変位電流とマックスウェル方程式

ここまで作った電磁気学の基本方程式を考えてきたが、実は最後にもう一つの修正を行う必要がある。それによって「マックスウェル方程式」が完成する。

電磁場の方程式の矛盾を解消する

さて、ここまででわかった電磁気の法則をまとめると、次の図のようになる。

kokomade.png

1865年、マックスウェルは上の方程式が矛盾を含むことに気づく*1

任意のベクトルは、rotしてからdivすると0である。では、${\rm rot}\vec E=-{\partial \over \partial t}$は大丈夫だろうか。左辺はdivをとると0になるが、右辺は大丈夫か??

実は${\rm div}\vec B=0$という法則があるおかげで、右辺も0となり、大丈夫なのである。このように、物理法則は互いに矛盾しないようにできていなくてはいけない。では上に上げた方程式は全部大丈夫かというと、そうではないことにマックスウェルが気づいたのであった。

マックスウェルが問題としたのは$ {\rm rot} \vec H_{}=\vec j_{}$である。この式の両辺のdivを取ってみる。当然、左辺は0になる。しかし、右辺は0とは限らない。

もし${\rm rot}\vec H_{}=\vec j_{}$が成立するのであれば、自動的に${\rm div}\vec j=0$になってしまうことになる。これはおかしい。実際、ある場所からある瞬間に電流が湧き出していくということは、あっていい状況である。

そのような状況としては、どんなものがあるだろうか?

コンデンサとかですか?

そう。コンデンサに電荷が溜まっている時がいい例で、正電荷が溜まっている極板は流れこむ電流ばっかりだから湧き出し(${\rm div}\vec j$)は負。逆の極板は湧き出しが正になる。

他にも「正電荷を一箇所に集めておいて手を離した場合」なんてのも湧き出しが正。電荷は互いに反発しあって外に出ていくからね。

じゃあ、${\rm div}\vec j$は何になるかというと、


連続の式

${\rm div}\vec j=-{\partial \rho\over\partial t}$


という式が成立している。

マックスウェルは${\rm rot}\vec H_{}=\vec j_{}$を

${\rm rot}\vec H_{}=\vec j_{}$+(?)

と修正することでこの困難を逃れようとした。(?)に何を入れればこの式が成立してくれるようになるかを考えてみよう。

${\rm div}({\rm rot}\vec H)={\rm div}\vec j_{}+{\rm div}$(?)

${\rm div}({\rm rot}\vec H)=-{\partial \rho\over \partial t}+{\rm div}$(?)

となるから、ここに${\rm div}\vec D=\rho$を代入すると、

$0=-{\partial ({\rm div}\vec D\over \partial t}+{\rm div}$(?)

となり、(?)には${\partial \vec D\over \partial t}$を入れればよいことがわかる。


変位電流の導入 $$\begin{array}{rl}{\rm rot} \vec H_{}=& \vec j_{} \\&\downarrow\\{\rm rot}\vec H_{}=& \vec j_{}+{\partial \vec D_{}\over \partial t}\end{array}$$

ということをやればよいのである。

この付加項${\partial \vec D_{}\over \partial t}$は「変位電流(displacemenmt current)」と呼ばれる*2(「電束電流」と書いている本もある)。この式がなければ実験を正しく説明できない。それどころか、電磁気学が矛盾した体系になってしまう。

真空中の場合を考えて変位電流を導入しない場合の電磁気の法則の数式を並べて見てみると、 $$\begin{array}{rl}{\rm div}\vec D_{}=0~~~~~~ & {\rm rot} \vec E_{}=-{\partial\vec B_{}\over \partial t}\\{\rm div}\vec B_{}=0~~~~~~ & {\rm rot} \vec H_{}=0\end{array}$$ となって、明らかに対称性が悪い。電場の${\rm rot}$に磁場の時間変化が現れるなら、磁場の${\rm rot}$には電場の時間変化が現れてもよさそうである。上記物理的考察から${\partial \vec D_{}\over \partial t}$が追加されたことで、電磁気の方程式は対称性を保ったきれいな形にまとまったことになる*3

電流密度に変位電流が足されることで${\rm div}(\vec j+{\partial \vec D\over \partial t})=0$になるということの意味を少し説明しておく。実際の電流は電荷が導線の中を移動しているわけだが、この電荷が(実際は十分に連続的に思っていいが)点電荷が移動しているようなものだと考えてみる。

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ある面を通る電流を考えると、点電荷がちょうど今考えている面を通過した時にしか電流が流れてないとすると、電流およびそれによって作られる磁場は「ほとんどの時間0であって、電荷が通過した時にだけ0でなくなる」というものになり、一定ではない。

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しかしここで変位電流を考えると、電荷が面に近づくときには図の$D_z$が正(上向き)で強くなり、面から離れるときは$D_z$が負(下向き)で弱くなる。どちらにせよ${\partial D_z\over \partial t}$は正となる。この変位電流があるおかげで、電荷が通過してないときでも、磁場は0にはならない。

じゃあ、Dはどんどん増加し続けませんか?

グラフを書くとこんな感じ。

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面を通過すると、下から抜けていた電束密度が上から抜けるようになるから、そこで一挙に落ちる。で、また増えていく(負の値から0に近づいている)。じゃあこのときは磁場が逆向きになるかというと、そのときは変位電流が逆になっているかわりに(電荷が通過しているから)ほんものの電流が流れているので、電流は連続的に変化するようになっている。これが、${\rm div}(\vec j+{\partial \vec D\over \partial t})=0$だという意味。

電磁場の基本法則は以上で完結し、


マックスウェル方程式 $$\begin{array}{rlrl}{\rm div}\vec D_{}=&\rho&{\rm div} \vec B_{}=&0 \\{\rm rot} \vec E_{}=&-{\partial\vec B_{}\over \partial t}~~~~~~~~~~&{\rm rot}\vec H_{}=&\vec j_{}+{\partial \vec D_{}\over \partial t} \\\end{array}$$

が電磁気学の基本法則となる。

こうしてみると、「磁場の時間変化に電場が伴う」というのが${\rm rot} \vec E_{}=-{\partial\vec B\over \partial t}$だから、「電場の時間変化に磁場が伴う」という法則${\rm rot}\vec H=\vec j+{\partial \vec D_{}\over \partial t}$があった方が対称性がいい。

電場が変化すると磁場ができるとすると、その磁場の変化で、また電場ができませんか?

鋭い。その現象がまさに起こる、ということをマックスウェルは計算して「電場と磁場は波のように空間を伝わる」ということを発見した。これが電磁波なんだけど、電磁波の速度を計算してみると$3\times10^8$m/sになった。つまり光が電磁波だということが、これでわかってしまった。電磁波の話は計算もちゃんと含めて来週やるけど、これはマックスウェル方程式の面白いところの一つ。

変位電流は磁場を作るか?

さて、アンペールの法則を変更したわけであるが、ではビオ・サバールの法則 $$ \vec B(\vec x)={\mu_0\over4\pi}\int {\vec j(\vec x')\times(\vec x-\vec x')\over|\vec x-\vec x'|^3}{\mathrm d}^3\vec x' $$ の方は $$ \vec B(\vec x)={\mu_0\over4\pi}\int {\left(\vec j(\vec x')+{\partial\vec D\over\partial t}\right)\times(\vec x-\vec x')\over|\vec x-\vec x'|^3}{\mathrm d}^3\vec x' $$ と修正すべきだろうか?

実はその修正は不要である。なぜなら${\partial\vec D\over\partial t}$を含む項は積分した時に消えてしまうのである。

stopI.png

図のように下から流れてきた電流がある一点で止まり、その一点に電荷がどんどん溜まっている状況を考えよう。電荷が出している電気力線(電束)もどんどん増加している。この電束密度の増加は磁場を作りそうに見えるかもしれない。

図の点Pに変位電流が磁場を作ると考えてみよう。電荷からPまで延ばした線(図の点線)に関して対称な点AとBを考える。この2カ所にある変位電流の大きさは対称性から等しく向きが違う。外積をとることで${\partial\over \partial t}\vec D_{}(\vec x')\times(\vec x-\vec x')$がちょうど逆符号となる。つまり点Aの変位電流による磁場と点Bの変位電流による磁場は消し合ってしまう。他の全ての点において同じことが言えるので、全空間で$\vec x'$積分を行うと、変位電流の項はきれいさっぱりなくなってしまう。

よってアンペールの法則には変位電流を含めることが必要だが、ビオ・サバールの法則についてはそのままでも問題ない、ということになる。

学生の感想・コメントから

めっちゃ難しかったけど、楽しかったです。

難しいことがわかってこそ、楽しさもあるよね。

EとBはお互いを作れるものだと知った。

むしろ、「EとBは一つのものだ」と思った方が近いぐらいです。

${\rm div}\vec j=0$でない状況はないと思っていたが、簡単にみつかるんだなと思いました。

はい。結構ありますよ。

今回のは、なぜかイメージできた!!

「なぜか」って(^_^;)。それだけ電磁気がわかってきた証拠でしょう。

コンデンサーのところでIと${\partial \vec D\over \partial t}$は同じ大きさになるのでしょうか?

${\partial \vec D\over \partial t}$は密度だから、これに微小面積をかけて積分したもの(密度でなくしたもの)がIと等しくなります。

ほんとにうまくできていると思いました!

電磁気が「きれいに完結!」しましたね。

新しい式が出てきたけど、しっかり理解できたのがよかった。

ここがしっかりわかれば、電磁気は大丈夫。

新しいアンペールの法則を習った後自分の中では疑問に思わなかったのですが、他の人が質問しているのを聞いて「確かに、こういう疑問も出てくるなぁ」と感じました。それに対する先生の答を聞いて、理解も深まったので、自分からも疑問を見つけるようにして、質問もたくさんします。

いいことです。疑問を深めてこその物理です。

アンペールの法則が変位電流をあわせて考えれば、一般の電磁場でも成り立つことがわかった。

これを考えつけたマックスウェルはえらいですね。

${\rm rot}\vec H=\vec j$という式に初見で疑問を感じる人ってすごいですね。

『疑問を感じる力』を磨きましょう。

今まで習ってきたことが、たった4つの方程式にまとめられてしまうとは驚き。ただ、まとめられた分、とても濃い式だと思う。光は波だかなんだかという話、おもしろそう。

濃い式です。いろんな意味が隠れてます。

マックスウェル方程式では、${\rm rot}\vec H=\vec j$に${\partial \vec D\over \partial t}$を足してあげないといけないことがわかった。

うまくできている式でしょ。

とうとう、電磁気学Iから気になっていた光の話や、第2回のときに気になっていたエネルギーを損している奴の正体がわかりました。大満足!!

最後まできて、やっと電磁気の全貌を語れるようになりました。

よくわかりました。

OK.

Maxwell方程式をマスターする。物理的意味を定着させる。

やりましょう。

今日でマックスウェル方程式が全部やった。長かったー!!

これで電磁気学の全貌を理解できたはず。

Maxwell方程式は電磁気の法則をとてもきれいに表現していると思った。

じっくりと鑑賞(?)してください。

マックスウェル方程式は理解できたので、練習してきます。

練習して、かみしめてください。

でてきました。Maxwell方程式!! 授業での理解に少し遅れたので、しっかりと復習します。

じっくり使いこなしていきましょう。

マックスウェルの方程式が4つ出てきました。これらをうまく使いこなせることが電磁気が分かったということだと思いますので、理解を深めます。

どんどん、使ってみてください。

テストも近づいているのでがんばっていきたいです。

はい、がんばりましょう。

(実際には図で書いてた)コンデンサーに入る電流$I_1$、出る電流$I_2$とすると、$I_1=I_2={\partial D\over \partial t}$でしょうか? 変位電流は電流と同等の振る舞いをするだけで、電流を流しているわけではない?

$I_1=I_2$と一致するのは、${\partial D\over \partial t}$の積分です。変位電流は名前は電流ですが、電流ではありません。

いつもより理解が難しかったのですが、その分、楽しかったです。

楽しく、苦しみながら理解しましょう。

マックスウェル方程式が完成しました。

長かったけど、これで電磁気がまるっと理解できる(はず)。

(電磁波の発生の図)Eどうしで弱め合ってそうですが、それを踏まえた値を観測しているんですか?

ちゃんと計算して干渉も起こった後のものが計算され、それが観測値と合います。

なぜマックスウェル方程式の${\rm rot}\vec H$に${\partial \vec D\over \partial t}$があるのかがわかりました。

大事なところです。

${\rm rot}\vec H=\vec j+C$。Cは自分にとっての宇宙項ですわ。

う〜ん、宇宙項とはだいぶ違うなぁ(^_^;)。

${\rm rot}\vec H=\vec j$で覚えてたので、${\rm rot}\vec H=\vec j+{\partial \vec D\over \partial t}$を忘れそうです。

そりゃ困る。正しい方を使えるようにならないと。

Maxwell方程式がどういう原理かよく理解できた。

げ、原理?? Maxwell方程式そのものが物理法則なので、さらにその原理はないんだけど。

エネルギー問題解決したいです!!

じゃあ電磁気だけでなくいろんなこと勉強せんとなぁ。

テストがんばりま〜す。

はいがんばってください。

実験によって得られた物理法則ですが、その法則がなぜ得られるのかという試みもあるのですか?

当然ありますが、それがうまく行くか、それとも「これは説明できん」となるかは、やってみなくてはわからない。

ついにマックスウェルの方程式が出てきた!

後は使えるようになってください。

電流(電荷)と磁場が密接につながっていることがわかった。それぞれを単独で考えずに勉強したい。

そうですね。電場と磁場は二つで一つです。

電場と磁場の関係から電磁波の速度を求めたマックスウェルはすごいと思った。公式を見つめなおして考察することはすごく大事だと思った。

物理法則は相互に絡み合っているので、互いの関係を見るだけで法則が発見できることもあるんですね。

いろいろな試験があるのでなやんでるね!

勉強しましょう。

最終目標であるMaxwell方程式まで導くことができました。

後は使い方の問題です。

ラジオの近くでライターをつけるとラジオに音がなるという話は始めて聞きました。Maxwellすごい!

「音がなる」というか「雑音が入る」です。電磁波ってそこらじゅうにあるのです。


何かコメントありましたら↓にどうぞ。



*1 正確に言うと、マックスウェルの使っていた式は上の式より少々ややこしい。現在使われているいわゆる「マックスウェル方程式」は後にヘヴィサイドたちが整備したものである。
*2 電流ではないが、電束密度の変化が電流と同じ役目をする、ということを表現した名前である。実際にはもちろん、電荷が移動しているわけではないので誤解しないように!
*3 ほんとに対称だというなら、磁極や磁流も入れるべきだ、という考え方もあるが、単磁極(モノポール)はまだ見つかっていない。

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Last-modified: 2013-02-01 (金) 17:15:18 (2083d)