合成関数

 関数は「数→数」の対応関係であるが、この対応関係を二段階にしたもの「数→数→数」を「合成関数」と呼ぶ。

 たとえば、ある気体を電気ヒーターで暖めているとしよう。ヒーターの電力を変えれば温度が変わる(電力→温度)。そして、温度が変わればその気体中の音速が変わる(温度→音速)。こうすると「電力を変えれば(温度の変化を通じて)音速が変わる」(電力→温度→音速)という関数関係ができることになる。

こういう例を自分でも考えてみよう。
時給と月給とか?
それは確かに関数だが、合成されてないなぁ。もう1つ段階をはさもう。たとえば「熟練度」→「時給」→「月給」とか。
新米なら650円の時給が、熟練すると800円に上ったりする。これは1つの関数。一ヶ月に働く時間が決まっているとすれば、時給が決まれば月給が決まる。これが二つめの関数。この二つの関数を合成すると「熟練度」→「月給」という関数ができる。
他にはないかな?
扇風機のつまみをひねると風の強さが変わって、体感温度がいい感じになって、勉強するやる気が出る、とか。
なるほど面白い例だ(だんだん「風が吹くと桶屋が儲かる」みたいな話しになってきた)。この場合「扇風機のつまみ」→「風力」→「体感温度」→「やる気」という感じの合成になってるね。

 こんなふうに日常的な話でも「関連する数の変化を追いかけて合成していく」ということをやっている。これが「合成関数」の気持ち。

 数式の例をあげよう。${y}=1-{x^2}$という${x}\to {y}$という対応関係があり、さらに${z}=\sqrt{{y}}$という${y}\to {z}$の対応関係があれば、この二つをまとめて、${z}=\sqrt{1-{x}^2}$という${x}\to{z}$という「合成関数」を作ることができる。

 二つの関数を${y}=f({x})$(yxの関数である)および${z}=g({y})$(zyの関数である)と書けば、合成関数は${z}=g(f({x}))$のように書ける(この式の意味は「まず$f({x})$を計算して、計算結果を$g({y})$のyに代入すると、zが求められる」ということだ)$g(f({x}))$を$(g\circ f)({x})$と書くこともある。

図は

$f({x})={x}^3-{x}^2-2{x}+1$

$g({y})=\sin 3{y}$

の場合で、この時、

\begin{equation} {z}=g(f({x}))= \sin \left(3({x}^3-{x}^2-2{x}+1)\right) \end{equation}

ということになるyの変化の激しいところでは合成関数の結果であるzが激しく振動する、という様子が見て取れる。

 合成関数の定義域と値域には注意する必要がある。たとえば上にあげた例(${y}=1-{x^2}$と${z}=\sqrt{{y}}$を合成して${z}=\sqrt{1-{x}^2}$)の場合、${y}=1-{x^2}$だけを見ればxはどんな実数でもよさそう(定義域を$-\infty<{x}<\infty$としてもよさそう)に見えるが、その後で${z}=\sqrt{{y}}$という式にこの答えであるyが代入されることを思えば、$-1\leq{x}\leq 1$という定義域にしておかないと、${z}=\sqrt{1-{x}^2}$という関数が定義されてないことになる(虚数を含めれば話は別であるが)。

 下に、動かせる合成関数の図をつける。

 webGLという3Dのライブラリが動かないブラウザ環境では遅くなる場合があります。できるかぎり、webGLの使える環境で動かしてください。
 ↓の図は、マウスを使って視点の移動/拡大縮小などができます。

y=
z=

a=1.0

b=1.0

 ここでは、

y=xという関数と

z=yという関数が合成され、

z=(x)という関数になっている。


 のような形が走り回っているが、これはx,y,zの変化を表したものである。

 初期状態ではy=xz=yというつまらない状態になっているが、図の下にあるセレクタやボタンで関数の種類やパラメータを変化させることができるので、いろいろと試してみよう。
  • y=x2z=
    1
    y
    を合成すると、z=
    1
    x2
  • y=x2z=exp(-y)を合成すると、z=exp(-x2)
  • y=sin(x)とz=y2を合成すると、z=sin(x)2

のように関数が合成されるところを確認しよう(もちろん他にももっといろいろなパターンがあるので、試してみよう)。

コンピュータにグラフを描かせる時の注意

たとえば、

y=
1
x
z=sin(3y)を合成して、
z=sin(
3
x
)という関数を作ったとすると、そのグラフは、

のようになる。このx=0付近のぐしゃっとなっているところは、実は無限回の振動が隠れているなぜ無限回振動するのか、考えてみよう!。しかしコンピュータの画面も内部での計算でも「無限回の振動」を表すようにはできていない。実際にはxを0.01とか0.02とか、小さなステップで増加させては線を引く、というのを繰り返している。そのステップとステップの間に関数が激しく振動してしまうと、描かれたグラフは正確なものにはならないのである。

逆関数のペア

 これらの関数は互いに逆関数になっているペアがある。それらを確認しよう。

 上の図ではxyzという合成関数を考えているが、2個めのy zが1個めのx yの逆関数であるので、xyxというつながりで元に戻ってくる。

 よって、正しく逆関数になっていれば、z=xになるはずだ。

  • y=axの逆関数はx=by(ただし、a=
    1
    b
    )。
  • y=
    a
    x
    の逆関数はx=
    a
    y
  • y=x2の逆関数はx=√(
    |y|
    a
    )
  • y=sin(ax)の逆関数はx=
    arcsin(y)
    a
  • y=exp(ax)の逆関数はx=log(
    |y|
    a
    )

 ただし、実際やってみるとわかるように、これらは全てがちゃんとした逆関数にはなっていない。たとえばy=x2という関数はxが正でも負でも結果のyは正になる。そして、x=√|y|)の結果はどちらにしろ正の数になる。よって、x<0である状況では「xの符号を外す(絶対値を取る)」ということをしてしまって、逆関数にならないじゃあどうなるか、は上で確認すべし!

 同じような状況が他の場合でも起こり、上の例が逆関数になっていると言ってよいxの範囲は制限されることになる。これも、確認しよう。

 「逆関数」へ

逆関数

 xyという対応に対してこの逆のyxという対応を元の関数の「逆関数」と呼ぶ$y=f(x)$に対して${x}=f^{-1}({x})$と書くこともある。

 たとえば${y}=2{x}$、すなわちあるxに対しその2倍を対応させる関数の逆関数は${x}={1\over 2}{y}$、すなわち、あるyに対しその${1\over 2}$倍を対応させる関数である。この${x}={1\over 2}{y}$という書き方では、独立変数がyで従属変数がxだということになる。前にも書いたように「独立変数にx、従属変数にyを使うことが多い」のは単なる慣習であり、こだわる必要は何もない。もしどうしても「独立変数はx、従属変数はy」という形にしたければ、「ここでxyを取り替えます」と宣言した上で${y}={1\over 2}{x}$と書き直せばよいそれで何か本質的なことが変わるわけではない。自然科学ではむしろ「この文字は何を表すか」(質量だったり、圧力だったり温度だったり時間だったり)の方が大事なので、同じ量なら従属変数だろうが独立変数だろうが同じ文字を使い、取り替えたりしない事が多い。

 逆関数を考える時にも定義域と値域に対する注意は必要である。たとえば、「${y}={x}^2$という関数の逆関数は${x}=\sqrt{{y}}$」と言いたくなるが、これは${x}\geq0$という範囲で考えないと正しくない。${x}<0$の範囲であれば、「${y}={x}^2$という関数の逆関数は${x}=-\sqrt{{y}}$」となる。つまりxの領域によって逆関数の形を変えてやらなくてはいけない(これはすぐ下で述べる「関数が1対1か?」という問題のせいでもある)。また、${y}=\sin{{x}}$の逆関数は${x}=\arcsin {y}$と書く($\arcsin$は「アークサイン」と読む)のだが、${x}=\arcsin {y}$のyは$-1\leq{y}\leq1$の範囲になくてはいけない(こう書いた時にはyは独立変数なので、この範囲は「定義域」である)。

 もう一つ、逆関数を考える時に気をつけなくてはいけないのは、元の関数が「1対1対応」かどうか、という点である。たとえば${y}=a{x}$(逆関数は${x}={1\over a}{y}$または${y}={a\over {x}}$(逆関数は${x}={1\over a{y}}$)などは、一つのxに対応するyはただ一つであり(でなかったらそもそも関数ではない)、さらに一つのyに対応するxもただ一つである。

 しかし、上でも例にした${y}={{x}^2}$はそうではない。たとえば${x}=1$でも${x}=-1$でも${y}=1$になってしまうから、x二つとy一つが対応している(${x}=0$を除く)。このような場合には${x}\to {y}$は関数であるが、${y}\to{x}$は関数ではない。このような場合は前に書いたように、定義域を制限するか、代表を一つ取り出すことでyに対してxが一つだけ決まるようにする。${y}={{x}^2}$の場合であれば、${x}\geq 0$の範囲しか考えないことにすればよい。

 より深刻な「1対1対応でない例」が${y}=\sin{{x}}$の逆関数${x}=\arcsin {y}$である。${y}=\sin{{x}}$は$x$に$x+2n\pi$($n$は整数)を代入しても値が変わらない。つまり、y一つ(ただし、$-1\leq {y}\leq 1$)に対して無限個のxが対応してしまう。

 では、ここで${y}=\sin {x}$と${x}=\arcsin{y}$のグラフを描いてみよう。

 関数と逆関数のグラフの関係は、(独立変数と従属変数の役割を取り替えるものだから)上の図に示したように「${y}={x}$の線、つまり斜め45度$\left({\pi\over 4}\right)$の線を対称線にして折り返す」ことで得られる。しかしこのままでは、${x}=\arcsin{y}$の方が関数になっていない。一つのyに対しxがたくさんあるからである。そこでグラフのうち太い線にした部分$-{\pi\over 2}\leq {x}\leq {\pi\over 2}$だけを取り出して、残りは捨てることにする。結果、${x}=\arcsin{y}$の定義域は$-1\leq {y} \leq 1$、値域は$-{\pi\over 2}\leq {x}\leq {\pi\over 2}$だということになる(こうしないと一つのyに対して一つのxが対応しない)ここで、xのうちどの部分を選ぶかには任意性があるが、対称性のよい$-{\pi\over 2}\leq {y}\leq {\pi\over 2}$を使うことが多い。

 この二つの関数を合成するとこれはx=xに戻る…と期待したいところだが、そうはいかない。右に${y}=\sin {x}$と${z}=\arcsin{y}$(まだ元に戻るとは限らないから左辺はxにせず新しい変数zとした)のグラフが合成されるとどのようになるかを描いた。順番に見ていくと、${y}=\sin {x}$という関数の「答え」は$-1\leq {y} \leq 1$の範囲である。さらに${z}=\arcsin {y}$という関数による「答え」は$-{\pi\over 2}\leq {z}\leq {\pi\over 2}$に制限されてしまう。

 つまり元々のxの範囲は任意の実数であったのに、二つの関数を(元に戻ると期待して)作用させた結果、$-{\pi\over 2}\leq {z}\leq {\pi\over 2}$に制限された答えが返ってきたということである。よって、この範囲であれば確かに$\arcsin$は$\sin$の逆関数になっている(グラフの形からわかるように、1対1対応にするためにはこんなふうに変数の領域を制限する他はない)。逆関数を作る時にはこの点に注意が必要である。

 ${y}=\cos{x}$の逆関数は${x}=\arccos{y}$である($\arccos$は「アークコサイン」と読む)。こちらも変数の範囲に注意が必要だが、ここではグラフだけを載せておこう。

 $y=\arccos x$の値域は$0\leq y \leq \pi$にすることが多い。$\tan$の逆関数である$y=\arctan x$もある。

 $\arctan$は「アークタンジェント」と読む。値域は$-{\pi\over 2}<{y}<{\pi\over 2}$とすることが多い。グラフからわかるように、$\tan {x}$のグラフは同じ形の繰り返しだが、その一つだけを取り出して考えないと、逆関数は定義できない。

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「関数」らしくない関数

関数をxを`計算'するとyが得られるという考え方で捉えると、以下のような関数は少し「変」に思えるかもしれない。

階段関数

\begin{equation} \theta({x})=\begin{cases}1&{x}>0\\ 0&{x}<0\end{cases} \end{equation}

符号関数

\begin{equation} \epsilon({x})=\begin{cases}1&{x}>0\\ -1&{x}<0\end{cases} \end{equation}

 しかし、`計算'はしてないかもしれないがxを決めればyが決まるという対応である以上、これも立派な関数であるなお、${\theta}({x})$も$\epsilon({x})$も、${x}=0$での値を示していないが、${\theta}(0)={1\over 2},\epsilon(0)=0$とすることが多い。

もっと「変」な関数正確には、デルタ関数は関数として認められないのだが、細かい議論はここでは省く。の例が

Diracのデルタ関数

\begin{equation} \delta({x})=\begin{cases}0&{x}\neq 0\\ \infty &{x}=0\end{cases} \end{equation} \begin{equation} かつ~~~~~ \int_a^b \delta({x})\mathrm dx =\begin{cases} 0& 区間(a,b)が{x}=0を含まないとき\\ 1& 区間(a,b)が{x}=0を含むとき \end{cases} \end{equation}

である(本書ではまだ積分について説明してないので、後半部分については積分まで勉強した後で理解して欲しい)。こういう関数をどう使うのか(どんな使い途があるのか)についてはずっと後で述べることにしよう。

 とっても変な関数としては、

\begin{equation} f(x)=\begin{cases} 0&xが無理数のとき\\ 1&xが有理数のとき \end{cases} \end{equation}

もある。これは何かに使うというより「こういう変なものも関数だから、気をつけろ」という「例外を示す」のによく使われるようだ。この関数はありとあらゆる場所で連続でない、という病的な性質を持っている。

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指数関数

自然科学によく現れる関数としては、指数関数およびその逆関数である対数関数がある。

指数(冪の指数)

 $x\times x={x}^2,x\times x\times x={x}^3$などと、同じ数を複数回掛ける計算を右肩に小さい字で回数を示して表すが、この${x}^2,{x}^3,{x}^4,\cdots$などの右肩の数字を「指数(expornent)」、冪乗されている方の数を「底(base)」と呼ぶ。$x^n$と書いた時、$n$が指数で$x$が底である(つまり、$底^{指数}$)。底は正の定数としておこう負になった場合は定義の仕方に注意が必要である。

 関数${y}={x}^n$の時は底xが独立変数であって指数$n$が関数の形を決めるパラメータとなっている。つまり$(従属変数)=(独立変数)^{(パラメータ)}$であった。

 「指数関数」というのはこの指数の方が独立変数になっている関数である。指数関数を${y}=a^{{x}}$と表現すると、指数xが独立変数で、底$a$がパラメータである。つまり$(従属変数)=(パラメータ)^{(独立変数)}$である(式の形は同じでも「何を変化させた時の変化が見たいのか」が違う)一般的には、${y}=C a^{{x}}$のように、指数関数に更に定数$C$が掛かった関数を考えることが多い。

 こういう関数が必要になる例は自然科学でも日常生活でもある。たとえば年10%の利子がつく借金があったとすると、最初10000円借りても、1年ほっておくと$10000\times 1.1=11000$円になる。そして2年ほっておくと、12000円になるのではなく、$11000\times 1.1=12100$円になる(3年だと$12100\times 1.1=13310$円である)。この場合はx年経った時、借金は${y}=10000\times 1.1^{{x}}$になっている(ちなみに10年だと25937.42460100002円である)。指数関数はこんなふうに「毎回同じ割合で増えていく(あるいは減っていく)」時に使われる。

 例として、${y}=2^{{x}}$という関数を考えて、まずはxが0以上の整数である場合(負の場合についてはすぐ後で考える)の表を作ってみると、

x 0 1 2 3 4 5
y=2x 1 2 4 8 16 32

のようになる。

説明なしに書き込んだので、上の表で$x=0$の時${y}=1$であること($2^0=1$)を不思議に思う人は多いかもしれない。

$2$を$0$回掛算したのなら、答は0では??

 しかし上の表および右のグラフを見ると、この関数は「xが1増えると2倍になる」「xが1減ると半分になる」という変化をしている。だから、$x=1$から1減って$x=0$になれば、$x=1$の時の値である2の半分になる(つまり1になる)方が筋が通っている。

それに、$2^0=0$にしてしまうと

同じ底の冪の掛算は、指数の足算

\begin{equation} a^{x_1}\times a^{x_2}=a^{x_1+x_2}\label{sisuukakezan} \end{equation}

という関係が、$x_1$もしくは$x_2$が0の時に成り立たなくなってしまう。$x_1$と$x_2$が自然数である時は、この式は「$a$を$x_1$回掛けたものと$a$を$x_2$回掛けたものの掛算は$a$を$x_1+x_2$回掛けたものだ」と主張している。$x_1=0$にするとこの式は

\begin{equation} a^{x_1} \times a^{0}=a^{x_1+0} \end{equation}

となるから、$a^0$は($a$が0でない、どんな数であろうが!)1でなくてはいけない。

たとえばどっかの偉い人がと決めてしまったりすると、$a^{x_1}\times a^{x_2}=a^{x_1+x_2}$という計算ルールは、指数が0の時を例外とする、としなくてはいない。なるべくなら例外のないルールの方がいいので、世間ではそうしていないのである。

 別の言い方をすれば、以下のようにも考えられる。掛算における「なにもしない」という計算は「1を掛ける」ことである。掛算を指数を使った計算に直すと足算になるが、足算における「なにもしない」という計算は「0を足す」である。よって、「1を掛ける」と「指数に0を足す」が同じ計算になるためには、$a^0=1$でなくてはいけない。

 以下で、この$x_1$や$x_2$を自然数および0以外の数にも拡張していこう。

 まず、$x_1$もしくは$x_2$が負の整数である場合はどうだろう?---グラフをxが負の領域まで伸ばしてみたのが右の図で、これから、$2^{-1}={1\over 2},2^{-2}={1\over 4}$と半分にしていけばよいのではないかと思われる。

これが上の計算ルールに即していることを確認しよう。

\begin{equation} \underbrace{2^{4}}_{16}\times 2^{-1}=2^{4-1}=2^3=8 \end{equation}

という式が成立するためにも、$2^{-1}={1\over 2}$であればよいことがわかる。こうして、

指数が負の数である場合は、$a^{-{x}}={1\over a^{{x}}}$とすればよい。

と気づくだろう。これから、

同じ底の冪の割算は、指数の引算

\begin{equation} {a^{x_1}\over a^{x_2}}=a^{x_1-x_2} \end{equation}

ということもわかる。$2^{x}\times 2^{-x}=2^{x-x}=2^0$という式を書いてみれば、$2^0=1$が妥当な選択だということが再び確認された。

 「$a^{x_1}\times a^{x_2}=a^{x_1+x_2}$という計算ルールを尊重する」という立場に立てば、$a^{1\over 2}$や$a^{1\over 3}$(あるいは$a^{1\over 100}$だろうと)をどのように定義すべきかわかる。$a^{1\over 2}\times a^{1\over 2}=a$となるためには$a^{1\over 2}=\sqrt{a}$となるわけである。同様に、$a^{1\over 3}=\sqrt[3]{a}$であり、$a^{1\over 100}=\sqrt[100]{a}$である$\sqrt[n]{a}$は「$n$乗すると$a$になる正の数字」という定義だから、これは定義を別の書き方で書きなおしているだけのことだ。。こうしてたとえば$a^{3.42}$という量を計算する方法を我々は知ることができる(たとえば100回掛けたら$a^{342}$になる数だと思えばよい---計算で求めるのはたいへんそうだが!しかしそんなたいへんな計算も、後で出てくる対数関数や、微分やテイラー展開の助けを借りて楽に計算できるようになる。)。こうして$a^{{x}}$という関数をxが小数、分数などで表現される有理数である場合について計算できるようになる。

 ではxが無理数である場合(たとえば$2^{\sqrt{2}}$は?---あるいは$5^\pi$は?)はどう考えようか。

 たとえば、$\sqrt{2}\fallingdotseq1.41421356237\cdots$であるから、

$2^1$=2
$2^{1.4}$≒ 2.63901582…
$2^{1.41}$≒ 2.65737162…
$2^{1.414}$≒ 2.66474965…
$2^{1.4143}$≒ 2.66530382…
$2^{1.41435}$≒ 2.66539620…
$2^{1.414356}$≒ 2.66540728…

のようにどんどん精度を上げつつ計算していけば、$2^{\sqrt{2}}$の値が計算できる実際には我々は後で説明する微積分の応用であるテイラー展開という方法を使ってこの値を計算する。。もちろん有限桁の小数では$\sqrt{2}$は絶対に表せない($\sqrt{2}$は有理数ではない)から、値そのものが計算できるとはいえない。しかし、「$2^{\sqrt{2}}$の値が必要な精度(有効数字)に達するまで、いくらでも$\sqrt{2}$の近似値の精度を挙げて、その精度で$2^{\sqrt{2}}$に近い数字を計算することが可能である」ということであるこの「必要な精度になるまでいくらでも桁数を上げていける」という考え方は重要である。

 図は$2^{{x}},3^{{x}},4^{{x}},5^{{x}},6^{{x}}$のグラフである。グラフの形状は、xが増加するに従って急速に(グラフの傾きが大きくなりながら)増大していく関数である。そのため「指数関数的に増大する」という言葉はしばしば「手に負えないほど非常に速く増える」を意味するものとして使われる既に述べたように借金の増大は指数関数的だから、放っておくと手に負えなくなる。。グラフは${x}=2$までしか描かれていないが、例えば${x}=10$では$2^{10}=2014$であり、右のグラフはあっという間に天井を突き抜けてしまうのである。さらに、${x}=100$では$2^{100}=1267650600228229401496703205376$というとんでもない数字になる。

紙を1回折ると、折る前に比べて厚さが2倍になる、とする。厚さ0.01 mmの紙を100回折ることがもしできたら(実際にはできない)、紙の厚さはどれだけになるか?
 上の答えはもちろん、12676506002282294014967032.05376 mということになる。大雑把に$1.3\times10^{25}$ mである。これはだいたい、13億光年。授業で答を確認せずに「隣の星まで行ける」とか言ってしまったが、実際のところ隣の銀河団まで行けるほどだ。
では、指数関数の「動くグラフ」を見よう。

上のグラフは指数関数y=axのグラフである。

下↓のスライダーでaの値を変えられるので、いろいろと変えてみよう(ただしa=1.0は意味が無い)。

y=(2.0)x

底(a)を大きくすると、あっというまに線がグラフの上端を突き抜けてしまう。

下↓のボタンでグラフの上端を変えられるので、いろいろと変えてみよう。

グラフ一番上のy座標が4

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受講者の感想・コメント

 青字は受講者からの声、赤字は前野よりの返答です。

合成関数とはどういったことなのかを理解することができたし、普段の生活の中でも合成関数が成り立っていると知ってびっくりしました。
というより、普段の生活の中でも起こっていることを表現できるように、数学が作られているのです。

いろいろな関数を勉強していくにつれすごく数学に興味がわきました。
興味を持っていろいろ勉強してみてください。

日常生活でこれは関数だ、合成関数だと言える人間になりたいです。
普段からそういう考え方をしてみてください。数学的関係ってのはいろんなところにある。

合成関数のグラフがいろいろ変化があっておもしろかった。デルタ関数などのグラフがあるということは驚いた。
デルタ関数は、使うときになったらまた悩むと思います。

合成関数のいろいろなグラフが見れて面白かった。指数関数の$2^{a+b}=2^a\times 2^b$から指数が0になったり分数になったときの値が求められるのはすごいと思った。
数学では「公式」を一旦作るとその公式を使って数式の意味をどんどん広げていける、ということがよくあります。

アニメーションを見て合成関数がx,y,zとどのように対応しているのかがわかった。
合成関数のイメージをつけておいてください。

グラフを使うことで関数についての理解が深まりました。
図でイメージを持ちましょう。

二つの関数を合成すると新しい関数になり、元の関数によってはとても複雑で規則性の分からないものができあがる。こういったものが日常にたくさん散らばっているんですね。何気なく普通に使ってました。
日常にもある関係を数式で表現していったものが「関数」なのです。

合成関数を身近な例にたとえて考えた。連鎖的につながっていることがわかった。逆関数においては「yに対してxが1つだけ決まるようにする」というルールを再確認した。デルタ関数→点電荷という話しに興味が湧いた。
デルタ関数は、ずっと後(この授業じゃない授業)で出現するでしょう。

関数の定義によってxが決まってyが1つきまっても、yを決めてxが二つ出てくると逆関数は言えないということがわかった。
1対1対応になることが大事ですね。

様々な組み合わせで合成関数を作ると予想外のグラフができておもしろかった。
いろいろ遊んでみてください。

$y=x^2$には逆関数はないが、範囲を決めてやると逆関数が存在することがわかった。
はい、そうです。1対1にすることが大事です。

指数関数や合成関数が日常で多く使われていることがわかった。
関数という考え方自体がよく使われています。

合成関数のグラフが特徴的で面白かった。
いろいろ試してみてください。

合成関数と指数関数および逆関数についてよくわかった。ただ、夜更かしして眠かったので気をつけたい。夜にする読書は実に危険であった。
今日はねている人多かったですね…。

合成関数のグラフをタブレットを使ってみると面白いし、とてもわかりやすかった。
いろいろ試しながら理解していってください。

逆関数についてよくわかった。3次元グラフを使ってy:〜z:〜を調整する度に、グラフの変化が面白かった。
それはよかった。

n乗根の復習ができたのでよかった。逆関数のグラフが意外な形になって興味深かった。
逆関数のグラフは元の関数を45度の斜め線を対称軸にしてひっくり返したものになるんですが、気づきましたか?

合成関数のグラフを思い浮かべるのはとてもとても難しかったです。
だからこそ、関数を数式で計算する意味があるわけです(人間に想像できないものを数式が示してくれる)。

合成関数の組み合わせを色々と変えてみるのが楽しかった。
いろいろやってみてください。

関数を逆関数にすることは係数を逆にすることではなかったのか…。逆かんすをとるときは決めた定義域の中でxとyが対になるのを確認する必要がある。$\sin^{-1} y\neq{1\over \sin y}$は昨日の授業で謎の部分だったので今回よくわかってよかった。
逆というのは対応関係を全部ひっくり返さなくてはいけません。$\sin^{-1}$は間違えないように気をつけましょう。

逆関数の定義を知ることで関数の定義を再確認できた。
う〜ん、今再確認してちゃ困るんだけど、まぁとにかくちゃんと確認しておきましょう。

合成関数・指数関数がよくわかった。
逆関数もね。

少し忘れていた逆関数を思い出せました。独立変数と従属変数が1対1のとき成り立つことを気をつけたいと思います。
逆関数の意味と作り方をよく理解しておきましょう。

逆関数についての十分条件、必要条件の重要性、また特別な性質をもつ関数(デルタ関数)について知った。
必要・十分というより、「1対1対応」が重要です。

階段関数や符号関数、デルタ関数など初めて知りました。理解できるようにしたいです。
理解って、今日やったあれだけのものですよ(特に階段関数と符号関数)。

合成関数とか逆関数とか、高校の復習になった。
それはよかった。

合成関数の考え方が日常生活にも隠れていて、急に身近になった気がした。指数・対数は人間が現実にはできないことを数値的に表現することができるので単純にすごいと思った。
急に身近になったわけではなくて、そういう関係があるからこそそれを関数で表現しているのです。

指数に関数ことは知っていることがほとんどでしたが、あらためて始めからしることができました。逆関数もとても分かりやすかったです。ネイピア数はよくわかっていなかったので、次回が楽しみです。
お楽しみに。といっても、実はすごく簡単な話なのですが…。

紙100回まげることができれば何光年もの長さになることに驚きました。100折り曲げるころには原子のレベルの大きさになっているのかなと自分で考えていました。関数を合成するという原理が今日わかったのでよかったです。
たしかに、厚さが何光年にもなったときには大きさは原子以下になってるね。

指数関数もっと自由に使いこなしたいです。
うん、そこは使いこなしていって欲しい。

中学・高校で指数楽しくてすごく計算してたの思い出した。$2^{1\over2}$や$2^0$の値が高校では「そうなること」は教えてくれたけどどうしてそうなるのかは教わらず、一人で本を読んで考えていたので、今日の授業が少し嬉しかった(?)です。デルタ関数初めてみました。On/OFFの2進数的なグラフなんだろうな、と思いました。
「どうしてそうなるか」がないとやはり面白くないですよね。デルタ関数はグラフに書けない関数です。

今日の指数関数は高校の数学とほとんど同じだった気がします。次から難しくなりそうなので頑張ります。
次の後半から微分です。

指数関数はめっちゃおもしろいなと思いました。紙を32回折ったら宇宙に行けるって聞いたことがあったんで、めっちゃおもしろいなと思いました。
確かに32回でもかなりすごいことにはなりますね。

指数の原理や合成関数の原理がわかった。
それはよかった。

$2^{\sqrt{2}}$のところは「ファッ?」となって後で自分で証明してみたい。
証明ってほどのことはないけど、まぁやってみてください。

先生の威圧感も指数関数的に増大しているが、私は途中で合成関数のグラフのアプリの構造で頭がいっぱいだった。
アプリはそんなに複雑でもないですよ(3Dになっているので少しややこしいかな)。

$(2^{0.1})^{10}=2$となる考え方で$2^{0.1}$を求めるやり方はわかりやすかったです。折り紙100回曲げて隣の星…。
実はもっともっと遠かったです(^_^;)。

指数が難しかった。知らない関数があった。
知っていってください。

逆関数よくわかった。指数関数よくわかった。
次から微分に入ります。

指数の法則が$2^{a+b}=2^a\times 2^b$から導かれることを知り、より理解が深まりました。
いろんなことがこれから導かれます。

$2^0$が1になるのは知ってたが、今日はじめて理由を知った。
どうしてそう定義するかも大事です。

昔読んだ本で「$0^0$のことは考えるな」と書いてあったのを思い出しました。先生は$0^0$はどうなると思いますか?
$0^0$を「$x^y$で$x,y$を0にしたもの」と考えると、$y$が先に0になると$0^0$→1です。もし$x$が先に0になると$0^0$→0です。つまり、同じ$0^0$でも、どういう定義にするかで答が違う。

先生、私は最近ロックにはまっているんですが、どんな音楽を聞きますか?
私はアニソンしか聞きません。

寝不足でも先生の授業はテンポが良いのでねむくならなくておもしろいです。
寝不足にならないようにしようね。

夜はもう1時間早く寝ようと思います。
そうしましょう、適度な睡眠で元気に勉強。

1限大変〜〜。
ちゃんと起きよう。

みんなで声を合わせて答えるのは目が覚めるし答の確認もできるからいいと思った。また、指数についてもよくわかった。
まだ声を出してない人がいていかんなぁ、と思ってます。

 なんでこう眠たがっている奴ばっかりなのだ。

最近の小学生は液体窒素や超電導の実験授業を受けられるなんてうらやましいと思います。3年から前野先生の熱力学がおもしろいと聞いて、授業受けるの楽しみにしてます。$2^0=0$になったら困ります。
熱力学は面白いですが、そのためには数学も大事です。

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