作用・反作用の法則のまとめ

 前回話題にした作用・反作用の法則についてもう一度まとめる。作用・反作用の法則は

 二つの物体A,Bがあり、AからBに力が働く時には、必ずBからAにも力が働いている。この力は作用点を結ぶ直線の方向にそって働き、互いに逆向きであって大きさは等しい。

である(前回は「作用点を結ぶ直線の方向にそって」の部分は省略して話したが、これも大事なポイントではある)。

 間違えやすいので押さえておきたい作用・反作用の法則の性質としては、

同時性

 作用・反作用は常に同時に働く。作用が起きて、それによって反作用が生じて、、、というような「時間差」はない。

因果関係ではない

 作用が原因、反作用が結果、というような関係もない。二つの力のペアをどちらを「作用」と呼びどちらを「反作用」と呼ぶかは状況次第。

 さて、もう一つの大事なポイントを確認するために、質問しよう。

 作用・反作用の方則は、何かの原理などから導かれる法則だろうか??
 解答および説明は次のページに
作用・反作用の法則

作用・反作用の法則続き

  • 実験や観察から
  • 昔からの考察の結果

などの答えが出た。もちろんその通りなのだが、まず押さえておいて欲しいのは

 何かから導くことはできない。これが原理である。

ということになる。

 力学では運動の三法則があり、それは

  1. 慣性の法則
  2. 運動の法則(運動方程式)
  3. 作用・反作用の法則

である。力学の他の全ての法則はこの三つから出る。

 少なくとも高校物理までの物理学では上の三つは「力学の原理」であって証明できない(証明不要)。

 では「原理だから」で教えられた方が納得できるかというと、そうはいかないだろう。

 上の運動の三法則にしろその他の自然の原理にせよ、自然を観察した結果として見つかったものであるから「これが成り立っていないと困るでしょ」という事例を沢山あげることができる。

 作用・反作用の法則が成り立っていることに関連する現象として、以下の図のようなものを考えよう。

 右に走っている電車を「俺がこの電車を停めてやるっ!」と叫んでいるこの人が中から左に押すことで止めようとしている。この企てはいかにも失敗しそうだが、なぜだろう??
 そのことを図解する絵を描いて、中学生が納得するように「この人はなぜ電車を止められないのか」を説明せよ。
作用・反作用の法則まとめ 電車の問題の答え

電車の問題の答え

 しばらくそれぞれに絵を描いてもらい、互いに相談していいのでいろいろ考えてもらった。

 作用・反作用の法則から、「人が電車を押す力」があれば「電車が人を押す力」がある。というわけで、

というところまで絵を描いて止まってしまう人が多かったので、ヒントを小出しにした。

 このままだと、電車には左向きの力しか働いてないから、速度は遅くなって、やがて止まる。一方人間には右向き力しか働いていないから、このままだと右に加速する。それはおかしい・・・と考えて欲しい。

というと、↓のような絵を描いていた人がいた。

 この新しく描いた力(人間に働く左向きの力)は何??
 慣性力です。
 電車は等速運動しているんだから、慣性力はおかしいなぁ。

 この他にも「慣性の力」とか謎の力を加えている人が結構いた。

 考えるべきは実在の力だよ。実際に自分が壁を押しているときに、どうやって押すかを考えてみて。相談しながらでいいから。

と言ってしばらく放置すると、だんだん

という絵が現れ始めた。

 新しく現れた二つの力は、「人間の足が電車の床に及ぼす(蹴る)力」と「電車の床が人間の足に及ぼす力」である。「人が電車を押す力」と「電車が人を押す力」は作用反作用だから等しい。また、「人間の足が電車の床に及ぼす力」と「電車の床が人間の足に及ぼす力」も作用反作用で等しい。人間が電車内で動かないことから、「電車が人を押す力」と「電車の床が人間の足に及ぼす力」はつりあっている(大きさが等しい)。よってこれら四つの力は、全部大きさが等しい。

 ということは、電車に働く二つの力も大きさが等しく逆向きなので、電車には力が働かないことになる。よってこんなことをしても電車の速度を変えることはできない。

 じゃあ、電車の中で人が浮いていて、足が離れていたらどうなりますか?
 うん、いい質問。っていうか、中学生あたりにこの話をすると必ず出る質問がそれです。この授業は教員用の授業で、教員は生徒がどんな疑問を持つかを知ってなきゃいけないから、こういう質問を思いつくのは大事だね。

 この場合、もちろんこうなる。

 電車は遅くなり、その替り人間は右向きに加速する。結果、

のように電車の前の壁にぶつかる。ぶつかったときに再び電車は加速し、人間は電車内で静止する。つまり、結局この人間が空中にいる間だけ電車は遅くなることになる。

 それを何回も繰り返せばなんとかなりませんか。
 衝突でまた元の速度に戻っちゃうから、元に戻るのを何回も繰り返すだけだね。

 人間と電車を「ひとまとめの物体」と考えたとき、人間と電車の間に働く力は「内力」になって、内力は(作用・反作用の法則のペアなので)足し算すると必ず消し合う。というわけで内力を使ったのでは決してこの「ひとまとめの物体」を加速することも減速することもできない。

 バケツに水を入れて振り回してもこぼれないのは「内力」で消し合うからですか?
 それはちょっと違う話。でも慣性の法則には関係がある。というのは慣性の法則によれば運動している物体は「直線運動」を続けたがる。ところが振り回されたバケツは直線でなく円運動するから、バケツの中の水はまっすぐ行きたいのに(バケツのせいで)強制的に円運動させられる。これが水をバケツの底に「押し付ける」ことになるわけ。

 では、電車が加速・減速するときはどうなっているのかというと、レールを通じて「地球」が逆向きに加速している(地球は質量が大きいので見た目はわからないけど)。

 左へ進む電車と右へ進む電車が同時に動き出したときは、地球は動きませんか?
 そのときは動かないね。実際に地球上で起こっている運動もだいたい消し合っていると思っていい。
作用・反作用の法則続き 電車の中のジャンプ

電車の中のジャンプ

 電車の問題をもう一つ。

 走っている電車の中で飛びあがった時、どうして飛び上がったその、同じ地点におりてくるのですか?

 これの答えを以下のアニメーションを見ながら説明しました。

 電車の中の物体が慣性の法則に従って右向きの運動を続けることが大事です。

 慣性の法則を見つけたのはガリレオですが、彼が慣性の法則を唱えたのには理由があります。コペルニクスやガリレオなど、中世において地動説(太陽が止まっていて地球が動いている)を唱えた人が多く投げかけれられる疑問が

地球が動いているというのなら、我々は振り落とされてしまうはずだ。

というものだったからです。

 慣性の法則があるから、我々は秒速30キロというすごいスピードで太陽の周りを回っている地球の上から「振り落とされる」ことがないわけです。このあたりは次回、運動の法則についても考えながら話していきましょう。

電車の問題の答え 受講者の感想・コメント

受講者の感想・コメント

 青字は受講者からの声、赤字は前野よりの返答です。

 主なもの、代表的なもののみについて記し、回答しています。


なぜ電車の中の人は電車を止められないのかという質問は、なかなか明快に説明するのが難しかった。実際に押している人の気持になって、働いている力を全て見ることが大切だと思った。
そうなんです。「実際にその立場になって」考えることが大事です。

電車の問題は難しかったけど、周りの人と相談して考えるのは面白かったです。
相談しながら、自分の理解を深めてくださいね。

難しく考えすぎてわからなくなってしまった。
物理法則を一個一個確認しつつ使っていきましょう。

試験の問題は解けていてだけで、概念の方はほとんど理解してなかったようです。勉強し直します。
そうしましょう。いつか、教えるときのために。

最後までできなかったけど、足の踏ん張る力に気づいたときは興奮しました。
「わかった!」瞬間って面白いですよね。

様々な疑問が周りから出て、色々と考えさせられたのは、非常に楽しかったです。
疑問をどんどん出していきましょうね。

電車の話、身近なところでもよく考えたら説明できないことがたくさんあるなと感じた。
そこはうまく説明できるように、普段から考えていこう。

物理学概論はゴリゴリの計算と思っていたが、概念を改めることができてとても楽しい。今後もこのような形式でお願いします。
物理で一番大事なのは概念を得ることなので、この感じで行きたいと思います。

自分自身の物理の知識の無さに悲しくなりました。自分のどこか苦手意識からか、好奇心が少ないのかもしれません。頑張って行きたいと思います。
何事も好奇心を持って「知ろう」としていかないと面白くなりませんからね。頑張ってください。

小中学生の素朴な疑問に答えるのは学校のテストの問題を解くことよりも難しいと感じた。
でも教える立場に立つ人に必要なのは、そこですよ。

壁を押すとき、あるきだす時など、いろんなところでどこに力を入れているかを考えながら今日の復習をしようと思う。
いいですね。物理の勉強はどこでもできる。

教科書では作用・反作用の法則は三行しか書かれていないけど、想像以上に生活に密接していて奥が深いと思った。
深いというか、ありとあらゆることに関係しているのです。

電車の中のジャンプ