googleで「永久機関」で画像検索した結果、いろいろな永久機関が見つかる。それぞれ、どうして動かないのかを考えてみよう(実際検索してみると、笑えるものもたくさんある)。
実際のプリントではここに画像があった。
授業ではいくつかをとりあげて考えて、それぞれの思う「動かない理由」を発表してもらった。
おもりをとりつけるレバーが可動なので、右の方では腕が長く、左の方では腕が短くなる。すると力のモーメントは右の方が大きくなるから右に回る・・・・・わけがない。
これが回り続けないことの「中学生向けの説明」は以下の通り。
車輪の左側にあるおもりと右側にあるおもりの数を比べると、左の方が多い。つまり一個ずつのおもりを比べるとのモーメントがつりあっていないように見えるが、全体を考えると数が多い分だけ左が巻き返して、結果として引き分けになり、動かない。
一個一個の物体を見るのではなく、全体を見なくては間違える。
アンバランスな車輪はもう一種考えたが、そっちは省略。
図のように鎖を三角形に掛ける。右の辺の方がおもりの数が多いから、右側がおちる・・・・わけがない。
これが動かない理由は、下の図のように力の分解をしてみるとわかる。
一個一個のおもりに働く重力は同じ大きさでも、斜面に平行な方向の成分の力は異なる。図でもわかるように左側の方が水平方向の分力は大きい。これがおもりの数の少なさとちょうどバランスして、分力の和は左右で同じになることが計算するとわかる。
なお、この三角形の問題を考えたのはステヴィンという物理学者だが、彼は「これは永久機関になる」と言ったのではなく、「これが動かないということは、力を分解するときは平行四辺形を使えばよい」と主張した。ステヴィンは力を分解して力のつりあいを考えるという手法を編み出したのである。
下の図のように、ベルトで結び付けられたピンポン玉をつないだものを、半分だけが水中にあるようにする。
下の部分でピンポン玉が水中に入るときは、水が漏れてしまわないようにちょうどピンポン玉が通る分だけ開くようなメカニズムがあるものとする。
すると水中にある左のピンポン玉は浮力で上昇し、空中にあるピンポン玉は重力で落ちるから、この機械は回り続ける・・・・はずがない。
これが動かないことを示すには、「浮力って何?」というところに戻らなくてはいけない。
浮力は実は水の圧力(水圧)の合力である。物体が水中にあるときは、上の図のように「深いところほど強くなる水圧」が働く。これを足算すると上向きの力が残る。これが浮力。
図にも書いたようように左右方向の力もあるが、物体が完全に水中にあればこれは消し合っている。
ところが今考えている機械の場合、水に入ろうとするピンポン玉は左半分しか水に浸かっていないから、
のように力が働き、この力は「ピンポン玉を外に押し出す方向」に働くのであった。この力のために、この機械は回らない。
もう一つ同様に浮力を使った永久機関には次の図のようなものもある。
こんどはベルトでつないだピンポン玉ではなく、円盤が容器の壁に取り付けられて回転できるようになっている。これも中では浮力が働き、外では重力が働いて回り続ける・・・はずがない。
これは上の機械と同様、浮力がもともと水圧の合力であることを考えて上のような図を書いてみると、一個一個の水圧は(円盤の中心に向かう力なので)円盤を回す力のモーメントを持ってない(そもそも円盤を回そうとしていない)。この水圧をいくら集めても、回転は発生しない。
この他に、磁石を使った永久機関もあったが、省略。
ここまでの話で、
という疑問が出てきたので、その点を数式も使いつつ補足する。
以上、永久機関をある意味一個一個別々に考えたのだが、実は多くの永久機関は、先週考えた「エネルギーの定義」と「仕事の定義」を思い出せばすぐに「動かない」と判断できる。
エネルギーというのは、仕事をされたらされるだけ増える物理量である。そうなるように、仕事やエネルギーを定義する。我々のご先祖様たちが永久機関を作ろうと考えた結果、「エネルギー」という物理量を発明して「エネルギーという概念を使うと永久機関ができない理由がわかる」という結論に達したのである。
たとえば最初に考えたレバーの永久機関の場合、永久機関に仕事をしてくれるのは重力である。では重力のする仕事はどれくらいだろう、と勘定してみると、
のように、行きと帰りの仕事が相殺する。これは仕事が$\vec F\cdot\Delta \vec x$のように内積で定義されているおかげである。
先に「一個の物体を見るのではなく全体を」という話をしたが、ここでは「ある瞬間ではなく、一周回るという運動全体を見る」という視点が重要。こうすれば「全体で仕事は0じゃないか」ということが納得できるのである。
ステヴィンの鎖や、その他の同様の考え方で「あ、動かないな」と実感できる(つまりは一周回ると仕事が0になるということを確認すればよい)。
先週も述べたとおり、こういうことができるのは「仕事の定義」をうまくやったおかげである。エネルギーというのは人工的に作られた概念だが、うまくできている。
以上、エネルギー保存則の使い方の例として「永久機関を否定する」ということをやってきたが、仕事とエネルギーの関係をちゃんと理解している人であれば、比較的容易に「あ、動かないな」という結論に達することができるはずである。原理や法則、およびそれらの間のつながりを理解しておくということが、さまざまな現象を考えるときには大事なのである。
ここで、
振り子の場合どうなってますか?
という質問が出たので、振り子の場合のエネルギー保存について解説したが、そのときに「物理を習ったはずの人がよく忘れているポイント」を一つ指摘しておこう。それは、
のような振り子を考えて、エネルギー保存則を適用するとき、この張力$T$の影響は考えなくていいのか?
という問題である。エネルギー保存則を使って問いている高校生あたりに上の質問をぶつけると「え・・・いつも考えてないけどなんでだろう?」とフリーズしてしまうことが多い。
これも、「仕事の定義」に戻って考えれば簡単である。この場合、張力のする仕事は$\vec T\cdot\Delta \vec x$であるが、運動方向と張力が常に直角ならば内積の性質により、$\vec T\cdot\Delta \vec x=0$なのである。
青字は受講者からの声、赤字は前野よりの返答です。
主なもの、代表的なもののみについて記し、回答しています。