになることはもちろんわかる。さらに「上に行くほど弱まる」ということから、外向きの回転があることもわかる(自分が水の中に浸かっていて、頭の方が足より速い水流が流れているとしたら?と考えると理解できるだろう)。つまり、遠方に行くほど磁場が外へ広がって行くこともこの図から理解することができる(図には示してないが、円電流と同じ平面の上では磁場が下を向くことも図を書いてみればわかる!)。

こうしてベクトルポテンシャルを考えることで、磁場の発生や電流間に働く力を、電位と同様にイメージすることができる。


この部分は授業では話さない可能性もあるが、その場合は読んでおいてください。

4.3.3 ベクトルポテンシャルが一意でないこと

実際にベクトルポテンシャルを計算で使う時に注意しなくてはいけないことを一つ指摘しておこう。

電位(「ベクトルポテンシャル」に対比させて「スカラーポテンシャル」と呼ぶこともある)には「定数を加えてもよい」という任意性があった。観測される量である電場が$\vec E=-{\rm grad} V$と微分で定義されているために、$V\to V+V_0$($V_0$は定数)と置き換えても電場が変化しないのである。ベクトルポテンシャルの場合、$\vec B={\rm rot} \vec A$と定義されているので、rotを取ると0になるベクトル場を$\vec A$に付け加えても、磁束密度$\vec B$は変化しない。rotを取ると0になるベクトル場としては、${\rm grad} \Lambda$のように、任意のスカラー場$\Lambda$のgradがある(gradのrotは常に0であることを思い出そう)。よって、 $$ \vec A \to \vec A +{\rm grad} \Lambda$$ という置き換えをしても、物理的内容は変化しない。この置き換えは「ゲージ変換」と呼ばれる。この変換を「ゲージ変換」と呼ぶのは、今となっては歴史的理由しかない*10のだが、現在も広く使われている。

ここで「エネルギー密度が$-\vec j\cdot\vec A$なのだから、$\vec A$をそんなふうに書き換えてはエネルギーが変わってしまって困るのではないか?」という疑問が湧くかもしれないが、その心配はない。

エネルギー密度は変化してしまうが、その積分である全エネルギーは変化しないからである。エネルギーがどのように変化するか計算してみると、 $$ -\int d^3\vec x \vec j\cdot \vec A \to -\int d^3\vec x \vec j\cdot \vec A -\int d^3\vec x \vec j\cdot {\rm grad} \Lambda= -\int d^3\vec x \vec j\cdot \vec A +\int d^3\vec x {\rm div} \vec j\Lambda+(表面項)$$ となり、電流密度のdivが0なのでエネルギーの変化分は0となる(例によって表面項は0になるようにしたとする)。

ベクトルポテンシャルを使って計算している時は、「一見違う値を取っているベクトルポテンシャルでも、物理的内容が同じ場合がある」ことに注意しよう*11

4.3.4 ベクトルポテンシャルの計算

最後に、ベクトルポテンシャルを計算する方法を示す。${\rm rot}\vec B=\mu_0 \vec j$に、$\vec B={\rm rot} \vec A$を代入すると、 $$ {\rm rot}\left({\rm rot} \vec A\right)=\mu_0 \vec j$$ となる。ここでベクトル解析の公式 $$ {\rm rot}\left({\rm rot} \vec V\right)= {\rm grad}\left({\rm div}\vec V\right)-\triangle \vec V $$ を使うと、 $${\rm grad}\left({\rm div}\vec A\right)-\triangle \vec A =\mu_0 \vec j$$ という式が出る。ここで、前節で説明したゲージ変換を使って、${\rm div} \vec A=0$になるようにする。なぜならどんな$\vec A$が与えられても、適切な$\Lambda$を選ぶことで${\rm div}(\vec A+{\rm grad} \Lambda)=0$にすることができるからである。${\rm div} ({\rm grad}\Lambda)=\triangle \Lambda $なので、これは$\triangle \Lambda = -{\rm div}\vec A$となるような$\Lambda$を選べということである。この式を静電場におけるポアッソン方程式$\triangle V = -{\rho\over \varepsilon_0}$と比較すれば、電荷密度が$\varepsilon_0 {\rm div}\vec A$だったとして電位を求めなさい、という問題と等価である。よって、解は常に存在する。

さて以上のようにして簡単化することに成功したとすれば、ベクトルポテンシャルと電流密度の間には、 $$\triangle \vec A =-\mu_0 \vec j$$ という式が成立することになる。これは、電位と電荷密度の間の式 $$\triangle V=-{\rho\over \varepsilon_0}$$ に、非常によく似ている。 $$ V(\vec x)={1\over 4\pi\varepsilon_0}\int d^3 \vec x' {\rho(\vec x')\over |\vec x-\vec x'|}$$ という式で「電荷密度から電位を求める」ことが可能であったことを思い出せば、 $$ \vec A(\vec x)={\mu_0\over 4\pi}\int d^3 \vec x' {\vec j(\vec x')\over |\vec x-\vec x'|}$$ という計算で「電流密度からベクトルポテンシャルを求める」ことが可能であることがわかる。つまり計算自体は(ベクトルであることを除けば)電位と同様に行うことができる。ベクトルポテンシャルを計算できれば位置エネルギーが計算でき、それを使って力を計算したり、粒子の運動方程式を考えたりすることができる*12

mugenchokusenA.png

無限に長い直線電流Iの場合で計算してみよう。無限に長い直線を線電荷密度ρ帯電させたのと式の上では同じになる。無限に長い帯電した直線の場合、電位は$V=-{1\over2\pi\varepsilon_0}\log r$と書けたので、無限に長い直線電流の場合のベクトルポテンシャルは $$ \vec A = -{\mu_0\over 2\pi}\log r \vec e_z$$ となる*13

比例定数が変わったことと、スカラーではなくz方向を向くベクトルとなったことが大きな違いである。今は電流がz成分しかないので、ベクトルであっても計算はスカラーの場合と同様で済む(電流がいろんな方向を向いている時は、積分はベクトル和を取る形で行う)。

電位Vから電場$\vec E$を求めるには、 $$ \vec E = -{\rm grad} V = {1\over2\pi\varepsilon_0}\vec e_r {\partial \over \partial r}\left(\log r\right) = {1\over 2\pi\varepsilon_0}{1\over r}\vec e_r$$ と計算すればよかった。$\vec A$から$\vec B$を求めるには、 $$ \vec B = {\rm rot} A = -{\mu_0\over2\pi\varepsilon_0}\left(\vec e_r{\partial \over \partial r}\right)\times \left(\log r \vec e_z\right) = -{\mu_0\over 2\pi}{1\over r}\underbrace{\vec e_r\times\vec e_z}_{=-\vec e_\phi}= {\mu_0\over 2\pi}{1\over r}\vec e_\phi$$ という計算をすればよい。

学生の感想・コメントから

難しくなってきたなぁ(多数)

うーん、今日は先週よりは面倒な計算は減ったんだけど。

地球が作る磁場が防げるのは荷電粒子だけなのですか?

そうです。電荷のないものは磁場があっても関係ありませんから。有害な電磁波(紫外線なんかもですが)は、大気が散乱させて防いでます。

オーロラができる仕組みに驚いた。磁場が地球を守ってくれると聞くと、人間やいろんなものができるべくしてできているような感じがした。

地球の環境というのは非常にうまくできているのは確かですね。生命が発生するといのはある意味奇跡的なことです。

オーロラの荷電粒子をあびたら危ないですか?

北極でオーロラができている時だって、危険というほど危険でもないですよ。実際見に行く人もいるようだし。

沖縄ではオーロラできませんか?

地球磁場が弱くなるか、太陽の活動がよほど活発になるか、どっちかが起こらないと無理ですね。

時間止めたら磁場はなくなりますか?

・・・・・時間止めたら、磁場どころかほとんどの物理現象は起こりませんよ・・・・・

ホール電圧の実験の時に、電流を流してない時に少しだけ電圧が測定されるんですが、なんでですか?

実験装置を見ないとなんとも言えないんだけど、考えられるのは接点電圧(違う種類の金属が接触すると電位差が発生する)、熱電効果(金属との接触面に温度差があると電位差が発生する)などでしょうか。

ホール効果って、半導体のホールとも関係ないんですか?

半導体のホール(hole)もホール(Hall)効果を起こしますから、「関係」はあります。名前の由来は関係ありません。

ローレンツ力で導線がうごくわけがよくわかった。

導線の中で見えないけども電子が動き回って力が出ているというのは面白いですね。

なぜ、流れている電流が遠ざかるにつれてエネルギーが高くなるんですか?

高くなるのは、同じ方向を向いた電流の場合ですね。この場合、磁場による力で引き合うわけですから、遠くなるということは「近寄ろうとするものを引き離す」ということで、ばねと同様にエネルギーが高くなります。磁力線というばねを引っ張って伸ばしている、と考えてもいいですよ。

電荷も電流も安定する方向に向かうんですね。

そういうことになります。というか、森羅万象みんなそうですね。

ベクトルポテンシャルはとっつきにくかったが、今日の説明でイメージが湧いた(多数)

力学的な意味を考えてイメージすると、だいぶわかりやすくなると思います。

ベクトルポテンシャルは意味不明だった。来週に期待

ごめんなさい、来週は次へ行きます。ベクトルポテンシャルについては、また何かで出てきた時にまた触れます。

ベクトルポテンシャル、よくこんなこと考えたなぁ。昔の人はえらい。

「よく考えたなぁ」で終わらず、自分でもその考えを身につけていくようにしてくださいね。

Λはなんと読むのですか?

「ラムダ」です。λの大文字ですよ。

電流があればいつでもベクトルポテンシャルができるんですか?

はい。電荷があればいつでも電位ができるのと同じです。

ベクトルポテンシャルって使えるようになる必要はありますか?

今後あなたがやる物理によりますね。知らないよりは知っておいた方がいいです。

ポテンシャル=エネルギーと単純に考えてはいけないんですね。

「ポテンシャルに何かをかけるとエネルギーになる」と考えておいてください。

核融合で磁力線を使って閉じ込めをするという話ですが、磁気単極子を使ったら簡単に閉じ込められますか?

強い磁場を作ってくれるような磁気単極子があればいいんですが、電磁石の方が、強さを制御できる分楽かもしれません。

宇宙ができた時にエネルギー分布は平均状態の中に単極子があったとしたら、飛んできた荷電粒子が単極子につかまるという現象が起きて平均が崩れたと考えられそうですがそうですか?

磁場は仕事をしないので、荷電粒子はエネルギーを失わないので、電荷をつかまえるのは難しいかもしれません。


*1 考察を簡単にするために全ての荷電粒子が同じ速度で運動しているとここでは考えるが、実際には一個一個の荷電粒子はさまざまな速度を持ち、その平均が$\vec v$だと考えるべきであろう。
*2 面積ベクトルは、その面積に対する法線の方向を向く。
*3 $\vec j$と$d\vec S$の角度をθとすれば、$(\vec j \cdot d\vec S) d\vec x$の大きさも$\vec j (d\vec S\cdot d\vec x)$の大きさも、$|\vec j||d\vec S||d\vec x|\cos\theta$となる。
*4 当然だが、「仕事をしない」が「力を及ぼさない」のではないことに注意。
*5 素粒子実験では荷電粒子を磁場中を運動させて描いた円から運動量を測る。そして運動量やエネルギーから質量を決定し、知られていないものが出てきたら「新粒子発見!」となるわけである。
*6 なお、サイクロトロン振動数が一定になるのは、粒子の速度が光速に比べて遅い時、つまり相対論的効果が現れない時だけである。
*7 ホールは人名。アメリカの物理学者で、1879年にこの効果を発見した。綴りはHallであり、穴(hole)とは関係ない。
*8 「キャリアって電子だから負電荷でしょ」と思いこんではいけない。半導体内にできる「正孔」は正電荷だし、陽イオンが移動してできる電流だって有り得る。
*9 とはいえ、「一価関数でない」ということのデメリットを承知したうえで使えば、磁位はそれなりに便利な概念である。
*10 ずっと昔は、ほんとうにゲージすなわち物差しの変換だと考える理論があった。つまり電磁場は空間の長さと結びついた量だと考えられていたのである。しかし、現在この理論は否定されている。ただ「ゲージ変換」という概念自体は今も有用である。
*11 これが長い間「ベクトルポテンシャルは数学的なトリックのようなもので、物理的意味はない」と信じられてきた理由であるが、近年、量子力学的な現象(アバロノフ・ボーム効果など)においてはベクトルポテンシャルが存在しないと説明できないことが起こっていることがわかっている。
*12 ベクトルポテンシャルを使う計算では「磁場」というものを登場させずに荷電粒子の運動を考えることができるのである。
*13 ところでこの式ではベクトルポテンシャルが-z方向を向いていることを不思議に思う人がいるかもしれないが、このマイナス符号がついている「遠方で減少する」という性質を満たしていることに注意。実は計算の途中で正の定数を(定数なので)ポテンシャルに加えても物理的結果には意味がないということで捨てている。そのために負の値を取る。

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Last-modified: 2020-05-03 (日) 09:25:01 (141d)