先週のショートレポート

 先週は最後に課したショートレポート問題の解答から。

 こちらで考えていた解答は以下のとおりである。

  1. 磁石のS極はこの場所に上向きの磁束を作っている。コイルが近づくとコイルを通る磁束が増えるから、これを減らそうと、コイルには「下向きの磁束を作る電流」が流れるはずである。よって(イ)の向き。

  2. コイルが接近するのを防ごうとするから、コイルは「上がS、下がN」の磁石となるはず。ということは電流は(イ)の向きに流れる。

  3. コイルの中にある正電荷を考えると、斜めを向いた磁力線中に上向きに運動するから、図に示したような力を受け動き出す。電流は(イ)の向きに流れるだろう(負電荷を考えてると運動方向は逆だが、流れる電流の向きはやはり(イ)になる)。

 半分以上の人は正解していたが、2種類以上と書いているのに1種類しか説明してない者、および2種類書いてあるように見えて実のところ同じ内容を繰り返しているだけのものもいた。

「教員になろう」と思っているからには一つの現象について可能ならいろんな方向から説明できるようであって欲しい。

 誤答例をあげる。

右ねじの法則から(イ)の向きとなる。
左手の法則から(イ)の向きとなる。

↑このような「まったく説明してない」説明があった。将来先生になったとき、生徒に対する説明でこんなので済ませるつもりですか?(それは生徒も困ってしまうだろう)。

右ねじの法則で求めることができる。

↑「できる」じゃなくてどうやったらできるか説明しよう。

電流の磁場による力は上向きに働き、磁束は下向きに働く、そして磁束場も上向きに働く。

↑意味不明である。そもそも「磁束が下向きに働く」と言われても磁束は働くものではない(力なら働いてもいいが)。こういう、用語の使い方がデタラメな答案もみられたが、「人に説明する」ときには明瞭で正しい言葉を使おう。

電流は磁力線の向きに流れるから。

↑これは物理的にも全く間違っている。

 全体に文章がわかりにくい答案が多かった。「説明しようという気がないんじゃないのか」と思えるような。

 続いて、もう一つの問題。

 こちらで考えていた解答は以下の通り。

 前問で(イ)の方向、つまり時計回りの電流が流れていることがわかった。コイルの中で見るとこれは端子A→端子Bの方向である。高校生は「A→Bと電流が流れているからAの方が電位が高い」と誤解しやすい。しかし、これにつけられた抵抗(電球)の方を見ると端子B→端子Aへと電流が流れている。コイルが起電力を作っているのだから、コイルは「電池」とみなすべきである。よって端子Bが電池の+極と考えるので、電位はBの方が高い。

 答えだけ書いているのがいたが、「高校生がどこで誤解するか、そして誤解を防ぐためにどうするか」という部分も含めての問題である。それを書いてない人は減点した。

 誤答例をあげる。

 電流はA→Bと流れているからAの方が電位が高い。

↑まさに気をつけてほしかった「高校生が誤解しそうなこと」を誤解したまんまの人。実は電位の話をしたときに、電池の中では電位が低い方から電位が高い方に電流が流れているから注意しよう、ということを授業でやったのであるが。

 磁場の変化によって電流が流れるので、電位は等しい。

↑残念ながら今は抵抗(電球)が磁場の変化ともコイルの運動とも関係ない部分にあって、そこで電流がB→Aに流れているのだから、この説明では説明にならないし、物理的におかしい。

 端子Aと端子Bでは違う電流が流れる。

↑これもデタラメで、導線は一本だからどこでも電流は同じ。子供が疑問を覚えるポイントだからちゃんと理解しておこうね、と話したはずなのに、その誤解のままの人がいる。

 動く導線(コイル)が電池の役割をしているということをちゃんと考えよう。そこが理解できていないと駄目なのである。


 もちろん、ちゃんと書けている(説明もちゃんとできている)人もたくさんいた。ただ「まだまだ理科の教員になるに十分な理解ができてない人」も残念ながらいる。がんばってください。
電圧と起電力

電圧と起電力

 電位の定義を思い出しておこう。

 単位試験電荷が持つ位置エネルギーを電位とする。
平たくいえば「ここに1Cの電荷があったと仮定したら、それの持っている静電気力の位置エネルギーが電位$V$である」ということ。

 まだこれがさっと出てこないようでは困るぞ。

 電圧は「電位差」つまり「電位の差」であり「AB間の電圧」といえば「点Aの電位」と「点Bの電位」の差である(どっちからどっちを引くかは定義による)。

 エネルギーの差が仕事であったことと上の定義をまとめると、

 AB間の電位差が$V$だとすると、点Aから点Bまで$q$Cの電荷を運べば、その間に静電気力が$qV$の仕事をする。

 ということになる。つまり「電圧は単位試験電荷に対してされる仕事」である。

 次に「起電力」とはなにか。

 起電力は「力」とついているが「力」ではなく、「電位差(電圧)を作り出す能力」という意味であり、起電力を測る時は単位はボルトである(作り出せた電圧の値そのものが起電力の値)。

 電池は、陰極から陽極へと正電荷を送り込む(または、陽極から陰極へと負電荷を送り込む)能力がある(図では赤い人で示した)。その能力は化学反応で得られているので、中の物質の化学反応が終わってしまうと電池の起電力もなくなる。結果としてできる電位差が$V$ボルトであれば、「この電池は起電力$V$ボルトである」と言う。

 別の言い方をすれば、起電力とはその回路の中を単位試験電荷が一周する間に電池が電荷にする仕事である(つまりそれだけ電荷にエネルギーが入ってくる)。

 だから、図に示したように、電池の中では正電荷は「電位の低い方から高い方へ」と進む。抵抗(電球)の場所では「電位の高い方から低い方へ」である。

 ここまで来ると、先週のショートレポートのどっちの電位が高いか、の問題の意味もわかってくるはず。あれも、コイルの部分が電池であり、磁場からの力が起電力になっている(こっちでは磁場が赤い人の役割をしているのである)。

 では、電磁誘導とエネルギーがからむ、定番の問題を解いてみよう。

Q1:この回路に発生する起電力はどれだけか?

 複数の出し方がある。一つは磁束の時間変化${\mathrm d\Phi\over\mathrm dt}$で磁束密度Bが一定だから$S$の単位時間あたりの増加$\ell v$を掛けて、$V=B\ell v$。

 もう一つは、先に説明したように「起電力」は「単位電荷が回路を一周するあいだにされる仕事」であり、このとき運動する導体棒の中にいる単位電荷に働く力は(ローレンツ力の式$f=qvB$より)$vB$である。仕事にするには距離を掛けて、$vB\ell$。

 そのまんま$V=B\ell v$を「公式」として覚えている人もいるかもしれないが、こういうバックグラウンドは大事。

Q2:抵抗で発生する単位時間あたりのジュール熱は?

 起電力$V=B\ell v$から電流$I={B\ell v\over R}$が求まり、これを掛算して$Q={B^2\ell^2 v^2\over R}$。なお、$IV$で単位時間あたりのジュール熱になるのも、やはりエネルギーの関係からわかる。

Q3:棒が等速運動しているとする。このジュール熱の分、何がエネルギーの損失しているか?

 エネルギーの減っているところを考えてみよう。

 運動エネルギーを考えた人が多かったが、等速運動しているのだから運動エネルギーは減っていない(増えてもいない)。

 ここで減っているのは、質量$m$のおもりの位置エネルギーで、単位時間あたり$mgv$ずつ減っている。よって、 $$ mgv={B^2\ell^2v^2\over R} $$ という式が出る。これを整理すると($I={B\ell v\over R}$も使って) $$ mg={BI\ell} $$ という式になる。これは棒に働く二つの力(重力と磁場による力)が釣り合っているという式。

 つりあっているならなんで動くんですか?

 最初からずっとつりあったわけじゃない。棒が止まっている状態ではもちろんつりあってない(そのときは力は$mg$しかないからね)。で動き出すと$B\ell v$の力も出てきて、ある速度になると等速運動になる。最初どうだったかと考えると、今動いている理由もわかる。

 こういうふうに考えていくと、一つの現象の中で電磁気学、電気回路、エネルギー保存につりあいと、いろんなことが入っていて、しかも絡み合っている。問題の解き方も一つではない。物理現象を考えたり教えたりするときは、そこを整理して考えて伝えていくことが大事。何度も言っているけど、「このときはこの公式」みたいな各個撃破をやっていると、ちっとも物理が面白くならない。

 ショートレポートのできがあまりよくないので、シラバスでは(試験60点+ショートレポートの平均40点)で成績判定すると言ってましたが、
  • 試験60点+ショートレポートの平均40点
  • 試験100点

のどちらか、高い方の点数で判定することにします。ショートレポートが悪かった人は、試験の方で取り返せるように頑張ってください。
先週のショートレポート 受講者の感想・コメント

受講者の感想・コメント

 青字は受講者からの声、赤字は前野よりの返答です。

 主なもの、代表的なもののみについて記し、回答しています。


高校のときめっちゃ苦手で暗記ゲーだったのでより理解が深まりました。
暗記ゲーにしてはいけないものなので、じっくり理解していこう。

理解はできるが、説明しろと言われるとまだ自信がないので、しっかり復習していきます。
説明を考え工夫していくことで、より理解が深まります。

電位がどっちが高いかという問題で高校生がよくやる間違いをしてしまった。
今度こそやらないようにしよう。

電磁誘導の電流の向きを求める3つの方法があったけど、1つ目しかイメージできなかった。
できるかぎりいろんな方向から考えていけるようにしましょう。

問題を解くうえで、困ったときは定義を考えることが大事だとわかったので、物理現象の定義をいつでも頭から引っ張ってこれるようにする。
定義は抑えてないと、話が始まらないす。

位置エネルギーなど力学の話が関わってきて、関係は深いと感じた。
力学はすべての物理に関わってきます。

中学レベルの知識があいまいで自信がなく、なにか特別な力が働いてるのではないかと考えて視野が狭くなってしまった。知識、定義をしっかり身につけて、自信を持ってこたえたい。
自信もって筋道を立てて考えていきましょう。

いろいろな知識が繋がり合っていてどれがどのときに必要で引っ張り出さないといけないか、まだまだわからずたいへんでした。
そこをうまくつなげておかないと、使える知識になってない、ということになります。

電圧と起電力