今日のチェックテスト

 皆さんの実力を測るためのテストですが、この問題の結果と成績とは関係ありません。

【問い3-1】 以下の文章中の選択肢のうち、正しいものを選べ。

  1. 作用反作用の法則は
    (a) 他の法則からは証明できない「原理」である。
    (b) これまでの実験と観測から成立していると期待される「経験則」である。
    (c) 力学の原理から証明できる「定理」である。
  2. 力学的エネルギー保存則は
    (a) 他の法則からは証明できない「原理」である。
    (b) これまでの実験と観測から成立していると期待される「経験則」である。
    (c) 力学の原理から証明できる「定理」である。
  3. 運動量保存則は
    (a) 他の法則からは証明できない「原理」である。
    (b) これまでの実験と観測から成立していると期待される「経験則」である。
    (c) 力学の原理から証明できる「定理」である。


【問い3-2】あなたの家族が「エネルギー保存則を破る永久機関」を買おうとしています。どう対応しますか??


【問い3-3】以下の文章は正しく「物理用語としての『エネルギー』」を表現しているか、論じよ。

  1. 一晩よく眠ればエネルギーは回復する。
  2. あなたの言葉には私を勇気づけるエネルギーがある。
  3. 相対性理論によれば、エネルギーは物質に転換される。

チェックテストの答

チェックテストの答

【問い3-1】正解は、作用反作用については(a)または(b)(実はこの二つはきれいにどちら、と判断できるものではない)。他の二つの保存則については(c)である。

 だいたいの人は正解していたが、3割ぐらいずつ間違った方を選んでいる人もいた。

【問い3-2】これは別に正解と呼べる物はない。どんな反応が返ってくるかをみたかっただけ。反応としては「とめます」というのが多かったが、「どうやって止めるか?」という部分も考えると(非常に難しいので)面白いと思う。

 特に単に「エネルギー保存則があるから」というだけの説得は、まず効かない。「おまえは教科書を信じているが、教科書が正しいとは限らんぞ。科学者は頭が固いなぁ」とか言われてしまう。そう言われたりしないような説得力を身につけて欲しい(つまり、あなたたち自身が「教科書に書いてあったから」というレベルでしかエネルギー保存則を理解してなかったら、まず説得なんて不可能なのだ)。

【問い3-3】1.については「エネルギーというのは自然に回復するような量ではない」という点が指摘できていればよい。2.についても同様。

 ここまでを回答したところで、

 そもそもエネルギーってどういうもの?

と聞いてみた。

  • 物体の状態を変えるもの
  • 物体を変化を起こさせる概念
  • 物体を動かす力
  • 仕事をする能力

 「概念」など、抽象的な答えが多いのはちょっと困る。それに「力」と「エネルギー」は明確に区別できる量である。

 また、「熱」という答えがあったが、当然熱とエネルギーは全く別(このあたりは熱力学についての授業でまたやろう)。

 理科の教科書的なエネルギーの説明は「仕事に変わることのできる物理量」である。あるいはもっと明確に述べるなら「仕事をするとその分だけ減り、仕事をされるとその分増えるような物理量」ということになる。これなら「仕事」が計算できれば計算できる。

 と、このように仕事が「物質(物体)の状態に応じて決まる物理量」であるという定義を考えると、問題の3.の文章「相対性理論によれば、エネルギーは物質に転換される。」は物理的によくない文章であることがわかる。エネルギーは物質もしくは物体の持っている属性であり、物体なしにエネルギーがあるなんてことはないのだから、「エネルギーが物質に」という転換は起こらない(実際に相対論で起こるこれに似たことは「光が質量を持った物質に変わる」であり、そのときにエネルギーはもちろん保存している。

 そもそもエネルギーはどのように定義される量であるか、という部分が曖昧だとこのあたりを間違えてしまう。そこで、今日の授業の残りではエネルギーの定義を厳密にした。

今日のチェックテスト エネルギーの導出

エネルギーの導出

 エネルギーは仕事によって定義されるので、まず仕事を定義する。中学理科の範囲でなら、


(仕事)=(力)×(力の方向への移動距離)


である。大学物理なら、 $$ W=\vec F\cdot \mathrm d\vec x $$ と書きたい(移動は微小変位ベクトル$\mathrm E\vec x$で表現したいし、単なる掛算ではなく$\vec F$というベクトルとの内積で定義したい)。

 このように定義した仕事が「エネルギーの変化」に等しくなるのは、そうなるようにエネルギーを定義するからである。

 その計算の前に、なぜここで「仕事」を持ち出すのか?を考えて欲しい。例えば『力』で同様のことをしてはいけないのか?(ちなみに力を使って同様のことを行なうと、また別の保存量が出るが、それはまた違う状況を考えることになる)。

 それは実は小学校の理科で習った「道具を使うと力は増幅できる」ということに関係している。

 力を増幅する例は上の図(シーソーだったり動滑車だったり)である。しかし、どちらの場合も力は増やせても、仕事は増やせない。

 昔の物理学者たちは、道具を使って仕事を増やすことを期待した(究極の願望が、エネルギー源なしに仕事をし続ける機械である永久機関である)。

 永久機関が動かないのは、仕事は機械では増やせず、さらに「仕事をするとその分だけ減少する物理量」であるエネルギーが定義できるからである(仕事をするとエネルギーが減るのだから、エネルギーがこれ以上減らせなくなるともう仕事はできない)。

 もっとも簡単な、今考えている力$\vec F$以外には何の力も(重力も空気抵抗も)働いてない場合で仕事によって増える量を計算してみよう。大学物理のレベルなら、 $$ W=\vec F\cdot \mathrm d\vec x $$ に運動方程式$\vec F=m{\mathrm d\vec v\over\mathrm dt}$を代入して、 $$ \begin{array}{rl} W=&m{\mathrm d\vec v\over\mathrm dt}\cdot \mathrm d\vec x\\ =&m\mathrm d\vec v\cdot \underbrace{{\mathrm d\vec x\over\mathrm dt}}_{\vec v} \end{array} $$ と計算すると、この式の右辺が${1\over2}m|\vec v|^2$の微分であることがわかる。つまり$W$は運動エネルギー${1\over2}m|\vec v|^2$の変化に等しい(というより、そうなるように定義された物理量が運動エネルギーなのだ)。

 大学生だからこれぐらいは平気でわかってほしいのだが、微分や積分が出て来るとやっぱり怯む人が多いようである。

 なお高校物理の範囲で説明するなら、等加速度運動の公式 $$ v^2 -(v_0)^2 = 2a\Delta x $$ の両辺に${1\over2}m$を掛けて $$ {1\over2}mv^2 -{1\over2}m(v_0)^2 = \underbrace{ma}_F\Delta x $$ とすれば、やはり運動エネルギーの変化が仕事に等しいとわかる。

 大事なことは、エネルギーというのは人間が物理現象を記述するためにある意味「発明」したものであって、それが保存するのはむしろ「保存するような量を探して、そうなるように仕事やエネルギーの定義を作ったから」とも言える。

 くどいようだがこの授業は将来理科教員になる人のためのものである。「エネルギー」や「仕事」がどのようなモチベーションを持って「発明」され、どのような理屈でその保存則が成り立っているか、概念的なものは「教える側」の人の頭の中には入れておいて欲しい。
前回のショートレポートの振り返り 受講者の感想・コメント

受講者の感想・コメント

 青字は受講者からの声、赤字は前野よりの返答です。

 主なもの、代表的なもののみについて記し、回答しています。


チェックテストの最後の問題は相対性理論と書いてあったので、物理っぽいから正しいと書いてしまった。
言葉に騙されてはいかんなぁ。

「教科書を信じるのか」と言われるとつらいなと思った。そして、その教科書すら知らないのはもっとまずいなと思った。
自分の中に「教科書に書いてあるから」で終わらないだけの理解を作りましょう。

理解することより理解させることの方が何倍も難しいことに気づいた。
その通りです。だから「教える側」に立つのは難しいし、怖い(でもだからこそ面白いこともある)。

エネルギーについて、何となくの説明しかできなかった。
「何となく」の説明だと、聞いている方(生徒)には全く伝わらないのです。

エネルギーは最初熱みたいなものだと思っていたので、仕事に変化する物理量として説明できるのに感心した。
熱はむしろ、仕事の方に近いです。

アインシュタインの相対性理論だとエネルギーから物質が作れるということなりませんか?
「なりません」ということを授業中にも説明しました(だからできたら授業中に質問してください)。エネルギーは物質の状態の属性です(たとば身長が人間の属性であるように)。「エネルギーをもったある物質」から「同じエネルギーをもった別の物質」を作ることはできます(原理的には)。たとえば「光」という「物質のある形態」から「電子と陽電子」のような「物質のある形態」へと変化させることはできますが、この場合でもエネルギーは何かに変化しているわけでもなんでもないです。「エネルギーから物質が作れる」という言い方をする人は、「エネルギー」という言葉の意味がわかっていません。

「エネルギー保存を永久破壊する機械」という言葉の意味がわからないので教えて欲しい。
まず、質問は授業中にしましょう。「永久破壊する機械」なんてことを言った覚えはないので、「エネルギー保存則を破る」という言葉を読み間違えた??? これは「エネルギー保存則を満たさない」という意味。

大学レベルの説明は微分が難しかった(多数)。
しかし、自然現象をちゃんと考えるには微分積分は必須なのです。

エネルギーの式で${1\over2}$がどこから出てくるのかイマイチわかっていなかった。力の式から積分を使えば求まるとわかった。
導出の部分を自分で理解しておくと、教える側に立ったときに説得力ある説明ができます。

教室が暑かった。クーラーつけてください。
そんなのは勝手につけちゃっていいですから自分でなんとかしてください。

速度と加速度