偏微分の注意(続き)

$\def\intdx{\opcol{\int \mathrm dx}}\def\E{\mathrm e}\def\I{\mathrm i}\definecolor{opcol}{RGB}{149,139,0}\definecolor{hai}{RGB}{137,137,137}\definecolor{tcol}{RGB}{166,54,109}\definecolor{kuro}{RGB}{0,0,0}\definecolor{xcol}{RGB}{169,103,49}\def\opcol#1{{\color{opcol}#1}}\def\ddx{\opcol{{\mathrm d\over \mathrm dx}}}\def\ddt{\opcol{{\mathrm d\over \mathrm dt}}}\def\xcol#1{{\color{xcol}#1}}\definecolor{ycol}{RGB}{217,61,137}\def\ycol#1{{\color{ycol}#1}}\def\haiiro#1{{\color{hai}#1}}\def\kuro#1{{\color{kuro}#1}}\def\kakko#1{\haiiro{\left(\kuro{#1}\right)}}\def\coldx{{\color{xcol}\mathrm dx}}\def\Odr{{\cal O}}\definecolor{ncol}{RGB}{217,51,43}\def\ncol#1{{\color{ncol}#1}}\definecolor{zcol}{RGB}{196,77,132}\def\zcol#1{{\color{zcol}#1}}\definecolor{thetacol}{RGB}{230,0,39}\def\thetacol#1{{\color{thetacol}#1}}\def\diff{\mathrm d}\def\kidb{\opcol{\mathrm db}}\def\kidx{\opcol{\mathrm dx}}\def\coldy{\ycol{\mathrm dy}}\def\coldtheta{\thetacol{\mathrm d\theta}}\def\ddtheta{\opcol{{\mathrm d\over\mathrm d\theta}}}\def\tcol#1{{\color{tcol}#1}}\def\coldt{\tcol{\mathrm dt}}\def\kidtheta{\opcol{\mathrm d\theta}}\def\dtwodx{\opcol{\diff^2\over\diff x^2}}\def\kokode#1{{↓#1}}\def\goverbrace{\overbrace}\def\coldz{\zcol{\mathrm dz}}\def\kidt{\opcol{\mathrm dt}}\definecolor{rcol}{RGB}{206,114,108}\def\rcol#1{{\color{rcol}#1}}\def\coldtwox{\xcol{\mathrm d^2x}}\def\PDC#1#2#3{{\opcol{\left(\opcol{{\partial \kuro{#1}\over \partial #2}}\right)}}_{#3}}\def\PDIC#1#2#3{{\opcol{\left(\opcol{\partial \over \partial #2}\kuro{#1}\right)}}_{#3}}\def\PD#1#2{{\opcol{\partial \kuro{#1}\over \partial #2}}}\def\PPDC#1#2#3{{\opcol{\left(\opcol{\partial^2 \kuro{#1}\over \partial #2^2}\right)}}_{#3}}\def\PPDD#1#2#3{{\opcol{{\partial^2 \kuro{#1}\over \partial #2\partial #3}}}}\def\PPD#1#2{{\opcol{{\partial^2 \kuro{#1}\over \partial #2^2}}}}$
偏微分の計算を行うときに誤りやすい注意点として、 $$ \PDC{z\kakko{\xcol{x},\ycol{y}}}{\ycol{y}}{\xcol{x}} \PDC{y\kakko{\xcol{x},\zcol{z}}}{\xcol{x}}{\zcol{z}} = - \PDC{z\kakko{\xcol{x},\ycol{y}}}{\xcol{x}}{\ycol{y}} $$ または $$ \PDC{z\kakko{\xcol{x},\ycol{y}}}{\ycol{y}}{\xcol{x}} \PDC{y\kakko{\xcol{x},\zcol{z}}}{\xcol{x}}{\zcol{z}} \PDC{x\kakko{\ycol{y},\zcol{z}}}{\zcol{z}}{\ycol{y}}=-1 $$ という式について述べ、図解でそれを示したところで先週は終わった。

 例として、$\xcol{x}^2+\ycol{y}^2+\zcol{z}^2=R^2$が成り立つ、すなわち3次元の中の球面(2次元的広がり)の上に$(\xcol{x},\ycol{y},\zcol{z})$がある)場合を考えよう。この場合$\zcol{z}=\pm\sqrt{R^2-\xcol{x}^2-\ycol{y}^2}$とか$\ycol{y}=\pm\sqrt{R^2-\xcol{x}^2-\zcol{z}^2}$のような関係式がある。複号があると考えるのが面倒なので、考える範囲を$\xcol{x},\ycol{y},\zcol{z}$が全て正である領域に限ろう(複号は全て正をとる)。微分を実行すると、 \begin{equation} \PDC{z\kakko{\xcol{x},\ycol{y}}}{\ycol{y}}{\xcol{x}} =- {\ycol{y}\over \sqrt{R^2-\xcol{x}^2-\ycol{y}^2}},~~~~ % \PDC{y\kakko{\xcol{x},\zcol{z}}}{\xcol{x}}{\zcol{z}} \PDC{y\kakko{\xcol{x},\zcol{z}}}{\xcol{x}}{\zcol{z}} =- {\xcol{x}\over \sqrt{R^2-\xcol{x}^2-\zcol{z}^2}} \end{equation} である。この二つの掛算をし、$\sqrt{R^2-\xcol{x}^2-\zcol{z}^2}=\ycol{y}$であることを使うと、 \begin{equation} \PDC{z\kakko{\xcol{x},\ycol{y}}}{\ycol{y}}{\xcol{x}} \PDC{y\kakko{\xcol{x},\zcol{z}}}{\xcol{x}}{\zcol{z}} ={\ycol{y}\over \sqrt{R^2-\xcol{x}^2-\ycol{y}^2}}\times{\xcol{x}\over \sqrt{R^2-\xcol{x}^2-\zcol{z}^2}} ={\xcol{x} \over \sqrt{R^2-\xcol{x}^2-\ycol{y}^2}} \end{equation} となる。一方、 \begin{equation} \PDC{z\kakko{\xcol{x},\ycol{y}}}{\xcol{x}}{\ycol{y}} =- {\xcol{x}\over \sqrt{R^2-\xcol{x}^2-\ycol{y}^2}} \end{equation} だから、この二つの式から \begin{equation} \PDC{z\kakko{\xcol{x},\ycol{y}}}{\ycol{y}}{\xcol{x}} \PDC{y\kakko{\xcol{x},\zcol{z}}}{\xcol{x}}{\zcol{z}} = - \PDC{z\kakko{\xcol{x},\ycol{y}}}{\xcol{x}}{\ycol{y}}\label{henbibunminus} \end{equation} という関係になっている(右辺のマイナス符号に注意!)。

 授業では、以上の計算をノートにやってもらいながら説明した。早く計算が終わった人は、もっと簡単な例として、 $$ \zcol{z}=\xcol{x}+\ycol{y} $$ を考えてもらった。
$\zcol{z}=\xcol{x}+\ycol{y}$を$\xcol{x}$で微分したら、$0=1+0$になっちゃいませんか?
 なるほどいっけんそうなりそうに思えてしまうけど、今は自由度2で計算していて、「$\xcol{x}$での微分」は「$\ycol{y}$を一定とした$\xcol{x}$による微分」と「$\zcol{z}$を一定とした$\xcol{x}$による微分」の二つがある(標語「偏微分には方向がある」)ことに注意しよう。
 「$\ycol{y}$を一定とした$\xcol{x}$による微分」を行なうとき、$\zcol{z}$は$\xcol{x}$に連動して変化する。この場合、$\PDC{z\kakko{\xcol{x},\ycol{y}}}{\xcol{x}}{\ycol{y}}=\PDC{(\xcol{x}+\ycol{y})}{\xcol{x}}{\ycol{y}}=1$である。よって、$\zcol{z}=\xcol{x}+\ycol{y}$を$\xcol{x}$で微分したら、$1=1+0$なのだ。
 逆に、$\PDC{y\kakko{\xcol{x},\zcol{z}}}{\xcol{x}}{\zcol{z}}=\PDC{(\zcol{z}-\xcol{x})}{\xcol{x}}{\zcol{z}}=-1$である。こちらの場合、$\zcol{z}=\xcol{x}+\ycol{y}$を$\xcol{x}$で微分したら、$0=1-1$ である。
 どちらの場合も、うまく行っている。

 では、一般的に考えよう。$\xcol{x},\ycol{y},\zcol{z}$という3次元の空間を考えて、ある関係式(上の例では$\xcol{x}^2+\ycol{y}^2+\zcol{z}^2=R^2$であった)があることによりこのうち二つが独立であったとする。関係があるのだから、三つの変数のうち一つを他の二つで表すことができるつまり、自由度2である。我々は三つの変数の中から2個を選んで計算を行なうことになる。。そこで \begin{equation} \xcol{x}=X\kakko{\ycol{y},\zcol{z}},~ \ycol{y}=Y\kakko{\xcol{x},\zcol{z}},~ \zcol{z}=Z\kakko{\xcol{x},\ycol{y}} \end{equation} という三つの式を作ることができたものとしよう。第3の式に第2の式を代入すると、 \begin{equation} \zcol{z}=Z\kakko{\xcol{x},Y\kakko{\xcol{x},\zcol{z}}}\label{zz} \end{equation} という式ができる。この段階で、$\ycol{y}$という変数は消えて、$Y\kakko{\xcol{x},\zcol{z}}$という関数に置き換えられたので、変数は$\xcol{x},\zcol{z}$の二つである。

 計算の結果、この式は$\zcol{z}=\zcol{z}$という当たり前の式に戻る筈である。

 上の例の$\zcol{z}=\pm\sqrt{R^2-\xcol{x}^2-\ycol{y}^2}$$\ycol{y}=\pm\sqrt{R^2-\xcol{x}^2-\zcol{z}^2}$を代入してみると、 \begin{equation} \zcol{z}=\pm\sqrt{R^2-\xcol{x}^2-(R^2-\xcol{x}^2-\zcol{z}^2)}=\pm\sqrt{\zcol{z}^2}\label{zzkekka} \end{equation} となって、$\zcol{z}=\zcol{z}$になる(もともと複号は$\zcol{z}$が正なら$+$、負なら$-$だったから、右辺は$\zcol{z}$にしてよい)。

 つまり、この式の右辺は$\xcol{x}$を含んでいるように見えるが、実は含んでいない(計算をすれば消えてしまう)。ここで、両辺を「$\zcol{z}$を一定として$\xcol{x}$で微分」する。計算するまでもなく($\zcol{z}$を一定としているのだから)左辺の微分は0である。一方右辺は$\xcol{x}$が2箇所にあることから微分の結果は二つの式の和となり、結果が0となる(二つの項が打ち消す)。すなわち、

のように微分を行って、 $$ \overbrace{\PDC{Z\kakko{\xcol{x},Y}}{\xcol{x}}{Y}}^{左の\xcol{x}を微分} +\overbrace{\PDC{Z\kakko{\xcol{x},Y}}{Y}{\xcol{x}}\PDC{Y\kakko{\xcol{x},\zcol{z}}}{\xcol{x}}{\zcol{z}}}^{右の\xcol{x}を微分} $$ が導かれる。

 以下のようにして導くこともできる。 \begin{equation} \mathrm dz\kakko{\xcol{x},\ycol{y}}=\PDC{{f\kakko{\xcol{x},\ycol{y}}}}{\xcol{x}}{\ycol{y}}\coldx +\PDC{{z\kakko{\xcol{x},\ycol{y}}}}{\ycol{y}}{\xcol{x}}\coldy \label{zenbibunf} \end{equation} という式を作り、「$\zcol{z}$は変化しない」と条件を置く。すると \begin{equation} \begin{array}{rll} \PDC{{z\kakko{\xcol{x},\ycol{y}}}}{\xcol{x}}{\ycol{y}}\coldx +\PDC{{z\kakko{\xcol{x},\ycol{y}}}}{\ycol{y}}{\xcol{x}}\coldy &=0&\kokode{左辺第2項を右辺へ}\\ \PDC{{z\kakko{\xcol{x},\ycol{y}}}}{\ycol{y}}{\xcol{x}}\coldy =&-\PDC{{z\kakko{\xcol{x},\ycol{y}}}}{\xcol{x}}{\ycol{y}}\coldx&\kokode{両辺を\coldx で割る} \\ \PDC{{z\kakko{\xcol{x},\ycol{y}}}}{\ycol{y}}{\xcol{x}}{\coldy\over \coldx} =&-\PDC{{z\kakko{\xcol{x},\ycol{y}}}}{\xcol{x}}{\ycol{y}} \end{array}\end{equation} のように計算した後、「$\zcol{z}$は変化しない」条件のもとでは${\coldy\over \coldx}=\PDC{y\kakko{\xcol{x},\zcol{z}}}{\xcol{x}}{\zcol{z}}$であることを使う。

全微分

全微分と偏微分

 「関数$f\kakko{\xcol{x},\ycol{y}}$の微小変化」を表す量は、以下の式のように書ける。


関数$f\kakko{\xcol{x},\ycol{y}}$の全微分

\begin{equation} \mathrm df\kakko{\xcol{x},\ycol{y}}=\PDC{f\kakko{\xcol{x},\ycol{y}}}{\xcol{x}}{\ycol{y}}\coldx+\PDC{f\kakko{\xcol{x},\ycol{y}}}{\ycol{y}}{\xcol{x}}\coldy\label{koregazenbibun} \end{equation}


 この$\diff\left( ? \right)$という形の式を「?の全微分(exact differential)」と言う。前に「偏微分には方向がある」と述べたが、上の式は「$\xcol{x}$方向の偏微分係数$\PDC{f\kakko{\xcol{x},\ycol{y}}}{\xcol{x}}{\ycol{y}}$」と「$\ycol{y}$方向の偏微分係数$\PDC{f\kakko{\xcol{x},\ycol{y}}}{\ycol{y}}{\xcol{x}}$」の二つを含む全微分から「$\xcol{x}$方向でも$\ycol{y}$方向でもない斜め方向の微分」を考えることができる。

 全微分の式は(常微分のとき\文中式{$f\kakko{\xcol{x}}$の変化が$f'\kakko{\xcol{x}}\coldx$と書けた}のと同様に)

 $f\kakko{\xcol{x},\ycol{y}}$に起こる変化のうち、
  • $\xcol{x}$の変化によって起こる変化は$\PDC{f\kakko{\xcol{x},\ycol{y}}}{\xcol{x}}{\ycol{y}}\coldx$と書け、
  • $\ycol{y}$の変化によって起こる変化は$\PDC{f\kakko{\xcol{x},\ycol{y}}}{\ycol{y}}{\xcol{x}}\coldy$と書ける。

というふうに「読む」べきである。

 $f\kakko{\xcol{x},\ycol{y}}$の全微分のうち$\coldx$の係数である$\PDC{f\kakko{\xcol{x},\ycol{y}}}{\xcol{x}}{\ycol{y}}$を取り出したもの($\ycol{y}$方向も同様)が「偏微分」である。ベクトルを$\vec A=A_x\vec{\mathbf e}_x+A_y\vec{\mathbf e}_y$と$\xcol{x}$成分と$\ycol{y}$成分に分けて表現する($\vec A$の$\xcol{x}$成分が$A_x$、$\vec A$の$\xcol{y}$成分が$A_y$)のと同様に、$\mathrm df\kakko{\xcol{x},\ycol{y}}$の$\xcol{x}$成分(のようなもの)が$\PDC{f\kakko{\xcol{x},\ycol{y}}}{\xcol{x}}{\ycol{y}}$、$\mathrm df\kakko{\xcol{x},\ycol{y}}$の$\ycol{y}$成分(のようなもの)が$\PDC{f\kakko{\xcol{x},\ycol{y}}}{\ycol{y}}{\xcol{x}}$}である$\coldx$や$\coldy$が$\vec{\mathbf e}_x$や$\vec{\mathbf e}_y$のような基底ベクトルの役割を果たしている。と思ってよい。


 全微分を考えることの意義の一つとして、「全微分は変数の取り方によらない」ということがある。偏微分$\PD{f}{\xcol{x}},\PD{f}{\ycol{y}}$は我々1がどのように座標(たとえば$\xcol{x},\ycol{y}$)を選んだかによって変わる量である(後で、これを使って偏微分の関係を導こう)が、全微分として組み合わされた$\PDC{f\kakko{\xcol{x},\ycol{y}}}{\xcol{x}}{\ycol{y}}\coldx+\PDC{f\kakko{\xcol{x},\ycol{y}}}{\ycol{y}}{\xcol{x}}\coldy$は座標を変えても変わらない量になる(もともと、$f\kakko{\xcol{x},\ycol{y}}$の変化量という意味のある量だから)。

 全微分は座標に依らない。しかしその一部を取り出した偏微分(たとえば$\xcol{x}$方向の偏微分は$\PDC{f}{\xcol{x}}{\ycol{y}}$)は座標の取り方によって変わる($\xcol{x}$座標や$\ycol{y}$座標が変わってしまえば、$\PDC{f}{\xcol{x}}{\ycol{y}}$も変わらずにいられない)。

 これは、「ベクトル$\vec A$は座標系によらずに(人間がどんな座標系を取るかに関係なく)存在するが、それを$\vec A=A_x\vec{\mathbf e}_x+A_y\vec{\mathbf e}_y$と表現したときの$\xcol{x}$成分$A_x$や$\ycol{y}$成分$A_y$は座標系に依存した量である」のと同様であるベクトルの場合も、座標系を指定せず$\vec A$と書く方が便利なときもあれば、$A_x,A_y$という成分を考えた方が便利なときもある(一般的な話をするときほど、座標系によらない書き方が有利になる)。同様に、全微分と偏微分が役に立つ場面がそれぞれにある。


 たとえば横$\xcol{x}$、縦$\ycol{y}$の長方形の面積$\rcol{S}=\xcol{x}\ycol{y}$の全微分はライプニッツ則により \begin{equation} \mathrm dS=\underbrace{\coldx \ycol{y}}_{\xcol{x}を微分した項}+ \underbrace{\xcol{x}\coldy}_{\ycol{y}を微分した項} \end{equation} となる。面積は、$\xcol{x}$が$\coldx$増加すれば、$\ycol{y}\coldx$だけ、$\ycol{y}$が$\coldy$増加すれば、$\xcol{x}\coldy$だけ増加することを上の式は表している。

 数式で表現すれば、$\PDC{(\xcol{x}\ycol{y})}{\xcol{x}}{\ycol{y}}=\ycol{y}$と、$\PDC{(\xcol{x}\ycol{y})}{\ycol{y}}{\xcol{x}}=\xcol{x}$ということになる。

全微分が0になる条件

 ある関数の全微分が0になる条件を知ることが大切な場合があるので、その例について話しておこう。

例1:$S=\xcol{x}\ycol{y}$

 上でも考えた$\rcol{S}=\xcol{x}\ycol{y}$を考えよう。この$\rcol{S}$の全微分が0になるということは、すなわち$\rcol{S}$が一定だということである。

 $\rcol{S}$が一定という条件がついていない場合を上のように図で表現すると、$\xcol{x},\ycol{y},\rcol{S}$という3次元座標(自由度3)に$\rcol{S}=\xcol{x}\ycol{y}$という制限がつくことで、2次元の面(曲面)が表現されている。すなわち、$\rcol{S}$が自由な値を取るとき、$\rcol{S}=\xcol{x}\ycol{y}$が表すのは2次元の曲面である(自由度2)。$\rcol{S}$が一つの値$S$に固定(条件$S(定数)=\xcol{x}\ycol{y}$)されると、自由度はさらに一つ減り1になる。結果として、$S(定数)=\xcol{x}\ycol{y}$が表すのは1次元的な線(曲線)になる。

 変数である$\rcol{S}$に対する$\rcol{S}=\xcol{x}\ycol{y}$が「山の地表面」を表すと考えると、定数となった$S$に対する$S=\xcol{x}\ycol{y}$が表現するのはいわば「等高線」である。それも図に示した。$\rcol{S}$を一定にしたことにより、1変数関数($\xcol{x}$と$\ycol{y}$のどちらかが独立変数で、もう片方が従属変数)となっている。 面積を一定に$\rcol{S}=\xcol{x}\ycol{y}=C(定数)$を保ちつつ、すなわち$\rcol{ S}$の全微分を0($\dS=0$)にしつつ$\xcol{x}$と$\ycol{y}$を変化させる様子を図示すれば右の図のようになる。このときの$\coldx$と$\coldy$は0ではないが、$\coldx \ycol{y}+\xcol{x}\coldy=0$という関係を持つ。この式は${\coldy\over \coldx}=-{\ycol{y}\over \xcol{x}}$または$\coldx:\coldy=\xcol{x}:(-\ycol{y})$と書き直すこともできる。

 $\ycol{y}\coldx + \xcol{x}\coldy=0$をグラフで表現したのが上の図である。定数である$S$を一つ指定することで線(この場合は双曲線になる)が引ける。ここでは$\xcol{x}\ycol{y}=1$のグラフのみを描いた。グラフ上に表現したように、$\coldx:\coldy=\xcol{x}:(-\ycol{y})$となっていて、$(\xcol{x},\ycol{y})$を斜辺とする直角三角形と$(\coldx,\coldy)$を斜辺とする直角三角形は、上下をひっくり返した相似形である。

 $\ycol{y}\coldx + \xcol{x}\coldy=0$から$\xcol{x}\ycol{y}=一定$を求めるのは、各点における接線の傾きからこの双曲線を導き出す計算であり、逆に「全微分を求める」というのは双曲線から接線の傾きを($\coldx$と$\coldy$の比の形で)求める計算だったと思ってもよい。

例2:$R=\sqrt{\xcol{x}^2+\ycol{y}^2}$

 $\xcol{x}$と$\ycol{y}$が$\sqrt{\xcol{x}^2+\ycol{y}^2}$が一定であるという関係を持っている場合、$\xcol{x}$と$\ycol{y}$それぞれの変化量である$\coldx$と$\coldy$も独立ではない。$\sqrt{\xcol{x}^2+\ycol{y}^2}=R\kakko{一定}$を保ちつつ(グラフ上では、原点を中心とする半径$R$の円の上に乗りつつ)変化させた様子を描いたのが次の図である。

 右の相似な三角形に注意すると、$\coldx$と$\coldy$の間に \begin{equation} \xcol{x}\coldx+\ycol{y}\coldy=0\label{xdxydyzero} \end{equation} という式が出る。一方、$\sqrt{\xcol{x}^2+\ycol{y}^2 }$の全微分が0である元々の$\sqrt{\xcol{x}^2+\ycol{y}^2}=R$の右辺が定数$R$で、定数の全微分は0だから。という条件は \begin{equation} \goverbrace{{\xcol{x}\over\sqrt{\xcol{x}^2+\ycol{y}^2 }}}^{\PD{\sqrt{\xcol{x}^2+\ycol{y}^2 }}{\xcol{x}}}\coldx + \goverbrace{{\ycol{y}\over\sqrt{\xcol{x}^2+\ycol{y}^2 }}}^{\PD{\sqrt{\xcol{x}^2+\ycol{y}^2 }}{\ycol{y}}}\coldy=0 \end{equation} という、本質的に(両辺に$\sqrt{\xcol{x}^2+\ycol{y}^2 }$を掛ければ)上と同じ式になる。

 この$\xcol{x}\coldx+\ycol{y}\coldy=0$という式は、$(\xcol{x},\ycol{y})\cdot \left(\coldx,\coldy\right)=0 $のように$\left(\coldx,\coldy\right)$というベクトル(図の$\overrightarrow{\rm PQ}$)と$\left(\xcol{x},\ycol{y}\right)$というベクトル(図の$\overrightarrow{\rm OP}$)の内積が0(垂直)という式だと解釈することもできる。これは「円の接線」の性質に合致している。つまりこの$\sqrt{\xcol{x}^2+\ycol{y}^2}$を一定としての全微分は「$\thetacol{\theta}$方向の微分」になる。

 以上、二つの例を示したが、全微分$=0$の条件が「$\xcol{x}$と$\ycol{y}$の間にある関係式が成り立つ」ことであり、「$\xcol{x}$-$\ycol{y}$グラフの上の曲線で表現される」ことでもあるという点を理解して欲しい。つまり2変数を含むに対する全微分$=0$の条件は関数を一つ決めているのであり、これも一種の微分方程式である。

 ある常微分方程式${\coldy\over \coldx}=f\kakko{\xcol{x},\ycol{y}}$$P\kakko{\xcol{x},\ycol{y}}\coldx + Q\kakko{\xcol{x},\ycol{y}}\coldy =0$と変形して、なんらかの計算の後に$\diff\left(なんとか\right)=0$の形にまとめ直すことができれば(すなわち、全微分$=0$の形に書き直すことができれば)、$なんとか=定数$と積分ができる。

 つまり、$P\kakko{\xcol{x},\ycol{y}}\coldx + Q\kakko{\xcol{x},\ycol{y}}\coldy$を$\PDC{f\kakko{\xcol{x},\ycol{y}}}{\xcol{x}}{\ycol{y}}\coldx+\PDC{f\kakko{\xcol{x},\ycol{y}}}{\ycol{y}}{\xcol{x}}\coldy$の形に直す、という方針で微分方程式を解くのである。

 以下の微分方程式を$\diff (なんとか)$の形にして解いてみよう。 $$ {\ycol{y}\over \xcol{x}}\coldx + (\log\xcol{x})\coldy=0 $$ これは${\ycol{y}\over \xcol{x}}=\PD{(\ycol{y}\log\xcol{x})}{\xcol{x}}$と$\log\xcol{x}=\PD{(\ycol{y}\log\xcol{x})}{\ycol{y}}$に気づけば、 $$ \diff\left(\ycol{y}\log\xcol{x}\right)=0 $$ と変形できることに気づく。

 ゆえに解は $$ \ycol{y}\log\xcol{x}=C(定数) $$ である。

 上の場合は少し探すと答が見つかったが、実はこれが「運が良かった」のである。たとえば、 $$ -\ycol{y}\coldx+\coldy=0 $$ という微分方程式をなにかの全微分にしょうとしても、うまくいかないだろう。実はこの式は$\E^{-\xcol{x}}$を掛けて $$ - \ycol{y}\E^{-\xcol{x}}\coldx + \E^{-\xcol{x}}\coldy $$ と直すと、全微分形 $$ \diff\left(\ycol{y}\E^{-\xcol{x}}\right)=0 $$ になる。

 以上の例から、解ける微分方程式であっても、単に$P\coldx+Q\coldy=0$の形にしただけでは全微分形にはなっていないこともあることがわかる。しかし、適当に何らかの関数を掛けてやることで全微分形に直していくことができる場合もある。

 以下のような問題を考えよう。

式$P\kakko{\xcol{x},\ycol{y}}\coldx+Q\kakko{\xcol{x},\ycol{y}}\coldy$は、何かの式の全微分だろうか?

 ある関数$U\kakko{\xcol{x},\ycol{y}}$があったとすると、その全微分は \begin{equation} \underbrace{ \PDC{U\kakko{\xcol{x},\ycol{y}}}{\xcol{x}}{\ycol{y}}}_{P\kakko{\xcol{x},\ycol{y}}?}\coldx +\underbrace{ \PDC{U\kakko{\xcol{x},\ycol{y}}}{\ycol{y}}{\xcol{x}}}_{Q\kakko{\xcol{x},\ycol{y}}?}\coldy=0 \end{equation} だから、 \begin{equation} \PDC{U\kakko{\xcol{x},\ycol{y}}}{\xcol{x}}{\ycol{y}}=P\kakko{\xcol{x},\ycol{y}},~~~ \PDC{U\kakko{\xcol{x},\ycol{y}}}{\ycol{y}}{\xcol{x}}=Q\kakko{\xcol{x},\ycol{y}} \end{equation} となるような$U\kakko{\xcol{x},\ycol{y}}$は見つけることができればよい。問題は、$P\kakko{\xcol{x},\ycol{y}},Q\kakko{\xcol{x},\ycol{y}}$の形によっては解が見つからないことである。

 そこで、$U\kakko{\xcol{x},\ycol{y}}$が見つかるための必要条件を求めておこう(これがあれば「あ、この場合は全微分にできない」ということがすぐわかる)。微分可能な関数$f\kakko{\xcol{x},\ycol{y}}$の偏微分が持つべき性質として、「偏微分の交換可能性」があった。その式から、 \begin{equation} Uが存在する。\Rightarrow \biggl(\opcol{\partial \over \partial x}\underbrace{\PDC{U\kakko{\xcol{x},\ycol{y}}}{\ycol{y}}{\xcol{x}}}_{Q\kakko{\xcol{x},\ycol{y}}}\biggr)_{\!\!\ycol{y}}= \biggl(\opcol{\partial \over \partial y}\underbrace{\PDC{U\kakko{\xcol{x},\ycol{y}}}{\xcol{x}}{\ycol{y}}}_{P\kakko{\xcol{x},\ycol{y}}}\biggr)_{\!\!\xcol{x}} \end{equation} がわかる。よって \begin{equation} \PDC{P\kakko{\xcol{x},\ycol{y}}}{\ycol{y}}{\xcol{x}}= \PDC{Q\kakko{\xcol{x},\ycol{y}}}{\xcol{x}}{\ycol{y}}~~~または~~~ \PDC{Q\kakko{\xcol{x},\ycol{y}}}{\xcol{x}}{\ycol{y}}- \PDC{P\kakko{\xcol{x},\ycol{y}}}{\ycol{y}}{\xcol{x}}=0\label{sekibunkanou} \end{equation} は$\diff\left(U\kakko{\xcol{x},\ycol{y}}\right)=P\kakko{\xcol{x},\ycol{y}}\coldx+Q\kakko{\xcol{x},\ycol{y}}\coldy$となる$U$が存在するための条件となる。

 たとえばさっきの${\ycol{y}\over \xcol{x}}\coldx + (\log\xcol{x})\coldy$なら、$\PD{{\ycol{y}\over \xcol{x}}}{\ycol{y}}={1\over\xcol{x}},\PD{(\log\xcol{x})}{\xcol{x}}={1\over\xcol{x}}$となって成立。
一方、$-\ycol{y}\coldx+\coldy$では、$\PD{(-\ycol{y})}{\ycol{y}}=-1,\PD{(1)}{\xcol{x}}=0$で不成立。

 この条件の詳細については、次回。

受講者の感想・コメント

 青字は受講者からの声、赤字は前野よりの返答です。

全微分で微分方程式を解くのも楽しかったですが、全微分から円の接線は半径に垂直という性質がわかったのが特に感動しました。
微分という計算の中に、いろんな情報が入ってます。

全微分で微分方程式を解くのはすごく便利そう(同様の感想多数)。
便利です。次回、じっくりやりましょう。

全微分を考えると、一つの式にいろんな情報が入っているのが面白かった。
多変数関数を微分すると、いろんな情報が出てきます。

偏微分では固定する変数が大事だということがわかった。
そうなんです、そこが大事。

今日、生物学の授業で後期の最後あたりにやった動物の増減の話があって、あ〜つかうんだってなった。
おお、微分方程式が役にたちましたね。

変数分離だと面倒そうな式が全微分にしたらすっきりしたのでびっくりしました。
それぞれの方法に、長所短所があります。

冬休みしっかり復習したい(同様の感想多数)。
やりましょう!!!

来年もよろしくお願いします(同様の感想とっても多数)
こちらこそ、よろしくお願いします。