第1章 関数とは

自然法則を数学を使って表現しその関係を探るというのが本講義の目的であるが、この章では(今後何度となくお世話になる)「関数」の例を示し、次の章で微分を、さらにその先で積分を考えるための準備をしよう。

自然科学を探求していくとき、

ある量Aを変化させた時に、それとは別のある量Bがそれに応じてどう変化するか?

を調べていかなくてはいけないことがよくある。この「AからBへの関係」(A→B)のことを「関数(function)」英語のfunctionは「機能」とか「作用」のような意味を持っている。と呼ぶ。「数」に限らず「何かを入力(インプット)したら何かが出力(アウトプット)される」働きを持っていればそれは「function(関数)」と呼んでも良いコンピュータ言語においても「関数(function)」という言葉があるが、コンピュータ言語における関数には「出力(アウトプット)がない関数(void関数)」もある。。数学的な意味で「関数」と言う時は数(もしくは数で表現できる量)を相手にしていることが多いが、数学だからと言って「数」を扱っているとは限らない。

 この変化させる数を「変数(variable)variableという言葉は「変化させることができるもの」という意味になる。」と呼ぼう。まず最初に変化させるある量Aは「独立変数(independent variable)」、それに応じて変化するある量Bは「従属変数(dependent variable)」と呼ぶ英語の「depend」は「依存する」だから、「従属変数(dependent variable)は何かに依存して変化する量、という意味を持つ。independentはその反対。。独立変数は文字通り独立に、好きに選ぶことができて、それに応じて従属変数の値が決まる、という意味を持たせたネーミングである実はある量が独立変数なのか従属変数なのかは、状況によって違う。たとえば実験する時には、1つの量を変化させつつもう1つの量を測る、ということを行うが、どの量を変化させるかは実験の状況に応じて変わる(変えることができる)。

 互いに関係のある量を計測する実験を何度も行うことによってし、それぞれの間にどのような法則があるかを求めていこうとすること、それが自然科学の始まりである。自然科学で計測するものは数であることが多いので、「ある数→また別のある数」という対応関係(「関数」)を調べていくことが多くなるのは必然的である。

 高校までの数学では独立変数にx、従属変数にyを使うことが多いが、これは別にそうでなくてはいけないというものではない。文字に何を使うかというのは全く本質ではない。
 xとyに「xを1つ決めればyが1つ決まる」という関係があるとき、「yはxの関数だ」と言う。下のプログラムでその実例を見よう。

例を述べよう。

棒の両端に力を掛けると、棒が曲がる。その曲がりと力の関係は?---そんなことを知ってどうするのか、と思うかもしれないが、例えば体重計が体重を測定できるのは力と物体の曲がりに関係があり、体重計を製作する人がその関係を熟知しているからこそだ。

一定量の気体に掛ける圧力を高くすると、気体の体積が縮む。圧力と体積の関係は?---車や飛行機などの性能を上げるためには、こういう法則も知らなくてはいけない。
温度が高いと一定の水に溶ける砂糖の量が増える(冷水よりもお湯の方がよく溶ける)。温度と砂糖の質量の関係は?---アイスコーヒーに入れる砂糖の量を考えるときに、知っておくべき情報だ。

 2番めの圧力と体積の例などは、圧力(独立変数)体積(従属変数)と考える場合も、体積(独立変数)圧力(従属変数)と考える場合もある(どちらを“独立に”コントロールできるかは気体の置かれた状況によるだろう)。

 互いに関係のある量を計測する実験を何度も行うことによってそれぞれの間にどのような法則があるかを求めていこうとすること、それが自然科学の始まりだ。自然科学で計測するものは数であることが多いので、ある数→また別のある数という対応関係(「関数」)を調べていくことが多くなるのは必然的である。

高校までの数学では独立変数に${x}$、従属変数に${y}$を使うことが多いが、これは別にそうでなくてはいけないというものではない。文字に何を使うかというのは全く本質ではない。

 では、以下のページでアニメーションを使って「関数」を勉強していこう。

いろんな関数のグラフ

いろんな関数のグラフ

 いろんな関数の場合で、を動かしてxを変化させると、それに応じてつまりyが動く。yの方は動かせません。「従属」変数ですから。
 関数と定数aの値はいろいろ変化させることができるので、試してみること。

y=

a=1.0

 ここで、いろんな関数の場合で「$x$を変えると$y$がどう変わるか」ということと、「パラメータaを変化させると関数がどう変わるか」を実感してもらった。

 たとえば、y=axでaを変えると傾きが変わる。y=ax2でaを変えると曲がり具合が変わる。このようなパラメータと「線の形」の関係は、この後でも重要。


 それぞれの関数の雰囲気を見ておこう。

関数とは 累乗関数

冪乗関数

 このページでは、$y=x^n$の形(冪乗)の関数のグラフを見よう。

 このグラフはxもyも-2から2までの範囲で描かれている。nは下のボタンで変えることができるので、いろんな値で関数がどのようなグラフになるのかを実感しよう。

n=1

このグラフを見て、気づくことはなんだろう??
グラフがこうになったり、こうなったしてます。
そう、まず一つ、それが大事。$n$が偶数か奇数で変わるね。式を見ても、$n$が偶数なら負にならない、ということからこの形になる理由はわかるよね。
他には??特に「nが増加するとどうなるか?」という変化について気がついたことは?
$n$が大きいとグラフが平たくなる。
$n$が大きくなると$x=0$付近のグラフが平坦に近くなっていくね。これも大事なことです。たとえば$x={1\over2}$の時を考えると、$n=2$なら${1\over 4}$、$n=3$なら${1\over 8}$って感じで小さくなって、0に近づく。逆に1より大きいところを見ると、どんどん大きくなっていく。

 このことから、変数$x$が1より小さい範囲では、$n$が大きい項は重要度が低い(計算に大きく寄与しない可能性が高い)ということになる。これは自然科学でいろんな量を考える時、とても大事。

 もちろん、逆に変数$x$が1より大きい範囲では、$n$が大きい項の方が重要になる。

 $x^n$の形の関数について、大事なところを確認しておくと、

←次数低い   次数高い→
$\cdots,{1\over x^3},{1\over x^2},{1\over x},1,x,x^2,x^3,\cdots$
$x\ll 1$の時←次数低いほど大事
$x\gg 1$の時次数高いほど大事→

ということである。数学としても大事だが、「自然科学で測定量などを調べて考える」ときもこの「どの項が大事か」という感覚は必要である。

たとえば万有引力は距離の自乗に反比例(${1\over x^2}$の形)だから遠方にいくと大事ではない。我々にとって地球の重力は大事だが火星の重力は大事ではない、というのはこのような式の形から決まっている。
いろいろな関数のグラフ 1次関数へ

1次関数

 前節まで、n次式で表された関数を考えてきたが、さらにいろんな冪の関数を足したものを考えていくことにしよう。$5,8x,4x^3y^2,\cdots$などのように、定数と変数のn乗(ここでのnは0以上の整数)になる式を「たんこうしき(monominal)」と呼び、単項式を足して(あるいは引いて)できた式を「こうしき(polynomial)」と呼ぶ。変数(文字)を含まない項は「定数項」と呼ぶ。xnが掛算されている項は「n次の項」と呼ばれる($n=0$の場合が「定数項」である)。最大の次数の項がn次の単項式である多項式は「n次の多項式」と言う。$x^4-3x^2+5$は「$x$に関して4次の多項式」である(「n次の多項式」は「nより小さい次数の単項式」を含んでよい)。

1次関数

 y=ax+b(a,bは定数)の形、すなわち1次の多項式の形の関数を「1次関数」と呼ぶ。ここで、bは0でも構わないが、a≠0である(でないと、1次式でなくなってしまう)。aを「傾き」、bを「切片(またはy切片)」と呼ぶ。1次関数のグラフは正比例同様「直線」となる。

 下の動くグラフでa,bを変化させた時のグラフの変化を実感しよう。xsy
a,bは下のボタンで変えることができるので、いろんな値で関数がどのようなグラフになるのかを実感しよう。

y=
x
+1

 bの意味がx=0のときのyであることは式を見てもわかる。一方aは増加率すなわち~xが1増えたとき、yがどれだけ増えるかという意味を持つ。この「1次の項の係数が増加率を表す」という点は後々重要になるだろう。

 図では、aはまさに「線の傾き」を表現している。

累乗関数へ 2次関数へ→

2次関数

 y=ax2+bx+cの形、すなわち2次の多項式の形の関数を「2次関数」と呼ぶ。そのグラフは「放物線(parabola)」と呼ばれるこの線は物体を放り投げた時の軌跡なので「放物」と名付けられている。。このページでは、y=ax2+bx+cの形の関数(2次関数)のグラフを見よう。

 a,b,cは下のボタンで変えることができるので、いろんな値で関数がどのようなグラフになるのかを実感しよう。

y=
x2
+x
+1

 これでわかるように$b,c$は放物線の位置を決めるパラメータ関数の独立変数とは別の「変化できる量」をパラメータ(媒介変数)と呼ぶ。であり、$b,c$を変えても形は変わらず、平行移動するだけである。一方、$a$が変化すると放物線の形が変わる。

 1次の係数$b$の図形的意味はなんだろう??----$c=0$にして、原点付近を見ているとわかる。
 定数項を0にして、2次の係数を固定して$b$を変化させた時の原点付近をよく見ていると、この原点での曲線の傾き具合こそが、この$b$が表現している量であることがわかる。
 累乗のときに話したように、$x=0$付近ではまず定数項が、次に$x$の1次の項が大きく、それに比べて2次の項は小さい。つまり原点付近だけを見ているときは、1次の項の係数($x=0$での傾き)が重要なのである。
 この「2次の係数はとりあえず忘れて、1次の係数を見れば傾きがわかる」ということは、後で出てくる微分の考え方にもつながるので、重要である。この「近所だけを見て判断する」というのも自然科学で大事な考え方だ。
1次関数へ 受講者の感想・コメント

受講者の感想・コメント

 青字は受講者からの声、赤字は前野よりの返答です。

 主なもの、代表的なもののみについて記し、回答しています。

タブレットの時間20分ずれてます。
実は時間は全く、合わせてません(^_^;)。というわけでずれてても気にしないでください。

タブレットを使う授業は始めてで、グラフを自分の手で動かせるのでわかりやすかった(同様の関数多数)。
これからも使っていきます。

$n$次関数の$n$が400を超えると変化が見れないぐらい微妙だった。
そこまでいくともうあまり差がわからないでしょうね。

タブレットでグラフが動くとわかりやすくていいなと思ったんですが、$y=x^n$で$n$が1000以上まで行く機能はいらないなと思いました。
確かに、いらないですねぇ(←つけたのは私だけど)。

$n$次関数のものは、1498乗以降グラフが消えました。
その辺でコンピュータが計算できなくなったかな。

関数の見方が変わった。今まではただのグラフとしか見てなかったが、今は1次は傾きを表し、2次は曲がり具合を表しているのが理解できる。
その二つはこれからもとても大事です。」

$n$を大きくしたら($n\to\infty$)、グラフがになりそう。
なるでしょうねぇ。

$y=x^n$の変化のしかたがおもしろいと思った。$y=ax^2+bx+c$の形も、$b$の変化での動き方などなじみのある関数でも新しい発見がたくさんあっておもしろかった。
変化を頭でイメージしましょう。

白菜にキムチすり込むのは朝がいいですか?夜がいいですか?
う〜ん、料理しないからわからないです。

質問したくなったがすぐに聞いていきます。
そうしてください、お願いします。

2次関数の1次の項の係数の意味は考えたことがなかったがおもしろかった(同様の関数多数)。
実は、深〜〜〜い意味があります。

自分は数学が苦手です。それはなぜかというと公式を覚えるのが難しいからです。でも今日、覚えるのじゃなくて理解して、使えるようであればいいと聞いて、少し自分でもできると思えることができました。
「おぼえる」のは勉強ではないので、「なぜ」と「どう使うか」を理解していきましょう。

クーラーの温度下げてください(同主旨多数)
私は授業中はしゃべることしか考えてないんで、下げたいなら勝手に下げてください。

タブレットの授業は始めてですが、自分でグラフを動かすのは楽しかった(同様の感想多数)。
楽しみながら、数学してください。

原点付近を考えるときは次数が少ない関数を重視することがわかった。
それ、とても大事な考えです。

先生関西の人ですか?
神戸生まれです。

はじめの様々な関数のグラフのページで、logならlogのグラフが出てきますが、この線を消すことができた方が学ぶときに有益だと重ます。というのも既にグラフの全貌がわかっていると$x$を動かしてそれに対応する$y$の値が動くという関数の本質がわかりずらく、ただレール上を動いているだけだと感じる学生もいるかと…。
うーん、なるほど。でも今の場合「関数」は最初から自分で選んでいますので。実は後でやる微分方程式のプログラムでは、少しずつ関数が現れるようになってます。

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