今日の小テスト

$$ F=NRT\mathrm e^{-\alpha {V\over N}} $$ という架空のヘルムホルツ自由エネルギーを考える(この$F$は架空のものなので、現実的ではない点をいくつか持っていることに注意)。
  1. 圧力を求めよ。
  2. $F\to G$のルジャンドル変換をして$G$を求めよ。
  3. ${\partial G\over\partial p}$が何になるかを「確認」せよ。
  4. (時間が余った人への問題:点数化しない)ここで$F\to U$へのルジャンドル変換を考えることには意味がない。なぜか??

 教科書・ノートはいくらでも見て良い。

解答

  1. $p=-{\partial F\over \partial V}$をちゃんと計算して、$p=\alpha RT\mathrm e^{-\alpha {V\over N}}$。
  2. $G=F+pV$を計算するのだが、ここで大事なのは『ルジャンドル変換する』ということは変数を$V\to p$と変えるということなので、$V$を使わずに$p$で表さないと(つまり、$G[T,p;N]$の形にしないと)いけない。そのため、$p=\alpha RT\mathrm e^{-\alpha {V\over N}}$から$V=-{N\over\alpha}\log{p\over \alpha RT}$と計算しておく。 $$ G=\overbrace{NRT\mathrm e^{-\alpha {V\over N}}}^F+p\overbrace{\left(-{N\over\alpha}\log{p\over \alpha RT}\right)}^V ={N\over \alpha}p-{pN\over\alpha}\log{p\over \alpha RT} $$
  3. $$ {\partial G\over \partial p}={N\over \alpha}-{N\over\alpha}\log{p\over \alpha RT}-{Np\over\alpha}{1\over p}=-{N\over\alpha}\log{p\over \alpha RT}=V $$ となって、結果は$V$になる(ルジャンドル変換の性質からして当然である)。
  4.  実際やってみると、$S=-{\partial F\over \partial T}=-NR\mathrm e^{-\alpha{V\over N}}$となるが、これだと$U=F+TS$が0になってしまう。
    こうなった理由は単純で、$F$は$T$に関して凸関数になってない(線型である!)。だからルジャンドル変換はできなくて当然(ルジャンドル変換が接線の切片を表すことを考えると、常に一定値になってしまうのも納得である)。

 あまりにこの点がわかってない人が多かったので途中でヒントとして「ルジャンドル変換したからには$G$は$T,p,N$で表さなくちゃダメだぞ〜〜」と言った。そもそもルジャンドル変換という計算が何をするものなのかがわかっていれば、$V$が残った形ではルジャンドル変換したことにならないのがわかるはずである(それがわからなかった、という人はもう一度勉強やり直し!)。

 $G$を$T,p,N$の関数として書くことがちゃんとできてないと、最後の${\partial G\over \partial p}$を計算しても$V$に戻ってこないはずである。

潜熱

潜熱

もう一度グラフで前回の復習

 どのような状況で液相と気相の共存が起こるかをもう一度グラフで説明した。

 ↑の「高温」の状態(X'→Y'という変化)では$F$は常に下に凸である。しかし「低温」(X→G→L→Yという変化)では$F$に上に凸な「有り得ない」領域が出現する(この意味で、「擬似的な$F$」なのだ)。その領域を直線でつないだ「真の$F$」が実際に実現する状況だが、実はこの状況は図で「L」と示した(液体状態)と「G」と示した気体状態が共存した(いわばブレンドされた)状態になっている。ここでこのグラフの傾きは$-p$だから、「LからGへ」という直線の上では圧力一定である。

 温度と圧力を横軸縦軸にしたグラフ↓の上ではX'→Y'の「高温」での変化も、X→L→G→Yの「低温」での変化も、どちらも縦線になる。

 ただし、このグラフ上では、「L」点と「G」点が同じ点になる($V$-$F$グラフでは直線である領域が$T$-$p$グラフでは一点に収縮する)。

何を変数として記述するかで、変化の様子はかなり変わる。極端な場合、T-Pのグラフでは相転移の途中は一点になってしまう。

液相・気相変化のエンタルピーの変化

 ある物質が液体の状態$(T;V_{\rm L},N)$から気体の状態$(T;V_{\rm G},N)$と変化したとすると、そのとき熱力学第1法則から、


(内部エネルギーの変化$U_{\rm G}-U_{\rm L}$)=(最大吸収熱$Q_{\rm max}$)$-$(最大仕事$W_{\rm max}$)


という式が成立するだろう。ところで相転移の時の圧力(一定)を$p_v$と書くことにすると、最大仕事は$W_{\rm max}=p_v(V_{\rm G}-V_{\rm L})$である。

 以上の式を整理すると、 $$ U_{\rm G}+p_vV_{\rm G}-\left(U_{\rm L}+p_v V_{\rm L}\right)=Q_{\rm max} $$ となる。吸収する熱が$H=U+pV$という量の差になっている。

↑というところまで先週話したが、この熱、別の言い方をすれば$\Delta H$(エンタルピーの変化)は相転移の際に必要となる熱だ、ということができる。

 熱力学第1法則$\Delta U=Q-W$は、どんな状況でも成立する式である。

 体積一定の状況では、$\Delta U=Q$になる(仕事をしないから)。

 圧力一定の状況では、$\Delta (U+pV)=Q$になる(ということを↑で示した)。

 よって圧力一定条件では$U$ではなく$H=U+pV$の方を「エネルギー」のように扱った方が楽になる、というのが$H$を導入する意味である。実際に実験するときには圧力一定という条件で行なうことも多いから、実験結果をまとめるときにもその方が意味がある式を作りやすい(なお、さらに「実際に実験するときには断熱じゃなく等温の環境下に置くことの方が多いだろう」と考えると$H$ではなく$G=H-TS$を使った方がよい、ということになる)。

Crayperonの式

 液相←→気相の相転移が起こる圧力$p_v(T)$は$T$の関数である。

$p_v(T)$の添字$v$は「vaporize(気化する)」の「v」。つまり温度$T$で気化するときの圧力ということ。

 「気相と液相の境界線の微分方程式を立てたい」というモチベーションのもと、${\mathrm dp_v(T)\over \mathrm dT}$を考えよう。そのために、まずヘルムホルツ自由エネルギーの定義式を使って、 $$ F(T,V_{\rm L}(T,N),N)-F(T,V_{\rm G}(T,N),N)=p_v(T)(V_{\rm G}-V_{\rm L}) $$ と書く(液体から気体へと変化すると、左辺の分だけヘルムホルツ自由エネルギーが減り、その分が外部にする仕事(右辺)になる。

 この式を$T$で微分する。$T$が全部で7箇所にあるが、${\partial F\over \partial T}=-S$を使うと、$F$の第1の引数にある$T$を微分したものが$-S$になることがわかる。また、$F$の第2の変数である$V$の中にある$T$を微分したときに${\partial F\over\partial V}{\mathrm dV\over \mathrm dT}$が出てくるが、これは右辺にも出てくる$p_v{\mathrm dV\over \mathrm dT}$とちょうど相殺する。よって残る微分の結果は $$ -S(T,V_{\rm L}(T,N),N)+S(T,V_{\rm G}(T,N),N)={\mathrm dp_v(T)\over \mathrm dT}(V_{\rm G}-V_{\rm L}) $$ となる。ここで右辺に$T$を掛けた$T\left(S(T,V_{\rm G}(T,N),N)-S(T,V_{\rm G}(T,N),N)\right)$は、液体→気体になったときのエントロピー変化(つまりは吸収する熱)と解釈できるから、 $$ Q_{{\rm L}\to{\rm G}}=T{\mathrm dp_v(T)\over \mathrm dT}(V_{\rm G}-V_{\rm L}) $$ から $$ {\mathrm dp_v(T)\over \mathrm dT}={Q_{{\rm L}\to{\rm G}}\over T(V_{\rm G}-V_{\rm L})} $$ という式を導ける。これがCrayperonの式である(この式は実験的にも支持される式となっている)。

ところで多くの場合、この式の右辺に出てくる量$Q_{{\rm L}\to{\rm G}},T,V_{\rm G}-V_{\rm L}$は正である。よって${\mathrm dp_v(T)\over \mathrm dT}$も正となり、$T$-$P$グラフは右上がりになる。

 そうでない例が氷→水という「固体→液体」の相転移で、この場合は体積は固体の方が大きい(つまり、$V_{\rm L}-V_{r^m S}$が負)。よってこの相転移の相図では、$T$-$P$グラフは右下がりになる(もちろん、これも実験とあった結果である)。

 Crayperonの式は $$ {\mathrm d p_v(T)\over\mathrm dt}={S_{\rm G}-S_{\rm L}\over V_{\rm G}-V_{\rm L}} $$ と書くこともできる。これはMaxwellの関係式の一つ${\partial p\over\partial T}={\partial S\over \partial V}$に似ていることに気づいたろうか?(なつかしい人に出会えたか?)

 似てはいるが、Maxwellの関係式が偏微分という「連続的な変化の変化量の計算」で書かれているのに対し、Crayperonの式は相転移の際の不連続なエントロピーと体積の変化を示している。ただどちらも$F$が$T,V,N$の関数としてちゃんと定義されているという条件から出てくるのは同じである(だから、この式が文字通りに破れるということは熱力学第2法則が破れていることを意味している)。

磁性体の相転移

 最後に、磁性体の相転移について簡単に話した。

 磁性体の場合、$F$と磁化$M$でグラフを描くと、(ちょうどvan der Waalsの時の$F$と$V$のグラフのように)、低温では$F$が下でない領域が現れる(このあたりの事情は説明しない)。

y

 すると低温では例によって共通接線を引いて補完した「真のヘルムホルツ自由エネルギー」に置き換えて考えねばならない。この場合エネルギー最低は下の直線部分になる(この直線上の状態は磁化を持つ二つの「底」の状態が「ブレンドされた」状態になっている)。

 磁石というのは、高温状態から強い磁場の中でゆっくり冷やすことによって、磁化を持つが出現するようにしたものである。よってある温度より高温にすると(つまり臨界点を超えると)最低エネルギー状態は「磁化が0」の状態になる。

 実際、フェライト磁石とネオジム磁石をライターで温めて磁力がなくなるところを実演してみせたところで今日の授業はおしまい。来週テストです。

来週同じ時間にテストですが、テストは「教科書およびノートは持ち込み可」とします。

受講者の感想・コメント

受講者の感想・コメント

 青字は受講者からの声、赤字は前野よりの返答です。

磁性体の相転移までわかるというのがすごいと思った。来週テスト頑張ります。ありがとうございました。
熱力学は非常に一般的な話ができる分野です(熱力学だけでは完結しないこともあるのですが)。

前期の間、ありがとうございました。これからまた講義の機会がありましたらよろしくお願いします!!
はい、どうもありがとうございました。

ルジャンドル変換やClapeyronを計算できるよう頑張る。
頑張りましょう。

ヘルムホルツの自由エネルギーの差は仕事になるという式から熱力学に大切な式となることを知り、基礎は大切だなと感じました。
基礎的な原理・法則からいろんなことが導けるのが、物理の面白いところです。

ルジャンドル変換をしっかり理解します。
そうしましょう。

相転移における$F,p,H$の変化についてわかった。
いろんな場合があるので、考えておいてください。

全体的によくわからないままの状態で終わってしまったので、しっかり復習しておきます。
う〜ん、それは困った。がんばってください。

磁石を熱して磁力をなくす実験、とっても面白かったです。
熱力学がここにもあります。

復習してテストに備える。ルジャンドル変換できなかったので確認する。
しっかり確認し、頑張りましょう。

テストに向けてしっかり復習したい。
やりましょう。

$F$-$V$グラフ、$P$-$T$グラフでイメージをつかめた。
いろんな変数の場合で、現象を考えるようにしましょう。

小テストは、$V$を消すことに気付かなかった。
そこに気づけないと、ルジャンドル変換をする意味がない。

小テストのルジャンドル変換が全然できなかった。ルジャンドル変換がどういう変換なのかを理解していなかった。自分は全然ダメだなと思ったので、残り一週間必死で頑張りたい。
頑張ってください。

実験や今回までの講義で相転移に関する研究に興味を持ちました。半期ありがとうございました。
興味を持ってくれてよかったです(この先にはまだまだ面白いことがある)。

ルジャンドル変換は好きになりましたが、実際には変換できませんでした。反省。でももう大丈夫だと感じてます。
あらあら。まぁ、今日小テストやってよかったと言えるかもしれませんね。

小テストの計算、途中までしかできなくて悔しかったです。来週テストなので$F,U,H,G$の性格を完璧にしたいと思います。磁化がなくなるやつ面白かったです。
テストでは頑張ってください。

テスト頑張ります!
はい、頑張ってください。

先生がチャッカマンで磁石をあたためているなう。小テストで、ルジャンドル変換をまだ理解していないとわかった。なので、復習頑張ります。
小テストやっておいてよかったかな。

興味深い内容だった。しっかり復習したいです。
いろいろと考えてみてください。

${\mathrm dp\over\mathrm dT}={S_G-S_L\over V_G-V_L}$だけで面白いことがわかったのはすごい。
役に立つ式ですよ。

半年間ありがとうございました。熱力学楽しかったです。
楽しんでもらえて何より。

なつかしい人に出会った感覚にならなかったなぁ! くやしいです。
熱力学のいろんな式と身近になれるよう、頑張ってください。

ルジャンドル変換をちゃんとできなかった。小テストで点数がとれなかった分、期末テストを頑張りたい。
では、頑張ってください(まだ挽回はできる)。

ルジャンドル変換がまだつかめてない。
う〜ん、がんばろう。

小テストできませんでした。見なおしてテストに備えます。
しっかり考え直しておきましょう。

小テストでルジャンドル変換ができなかったため、テストではできるようがんばりたい。
がんばろう。

期末テストがんばります。
はい、よろしく。

半期ありがとうございました。後期もよろしくお願いします。
後期は3年の授業は持たない予定です(たぶん)。

次回テストなのでしっかりそなえたい。
そうですね、頑張って。

磁石温めた実験が面白かったです。
ただ落ちるだけなんですが、中で何が起こっているかと考えると、電磁気や熱力学の色々な話が混じってますね。

また新しい式に出会いましたが、一周まわると元に戻る第2法則と同じ考えだということがわかりました。
物理の式は実は根っこが同じ、ってのはよくあることです。

磁石の実験楽しかったです!(まだ温め中)。
それじゃまだ楽しいかどうかわからんではないか。

色々とわかってなかったので、一週間後までにきちんと理解できるように、攻略チャートをつかって半期でやってきたことをまとめる。
では、一週間後に。

今日の小テストでルジャンドル変換がどういうものなのか理解できてないことがわかったので、テストまでにきっちり押さえておきたいです。前野先生の授業がラストだと思うとさみしいです。
ではがんばってください。

小テスト答をきくと当たり前だったので、本当に勉強不足だと思った。
物理って当たり前の集まりですが、だからこそ難しいんですよ。

ルジャンドル変換、相転移と臨界点について。クラペイロンの式を求めた。半期ありがとうございました。
はいどうも、こちらこそありがとうございました。

エンタルピーとギッブスの自由エネルギー