指数関数と対数関数(続き)

$\def\coldr{\rcol{\mathrm dr}}\def\coldvecx{\xcol{\mathrm d\vec x}}\def\intdx{\opcol{\int \mathrm dx}}\def\E{\mathrm e}\def\I{\mathrm i}\definecolor{opcol}{RGB}{149,139,0}\definecolor{hai}{RGB}{137,137,137}\definecolor{tcol}{RGB}{166,54,109}\definecolor{kuro}{RGB}{0,0,0}\definecolor{xcol}{RGB}{169,103,49}\def\opcol#1{{\color{opcol}#1}}\def\ddx{\opcol{{\mathrm d\over \mathrm dx}}}\def\ddt{\opcol{{\mathrm d\over \mathrm dt}}}\def\xcol#1{{\color{xcol}#1}}\definecolor{ycol}{RGB}{217,61,137}\def\ycol#1{{\color{ycol}#1}}\def\haiiro#1{{\color{hai}#1}}\def\kuro#1{{\color{kuro}#1}}\def\kakko#1{\haiiro{\left(\kuro{#1}\right)}}\def\coldx{{\color{xcol}\mathrm dx}}\def\Odr{{\cal O}}\definecolor{ncol}{RGB}{217,51,43}\def\ncol#1{{\color{ncol}#1}}\definecolor{zcol}{RGB}{196,77,132}\def\zcol#1{{\color{zcol}#1}}\definecolor{thetacol}{RGB}{230,0,39}\def\thetacol#1{{\color{thetacol}#1}}\def\diff{\mathrm d}\def\kidb{\opcol{\mathrm db}}\def\kidx{\opcol{\mathrm dx}}\def\coldy{\ycol{\mathrm dy}}\def\coldtheta{\thetacol{\mathrm d\theta}}\def\ddtheta{\opcol{{\mathrm d\over\mathrm d\theta}}}\def\tcol#1{{\color{tcol}#1}}\def\coldt{\tcol{\mathrm dt}}\def\kidtheta{\opcol{\mathrm d\theta}}\def\dtwodx{\opcol{\diff^2\over\diff x^2}}\def\kokode#1{~~~~~~~{↓#1}}\def\overbrace{\overbrace}\def\coldz{\zcol{\mathrm dz}}\def\kidt{\opcol{\mathrm dt}}\definecolor{rcol}{RGB}{206,114,108}\def\rcol#1{{\color{rcol}#1}}\def\coldtwox{\xcol{\mathrm d^2x}}\def\PDC#1#2#3{{\opcol{\left(\opcol{{\partial \kuro{#1}\over \partial #2}}\right)}}_{#3}}\def\PDIC#1#2#3{{\opcol{\left(\opcol{\partial \over \partial #2}\kuro{#1}\right)}}_{#3}}\def\PD#1#2{{\opcol{\partial \kuro{#1}\over \partial #2}}}\def\PPDC#1#2#3{{\opcol{\left(\opcol{\partial^2 \kuro{#1}\over \partial #2^2}\right)}}_{#3}}\def\PPDD#1#2#3{{\opcol{{\partial^2 \kuro{#1}\over \partial #2\partial #3}}}}\def\PPD#1#2{{\opcol{{\partial^2 \kuro{#1}\over \partial #2^2}}}}\def\kidy{\opcol{\diff y}}\def\ve{\vec{\mathbf e}}\def\colvecx{\xcol{\vec x}}\definecolor{usuopcolor}{RGB}{237,234,203}\def\usuopcol#1{\color{usuopcolor}#1}\def\vgrad#1{{\usuopcol{\overrightarrow{\opcol{\rm grad}~\kuro{#1}}}}}\def\dX{\rcol{\mathrm dX}}\def\dY{\thetacol{\mathrm dY}}$

指数関数の底の変換

 $\ycol{y}=2^{\xcol{x}}$という関数と$\ycol{y}=4^{\tcol{X}}$という関数を考えよう。$\xcol{x}=2\tcol{X}$ならばこの二つが等しい。 \begin{equation} 2^{\xcol{x}}= 2^{2\tcol{X}}= (2^2)^\tcol{X}=4^\tcol{X} \end{equation} だからである(たとえば、$2\times 2\times 2\times 2=(2\times 2)\times(2\times2)=4^2$)。また$\xcol{x}={1\over 2}\ycol{Y}$ならば \begin{equation} 2^{\xcol{x}}= 2^{0.5\ycol{Y}}=\left(\sqrt{2}\right)^{\ycol{Y}} \end{equation} ということも言える。以上のように、指数を定数倍することは底を変えることと同じ操作になる。

 今は2や4という単純な例で考えたが、もっと一般的に$\ycol{y}=a^\xcol{x}$と$\ycol{y}=b^\tcol{X}$の関係を考えよう。たとえば、$a$と$b$の間に$a=b^c$($c$もまた別の定数)という関係があるなら、 \begin{equation} a^\xcol{x}= (b^c)^\xcol{x}=b^{c\xcol{x}} \end{equation} となるから、$\tcol{X}=c\xcol{x}$とすればこの二つの関数が同じ関数になる。

 指数関数の底はいろんな値を使ってよいが、日常計算においては$\ycol{y}=10^\xcol{x}$のように10が使われることが多い。一方、コンピュータや情報科学の世界では$\ycol{y}=2^\xcol{x}$のように2がよく使われる。

 これも後でわかることだが、微分や積分などを行うには$\E$を底にした指数関数$\ycol{y}=\E^\xcol{x}$がもっとも使いやすい。よってこれらを互いに変換する必要がある。そのときに


指数関数の底を変える

$a=b^c$なら、 \begin{equation} a^\xcol{x}=b^{c\xcol{x}} \end{equation}


という方法を使う。たとえば$10=2^{3.321928094887362\cdots}$なので$10^3=1000,2^{10}=1024$だから$10^3\fallingdotseq2^{10}$である(コンピュータの世界で「キロ」と言ったら1000ではなく1024を指すことが多い)。ゆえに$10\fallingdotseq 2^{10\over3}$。、 \begin{equation} 10^{\xcol{x}}=2^{(3.321928094887362\cdots)\times \xcol{x}} \end{equation} となる。この${3.321928094887362\cdots}$という数字は10は2の何乗か?という疑問の答えであるが、それも一つの関数である。この関数は次の節で考える。

 ここでテキストではちょっと戻って、

紙を1回折ると、折る前に比べて厚さが2倍になるとする。厚さ0.01 mmの紙を100回折ることがもしできたら(実際にはできない)、紙の厚さはどれだけになるか?

という問題を考えた。

$0.01$ mm$\times 2^{100}\simeq 10^{28}$ mm$=10^{25}$ mである。
1光年$\simeq 10^{16}$mなので、だいたい$10^9$光年(10億光年)。

というのが驚愕の答え。

対数関数

対数関数:指数関数の逆関数

 前節の最後で「10は2の何乗か?」という疑問を考えた。より一般的に「$\xcol{x}$は$\kuro{a}$の何乗か?」という問題を考える。$\xcol{x}=a^\ycol{y}$という式が成り立つときに、$\xcol{x}\to\ycol{y}$という対応関係を知りたい。今考えたい関数は指数関数$\ycol{y}=a^\xcol{x}$の逆関数であり、これを「対数関数」と呼ぶ。対数関数を表現するには、$\log$という記号を使う$\log$も「関数の名前」だと考えればよい。よって、$\ycol{y}=f\kakko{\xcol{x}}$に合わせれば$\ycol{y}=\log\kakko{\xcol{x}}$のように$\kakko{}$を使って表現すべきだが、括弧はつけないことが多い。。一般的定義は


対数関数

 1ではない正の定数$a$を底とする指数関数$\ycol{y}=a^{\xcol{x}}$($\xcol{x}$が独立変数で$\ycol{y}$が従属変数)に対し、$\ycol{y}$を先に決めてそれに対応する$\xcol{x}$を対応させる関数を対数関数といい、 \begin{equation} \xcol{x}=\log_a \ycol{y} \end{equation} と書く(この式では、$\ycol{y}$が独立変数で$\xcol{x}$が従属変数)。


 $\log_a\xcol{x}$の$a$のことを指数関数のときと同様、「底(てい)」と呼ぶ。$\xcol{x}$の方は「真数」と呼ばれる(対数関数の値$=\log_{底}\kakko{真数}$)。$\log_{10}\xcol{x}$のように底を10にした対数関数を「常用対数」と呼ぶ。$\E$を底にした対数関数$\log_\E\xcol{x}$は「自然対数」である。以後、$\log\xcol{x}$のように底を省略した場合は自然対数とする。すなわち、省略された底は$\E$である分野によっては、$\log$と書いたときの底が10であったり2であったりする。「自然(natural)」のnを取って、$\log_\E \xcol{x}=\ln \xcol{x}$のように書くこともある。

 底が$2,\E,10$およびその逆数${1\over 2},{1\over \E},{1\over 10}$の場合の指数関数(実線)と対数関数(破線)のグラフを下に示した(互いに逆関数になっていることを確認せよ)。

 左右を見比べると、指数関数の性質$a^{-\xcol{x}} = \left({1\over a}\right)^{\xcol{x}}$が($\xcol{x}\to-{\xcol{x}}$という変化がグラフ上では左右反転となって)見て取れる。対数関数はこれの逆関数($\xcol{x}$と$\ycol{y}$の立場が入れ替わる)だから、 \begin{equation} \log_a \xcol{x} = -\log_{1\over a}\xcol{x} \end{equation} という関係がわかる(グラフでは上下反転として読み取れる)。

対数関数の公式

 指数関数が持っていた「$\E^{\xcol{x}}$の肩の$\xcol{x}$の足算は掛算になる」という性質は、対数においては逆になり、以下の式が成り立つ。


$\log$の真数の$\left\{{掛算\atop 割算}\right\}$は$\log$の$\left\{{足算\atop 引算}\right\}$になる

\begin{equation} \log_a\kakko{x_1x_2}=\log_a{x_1} + \log_a {x_2}\label{logmullogsum} \end{equation} \begin{equation} \log_a\kakko{{x_1\over x_2}}=\log_a{x_1} -\log_a x_2\label{logdivlogdiff} \end{equation}


 上の式は、$a^{\log_a(x_1x_2)}=x_1x_2$に$x_1=a^{\log_a x_1}$と$x_2=a^{\log_a x_2}$を代入してみれば、 \begin{equation} a^{\log_a\kakko{x_1x_2}}=a^{\log_a x_1}\times a^{\log_a x_2} \end{equation} となることからわかる。また、$(a^{x_1})^{x_2}=a^{x_1x_2}$となることから逆に、


冪の対数は底の対数の指数倍

\begin{equation} \log_a \xcol{x}^b = b\log_a \xcol{x} \end{equation}


もわかる。

 なかなか対数関数($\log$)の「気持ち」がわからない、という人のために$10^\xcol{x}$を例にして説明しよう。

 $10^2=100$は0が2桁、$10^3=1000$は0が3桁、$10^4=10000$は0が4桁、と増えていくことを考えると、$\ycol{y}=10^{\xcol{x}}$という関数は

$n$を入れると「1の後ろに0が$n$個並んだ数」が出てくる関数

であるとも言える。ここで逆関数である$\xcol{x}=\log_{10}\ycol{y}$は

「1の後ろに0が$n$個並んだ数」を入れると$n$が出てくる関数

という関数になる。すなわち、$10\to1,100\to2,1000\to3,\cdots,100000000\to8,\cdots$のような対応関係(言わば、「桁数$-1$を求める関数」である)が、$\xcol{x}=\log_{10}\ycol{y}$という関数が表現する対応関係の「一部」である(実際には$\xcol{x}=\log_{10}\ycol{y}$の$\ycol{y}$には正の実数(負だとどうなるのかは、またこの先で)なら何を入れてもよいから、もっと広い範囲で使える)。

「車の修理代が6桁もかかったわ〜」「え〜っ」のように、数字の大きさを「○桁」で表現することはないだろうか。あれが$\log$の考え方の第一歩だ。

 対数関数は「掛算の簡略化」にも使える。たとえば$1000\times 1000=1000000$という計算を「0が3桁ある数字と0が3桁ある数字を掛けたから、0が6桁ある数字になる」という考え方で行うことができる。こう考えると、積の対数関数を対数関数の和に直す式を、 \begin{equation} \log_{10} \underbrace{1000000}_{0が6つ}=\log_{10}\underbrace{1000}_{0が3つ}+\log_{10}\underbrace{1000}_{0が3つ} \end{equation} のように理解できる。

 このやり方は$10^n$($n$が整数)の場合しかできないが、そうでない場合に拡張することはできる。

 次に、$\ycol{y}=\log_{10}\xcol{x}$の、$\xcol{x}=1$から$\xcol{x}=20$までのグラフを示した。

 図を見て、たとえば$\log_{10}2+\log_{10}3=\log_{10}6$,$\log_{10}2+\log_{10}5=1$あるいは$\log_{10}9=2\log_{10}3$などのように、「掛算が足算に翻訳されること」を確認しようこんなふうに具体的な数で「対数」というものの勘所をつかむことも重要。この図を見てしばらく「遊ぶ」ぐらいに対数に親しんで欲しい。

 $\log_{10}$の値を前もって調べておくことができると、例えば$5343342\times234234234$という計算を \begin{equation} \log_{10} \left(5343342\times234234234\right) =\underbrace{\log_{10} 5343342}_{6.7278\cdots} + \underbrace{\log_{10} 234234234}_{8.3696\cdots} \fallingdotseq15.0974\label{daitailog} \end{equation} のように、対数を介することで足算を使って実行できる。

 逆に$10^{15.0974}$を計算すれば、1251411091802385を得る。この値は、真面目に計算した結果の1251593620370028と比べて、4桁めまで正しい足算の結果を15.0974と小数点以下4桁までしか計算していないので、この程度の精度なのは仕方ない。。今なら電卓なりコンピュータなりで計算するが、昔はいろんな数とその対数の表(「対数表」)が作ってあって、それを使って掛算をしていた対数で目盛を打った物差しのようなもの(計算尺)を使って計算したりもしていた。

 上の計算を大雑把に$5000000\times200000000$として答えを見積もると以下のようになる。

「0が6個の数と0が8個の数の掛算だから、0が14個の数になる。一方、$5\times2=10$だから10の後ろに0を14個並べればいいや」と考えて、$10\times\underbrace{100000000000000}_{0が14個}=\underbrace{1000000000000000}_{0が15個}$である。

約15.0974という答えは「0が15個より少し大きい」を意味している。

 対数関数は「桁数で比較する」という感覚で使われるわけだが、これは概算しているというわけではなく、大きさの変化があまりに大きい物を比較するときに便利な方法であるとも言える。たとえば地球の質量は$5.97\times 10^{24}$ kg、太陽の質量は$1.99\times 10^{30}$ kgである。これを普通の数字で書けば \begin{equation} \begin{array}{rr} 地球の質量:&約5970000000000000000000000 {\rm ~kg} \\ 太陽の質量:&約1990000000000000000000000000000 {\rm ~kg} \end{array} \end{equation} なのだが、こう書かれるよりむしろ$10^?$の形で書いて肩に乗った24や30を見た方が「ああ約$10^6$倍程度違うんだな」が実感しやすい(というより、そういう感覚を持てるようにならないと、大きさの違いが甚だしい量を比較できるようになれない)。

微分とは

グラフの傾きを知る方法

関数の局所的ふるまいを知る

 関数を考えるとき、「ある点の近所での様子」だけを知ればよい、ということがある。

 関数の全体像をいっきに考えるのではなく、まず狭い範囲で考えるのである。この狭い範囲での、言わば「近所の様子」を局所的なふるまいと呼ぼう。逆に全体を見てわかるのが大局的なふるまいである。局所的なふるまいを知るには、「その点での値」と「その点での傾き(正確には接線の傾き)」を知れば十分な場合がある。微分は「傾きを知る」という目標のためにある。

 「線の傾き」とは図に示したように、線の向きを「\xcol{$x$方向の移動}と\ycol{$y$方向の移動}の比(あるいは$\xcol{x}$方向に1移動したときに$\ycol{y}$方向にどれだけ上昇するか)」で表現したものである(三角関数の言葉で言えば$\tan \thetacol{\theta}$)。「傾きが1」とはグラフにおいて\ang{45}の方向に線が伸びていくことを示す。

 という交通標識は、道の傾きが0.1であることを示している。

 グラフにおける「傾き」の意味するところは「どれくらいの勢いで増えるか?」と思えばよいだろう。傾きが大きいということは、道路なら「急な坂を登っている」という状態である。もし考えているグラフの横軸が時間なら、「急速に増えている」という状態でもある。

 傾きしかわからないのでは知るべき情報が足りないのではないか?と思うかもしれない一方で「局所的なふるまい」という情報を取り出すことで、全体を\ruby{俯}{ふ}\ruby{瞰}{かん}していたのではわからないことに気づくことだってある。。それはもちろんのことであるが、実は我々は「大局的なふるまいから局所的なふるまいを知る方法」、逆の「局所的なふるまいから大局的なふるまいを知る方法」、その両方を持っているから、足りない情報を取り戻す手段はある(まだこの本では出てきてない)。ここではまず前者の方を考えよう、というわけである。

この方法は万能というわけではないが、ありがたいことに自然法則というのは局所的な法則になっていることが多い。少なくともこれまでの科学の歴史においてはまず局所的なふるまいを知り、それから大局的法則を出す、という筋道で理論を組み立てて結果として成功したこと(ニュートン力学がまさにこれ)が多い。だからこそ、局所的なふるまいを計算する方法である微分が自然科学において重要な役割をになう。

\begin{equation} n次多項式関数~~~~~~~~~~~~ \ycol{y}=a_0 +a_{1}\xcol{x}+a_{2}\xcol{x}^{2} +a_{3}\xcol{x}^{3} +\cdots +a_{n-1}\xcol{x}^{n-1} + a_n\xcol{x}^n \end{equation} を考えよう。ここで、次数の低い方から順に並べているこの並べ方を「昇べきの順」と呼ぶ。逆は「降べきの順」。のは、今考えてたいのが$\xcol{x}=0$の近所の「局所的情報」なのであれば、次数が低い項の情報の方が重要だからである。このとき、$a_0$が$\xcol{x}=0$での値、$a_1$が$\xcol{x}=0$での傾きであること(さらに$a_2$は$\xcol{x}=0$での曲がり具合を表すこと)を説明してきた。局所的情報を知るには$a_0$と$a_1$がわかればよい、という考え方もできる。

 ここで、

でしばらく遊ぶ。

 $\ycol{y}=f\kakko{\xcol{x}}=\xcol{x}^2$という、単純な関数の場合で傾きの計算をしてみよう(傾きの変化の様子を上のグラフに示した)。

 この場合、独立変数と従属変数である$\xcol{x}$と$\ycol{y}$は$\ycol{y}=\xcol{x}^2$という関係式を満たしながら変化するから、変化後も以下の式が成立する。 \begin{equation} \underbrace{\ycol{y}+\ycol{\Delta y}}_{変化後の\ycol{y}}=(\underbrace{\xcol{x}+\xcol{\Delta x}}_{変化後の\xcol{x}})^2 \end{equation}

 この式の右辺を$({\xcol{x}+\xcol{\Delta x}})^2=\xcol{x}^2 + 2\xcol{x\Delta x} + (\xcol{\Delta x})^2$と展開した後、元の式$\ycol{y}=\xcol{x}^2$と辺々の引算を行なう。 \begin{equation} \begin{array}{rrrll} & \ycol{y}&+\ycol{\Delta y}=&\xcol{x}^2+&2\xcol{x\Delta x}+(\xcol{\Delta x})^2 \\ -)& \ycol{y}&=&\xcol{x}^2 &\\ \hline &&\ycol{\Delta y} =&& 2\xcol{x\Delta x}+ (\xcol{\Delta x})^2 \end{array}\label{dy2xdx} \end{equation} こうして二つの変数の変化量の間は、$\ycol{\Delta y}=2\xcol{x\Delta x}+(\xcol{\Delta x})^2$という関係があることがわかった。

当たり前だが、$\xcol{\Delta x}=0$とおくと、$\ycol{\Delta y}=0$になる。

両辺を$\xcol{\Delta x}$で割った、 \begin{equation} {\ycol{\Delta y}\over \xcol{\Delta x}}=2\xcol{x}+\xcol{\Delta x} \end{equation} は右の図に破線で描いた直線の傾きになる。 右のグラフに$2\xcol{x\Delta x}$と$(\xcol{\Delta x})^2$を描き込んだ。これを見ると$2\xcol{x\Delta x}$は$\ycol{\Delta y}$のうち主要な部分を占めていて、$(\xcol{\Delta x})^2$の方は「少しした修正」程度に付け足された量だという印象を受ける(図で確認しよう)。 試しに$\xcol{\Delta x}=0.01$としてみると、$\left(\xcol{\Delta x}\right)^2=0.0001$になる。 つまり\talk{$\xcol{\Delta x}$をどんどん小さくする}という文脈において、$\left(\xcol{\Delta x}\right)^2$は「$\xcol{\Delta x}$より、もっと小さい」量になっている。

 $\xcol{\Delta x}\to0$という極限を取っていくと(このとき同時に$\ycol{\Delta y}$も0に近づくわけだが)、第2項はなくなってしまって、 \begin{equation} \lim_{\xcol{\Delta x}\to0}{\ycol{\Delta y}\over \xcol{\Delta x}}=2\xcol{x} \end{equation} がわかる$\lim_{\xcol{\Delta x}\to0}$は、後にある式の$\xcol{\Delta x}$を0に近づけたときに後の式はどのような値を取るか(これを「極限」と呼ぶ)を表す記号($\lim$の読み方は「リミット」)。上の例では、単純に$\xcol{\Delta x}=0$を代入したら計算できないが、極限なら計算できる。。接線の傾きは$2\xcol{x}$である。$\xcol{x}$の変化により${\ycol{\Delta y}\over \xcol{\Delta x}}$が変化する様子を示したのが右のグラフである。各々の場所において接線の傾きが変化しつづけている。$\xcol{x}<0$では傾きも負になっていることに注意しよう$\xcol{x}=0$のところでは傾き0、すなわち水平な線が接線となる。しかし、図では高さ0の三角形になって見えなくなってしまうので描いていない。

 $\xcol{\Delta x}$が小さい場合に$2\xcol{x}$の部分が重要であることを確認するために、$\xcol{x}=1$として、$\xcol{\Delta x}$を変化させていったときの各項の様子を表にしてみると、


$\xcol{\Delta x}$$\xcol{x}+\xcol{\Delta x}$$(\xcol{x}+\xcol{\Delta x})^2$ $2\xcol{x\Delta x}$ $(\xcol{\Delta x})^2$ ${\ycol{\Delta y}\over \xcol{\Delta x}}=2\xcol{x}+\xcol{\Delta x}$
124 2 13
0.11.11.21 0.2 0.01 2.1
0.011.011.0201 0.02 0.00012.01
0.0011.0011.002001 0.002 0.0000012.001
0.00011.00011.00020001 0.0002 0.000000012.0001
0.000011.000011.0000200001 0.00002 0.00000000012.00001
$\vdots$$\vdots$ $\vdots$ $\vdots$ $\vdots$ $\vdots$

のようになる$\xcol{\Delta x}=1$は「$\xcol{\Delta x}$は小さい」が成立してない場合なので、薄い字で書いた。ここで「小さい」かどうかは、大元であるところの$\xcol{x}$に比較して、$\xcol{\Delta x}$を小さいと言えるかどうかで判断する。1:1では「小さい」と言えないのはもちろんである。。$\xcol{\Delta x}$を小さくするに従って、${\ycol{\Delta y}\over \xcol{\Delta x}}$は$2$($2\xcol{x}$の、$\xcol{x}=1$のときの値)に近づく。このとき、$2\xcol{x\Delta x}$の欄の「0の数」が一つずつ増えていくのに対し、$(\xcol{\Delta x})^2$の欄の「0の数」は二つずつ増えていく(この「感覚」が後で説明する「オーダー」である)。

受講者の感想・コメント

 青字は受講者からの声、赤字は前野よりの返答です。

紙100回折ると銀河系レベルの大きさになるのはびっくり(この感想多数)。
指数関数の怖さです。

いつか紙をいっぱい折って銀河一つ分ぐらいにしたい。
実際にやるのはさすがに無理・・・。

想像や直感などででてきた結果は真実より全然違うときもあります。それより、最後まで計算すべきである。
その通りです。

授業が始まるまでは対数いらないかなぁ、と思ってたけどやっぱり必要だと思いました。
これから先でず〜〜〜〜〜っと使いますよ。

今まで$f'(x),f''(x)$を「一回微分」「二回微分」だと思ってました。正しくは「一階微分」「二階微分」だとは知りませんでした。
読むと同じ音だしね。

${\Delta y\over\Delta x}$という記号はただ覚えただけだったけど、ちゃんと意味がわかって感動しました。
もちろん、式にはちゃんと意味があるのです。

ドラクエで大事なのは近所つきあいだとわかった。
まずは近所を制覇してから冒険に出かけないとね。

微分が何をしたいのか理解できた。
そう、どんな計算も「動機」があってやるわけです。

微分が科学においてどう使われるのか少し気になります。
「使われる」どころではなく、「使い倒し」ます。

高校では覚えただけの微分が、実は狭い部分を見たときの傾きであるということを知った。
実はそうなんです。そう考えると、たいしたことはしてないわけです(でも、すごく便利)。

$y=\sin{1\over x}$のグラフを拡大すると繊維みたいに見えて面白かった。
変な関数ですよね。

$\sin{1\over x}$の原点付近を拡大しても先端が放物線のようにはならなかった。
ほんとのほんとに原点だと、そもそも$\sin{1\over x}$には値がありません(そのあたりを見ちゃったのかな)。

計算としての微分ではなく、道具として、取っ掛かりとしての微分を理解することができた。
「道具」を上手に使っていこう!

関数の一階微分での局所的ふるいまいの気持ちがわかった気がする。
そう、その気持ちが大事。

$x$が大きいところのグラフの傾きに効いてくるのは、$y=ax^3+bx^2+cx+d$の$a$の部分ですか?
いいえ。$x$が$X$の付近でグラフの傾きに効いてくるのは、その式を$y=A(x-X)^3+B(x-X)^2+C(x-X)+D$と書き直したときの$C(x-X)$の係数$C$です。

微分を傾きを求めるものと言ってましたが、積分はグラフを求めるものと言って良いんですか。
積分は「グラフの面積」を求めるものですね。