力試しのチェックテスト

 まず力試しの試験をしました。

 皆さんの実力を測るためのテストですが、成績とは関係ありません。今後のこの授業をどのように進めていくかを決めるためのテストです。

問い1-1

 上の図は、床の上に乗った物体の上にさらにもう一つ物体が乗っているところである。物体および床に働く力を全て図に書き込め。

 書き込み終わったら、どの力とどの力が作用・反作用の関係にあるかを示せ。

 図は物体と物体、物体と床の間に隙間があるように描かれている。これは境界部分にどのように力が働いているのかがわかりやすくなるようにするためで、もちろん実際には物体どうしは密着している。そう考えて力の図を書くこと。

問い1-2

 以下の文章のうち、作用・反作用の法則の説明として正しいものに○、そうでないものに×を記し、どこが間違いかを述べよ。

(a)相撲取りと小学生が相撲を取っている。この時、相撲取りから小学生に及ぼされる力と、小学生から相撲取りに及ぼされる力を比べると、当然前者の方が大きい。


(b)人間が壁を殴る(これを作用とする)。すると壁は目に見えないほど小さくではあるがいったんへこみ、弾力で元に戻る。戻ってくる時に人間のこぶしにあたる。この時働く力が反作用である。


(c)作用・反作用の法則は物体がどんな運動をしていたとしても成り立つ法則である。

 解答および説明は次のページに
作用・反作用の法則

作用・反作用の法則

 チェックテストをやった目的は、「作用・反作用に関する誤解」の多くについて知っておいてほしかったから。これに正解した人も、「こういう間違いをやっちゃう人(児童生徒)がたくさんいる」ということは知っておいて損はないです(将来自分が教えるときのために)。

 まず問い1-2の(a)から行きましょう。

(a)相撲取りと小学生が相撲を取っている。この時、相撲取りから小学生に及ぼされる力と、小学生から相撲取りに及ぼされる力を比べると、当然前者の方が大きい。

 答えは×で「作用・反作用なのだから力は等しい」です。「相撲取りの方が強いに決っている」というのは素朴過ぎる考え方なので気をつけよう。

 ちなみに「相撲取りよりも強い小学生がいるかもしれないから、こう言い切ったら間違いだ」という理由で×にした人もいた。これは一本取られた、って感じだが、実は「相撲取りよりも強い小学生」がいたとしてもこの二つの力は等しいのである。

 作用・反作用の法則を書いておくと、

二つの物体A,Bがあり、AからBに力が働く時には、必ずBからAにも力が働いている。これらの力は互いに逆向きであって大きさは等しい。

である。したがって作用・反作用の法則からすれば「等しい」でなくてはいけない。

 次に

(b)人間が壁を殴る(これを作用とする)。すると壁は目に見えないほど小さくではあるがいったんへこみ、弾力で元に戻る。戻ってくる時に人間のこぶしにあたる。この時働く力が反作用である。

を考えよう。これも間違い。実は作用・反作用は「同時に」働く。だから「壁を殴った」ときの作用はその瞬間に反作用があり、「壁が戻ってくる時」にはその瞬間にまた別の作用・反作用ペアがある。

 最後の

(c)作用・反作用の法則は物体がどんな運動をしていたとしても成り立つ法則である。

は正しい。物理法則というのはいつでも成り立つようになっている。

 作用・反作用の法則が成り立つのはどうしてですか?
 うん、いい質問。中学生や高校生が当然持つ疑問でもあるよね。それは先人の物理学者が実験・観測してわかったことだから。自然を観察することで「こういう法則があるんじゃないの?」と気づいて、それが成り立っているかどうか、いろいろテストする。
 さっきの殴る話で言うと、殴ってないときは作用も反作用も0だから成り立っていないのでは?
 おお、面白い視点だけど、作用・反作用の法則は「同じ大きさ」と言っているから、それが0だと思えば「作用が0なら反作用も0」ってことで、作用・反作用の法則はちゃんとこの場合でも成り立ってます。

 この3問の正解率は4割〜6割。つまり半分ぐらいの人が間違えてしまっているので、「教える立場に立つ人」としてはちょっと問題。ただ、こういうのは「誤概念」という名前がついていて、うっかりすると間違えるパターンとして研究されている。つまりは「いかにも間違えやすい」ところを聞いているわけ。ただ、この授業を受けている人は教員を目指している人が大半なんだから、こういう「うっかりすると間違えるポイント」は前もって理解しておかないといけない。

 重力には反作用ってないんですか??
 これもいい質問だねぇ。そこで重力ってのは「何が何を引っ張る力」なのかを考えてみよう。
 地球が物体を引っ張る?
 そう。ではそれを作用としたときの反作用は「物体が地球を引っ張る」力ということになる。ただ地球はでかすぎてその力を受けただけでは感知できるほど動いたりしないから、その力は普段無視して考えている。
 物体の引力による地球の動きは感知できないのに、なぜあるって分かるんですか??
 この引力はいわゆる万有引力だけど、万有引力はいろんな物体でテストされている。後「地球」と「月」のような巨大な物体どうしの引力は、ちゃんと天体の動きで感知できる。いろんな物体で存在している(つまりはそれが「万有」なところ)のに、「地球と小さな物体」のときにはなくなる、ってのはむしろ筋が合わない、というわけで「ある」と思っているわけです。

力の絵

 問い1-1に戻ろう。いろいろ正しくない絵があったのだが、まず、

のように力が足りない例がたくさん見られた。

 図に書き込んだように「重力」「上の物体が下の物体から押される力(垂直抗力)」「下の物体が床から押される力(垂直抗力)」を書いたとすると、作用・反作用の法則(作用と反作用では「主語」と「目的語」が逆転する)からして「下の物体が上の物体から押される力」と「床が下の物体から押される力」が必要なのである。それも書くと

となる。これが正解(重力に反作用はないのか?って話は上にも書いた通り)。

 もう一つ多かった間違いは、

のように力の矢印の始まる位置がおかしいもの。矢印の根元の○の部分は「作用点」なので、これだと「上の物体が下の物体を引っ張る」という図になってしまっている。

 時間がなかったのでこの図の間違いについていちいち語れなかったが、「図を描く」というのは物理を理解するときにとても大事な作業なので、ここがちゃんとできてないようではいけない。

今日のまとめ

 今日は作用・反作用に関する「誤概念」をテストした。物理にはこういう「うっかりと勉強すると(あるいは先生がうっかりと教えると)」間違った概念が形成されてしまい、困ることになるポイントが多数存在する。教員志望の皆さんは前もってこういう誤概念を克服しておいて、児童生徒をこの誤概念に導いてしまわないように気をつけなくてはいけない。

 とはいえそれは難しいことではなくて、今日の話でいえば、要は「作用反作用の法則」の中身をちゃんと理解して、自信を持って教えることができる状態になっていればいいのである。

 心の中に「自分が教えることになる中学生」を思い浮かべてみてください。遠慮なく質問をぶつけてくる小生意気な奴がいいです。その子に自信を持って「それはこうだよ」と教えられるように、準備をしましょう。

 この授業ではしばらくは力学の範囲に関して概念を正しく理解して(生徒が間違った方向に進まないように教えて)いく方法を考えていきます。

チェックテスト 受講者の感想・コメント

受講者の感想・コメント

 青字は受講者からの声、赤字は前野よりの返答です。

 主なもの、代表的なもののみについて記し、回答しています。


誤概念の多さに自分自身驚きました。自分が納得できないと教えられない、怖いと思いました。思考を変えていきたいです。
授業でも言いましたが、自分の心の中に「質問してくる中学生」を置いて、思考実験しながら勉強してみてください。

ただ聞くだけじゃなく、質問や会話をしながらの授業だったので、聞きやすいしわかりやすかった。塾で生徒に教えるときの参考になります。
塾で教えるときも、今日話した点に限らず、いろいろ注意しながらやってみてください。

中学・高校で習った作用・反作用について理解がほとんどできていなかったことにショックだったけど、やる気でてきた。
今から克服していきましょう。

他の概論とは違い、教師になるための授業という感じがした。
教員になったときに役立ってくれればいいなと思ってます。

性格が大雑把なので物理は細かく、向いてないなと感じた。
教える側は教わる側より細かいところに気をつけていかないと。

帰ってから復習しようと思った。
しましょう、ぜひぜひ。

物理の法則の理屈を覚えてないと、意見を持てないなと思いました。
覚えるというよりは、その理屈の概念を身につけてください。

人に教えるには、多くのことを知り、それらをきちんと理解すべきだと思う。物理だけではなく、他の教科も本当に理解できているのか確かめる。
それは是非やりましょう。頭の中に中学生を置いて「この子に教えるには?」と考えていくといいかも。

去年の與儀先生の「人間と物理学」で前野先生のレントゲン写真(頭部の断面図)を見ました。可視光線よりも先にX線で見た人物は私の人生でも初めてだと思います。
それはそれは。でもあれX線じゃなくて、MRI画像ですよ(^_^;)。

初めて物理学概論を受け持ったとは思えない語りっぷりで正直すごいと思いました。
物理学概論は初めてでも、物理を教えてなら30年はやっているからねぇ。

重力に作用・反作用の法則が成り立つことがわかってなかった。
作用・反作用の法則には例外はないです(あえていえば、遠心力と慣性力が例外だけど、あれは見かけの力)。

なんで作用反作用のような法則があるのかという質問で「先人たちが自然の観察と実験からそれを定義した」という説明で納得しようとしましたが、できませんでした。「自然の法則が元からあって」という先生の説明で、あ〜〜となりました。
先人が自然を実験・観察することで法則をそこから掘り出した、って感じですかね。

質問することの大切さを知ることができ、これからの講義を受けていくやる気へとつながったので、とても良い90分になった。
今後の授業でもどんどん質問してね。

問題の答えも反論も思い浮かばず、無知を痛感しました。中高の物理から勉強してきます。
勉強しましょう。そして議論する力をつけましょう。

最初は死ぬほど怖かったのが、終わる頃には少し怖いくらいになりました。
怖くないよ〜〜〜〜(^o^)。

重力と垂直抗力が作用・反作用の関係だとずっと思ってました。
その二つは因果関係はあるけど、「作用・反作用」ではないですね。

授業の内容