波動論2007年度第7回


3.5 N個の物体が連結されている場合の振動

Nbane.png

ここまでは2個、3個の物体を考えたが、ここでは数を一般的にNとして問題を解いてみよう。まず運動方程式である。N個の物体を連結しているのはN+1本のばねである。このばねののびを考えよう。n番目とn+1番目の間にあるばねは、x_{n+1}-x_nだけ伸びることになるから、n番目のおもりとn+1番目のおもりをk(x_{n+1}-x_n)の力で引っ張る。これをおもりの立場で考えると、右からはk(x_{n+1}-x_n)の力で引っ張られ、左からはk(x_{n}-x_{n-1})の力で引っ張られる。よって運動方程式は

m{d^2 x_n\over dt^2}= k(x_{n+1}-x_n) - k(x_{n}-x_{n-1}) = kx_{n-1} -2k x_n + kx_{n+1}

となる。この運動方程式を見ると、n番目の物体に働く力は、

-2k\left(x_n -{x_{n-1}+x_{n+1}\over2}\right)

と表すことができ、x_n{x_{n-1}+x_{n+1}\over 2}の差に比例していることがわかる。しかもその力の向きはこの二つを一致させようとする向きである(x_n>{x_{n-1}+x_{n+1}\over2}ならx_nを減少させる向きに、x_n<{x_{n-1}+x_{n+1}\over2}ならx_nを増加させる向きに働く)。つまりこの時働く力は「自分の場所を、両隣の平均値へと近づけようとする」という形の復元力なのである(両端にばねがつけられている状態を思い浮かべれば、なるほどそうであろうと納得できる)。

下のグラフは、本来横方向の変位であるx_nを縦軸として書き直したグラフである。グラフの線が弾性を持っているかのごとく考えれば、力の方向を理解しやすい。

heikinka.png

実は物理で波動がある時には、たいていこのような「平均へと戻そうとする復元力」が関与している。後で出てくる波動方程式には2階の空間微分があるが、それはこの顕れなのである。

この式を行列で書けば、

m{d^2\over dt^2}\left(\begin{array}{c} x_1\\x_2\\x_3\\ \vdots \\ x_{N-1}\\ x_N\end{array}\right)=\left(\begin{array}{ccccccc} -2k&k &0 &0&\cdots &0&0 \\k&-2k&k &0&\cdots &0&0 \\ 0&k&-2k&k &\cdots &0&0 \\ \vdots&\vdots &\vdots & &\vdots&\vdots \\ 0&0 &0 &0 &\cdots&-2k&k \\ 0&0 &0 &0 &\cdots&k&-2k \\\end{array}\right)\left(\begin{array}{c} x_1\\x_2\\x_3\\ \vdots\\ x_{N-1} \\ x_N\end{array}\right)

となる。x_1x_Nについては、片方の端は固定されているわけなので、運動方程式の右辺には2つの項しかない。

問題は、この行列をどう対角化するか、ということになるわけである。

線型代数の一般論にしたがって計算していくというのも一つの手である。しかしここでは、既にN=2,N=3で計算した結果の類推で「三角関数で固有ベクトルが求められるのではないか?」と予想してみよう。(N=2のモードの式),(N=3のモードの式)の類推から

x_n=\sqrt{2\over N+1}\sin {np\pi\over N+1}

としてみよう。これがe^{i\omega t}で表現される振動をしていると考えて、

x_n(t)=\sin {np\pi\over N+1}e^{i\omega t}

というモードがあると仮定してみる(前についていた規格化のための係数は、解であるかどうかを判定するには不要なので省いた)。これを運動方程式に代入すると、

\begin{array}{rl}m{d^2\over dt^2}\left(\sin {np\pi\over N+1}e^{i\omega t}\right)=&k\sin {(n-1)p\pi\over N+1}e^{i\omega t}+k\sin {(n+1)p\pi\over N+1}e^{i\omega t}-2k\sin {np\pi\over N+1}e^{i\omega t} \\-m\omega^2\sin {np\pi\over N+1}=&k\left(\sin {(n-1)p\pi\over N+1}+\sin {(n+1)p\pi\over N+1}-2\sin {np\pi\over N+1}\right) \\\end{array}

ここで、例によって両辺を複素化して、

-m\omega^2e^{i{np\pi\over N+1}}=k\left(e^{i{(n-1)p\pi\over N+1}}+e^{i{(n+1)p\pi\over N+1}}-2e^{i{np\pi\over N+1}}\right)

としよう。この式の虚数部分が元の方程式である(e^{i\theta}の虚数部分はi\sin\theta)。この式で、両辺をe^{i{np\pi\over N+1}}で割ってしまう。すると、

-m\omega^2=k\left(e^{-i{p\pi\over N+1}}+e^{i{p\pi\over N+1}}-2\right)

となる。右辺の括弧内は、e^{i{p\pi\over 2(N+1)}}e^{-i{p\pi\over 2(N+1)}}=1であることに気づくと、

\underbrace{e^{-i{p\pi\over 2(N+1)}}}_{b^2}-2\underbrace{e^{-i{p\pi\over 2(N+1)}}e^{i{p\pi\over 2(N+1)}}}_{ab}+\underbrace{e^{i{p\pi\over 2(N+1)}}}_{a^2}=\left(\underbrace{e^{-i{p\pi\over 2(N+1)}}}_{a}-\underbrace{e^{i{p\pi\over 2(N+1)}}}_{b}\right)^2

と因数分解され、括弧内は2i\sin {p\pi\over 2(N+1)}である*1から、

-4\sin^2{p\pi\over 2(N+1)}

と計算される。結果、運動方程式から

-m\omega^2=-4k\sin^2{p\pi\over2(N+1)}

すなわち、

\omega=2\sqrt{k\over m}\sin{p\pi\over2(N+1)}

となる。ωはnによらない定数となったから、これでめでたく、

x_n=\sqrt{2\over N+1}\sin {np\pi\over N+1}\sin\left(2\sqrt{k\over m}\sin{p\pi\over2(N+1)}+\alpha_p\right)

が解であることがわかった。 一般解は、

x_n=\sum_{p=1}^{N}A_p \sqrt{2\over N+1}\sin {np\pi\over N+1}\sin\left(2\sqrt{k\over m}\sin{p\pi\over2(N+1)}t+\alpha_p\right)

であり、A_p,\alpha_pはそれぞれ、p番目のmodeの振幅と初期位相である。行列で表現すると、

\left(\begin{array}{c} x_1\\x_2\\x_3\\\vdots\\x_N\end{array}\right)=\left(\begin{array}{ccccc} & & & &  \\ & & & &  \\ & &{\bf T}  & \\ & & & &  \\ & & & &  \\\end{array}\right) \left(\begin{array}{c} A_1\sin\left(\omega_1t+\alpha_1\right) \\A_2\sin\left(\omega_2t+\alpha_2\right) \\A_3\sin\left(\omega_3t+\alpha_3\right) \\\vdots\\A_N\sin\left(\omega_N t+\alpha_N\right) \end{array}\right)

となる。ただし、

\omega_p=2\sqrt{k\over m}\sin{p\pi\over2(N+1)}

と定義した。変換行列{\bf T}は、

{\bf T}= \sqrt{2\over N+1}\left(\begin{array}{ccccc}\sin{\pi\over N+1} & \sin{2\pi\over N+1}& \sin{3\pi\over N+1}&\cdots &\sin{N\pi\over N+1} \\\sin{2\pi\over N+1} & \sin{4\pi\over N+1}& \sin{6\pi\over N+1}&\cdots &\sin{2N\pi\over N+1} \\\sin{3\pi\over N+1} & \sin{6\pi\over N+1}& \sin{9\pi\over N+1}&\cdots &\sin{3N\pi\over N+1} \\\vdots&\vdots &\vdots & & \vdots \\\sin{N\pi\over N+1} & \sin{2N\pi\over N+1}& \sin{3N\pi\over N+1}&\cdots &\sin{N^2\pi\over N+1} \\      \end{array}\right)

である。成分をまとめると、

{\bf T}_{pq}=\sqrt{2\over N+1}\sin{ pq\pi\over N+1}

ということになる。{\bf T}は直交行列だから{\bf T}^t={\bf T}^{-1}であ り、今の場合は{\bf T}={\bf T}^{-1}である。

renseiN.png

実際の問題を解く時は、x_iとその微分{dx_i\over dt}の初期値が与えられていることが多い。その時は\vec X={\bf T}^t \vec x({d\over dt}\vec X={\bf T}^t{d\over dt}\vec x)という行列計算によって、各モードを表すベクトル\vec Xおよびその微分の初期値がわかるので、これを使ってA_p,\alpha_pを計算する。これで任意の時刻の\vec Xさらには(\vec x={\bf T}\vec Xを用いて)任意の時刻の\vec xがわかることになる。

右のグラフは、一番下のが初期状態(初速度0)で、時間が経過するに従ってどのように物体が振動したかを示すグラフである。初期値は、一番右端の物体だけが右に変位している(一個だけを右に引っ張って手を放した状態)から始めた。ゆえに最初の状態では一番右のばねは縮められ、右から2番目のばねは伸びた状態にあった。一番右のおもりは左に、右から2番目のおもりは右にひっぱられるところから運動が始まる。やがてその振動がばねを介してどんどん左へと伝わっていくのである。

次の章から本格的に「波動」を勉強するが、このような連成振動の場合でも、波動の重要な性質「伝播する」が出現している。一般の波動もこのように復元力が振動を伝播してくことによって出現する現象である。


この部分は授業では話さない可能性もあるが、その場合は読んでおいてください。

なお、前についている係数\sqrt{2\over N+1}の正当性についてここまでチェックを怠っていたので、ここでこれでよいことを確認しておく。{\bf T}^t {\bf T}=''I''ではなくてはいけないが、これを成分を使って表現すると、

\sum_{q}{\bf T}_{pq}({\bf T}^t)_{qr}= \sum_{q}{\bf T}_{pq}{\bf T}_{rq}= \delta_{pr}

である。p\neq rの時0になることは「固有値の違うベクトルは直交する」という定理のおかげで証明は不要である。p=rの時1になることを確認しよう。この式を成分で書くと、

\begin{array}{rl} \sum_{q=1}^N{\bf T}_{pq}{\bf T}_{pq}= & \sum_{q=1}^N{2\over N+1}\sin^2{ pq\pi\over N+1}\\=& \sum_{q=1}^N{2\over N+1}\sin^2{ pq\pi\over N+1}+\sum_{q=-1}^{-N}{2\over N+1}\sin^2{ pq\pi\over N+1}\underbrace{+{2\over N+1}\sin^2{ p\times 0\pi\over N+1}+{2\over N+1}\sin^2{ p\times (N+1)\pi\over N+1}}_{=0}\\=& {1\over N+1}\sum_{q=-N}^{N+1}\sin^2{ pq\pi\over N+1}\end{array}

となる。ここで、わざわざどうせ0になる数を二つ足し算して、1からNまでだったqの和を、-NからN+1までに直した。こうすることによって、後の計算で足りない部分がちゃんと出てきてくれるのである。ここでsinをexpを使って書き直すことで、

-{1\over4(N+1)}\sum_{q=-N}^{N+1}\left(e^{i{ pq\pi\over N+1}}-e^{i{ pq\pi\over N+1}}\right)^2=-{1\over4( N+1)}\sum_{q=-N}^{N+1}\left(e^{i{ 2pq\pi\over N+1}}+e^{-i{ 2pq\pi\over N+1}}-2\right)

とかける。このうち、最後の-2の部分がちょうど1となる。q=-Nからq=N+1まで、ちょうど2N+2個の-{4(N+1)}\times (-2)を足していくことになるからである。なお、最初の2項はどちらも単位円上をぐるりと回るベクトルを一周分足すことに対応していて、答は0である。以上で係数が正しいことも証明された。 }

3.6 章末演習問題

宿題は、以下の演習問題のうち、どれか一つとします。12月10日までに発表しにくること。

[演習問題3-1]3.1節の問題で、真ん中のばねだけがばね定数Kだったとする。問題を解き直せ。

[演習問題3-2]

天井からばね定数kのばねをつるし、その先に質量mのおもりをとりつける。さらにそのおもりの下にもう一本、ばね定数kのばねをとりつけ、さらに質量mのおもりとつり下げる。

  1. 運動方程式を立てよ。
  2. 運動方程式を組み合わせて、二つの基準モードの運動方程式を作れ。
  3. それぞれのモードはどのような運動なのかを説明せよ。
banebane.png

[演習問題3-3] ドーナツ状に輪になったチューブの中に物体が3つ、ばねが3つ入って互いに図のように連結されている。最初、物体は左図のような形で平衡にあった。チューブの内面にまさつはなく、物体はスムースに動き回れるものとする。平衡の位置からの変位を図のようにx_1,x_2,x_3と置く。

3ring.png
  1. x_1,x_2,x_3の満たすべき運動方程式を求めよ。
  2. この方程式をX_1={1\over\sqrt{3}}(x_1+x_2+x_3),X_2={1\over\sqrt{2}}(x_2-x_1),X_3={1\over\sqrt{2}}(x_3-x_2)に関する運動方程式に組み直せ。
  3. 各々のモードに対する方程式を解け。
  4. それぞれのモードはどんな運動を意味するのか、説明せよ。
  5. X_4={1\over\sqrt{2}}(x_1-x_3)というモードを考えてもよさそうだが、これは考えなくてもよい。なぜか?

第4章 1次元の波動方程式

第3章では、つながった複数個の物体の振動を考えた。ここではその数を一気に無限個にしよう。すなわち「連続的につながった物体」の振動を考える。この物体の部分部分の動きを考えると、無限個の物体の運動を考えることになる。これはたいへんなことのように思えるかもしれないが、微分方程式とモード分解という二つの強力な道具の御陰で、問題をずいぶん簡単にして考えることができる。


この章で学ぶ大事なこと

  • 1次元連続物体を伝わる波動の方程式
  • 1次元波動のモード分解

4.1 連成振動のN\to\infty極限

前の章ではN個の物体の振動を考えてきたが、このNをどんどん大きくしていく。するとこれは、棒の端っこを叩いた時にその動きが反対の端へと伝わっていく現象(固体を伝わる弾性波の縦波)のモデルとなる。この時、おもりは分子のモデルとなり、ばねは分子の間に働く分子間力*2のモデルとなる。

4.1.1 極限としての解

ではここで、Nが有限の時の答

x_n(t)=\sum_{p=1}^{N}A_p \sqrt{2\over N+1}\sin {np\pi\over N+1}\sin\left(\left(2\sqrt{k\over m}\sin{p\pi\over2(N+1)}\right)t+\alpha_p\right)

を思い出そう。この解のN\to\infty極限をとってみる。一個一個のおもりのラベルであるnは、今度は横方向の位置座標となる。そこでここからは位置座標としてxを使い、おもり一個一個の変位の方にy(x)を使おう。つまり、これまでx_nと書いていたものはy(n\Delta x)と書くことにする(さっきまでとはxの意味が変わっているので注意!)。ここで、この質点のつながり全体の長さをLとすると、\Delta x={L\over N+1}である。

Nbane3.png

単純にm,kを固定してN\to\inftyとすると、おもりの質量総計は\inftyになってしまうし、ばねの長さはどんどん短くなるのにばね定数は変化しないという不合理が起こる。そこで、同時に、一個のおもりの質量mを{M\over N}とどんどん小さくし(Mは質点全部の質量の総計を示す)、ばね定数kをK(N+1)と、どんどん大きくする(同じ材質のばねながら、ばね定数は長さに反比例する。Kは全ばねをつなげた場合のばね定数に対応する)。

まとめると、

  1. 位置を表す変数であるnは{N+1\over L}xに置き換えられ、その場所での変位を表すx_nはy(x,t)と置き換えられる。
  2. 質量m\to {M\over N}、ばね定数k\to K(N+1)と置き換えがおこる。

ということになる。これによって、まず一つめのsinの中身が

{np\pi\over N+1}\to {N+1\over L}x\times{p\pi\over N+1}= {p\pi\over L}x

となる。2個目のsinの中身は少々複雑なので注意深く極限をとる必要がある。

\left( 2\sqrt{k\over m}\sin{p\pi\over2(N+1)}\right)t+\alpha_p\to \left( 2\sqrt{K(N+1)\over {M\over N}}\sin{p\pi\over2(N+1)}\right)t+\alpha_p

だが、ここでN+1とNは同じようなもの、と考えることにして、

\left( 2\sqrt{K(N+1)\over {M\over N}}\sin{p\pi\over2(N+1)}\right)t+\alpha_p\to \left( 2\sqrt{K\over M}(N+1)\sin{p\pi\over2(N+1)}\right)t+\alpha_p

とおく。ここで{p\pi\over 2(N+1)}=\thetaとおくと、

\left( 2\sqrt{K\over M}\underbrace{(N+1)}_{\to {p\pi\over 2\theta}}\sin{p\pi\over2(N+1)}\right)  t+\alpha_p=  \left(\sqrt{K\over M}{p\pi\over\theta}\sin{\theta}\right)t+\alpha_p

と置き直せる。N\to \infty極限は\theta\to0極限であり、\lim_{\theta\to0}{\sin\theta\over \theta}=1を思い出せば、この極限はp\pi\sqrt{K\over M}t+\alpha_pということになる。結局解は

y(x,t)=\sum_{p=1}^\infty C_p \sin {p\pi\over L}x \sin\left(p\pi\sqrt{K\over M}t+\alpha_p\right)

ということになる。ただし、A_p \sqrt{2\over N+1}をあらためてC_pと置いた*3

この解の一個一個のモードを見ると、各々の点が振幅C_p \sin {p\pi\over L}x、角振動数p\pi\sqrt{K\over M}で振動していると考えられる。p=1からp=4までの各振動モードの波長、角振動数と振動の様子を以下の表に示す。

腹の数波長角振動数振動の様子
p=12L\pi\sqrt{K\over M}waven1.png
p=2L2\pi\sqrt{K\over M}waven2.png
p=32L/33\pi\sqrt{K\over M}waven3.png
p=4L/24\pi\sqrt{K\over M}waven4.png

\sin{p\pi\over L}xという関数はxが{2L\over p}だけ増加すると位相が2π増加する(だから波長が{2L\over p})ということに気をつけよう。振動の各モードは両端を固定した弦の振動の形になる。実際の振動はもちろん、これらの各モードが重なり合ったものとなるだろう。

ここで作られた各振動モードは、波ではあるがいわゆる「定常波(standing wave)」であり、どちらにも進行しない。これは「両端を固定する」という境界条件を置いた結果であって、一般にはそうではない。これについては、連続極限の方程式を出した後、別の境界条件で解いていきながら考えることにしよう。

4.1.2 連続極限の方程式を作る

以上で、解を先に出したわけだが、今後も「N個の場合を考えて、後からN\to\inftyの極限をとる」という計算をしたのではたいへん面倒なので、最初から最後までN\to\inftyの極限をとった形(つまり、物質が連続的に分布している形)で計算したい。そのためには、方程式自体を連続極限で考えた方がよい。

Nbane2.png

一個のおもりの質量を{M\over N}と一本のばねのばね定数をK(N+1)と設定すると、連成振動のn番目の質点の運動方程式は

{M\over N}{d^2 x_n\over dt^2}= K(N+1) \left(x_{n-1} -2 x_n + x_{n+1}\right)

である(n+1番目のばねからはK(N+1)(x_{n+1}-x_n)の力が左向きに、n番目のばねからはK(N+1)(x_{n}-x_{n-1})の力が右向きにかかると考える)。ただし、x_0x_{N+1}は0だとしよう*4

そう書くと、方程式は

{M\over N}{d^2 y(n\Delta x)\over dt^2}= K(N+1) \left(y((n-1)\Delta x) -2 y(n\Delta x) + y((n+1)\Delta x)\right)

に変わる。整理して、

{d^2 y(n\Delta x)\over dt^2}= {KN(N+1)\over M} \left(y((n+1)\Delta x)+y((n-1)\Delta x) -2 y(n\Delta x) \right)
(N→∞の極限の式)

としよう。

以下で、この式の右辺の極限はy(x,t)という関数の二階微分{\partial^2 y\over \partial x^2}に対応することがわかる。そのことを以下で説明しよう。

bibun.png

まず、

{dy\over dx}= \lim_{\Delta x\to 0}{y(x+\Delta x)-y(x)\over \Delta x}

という微分の定義式どおりの関係を思い出す。これはつまり、x\to x+\Delta xの間の関数y(x)の増加率であり、グラフで表現すればグラフの傾きに対応する。右の図で\Delta xをどんどん小さくしていくと、{y(x+\Delta x)-y(x)\over \Delta x}という量はxの場所での関数の傾きになる。

nikaibibun.png

さらにこれを微分する。微分の微分、すなわち二階微分は、さらに「ある場所の微分」と「その少し横の場所の微分」の差として定義される。つまり、右の図のように3つの場所(x-\Delta x,x,x+\Delta x)でのyによって、二階微分は表現される。具体的には、{y(x+\Delta x)-y(x)\over \Delta x}{y(x)-y(x-\Delta x)\over \Delta x}の差をとるという計算こそが二階微分である*5

まとめると以下のようになる。

\begin{array}{rl} {d^2y\over dx^2}=& \lim_{\Delta x\to 0}{{dy\over dx}(x)-{dy\over dx}(x-\Delta x)\over \Delta x}\\=& \lim_{\Delta x\to 0}{1\over \Delta x}\left({{y(x+\Delta x)-y(x)\over \Delta x}-{y(x)-y(x-\Delta x)\over \Delta x}}\right)\\=& \lim_{\Delta x\to 0}{1\over\Delta x^2}\left(y(x+\Delta x)+y(x-\Delta x)-2y(x)\right)\end{array}

ここで、\Delta x={L\over N+1}であることを使うと、

{d^2y\over dx^2}= \lim_{\Delta x\to 0}{(N+1)^2\over L^2}\left(y(x+\Delta x)+y(x-\Delta x)-2y(x)\right)
(二階微分の式)

となる。グラフ上ではこれは傾きの変化であり、線の曲がり具合に対応するわけである。

ここで、どうせNは∞になるので、NとN+1には差がないに等しい、と考えると、(二階微分の式)\times{KL^2\over M }は(N→∞極限の式)でx=n\Delta xとしたものと同じだと考えられる*6。つまり、極限をとった結果として、

{d^2 \over dt^2}y(x,t)= {KL^2\over M}{\partial^2\over \partial x^2}y(x,t)

という式が出る。これが、N\to\infty極限でのy(x,t)の満たすべき方程式である。

fukugen.png

この導出の仕方からわかるように、この方程式にtの二階微分があるのはニュートン力学の運動方程式にtの二階微分があること、つまり「力=(質量)×(加速度)」のように加速度(二階微分)があることを反映している。そして、xの二階微分があるのは、ここで働く力が「関数yの勾配を一定にしようとする力」であることを示している。このような力が働いていると「山」になっているところを下げ、「谷」になっているところをあげるように力が働く。

物理のいろんな局面において、このような形の復元力が現れる。それゆえ、物理のいろんな場面で波動が出現するのである。

学生の感想・コメントから

Nが大きくなっても解き方は同じだということがわかった。

ある程度やっていくと、パターンが見えてくるものです。

進むペースが速い。

ちょっと速いかもしれませんが、波動論なので、メインの部分はここからなのです。

波動も安定な方向に向かうんですね。

物理はたいていそうですね。

連続極限を取る計算が面倒だ。

あれは一回だけやっておけばいいので、ちょっと我慢してください。

二階微分の図を使っての考え方がわかりやすかった。

二階微分は物理のあちこちで現れますから、その意味をよくつかんでおいてください。

以前書いたタコマ橋の崩壊ですが、開通日じゃなくて数ヶ月後だそうです。ネットで映像をみましたがやっぱすごかったです。

私もテレビで見たことあるけど、確かにあれはすごい(怖い)ですね。

運動方程式を解く時の文字の置き換えは問題を多くこなすことで慣れていきますか?

少し問題をやっていけばできるようになりますよ。

変曲点はつりあいの位置になっていた。

そういうことになりますね。

N+1とNは(Nが大きいので)同じようなものだとしてN+1にしてましたが、Nにしてはだめですか?

どっちでも同じです。計算を通じて、ずっとNとN+1は同じだと考えればOKです。

「二階微分が正→上に凸」「二階微分が負→下に凸」のところは高校の数学でやったのですんなり納得できました。

高校数学も役に立ちますね。

x_n=\sum_{p=1}^{N}A_p \sqrt{2\over N+1}\sin {np\pi\over N+1}\sin\left(2\sqrt{k\over m}\sin{p\pi\over2(N+1)}t+\alpha_p\right)A_p\alpha_pは、pの値によって決まる定数ですか?

そうです。

海の波はモード∞個の連成振動と考えていいんですか?

そうです。海の波は3次元的に広がっている水分子の振動ということになりますが。

横波の場合も連成振動として解けますか?

もちろん。

計算ばかりで大変そうだった。

他人事じゃないですよ。

mN=Mで、mが1/∞、Nが∞と言ってましたが、∞/∞は不定形ではないんですか?

不定形ですから、「どのように∞の極限を取るか」によっていろんな値を取ります。今は極限の取り方をmN=Mになるように決めるというルールでやっているわけです。


*1 公式\sin\theta={e^{i\theta}-e^{-i\theta}\over 2i}を使った。
*2 分子間力は遠距離では引力だが、分子が近づくと逆に斥力になるという性質がある。つまりどこかに平衡点(ばねの自然長にあたる)があり、そこからずれると元に戻そうとする復元力として働く。厳密にはフックの法則には従わないが、近似すればF=-kxと書いていい。
*3 C_p=A_p \sqrt{2\over N+1}という式を見て、「N\to\inftyC_p\to0では?」と心配してはいけない。この時、分母のN+1が発散するが、同時に分子のA_pも発散して有限値になると考える。
*4 0番目とN+1番目のおもりは存在しない。ちょうど壁にくくりつけられて振動できない端に対応する。
*5 ここでは、微分はx+\Delta xとxの差、二階微分はxとx-\Delta xの差で定義していることになる。定義の仕方がちぐはぐに見えるかもしれない。しかし、最後には\Delta x\to0にするのだから、この定義の違いは結果的には何の影響も残さない。
*6 ここでNとN+1を同じと置いたことについて「これでいいのか?」と悩む人がよくいる。だが、Nは今アボガドロ数(6\times10^{23})程度の数になることを忘れてはいけない。

添付ファイル: filebibun.png 549件 [詳細] fileNbane3.png 575件 [詳細] fileNbane.png 560件 [詳細] fileheikinka.png 591件 [詳細] file3ring.png 543件 [詳細] filenikaibibun.png 543件 [詳細] filefukugen.png 504件 [詳細] filewaven2.png 491件 [詳細] filewaven3.png 561件 [詳細] filewaven1.png 610件 [詳細] filewaven4.png 479件 [詳細] filerenseiN.png 520件 [詳細] filebanebane.png 507件 [詳細] fileNbane2.png 561件 [詳細]

トップ   編集 凍結 差分 バックアップ 添付 複製 名前変更 リロード   新規 一覧 単語検索 最終更新   ヘルプ   最終更新のRSS
Last-modified: 2017-03-04 (土) 21:37:41 (591d)