今日の講義の内容

 前回、断熱圧縮で温度が上がることのデモンストレーションをしてなかったので、今回はピストンに綿のカケラを放り込んで圧縮すると「ぼっ」と火がつく、という現象をやってみました。

 まず、のところを説明した。

 大事なことは、要請として、

  • 熱力学的な系を示量変数を固定した状態で等温環境に置いておくと、平衡状態に達する。平衡状態に達するとそれ以上変化は起きない。
  • その平衡状態の「温度」は周りの環境の温度と一致する。

が置かれていること。

 熱力学では「最初の平衡状態」から、変化が起こったあと平衡に達するまで待った結果としての「最後の平衡状態」への変化を考える。一般に、この変化の途中は平衡状態ではない。

 ここで、のところでしばらく遊んでもらって、

という問いを発して、しばらくアニメーションで遊びつつ近所の人と相談をしてもらった。後で聞くと、

 ゆっくり動かすと仕事は大きくなるようだ。

という結論が出たようなので、

 その「出来る限りゆっくり動かす」というのが「準静的操作」の考え方だよ!

ということで、準静的という言葉の内容を説明した。

 準静的操作では「とてもゆっくり」動かすので、気体が常に平衡状態にまま変化していくと考える。この場合が仕事が一番大きい(証明は次回だが、今回のアニメーションで実感できたはず)ので、このときの仕事を最大仕事と呼ぶ。

 なお、なぜこのように「できる仕事」にこだわっているかというと、この後の授業では「熱力学的ポテンシャル」なるもの(力学での「位置エネルギー」を発展させたもの)を定義していくという方向で熱力学を理解していきたいのである。

 熱力学ポテンシャルとは(それをとりあえず$U$と書くことにすると)、 $$ \mathrm dU=-P\mathrm dV $$ のように、$U$の変化量が仕事$P\mathrm dV$の逆符号になる、そういう関数である。別の言い方をすれば「仕事を$P\mathrm dV$すれば、その気体の熱力学ポテンシャルが$P\mathrm dV$減る」ということだ。または $$ {\partial U\over \partial V}=-P $$ とも書ける。

 力学のポテンシャルエネルギーも、万有引力の場合、 $$ \mathrm d\left(-{GMm\over r}\right)= - \underbrace{\left(-{GMm\over r^2}\right)}_{押す力}\mathrm dr $$ とか、バネの弾性力の場合、 $$ \mathrm d\left({1\over 2}kx^2\right)= - \underbrace{(-kx)}_{押す力}\mathrm dx $$ のようにポテンシャルエネルギーと仕事が関連していたことに気をつけよう。

 「圧力$P$」に対応する部分に「押す力」が入るのだが、万有引力の場合引くので負になる。バネの場合は伸びている($x>0$)のときは引き、縮んでいる($x<0$)のときは押す。

 力学でエネルギー保存則がとても便利だったのに味をしめて、熱力学でも同様の量を定義したいので、「等温環境で一番仕事ができるのはどんなとき?」を考えた。次回ではこの場合でエネルギーに対応するものを定義していこう。

 先に予告しておくと、熱力学では変化のさせ方に応じていろんな「エネルギー」または「熱力学ポテンシャル」を定義していかなくてはいけないのである!

受講者の感想・コメント

受講者の感想・コメント

 青字は受講者からの声、赤字は前野よりの返答です。

 主なもの、代表的なもののみについて記し、回答しています。

今日やったことはわかったけど、これからの流れがいまいち。
まぁ、やりながら理解していきましょう                        。

速さによって出来る仕事が変わることを始めて知りました。
熱力学でもなんでもそうですが「理想的状態」と「そうでない状態」というのがあるものなのです  。

僕達のまわりには熱効率の悪いものが多そうだと思いました。
その通りです。熱効率についてはまたゆっくりと。

タブレットでピストンを動かすことで、車が如何に無駄に仕事をしているかわかった。
無駄といっても、しょうがない無駄なんですよ、これは。

準静的操作の意味がわかった(同種の感想多数)。
今日はここがわかってくれれば、よし。

車の発進をゆっくり行なうと燃費はよくなりますか?
そんなに簡単な話じゃないからなぁ、車の燃費は。

ピストンで綿を燃やしましたが、逆にひっぱって中の水分が凍るほどに温度を下げることは人力で可能ですか?
一回の操作でそこまで温度を下げるのは無理ですね。

体積を戻したら温度は元に戻ると思ってました。
それは準静的な場合で、そうでないといろんなことが起こる。

進路に迷ってます。好きなことで食べていけるのでしょうか?
それはなかなか難しいですね。

「とてもゆっくり」という簡単な方法で驚いた。
発想としては簡単ですが、実現はできない方法です。

準静的でないことの方が多いと言っていたが、準静的なものがあるのかと気になった。
「準静的」は「理想」です。つまり、実現はしない。

アプリがわかりやすい(同様の感想多数)。
作ってよかった。

「複素数$a+b\mathrm i$($a,b$は実数)と書くよりも「$\mathbb C=\{a+b\mathrm i|a,b\in \mathbb{R}$」と書くほうがかっこよくないですか?
「$n$は自然数」と書くよりも「$n\in \mathbb N$」と書くほうがかっこよくないですか?
う〜ん、私はどうでもいいなぁ。

熱力学をやるために必要な考え方がいっぱいあって大変です。
大変かもしれませんが、実際とっても大事な考え方なのです。

授業の内容