というのが相対論の主張である。 ここで、「宇宙で静止しているものは何かが判定できるか」という問題を考えてみよう。 話を簡単にするため、宇宙には地球とその表面の物体しかなく、地球は自転も公転もしていないと しよう。この孤独な地球の上にあなたが住んでいて、今電車に乗っているとする。電車が加速も減速もせず曲がりもせずにスムースに走っている時、電車の中で あなたがする行動(本を読んだりあくびしたり、あるいはすいていればキャッチボールだって)は、家の中での行動と同じように、何の支障もなくできるはずだ2。 この現象を「宇宙が止まっていて、電車が等速運動している」と考えることもできるし、「電車が止まっていて、宇宙全体が逆向きに等速運動している」と考え ることもできる。どちらで考えても、電車内で起こる物理現象は同じである。つまり、どっちが静止しているのか、判断する方法はないのである。世の中に「自分は絶対静止している」と主張できるものなどない

左図の図のような運動(電車を人間が押したら動き出した)を地球静止説に立って解釈すれば、
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この場合の解釈は、
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ちなみに、16才の頃に「光の速さで動いたら、電磁波は波の形が静止しているように見えるのか?」と疑問に思ったことが、アインシュタインが相対論を作る
そもそものきっかけだったという話がある。アインシュタインはこの疑問を考え続けた結果相対性理論に達した(らしい)。
もう一つ、アインシュタインが疑問としたのはおなじみの電磁誘導をどのように解釈するかである。アインシュタインの考察した現象とは少し違うが、以下のよ
うな現象を考えよう。磁石にコイルを近づける(左図)、あるいはコイルに磁石を近づける(右図)、このどちらを行ってもコイルには電流が流れる。この二つ
の現象は、「相対的に」考えるならば、全く同じものである。というのは、左図の状態を、コイルと同じ速さで同じ方向に動いている人がみれば、まさに右図の
状態が見えるはずだからである。しかし電流の発生する原因の解釈は同じではない。
右図の場合、コイルに電流が流れる理由は、「磁束密度の変化によって渦を巻くような誘導電場が発生したから」(rot→E = -[(∂→B)/(∂t)])である。一方、左図の場合、電流が流れる理由は「磁場中を電子が下向きに動いたので、ローレンツ力によって電子が動かされたから」である5。
くわしい計算は後でもう一度実行するが、どちらの立場で計算しても流れる電流は同じになる。こ
のように、同じ現象のように見えるのに、違う物理法則によって起っているかのごとく、説明が2種類ある。これはアインシュタインにとっては受け入れがたい
ことであった。アインシュタインによる特殊相対性理論の最初の論文のタイトルは「運動する物体の電気力学について」(Zur
Elektrodynaik bewegter
Körper)という、どちらかというと地味なものであるが、それはこのような電磁気に関する疑問から話が始まっているからである。
以上のように、相対論の目指すことは、「どんな立場で見ても物理法則は同じである」というこ
とである。動いている場合と止まっている場合は区別できず、「動いている時のための物理法則」を別に用意する必要はない。前節でみたように、力学の法則は
そうなっているが、電磁気の法則はそうなっていない(ように見える)。
そこで、「
力学的に見ても電磁気的に見ても、絶対空間が存在しないような理論はどんなものか?」という問いが生まれる。今回は理論的な興味にしぼって話をしたが、実
験的にも電磁気学に絶対空間が存在しない(少なくとも、感知できない)ことがわかっている。電磁気学から絶対空間を消すことが必要なのである。そういう意
味で、電磁気学は相対論なしには不完全なのであって、上の疑問はなんとかして解決されねばならない。
具体的にどのように相対論がこの疑問に答えたのかはこの講義の中で明らかにしていく。とりあ
えずここまででわかるように、その理論は動きながら見ると磁場が電場に見えたり、その逆が起こったりと電場と磁場をまじりあわせるような、そういう理論に
なる。しかし最終的結果はそれだけにとどまらない。電磁気学から絶対空間がなくなるように理論を修正すると、結果として力学も修正されてしまう。それどこ
ろか、物体の長さを測る尺度というものが観測している人の状態によって変化しなくてはいけないことがわかる。具体的には「運動しながら見ると(あるいは物
体が運動すると)物体が縮む」のである。さらに、相対性理論は「絶対空間」のみならず「絶対時間」も否定することになる。立場が違えば時間すら、同じもの
ではないことがわかったのである。「運動していると時間が遅くなる」という結果も出るし、「ある人にとって同時に起こったことが、別の人にとっては同時で
はない」ということも起こる。
具体的にどのようにしてこのような(一見)不思議な結果が出てきたのかは後で詳しく述べる。
ここまでの話を聞くと、ずいぶんおかしな、突拍子もないことをやっているように思えるのではないかと思う。しかし実際には、相対論ができあがる過程は非常
に確実なものであり、一歩一歩理解していけば難しいところも論理の飛躍もない。ちゃんと講義を最後まで聞いていけば、あなた方も16才のアインシュタイン
の疑問に答えることができるはずである。今回だけ聞いて「わからない〜」と根をあげないように。
音波の場合、音源が等速運動していても音速が変わらないのはなぜですか。
いったん音源を離れてしまった音は、その場所の空気の振動です。空気がどんなふうに振動するか
は、その場所の空気がどんなものか(重い空気か軽い空気か、あるいは圧力が高いか低いかなど)には関係しますが、「何が音を出したのか」ということとは関
係ありません(もはや音源とは接触もしていないのですから)。
今では「エーテル」はないと考えていいんですよね?
はいその通りです。
先生は一般相対論はどのくらい理解できますか?
だいたいわかってます。
特殊相対論の話は少しは聞いたことがあったが、電磁誘導は知らなくて、言われてみれば不思議に感じた。
実は相対論というのは電磁気学の延長上に作られているので、電磁誘導などの話から入るのが本筋なのです。
コイルと磁石を使った実験で、コイルが動く場合は、やはりコイル内を貫く磁束の量は変化すると思う。
もちろん変化します。問題は、マックスウェル方程式などの電磁気の法則が、「コイルが動いたせいでコイルを貫く磁束が変化しても電磁誘導が起こる」という形になっていないことです。rot→E = -[(∂→B)/(∂t)]という法則はあくまで「ある場所の磁場が変化した時に電場が発生する」という法則なのです。
磁石の動きと同じ運動をしている人が見ても磁場自体に変化が起こるから、相対論をひっぱりだしてこなくてもいいんではないんですか?
その磁場の変化というのは電流が流れることによって発生する磁場のことでしょうか?
だとすると「そもそも電流が流れるのはなぜ?」というところを説明できないといけませんし、それだけでは計算があいません。
レポートが多そうなので単位が取れるかどうか心配になってきた。
レポートとかをちゃんとやって計算練習をしておかないと、理解できなくて結局試験で点が取れなくなって単位がなくなります(これまでの私の経験上)。
力学も電磁気も不完全ということは、限られた条件のもとでしか使えないということですか?
ニュートン力学に関しては、物体の速度が光速より充分遅いという条件がないと使えません。電磁気は相対論と組み合わせて使えば完全です(古典力学としては)。
マックスウェル方程式がどんなだったか忘れてしまった。電磁気を勉強しないと(同様の感想多数)
電磁気学、そしてマックスウェル方程式は、物理の基礎ですから、たとえ相対論を勉強しなくても必須のものです。マックスウェル方程式などについては、相対論の授業の中でも触れていくことにします。
以前はなぜ絶対空間があると思っていたのかわからなくなった。やはり静止が物事の基本的な姿だと思っていたからかと思う。どのような環境(教育)に育っても自ずと絶対空間を信じてしまうのだろうかと思った。
難しい問題ですね。しかしやはり人間の素朴な感情としてはまず絶対空間が存在すると思ってしまうんじゃないかと思います(宇宙人がどうなのかまではわからない)。
光は電磁波なら、電気か磁気ってことなんでしょうか?
「電気か磁気」じゃなく、両方です。電場と磁場の両方が違いに影響しながら進んでいく波が電磁波。
ニュートン力学の考え方を崩していくように言ってましたが、そうすると今まで学んできた固定概念はない方がいいんですか?
一部の固定概念はひっくり返してもらわなくてはいけません。でも学んできた概念の大部分は相対論以後も使えるはずです。取捨選択しましょう。
ずっと若くいるためには、光と同じ速さで動いていればいいんですか?
光と同じ速さで動くと時間がたたないので、年もとりませんが何も経験できません。相対論で「年を取らない」という話は、実はその分経験できる時間も減っているので、得しているわけでは全然ないのです。