2006年度初等量子力学試験
*光速度c、プランク定数h、
= [h/2π]など、必要な物理定数は解答に使用してよい。
*計算問題は途中の過程も解答用紙に書くこと(公式覚えてきて書いただけでは点はやれないし、途中が書いてないと部分点もあげられない)。
問い1と問い2は全員が解くこと
[問い1]
−π ≤ x ≤ πで定義された波動関数
ψ
0
=e
ix
+2i e
3ix
を考える。
この波動関数は規格化されていない。規格化せよ。
この状態の運動量を精密に測定したとすると、どんな値が出るか。また、 各々の値が出る確率はどれだけか。
運動量ではなく、位置を精密に測定したとする。粒子が見つかる場所の 確率密度を求めよ。
確率密度のグラフを書け。
位置の期待値を求めよ。
[問い1解答例]
ψ
*
ψ = (e
−ix
−2ie
−3ix
)(e
ix
+2ie
3ix
) なので、
∫
π
−π
ψ
*
ψdx =
∫
π
−π
(1+4+2ie
2ix
−2ie
−2ix
) = 10π
となる。規格化するには√{10π}で割って、
ψ =
1
√
10π
(ψ
0
=e
ix
+2i e
3ix
)
か3
。波動関数の係数の比が1:2な ので、確率は1:4となり、
になる確率が
1
/
5
、3
になる確 率が
4
/
5
。
確率密度はψ
*
ψなので、規格化されたものを使って、
1
2π
+
i
5π
(e
2ix
−e
−2ix
)=
1
2π
−
2
5π
sin2x
下の図の通り。
確率密度にxをかけて積分する。
∫
π
−π
x
(
1
2π
−
2
5π
sin2x
)
dx
第1項は奇関数なので0。第2項は部分積分を用いて、
−
2
5π
∫
π
−π
x sin2x dx = −
2
5π
{
[
−
x
2
cos2x
]
π
−π
−
∫
1
2
cos2x dx
}
= −
2
5π
{
π−
[
1
4
sin2x dx
]
π
−π
}
=
2
5
[問い2]
重力場中で垂直に落下する物体の運動を量子力学で考える。簡単のため、上向き にとったx軸上の運動のみを考えよう。
シュレーディンガー方程式は
i
∂
∂t
ψ(x,t) =
[
−
2
2m
∂
2
∂x
2
+mgx
]
ψ(x,t)
である。波動関数は規格化されているとする。
(注意:以下の計算において、積分範囲は−∞ < x < ∞であるが、無限遠 (x=±∞)ではψおよびその微分は充分速く0に近づくものとし、 部分積分の表面項は無視できると考える。)
粒子のいる場所の座標の期待値 < x > はどのように表せるか。
粒子の持つ運動量の期待値 < p > はどのように表せるか。
< x > を時間微分すると、運動量の期待値÷mが出てくる。 その計算過程を示せ。
< p > を時間微分すると、力(−mg)が出てくる。 その計算過程を示せ。
[問い2解答例]
< x > =∫ψ
*
x ψdx
< p > =∫ψ
*
(−i
[∂/∂x]) ψdx
d
dt
< x > =
∫
(
∂ψ
*
∂t
x ψ+ ψ
*
x
∂ψ
∂t
)
dx
ここでシュレーディンガー方程式を用いて、
d
dt
< x > =
1
i
∫
(
−
(
[
−
2
2m
∂
2
∂x
2
+mgx
]
ψ
*
)
x ψ+ ψ
*
x
(
[
−
2
2m
∂
2
∂x
2
+mgx
]
ψ
)
)
dx
=
i
2m
∫
(
(
∂
2
∂x
2
ψ
*
)
x ψ− ψ
*
x
(
∂
2
∂x
2
ψ
)
)
dx
後は部分積分を2回やって、([(∂
2
)/(∂x
2
)]ψ
*
)x ψ→ ψ
*
[(∂
2
)/(∂x
2
)](x ψ)と直してから計算すると、[1/2m] < p > だけが残る。
前問同様なので省略。
問い3以降の問題のうち、2問を選択して解答せよ。3問以上答えた場合 は点数のいい方から2つを合計して得点とする。
[問い3]
速さvで真空中を走ってきた電荷−eを持つ電子(質量m)が、ある物質中に飛び込んだところ、進路が図のように曲がり、 速度もv′に変わった。波動として見れば、波長λでやってきた波が屈折し、波長がλ′に変わったことになる。
電子を粒子として考えると、境界面で電子を引っ張り込むような力(面に垂直内側向きに大きさF)を微小時間∆tの間受けたために進路が曲がったと考えられ る。引っ張り込む力が働いたということは、下の部分の方が位置エネルギーが小さいということである。境界より上で位置エネルギーU、下では位置エネルギー が0だとする
重力は無視して、以下の問に答えよ。
逆に、下の部分にいる電子(ほぼ静止している)を上の部分に持って行くにはエネルギーを与えなくてはいけない。光でそのエネルギーを与えると すると、どれ だけ以上の振動数の光をあてなくてはいけないか?
電子を粒子と解釈する(古典力学的に考える)と、運動量の水平成分について、どのような式が成立するか?
上で求めた式は、電子を波動として解釈する(量子力学的に考える)と屈折の法則に等しいことを示せ。
Uは古典力学的に考えるとどう表せるか。また、量子力学的に考えるとどう表せるか。
境界面で電子を引っ張り込む力の力積F∆tはどれだけか。古典力学的に答えよ。
計算を簡単にするため、この問題だけはθ = θ′=0として考えよう。境界が微小な厚み∆xを持つとすると、仕事とエネルギーの関係からU=F∆xである。上の答えと合わせて、[∆x/∆t]を求め よ。答は古典力学的にどんな意味を持つか。
[問い3解答例]
光子一つはエネルギーhνを持つから、hν > Uすなわち、ν >
U
/
h
で あればよい。
mvsinθ = mv′sinθ′
[h/λ]sinθ = [h/λ′]sinθ′。これを変形すると、 [λ′/λ]=[sinθ/sinθ′]。一方、屈折率は波長に反比例するから、[n/n′]=[sinθ/sinθ′]。
U=
1
/
2
mv
′2
−
1
/
2
mv
2
(古 典的)または、[(h
2
)/(2mλ
′2
)]−[(h
2
)/2mλ]。
垂直方向の運動量変化を求めればよいので、mv′cosθ′−mvcosθ。
θ = θ′=0とすると、mv′−mv=F∆t。一方U=F∆x=
1
/
2
mv
′2
−
1
/
2
mv
2
だ から、
F∆x
F∆t
=
1
2
mv
′2
−
1
2
mv
2
mv′−mv
=
v′+v
2
これは、平均速度という意味がある。
[問い4]
量子力学を勉強中の下級生がこんなことを言っていた。彼は何 を間違っているのか、教えてあげてください。ほんとに下級生に教えるつもりで、 丁寧に書くこと。
「波動関数は確率を表すと言う話だけど、だったらなんで複素数なの?-複素数の確率って何なんだよ!」
「ヤングの実験ってさ、一個の光子が両方を通って干渉するなんて変な事を言うけど、たくさんの光子のうち半分が上のスリット通って、半分が下 のスリット 通って、暗くなるところでは光子と光子がぶつかりあって消えて、明るいところでは光子と光子がぶつかりあってエネルギーの高い光子になるって考えたら、 ちゃんと干渉縞できるんじゃない?-なんでそう考えちゃいけないの?」
「コンプトン効果って、光が粒子の証拠だって言うけど、あれ嘘だよね。 だって電磁波という波だったとしても、ちゃんと電子押すんだもん。物を 押すから粒子だなんて、単純に考えちゃダメダメ」
「光電効果は光が粒子である証拠だって言うけど、あれ嘘だよね。要は振 動数が速い光を当てないと電子が出ないってことだろ。原子に光あてる と、その光の振動数で原子がぶるぶるって震えるんだよ。で、その振動が 速ければ電子が外にこぼれ落ちる。な、こうやって説明すれば、光子なん ていらないだろ。」
[問い4解答例]
「確率密度は波動関数の絶対値の自乗だから、ちゃんと0以上の実数になるよ。」
「違うよ。一個の光子と一個の光子がぶつかって消えてしまったりしたら、エネルギーが保存しなくて困るでしょ。それに、光子が1個ずつしかこ ないような弱 い光で実験しても、干渉縞ができることは確認されているから、ぶつかりあって干渉するというのは間違いだよ。」
「コンプトン効果で大事なのは、押す事じゃなくて、押した時に電子に与えている運動量やエネルギーが、ちょうど運動量[h/λ]でエネルギー hνの粒子が やってきてぶつかった場合と同じだ、ということだよ。これは光が光子という粒でないと説明つかないんだよ」
「その説明ではうまくいかないことが二つある。一つには、振動数が低いといくらエネルギーが高くても電子が出てこないこと。波だと考えると、 振動数が低く ても振幅が大きければゆすぶりが大きくなって電子が出てきてもおかしくないのに、そんなことは起こらない。もう一つは、適切な振動数の光をあてると、すぐ に光が出てくること。波のように広がったエネルギーだと、エネルギーがたまるまでに時間がたたなくてはいけない。」
[問い5]
以下のような系を量子力学で扱った場合、最低エネルギーはどれくらいにな るだろうか、次元解析を使って、それぞれ見積もれ。あくまで見積もりであるか ら、正確な値でなくてよい。
(ヒント:エネルギーの次元は[ML
2
T
−2
]。プランク定数hの次元は[ML
2
T
−1
])
質量mのおもりが、ばね定数kのばねに取り付けられているばね振り子。
質量mの粒子が、幅Lの空洞内に閉じこめられている。
磁場Bの中で運動する、質量mで電荷qの粒子。(ヒント:qvBで力になる)。
クーロン力で引き合って回転している、電荷Qと電荷−Qの粒子。どち らも質量はmとする。クーロンの法則の比例定数をkとする。
[問い5解答例]
mは[M]、kは[MT
−2
]の次元を持つ。これから√{[k/m]}で[T
−1
]の次元を つくり、hをかけるとエネルギーの次元となる。つまり、h√{[k/m]}程度。
m[M]、L[L]とh[ML
2
T
−1
]からエネルギーの次元をつくるには、まずエネルギー の次元に[T
−2
]が含まれていることと、m,L,hの中で[T]の次元を持つのはhだけであることに着目し、h
2
を 作る。h
2
の次元は[M
2
L
4
T
−2
]となるので、mL
2
で 割ってエネルギーの次元にする。答は、[(h
2
)/(mL
2
)]程度。
qvBで力の次元[MLT
−2
]を持つから、qBの次元は[MT
−1
]である。qBhとする と、次元が[M
2
L
2
T
−2
]となるので、mで割ればエネルギーの次元。 [qBh/m]程度。
[(kQ
2
)/r]でエネルギーとなることを考えると、kQ
2
の次元は[ML
3
T
−2
]。 hで割ると、[(kQ
2
)/h]で次元が[LT
−1
]になる。これが速度の次元なので、自乗して質量をかけ ればエネルギーの次元となるから、[(mk
2
Q
2
)/(h
2
)]程度と見積もれる。
[問い6]
図のように、下を向いた頂角が45°の円錐の形をした凹面(面にまさつはないとする)がある。
その内側で、一定高さのところをぐるぐる回っている粒子の運動を考える。粒子は質量mで、半径rで角速度ωの等速円運動 をしているものとする。重力加速度 をgとして、以下の問いに答えよ。
古典的運動方程式を立てよ。
ボーアの量子条件をこの粒子に適用すると、どんな式が出るか。nを自然数として表せ。
以上から、半径rは連続的な値を取れなくなる。どのような値を取るか を求めよ。
半径rのところと、そこよりほんの少しだけ上である、半径r+∆rのところに、同じn(ボーアの量子条件で出てきた数)を持つ波ができていた とする。半径 r+∆rのところにできる波を粒子として見た時の角速度をω+∆ωとすると、エネルギーの保存からどのような条件式が出るか。(∆r,∆ωは微少量として 考えよ)
上で求めた条件式と、ボーア条件がどちらでも成立するという条件式が 両立する条件を求めよ。それは運動方程式とどのような関係にあるか。
[問い6解答例]
mrω
2
=mg(垂直抗力の上下方向と重力が打ち消し合う。45°なので、垂直抗力の左右方向成分と上下方向成分は 等しい。つまり、横向きの力はmg)
mrω×2πr=nhより、2πmr
2
ω = nh
1
/
2
m(r+∆r)
2
(ω+∆ω)
2
+mg∆r=
1
/
2
mr
2
ω
2
と いう式が出る(45°なので、半径が∆r増えれば、∆rだけ上に上がる)。∆r,∆ωは微少量であるので、
mr∆rω
2
+ mr
2
ω∆ω+mg∆r=0
という式になる。
2πm(r+∆r)
2
(ω+∆ω)=nhなので、
4πm r∆r ω+ 2πr
2
∆ω = 0
から、
∆ω = −
2ω
r
∆r
が成立する。上で求めた式に代入することにより、
mr∆rω
2
− 2mr ω
2
∆r + mg∆r
となって、∆rで割ると
mrω
2
= mg
つまり、これは運動方程式そのものである。
[問い7]
シュレーディンガー方程式
i
∂
∂t
ψ(x,t) = Hψ(x,t)
間違えて、上の式の左辺にマイナス符号がついてました。そのまま計算した人 も残りがあっていれば正解にしてます。もっとも、解けている人がそもそも少なかったけれど。
に対し、
Eφ(x) = Hφ(x)
は「定常状態のシュレーディンガー方程式」と呼ばれる。
ψ(x,t)の中には、 φ(x)を使って表すことができるものがある。その場合について、ψ(x,t)とφ(x)の関係を記せ。
定常状態のシュレーディンガー方程式の、固有値Eが異なる二つの解 φ
1
(x),φ
2
(x) を見つけた。
E
1
φ
1
(x) = Hφ
1
(x), E
2
φ
2
(x) = Hφ
2
(x)
とする。∫φ
1
*
φ
2
dx=0であることを証明せよ。ただし、ハミル トニアンがエルミートであることは証明済みとする。
φ
1
とφ
2
の重ね合わされた状態
Φ = φ
1
−2φ
2
を考える。Φを規格化せよ(φ
1
,φ
2
は規格化済みとする)。
Φで表される状態の、エネルギーの期待値を求めよ。
ある時刻に波動関数がΦ = φ
1
−2φ
2
だったとすると、時間t後にはどうなっているだろ うか?
[問い7解答例]
ψ(x,t)=φ(x)exp( −i[E/
]t) と置くと、このψはシュレーディンガー方程式の解となる。
Hのエルミート性から、∫φ
*
1
Hφ
2
dx = ∫(Hφ
1
)
*
φ
2
dxが言える。ところが固有値方程式を使うとこの式はE
1
∫φ
*
1
φ
2
dx=E
2
∫φ
1
*
φ
2
dxとなり、E
1
≠ E
2
なので∫φ
1
*
φ
2
dx=0である。
∫Φ
*
Φdxを計算すると、上で証明した直交性のおかげで∫φ
*
1
φ
1
dx + 4∫φ
2
*
φ
2
dx=5となるので、[1/√5]をかけておけばよい。
規格化された波動関数を使うと、
1
/
5
∫(φ
1
*
−2φ
2
*
)(E
1
φ
1
−2 E
2
φ
2
)=[(E
1
+4E
2
)/5]
(1)で求めたような時間発展をするので、φ
1
exp ( −i[(E
1
)/
]t) −2φ
2
exp( −i[(E
2
)/
]t )
File translated from T
E
X by
T
T
Hgold
, version 3.63.
On 4 Aug 2006, 19:36.