こちらで考えていた解答は以下のとおりである。
半分以上の人は正解していたが、2種類以上と書いているのに1種類しか説明してない者、および2種類書いてあるように見えて実のところ同じ内容を繰り返しているだけのものもいた。
「教員になろう」と思っているからには一つの現象について可能ならいろんな方向から説明できるようであって欲しい。
誤答例をあげる。
↑このような「まったく説明してない」説明があった。将来先生になったとき、生徒に対する説明でこんなので済ませるつもりですか?(それは生徒も困ってしまうだろう)。
↑「できる」じゃなくてどうやったらできるか説明しよう。
↑意味不明である。そもそも「磁束が下向きに働く」と言われても磁束は働くものではない(力なら働いてもいいが)。こういう、用語の使い方がデタラメな答案もみられたが、「人に説明する」ときには明瞭で正しい言葉を使おう。
↑これは物理的にも全く間違っている。
全体に文章がわかりにくい答案が多かった。「説明しようという気がないんじゃないのか」と思えるような。
続いて、もう一つの問題。
こちらで考えていた解答は以下の通り。
答えだけ書いているのがいたが、「高校生がどこで誤解するか、そして誤解を防ぐためにどうするか」という部分も含めての問題である。それを書いてない人は減点した。
誤答例をあげる。
↑まさに気をつけてほしかった「高校生が誤解しそうなこと」を誤解したまんまの人。実は電位の話をしたときに、電池の中では電位が低い方から電位が高い方に電流が流れているから注意しよう、ということを授業でやったのであるが。
↑残念ながら今は抵抗(電球)が磁場の変化ともコイルの運動とも関係ない部分にあって、そこで電流がB→Aに流れているのだから、この説明では説明にならないし、物理的におかしい。
↑これもデタラメで、導線は一本だからどこでも電流は同じ。子供が疑問を覚えるポイントだからちゃんと理解しておこうね、と話したはずなのに、その誤解のままの人がいる。
動く導線(コイル)が電池の役割をしているということをちゃんと考えよう。そこが理解できていないと駄目なのである。
電位の定義を思い出しておこう。
まだこれがさっと出てこないようでは困るぞ。
電圧は「電位差」つまり「電位の差」であり「AB間の電圧」といえば「点Aの電位」と「点Bの電位」の差である(どっちからどっちを引くかは定義による)。
エネルギーの差が仕事であったことと上の定義をまとめると、
ということになる。つまり「電圧は単位試験電荷に対してされる仕事」である。
次に「起電力」とはなにか。
起電力は「力」とついているが「力」ではなく、「電位差(電圧)を作り出す能力」という意味であり、起電力を測る時は単位はボルトである(作り出せた電圧の値そのものが起電力の値)。
電池は、陰極から陽極へと正電荷を送り込む(または、陽極から陰極へと負電荷を送り込む)能力がある(図では赤い人で示した)。その能力は化学反応で得られているので、中の物質の化学反応が終わってしまうと電池の起電力もなくなる。結果としてできる電位差が$V$ボルトであれば、「この電池は起電力$V$ボルトである」と言う。
別の言い方をすれば、起電力とはその回路の中を単位試験電荷が一周する間に電池が電荷にする仕事である(つまりそれだけ電荷にエネルギーが入ってくる)。
だから、図に示したように、電池の中では正電荷は「電位の低い方から高い方へ」と進む。抵抗(電球)の場所では「電位の高い方から低い方へ」である。
ここまで来ると、先週のショートレポートのどっちの電位が高いか、の問題の意味もわかってくるはず。あれも、コイルの部分が電池であり、磁場からの力が起電力になっている(こっちでは磁場が赤い人の役割をしているのである)。
では、電磁誘導とエネルギーがからむ、定番の問題を解いてみよう。
Q1:この回路に発生する起電力はどれだけか?
複数の出し方がある。一つは磁束の時間変化${\mathrm d\Phi\over\mathrm dt}$で磁束密度Bが一定だから$S$の単位時間あたりの増加$\ell v$を掛けて、$V=B\ell v$。
もう一つは、先に説明したように「起電力」は「単位電荷が回路を一周するあいだにされる仕事」であり、このとき運動する導体棒の中にいる単位電荷に働く力は(ローレンツ力の式$f=qvB$より)$vB$である。仕事にするには距離を掛けて、$vB\ell$。
そのまんま$V=B\ell v$を「公式」として覚えている人もいるかもしれないが、こういうバックグラウンドは大事。
Q2:抵抗で発生する単位時間あたりのジュール熱は?
起電力$V=B\ell v$から電流$I={B\ell v\over R}$が求まり、これを掛算して$Q={B^2\ell^2 v^2\over R}$。なお、$IV$で単位時間あたりのジュール熱になるのも、やはりエネルギーの関係からわかる。
Q3:棒が等速運動しているとする。このジュール熱の分、何がエネルギーの損失しているか?
エネルギーの減っているところを考えてみよう。
運動エネルギーを考えた人が多かったが、等速運動しているのだから運動エネルギーは減っていない(増えてもいない)。
ここで減っているのは、質量$m$のおもりの位置エネルギーで、単位時間あたり$mgv$ずつ減っている。よって、 $$ mgv={B^2\ell^2v^2\over R} $$ という式が出る。これを整理すると($I={B\ell v\over R}$も使って) $$ mg={BI\ell} $$ という式になる。これは棒に働く二つの力(重力と磁場による力)が釣り合っているという式。
つりあっているならなんで動くんですか?
最初からずっとつりあったわけじゃない。棒が止まっている状態ではもちろんつりあってない(そのときは力は$mg$しかないからね)。で動き出すと$B\ell v$の力も出てきて、ある速度になると等速運動になる。最初どうだったかと考えると、今動いている理由もわかる。
こういうふうに考えていくと、一つの現象の中で電磁気学、電気回路、エネルギー保存につりあいと、いろんなことが入っていて、しかも絡み合っている。問題の解き方も一つではない。物理現象を考えたり教えたりするときは、そこを整理して考えて伝えていくことが大事。何度も言っているけど、「このときはこの公式」みたいな各個撃破をやっていると、ちっとも物理が面白くならない。
青字は受講者からの声、赤字は前野よりの返答です。
主なもの、代表的なもののみについて記し、回答しています。