という質問がよくあるんだけど、どう思う??
エネルギーを取り出せないから永久機関じゃないと思います。
そう、その通り。エネルギーを取り出せない(仕事をしない)でただ回っているだけなら、永久機関じゃない。
ではそう答えたときに「どうしてエネルギーは取り出せないんですか?」と質問が来るとこれは厳しい。「現在の軌道よりエネルギーの低い状態はない」ということで、その説明には量子力学が要る。
さて、それはそれとして、永久機関の定義を書いておこう。
【第1種永久機関】
外部からエネルギーの補給を受けることなく仕事をし続けることのできる機関
実は第2種もあって、
【第2種永久機関】
一定温度の外部から熱を吸収してすべて仕事に変えることのできる機関
というものである。第2種永久機関はエネルギーは(熱の形で)補給されるので、エネルギー保存則は破らない。
ここで熱というキーワードが出てきたので、今日は熱の話をしよう。
熱って何?と聞いてみると、
分子の運動エネルギー
という答えが返ってきたが、これは厳密には間違いで、熱は「エネルギーの移動量」を示す言葉である。
じゃあ「熱エネルギー」という言葉は?
誤用というか、よくない言葉ですね。「分子運動のエネルギー」という意味では「内部エネルギー」という言葉があるので、そっちを使うべきです。
エネルギーの移動量というと「仕事」があったが、「仕事」と「熱」はどちらも移動量で、(力)×(距離)のような「目に見える形で計算できる」エネルギーの移動が仕事、それ以外の目に見えない(分子の運動だとして、それは目に見えないのだから)部分の移動が熱だと分類して考えるとよい。
ここでスターリングエンジンと平和鳥を見せた。
どちらも、温度差があると動く熱機関である。
スターリングエンジンは熱いコップの上で動くし、平和鳥は濡らされた頭の温度が下がるおかげで動く。
第2種永久機関は「一定温度の外部から」という条件がついているので、温度差がある外部からエネルギーを取り出す機関は第2種永久機関ではない(アマゾンで買ったスターリングエンジンと平和鳥が第2種永久機関だったら大変だ)。
第2種永久機関を否定する原理は「熱力学第2法則」または「エントロピー増大の法則」という。
1.はつまり第2種永久機関が存在しないということ。
2.は実は1と等価なのだが、それは少しわかりにくいかもしれない。
熱が高温から低温へ移動するというのは「高温物体と低温物体が接触すると、高温物体の温度が下がり低温物体の温度が上がる」ということでもある。こういう現象があることは日常経験からしても実にごもっともと納得できるはずである。
この1.と2.が同じ法則だというのは最初はびっくりするかもしれないが、今日見せたおもちゃがどちらも「温度差があれば動く」ものであったことを思い出そう。もし低温から高温へと熱を流すことができるなら、それを使って温度差を自ら作り出して動く機械を作れば第2種永久機関のできあがりなのである(つまりそんなことは不可能なのだ)。
この第2法則は、数ある物理法則の中で唯一「時間反転」ができない法則である(力学にしろ電磁気にしろ、常に逆現象も法則上は許されるが、熱が高温から低温へ移動するというこの現象は、逆が決して起こらない)。
エントロピーという量は、(移動する熱)÷(温度)という量だけ変化する。高温物体から出た熱と同じだけの熱が低温物体に入ると、温度で割り算される分だけ「高温物体から出たエントロピー」が小さくなり、全体として増加する、というのが「エントロピー増大の法則」の一つの見方である。
分子の運動エネルギーと考えると、この現象は「エネルギーが平均化していく」という現象と考えることができる。
100度の水の水分子の持つエネルギーが0度の水の水分子へと移動し、均等なエネルギー分布(つまり等温)になったところで移動が終了する。
熱がなにものかわかっていない時代には「熱素」という熱のもとが移動するという考え方もあったが、摩擦熱などの形で「仕事→熱」の変換がいくらでもできることを考えると分が悪い。さらにブラウン運動などの分子の運動の証拠が見つかって、分子運動が確かなものとなり、熱は「エネルギーの移動」の一形態と捉えられるようになった。
温度の平均化 を確率的現象として捉えることもできる。簡単のためにエネルギーを10個の玉として、これを二つに分ける分け方を考えると、
左の箱の玉の数 | 右の箱の玉の数 | 場合の数 |
0 | 10 | 1通り |
1 | 9 | 10通り |
2 | 8 | 45通り |
3 | 7 | 120通り |
4 | 6 | 210通り |
5 | 5 | 252通り |
6 | 4 | 210通り |
7 | 3 | 120通り |
8 | 2 | 45通り |
9 | 1 | 10通り |
10 | 0 | 1通り |
のように表にできる。玉の数が均等になった5vs5というのがもっとも数が多い。
このように数が多い状況は(物理現象がランダムに起こっているものと仮定すれば)実現確率が高くなる(現実の物理現象ではアボガドロ数ぐらいの数の組み合わせを考えなくてはいけない)。
その実現確率が高い現象が起きるでしょ、という確率的考え方がエントロピー増大則(熱力学第2法則)の説明になっている。
エネルギーを大事に、ということがよく言われるが、エネルギーそのものは保存量であり減らない。ただ、熱力学第2法則のおかげで「取り出せない形」に変化していってしまうのである。
青字は受講者からの声、赤字は前野よりの返答です。
主なもの、代表的なもののみについて記し、回答しています。