M 自然科学のための数学第13回 自然科学のための数学2017年度第13講

常微分方程式

$\def\coldr{\rcol{\mathrm dr}}\def\coldvecx{\xcol{\mathrm d\vec x}}\def\intdx{\opcol{\int \mathrm dx}}\def\E{\mathrm e}\def\I{\mathrm i}\definecolor{opcol}{RGB}{149,139,0}\definecolor{hai}{RGB}{137,137,137}\definecolor{tcol}{RGB}{166,54,109}\definecolor{kuro}{RGB}{0,0,0}\definecolor{xcol}{RGB}{169,103,49}\def\opcol#1{{\color{opcol}#1}}\def\ddx{\opcol{{\mathrm d\over \mathrm dx}}}\def\ddt{\opcol{{\mathrm d\over \mathrm dt}}}\def\xcol#1{{\color{xcol}#1}}\definecolor{ycol}{RGB}{217,61,137}\def\ycol#1{{\color{ycol}#1}}\def\haiiro#1{{\color{hai}#1}}\def\kuro#1{{\color{kuro}#1}}\def\kakko#1{\haiiro{\left(\kuro{#1}\right)}}\def\coldx{{\color{xcol}\mathrm dx}}\def\Odr{{\cal O}}\definecolor{ncol}{RGB}{217,51,43}\def\ncol#1{{\color{ncol}#1}}\definecolor{zcol}{RGB}{196,77,132}\def\zcol#1{{\color{zcol}#1}}\definecolor{thetacol}{RGB}{230,0,39}\def\thetacol#1{{\color{thetacol}#1}}\def\diff{\mathrm d}\def\kidb{\opcol{\mathrm db}}\def\kidx{\opcol{\mathrm dx}}\def\coldy{\ycol{\mathrm dy}}\def\coldtheta{\thetacol{\mathrm d\theta}}\def\ddtheta{\opcol{{\mathrm d\over\mathrm d\theta}}}\def\tcol#1{{\color{tcol}#1}}\def\coldt{\tcol{\mathrm dt}}\def\kidtheta{\opcol{\mathrm d\theta}}\def\dtwodx{\opcol{\diff^2\over\diff x^2}}\def\kokode#1{~~~~~~~{↓#1}}\def\goverbrace{\overbrace}\def\coldz{\zcol{\mathrm dz}}\def\kidt{\opcol{\mathrm dt}}\definecolor{rcol}{RGB}{206,114,108}\def\rcol#1{{\color{rcol}#1}}\def\coldtwox{\xcol{\mathrm d^2x}}\def\PDC#1#2#3{{\opcol{\left(\opcol{{\partial \kuro{#1}\over \partial #2}}\right)}}_{#3}}\def\PDIC#1#2#3{{\opcol{\left(\opcol{\partial \over \partial #2}\kuro{#1}\right)}}_{#3}}\def\PD#1#2{{\opcol{\partial \kuro{#1}\over \partial #2}}}\def\PPDC#1#2#3{{\opcol{\left(\opcol{\partial^2 \kuro{#1}\over \partial #2^2}\right)}}_{#3}}\def\PPDD#1#2#3{{\opcol{{\partial^2 \kuro{#1}\over \partial #2\partial #3}}}}\def\PPD#1#2{{\opcol{{\partial^2 \kuro{#1}\over \partial #2^2}}}}\def\kidy{\opcol{\diff y}}\def\ve{\vec{\mathbf e}}\def\colvecx{\xcol{\vec x}}\definecolor{usuopcolor}{RGB}{237,234,203}\def\usuopcol#1{\color{usuopcolor}#1}\def\vgrad#1{{\usuopcol{\overrightarrow{\opcol{\rm grad}~\kuro{#1}}}}}\def\dX{\rcol{\mathrm dX}}\def\dY{\thetacol{\mathrm dY}}\def\opdf{\opcol{\mathrm df}}\def\coldf{\tcol{\mathrm df}}\def\dtwof{\opcol{\mathrm d^2f}}\def\murasakidb{\zcol{\mathrm d b}}$

常微分方程式

 まず最初に、アプリで、微分方程式の雰囲気を図で味わった。

 で、以下は各論に。

指数関数が出てくる自然現象

 このような方程式に従う自然現象の例に、放射性物質の崩壊がある。放射性物質は、「半減期」と呼ばれる一定期間(以下$T$とする)を経過すると元の量の${1\over 2}$が崩壊し、別の物質に変化する。

注意すべきは「半減期の2倍」の時間が経過すると全部なくなるのではなく、元の量の${1\over 4}$になる、ということ。

 余談だが原発事故のときに新聞に「半減期が20年」のような文章が載っていたが、これを見て「20年で半減って言われてもわかりにくい! 40年で無くなるって言え!!」と怒ってた人がいたが、そんなふうに怒られても困るのだ。

 時刻$\tcol{t}$で残っている放射性物質の量は$N\kakko{\tcol{t}}=N\kakko{0}\left({1\over 2}\right)^{\tcol{t}\over T}$という、${\tcol{t}\over T}$が1増えるごとに${1\over 2}$になるという式で表される。ここで${1\over 2}=\E^{-\log 2}$を使って、 \begin{equation} N\kakko{\tcol{t}}=N\kakko{0}~\E^{-{\log 2\over T}\tcol{t}} \label{hangenki} \end{equation} と書く。これは言わば大局的な情報としての式である(そして、実験的にもよく確認された式であると言える)。では、この式にはどのような自然法則が隠れているだろうか。「微分」という作業がこの現象の局所的情報を取り出してくれる。

 微分してみると、 \begin{equation} \begin{array}{c} {\diff \over \coldt}N\kakko{\tcol{t}}=-{\log2\over T} N\kakko{\tcol{t}} \\ ~~または~~\\ \ycol{\diff N}=-{\log2\over T}\ycol{N} \coldt \end{array} \label{hangenDE} \end{equation} のように、${\coldy\over\coldx}=\ycol{y}$に似た式が出る違いは$\xcol{x}\to\tcol{t},\ycol{y}\to \ao{N}$という変数の違いと、右辺に定数係数$-{\log2\over T}$がついていること。

 この式$\ycol{\diff N}=-{\log2\over T}\ycol{N} \coldt$は、微小時間$\coldt$の間に放射性物質の量が$-{\log 2\over T}\ycol{N}\coldt$だけ減ることを表す。すなわち、今ある量に比例して減るという法則を示している。ある一個の放射性物質の原子に着目すると、その原子はまわりの状況や物質の状態とは無関係に一定確率で崩壊するまわりの状況によって変化する確率が違ってくる場合は、また別の形の微分方程式が出てくる。。これが生物の死であれば「年老いた個体は死にやすい」「密集した環境では食料が確保できず死にやすい」などの理由で確率が変わる。原子には「年齢」のような個性がないこと、その崩壊が周りの環境に左右されないことなど(どちらも物理法則からくること)が、見えている現象としての崩壊の様子から逆算してわかる。逆にいえば、そういう性質を持っている物が起こす現象は、これと同様の微分方程式で記述できるだろう。

 ここでアプリで崩壊の様子を見た。

 このように、微分方程式はある(空間的に、あるいは時間的に)狭い範囲で成り立つ法則を記述している。微分方程式を解くことは、「狭い範囲で成り立つ法則」から「広い範囲で成り立つ式」を作っていくことである。自然現象は複雑なものであり、それを一気に理解するのは人間の思考の範疇を超えている場合がある。そのようなとき、狭い範囲だけを見てまず「微小領域で成り立つ法則」を導き出すことで理解していこうというのが微分方程式を作り解いていくときの考え方である。自然科学を深く勉強していけば、この「まずは微小領域で考える」という考え方が、意外なほどに多くの場面で有効であることに気づくだろう。

微分方程式の解に含まれるパラメータの数

 上で述べたように、微分方程式の解には、微分方程式だけでは決まらないパラメータが必ず含まれる。それは微分方程式が局所的情報を表す式であることから必然的にもつ性質である。特に、$n$階微分方程式を解くと、$n$個のパラメータが解に含まれる(このあたりは、来週またじっくりやろう)。

受講者の感想・コメント

 青字は受講者からの声、赤字は前野よりの返答です。

微分方程式の詳細が、タブレットと教科書を通してよくわかりました。
図形と式の両方で理解しておいてください。

式を見るのとグラフで見るのとでは${dy\over dx}$の値の分かりやすさが天と地の差だった。タブレットでグラフを見るのはとても好きだ。
プログラム作ったかいがありました。

微分方程式、今のところは簡単に思えるのですが、むずかしくなるのでしょうか?
いや、考え方がわかれば、後は簡単ですよ。

$\mathrm e^{\log a}=a$知らなかった。
これはlogの定義から素直に出てくるものです。

宇宙膨張も指数関数で表すことができるのか?
宇宙膨張が指数関数で表せる時期は「宇宙のインフレーション」と呼びます。

教科書の帯で「弱肉強食も微分方程式で!」と言っている意味がわかった。
実は弱肉強食は後で出てきます。

特解から一般解を出す方法がわからないのでとても気になる。
実際解く時は一般解がさっと出てきます。

${dy\over dx}=ay(1-y)$のグラフが面白かった。
あのグラフの表す現象が何かは、来週やります(実は物理ではない)。

${dy\over dx}=y$の一般解を求めると、$y=C\mathrm e^x$となり、積分定数が積になっていることを不思議に思った。
来週ちゃんと計算をやりましょう。そうするとなぜ掛算になったかわかります。

(崩壊についての話)これまで数式いっぱい使ったのに最後に確率〜〜ってなった。
いや、確率だってちゃんと数式を使って議論するものですよ。確率=あてずっぽじゃないです。

半減期は微分方程式で解ける。初耳だった。
微分方程式でわかる現象はたっくさん、あります。

${dy\over dx}$の値が少し変わるだけで、グラフの外形は多く変化するとわかった。
そうなんです。そこが微分方程式の面白いところ

微分方程式は様々な物理現象を解くのに重要な方程式だと感じた。
めちゃくちゃ重要、というか、それなしではできないほどです。

授業で原発の話が出てきてましたが、先生は食事などに気を使われていますか?(汚染された食料がかなり出回っているというので)。
全然気にしてません。流通している食材は検査済みで、汚染なんてないことはわかってます。理学部の学生なら噂に惑わされずに事実で判断しよう。

そろそろテストの情報が欲しい。
授業の最初に言ったとおりですよ。