今日の講義の内容

 今日はまず、平和鳥(水飲み鳥)を前に、ケルビンの原理の復習。

 この鳥、周囲からエネルギーを取り出してサイクル運動をしているように見える。ではKelvinの原理はどうなったのか?

 Kelvinの原理は

系のする仕事$W_{\rm cyc}$が0以下になる、というものであった。

 この鳥のおもちゃの作動原理は、

  1. 頭部が湿っていて、水の蒸発により温度が下がる。
  2. 温度が下がると内部の頭部付近に閉じ込められた気体(ジクロロメタン)が液化する。
  3. 内部の液体が頭部に向かって登り、頭部が重くなり、倒れる。
  4. 倒れたことでくちばしが水につかり、頭部が湿る。

というサイクルである。ここで大事なのは「温度が下がる」という過程が入っていること。

 つまりこのおもちゃは、頭部と胴体部の温度差のおかげで動いているので、Kelvinの原理の「等温環境で」という部分に当てはまっていない。よってこのおもちゃが動き続けても、Kelvinの原理には反しない。

 ここで教訓として覚えておいて欲しいのは、正の仕事ができるかどうかにとって大事なのは「温度差があること」だということ。熱機関というと(ガソリンを燃やすなどで)高温部分を作って動くものを思い浮かべてしまいがちだが、このおもちゃの場合は水の蒸発で低温を作ることで動く。

 「熱機関は温度差が大事」ということはこの後でもまた出てくる。

 さて、上の説明では「平和鳥」を一つの系として考えたが、コップおよびコップの水も含めた「系」を対象として考えてみると、この「平和鳥+コップ+水」という系は「等温環境下」にある。ではこう考えるとケルビンの原理は破られるのか?

 いやもちろんそんなことはなく、この場合「水が蒸発する」分だけ、系の状態が元に戻っていないのである。

 したがって、水がなくなる、もしくは湿度100%に達してこれ以上水が蒸発しなくなると、この鳥は止まる。

断熱操作

 ここまで等温操作について考えて、ヘルムホルツ自由エネルギーの定義とケルビンの原理までは説明終わったので、次に断熱操作と内部エネルギーについて考えよう。

 まずは断熱操作の雰囲気、および等温操作との違いをつかんでもらうべく、で、ピストンを押したり引いたりを(等温操作と断熱操作の場合で)じっくりやってもらった。

 ここで注意して欲しいことは、

ということである。

 この後さらに続けて、と、を説明した。

エネルギーの定義と基本的性質

 断熱仕事により増減する量として「内部エネルギー$U(T;X)$」という量を

$U(T;X)=W_{\rm ad}\left((T;X)\to (T^*;X^*)\right)$

または

$U(T;X)=-W_{\rm ad}\left((T^*;X^*)\to (T;X)\right)$

として定義する。$T^*,X^*$は$U$の基準点で、$U(T^*;X^*)=0$と決められているものとする。

 定義が二つあるのは、$(T;X)\to (T^*;X^*)$という断熱操作が常に可能とは限らないからで、その場合は$(T^*;X^*)\to (T;X)$という操作を使って定義する。

 $U$の定義は上のようになっているから、この定義から「$U(T;V,N)$を$T,N$を一定にして$V$で微分する」ということはできない(温度$T$が変化している式しかないから)。

 ここまでで、$W_{\rm max}$を使って定義されたヘルムホルツの自由エネルギーと、$W_{\rm ad}$を使って定義された内部エネルギーの二つが出てきた。この二つは状況が違うが、どちらも「どれだけの仕事ができるか」という量になっている。状況の違いは一言で言えば「熱の関与」だから、この二つの差を考えていくことで「熱」の意味がわかってくる。

 断熱操作は、仕事という形の「目に見える」エネルギー移動だけが起こっている状況での操作というのがその定義であった。このことを前に

のような図を描いて説明したが、断熱操作で出発点と到着点をそろえる(つまり、最初と最後で温度が同じ温度になるようにする)場合を図で表現すると以下のようになる。

 断熱操作で同じ変化を起こす場合、その間に系のする仕事の総量は変化のさせ方によらず、同じ($W_{\rm ad}$)である。

↑は「要請」であることに注意。

 力学のエネルギー保存則は運動方程式を積分することで得られるが、熱力学のこの要請「どんな断熱変化をさせたかによらず、最初と最後が同じなら系の仕事は同じ」というのは、実験と観測により経験則として得られ「要請」になったものである。

と、ここまで内部エネルギーについて説明したところで、また次回。

受講者の感想・コメント

受講者の感想・コメント

 青字は受講者からの声、赤字は前野よりの返答です。

 主なもの、代表的なもののみについて記し、回答しています。

水飲みちょっと欲しいと思いました。
眺めていると楽しいですよ。

等温・断熱操作の違いが、動かし方によって仕事が変わるか、それに影響されないかで、最大仕事を定義する必要があるかだとわかった(同様の感想多数)。
外部環境との間に熱のやりとりがあるかないでその違いが出てきます。

等温操作でも断熱操作でも、「元に戻らない」ところは同じだなと思った。
それはいわば、熱力学の肝ですね。

熱力学のエネルギー保存則は力学のように証明できないというのが興味深かった。
物理では「証明できない原理」がどうしてもありますが、熱力学はその見極めが面白いところです。

$\mathrm dF=-P\mathrm dV,\mathrm dU=-P\mathrm dV$と、等温と断熱で式は同じ形になるが、違いをイメージして理解できるようにしたい(同様の感想多数)。
物理的にどんな変化が起きているか、それが大事です。

断熱操作でもエネルギーが定義できることがわかった。
というより、「断熱操作でこそ」エネルギーが定義できるのです!

断熱操作で外界に行なう仕事は、操作の途中経過によらないことがわかった。
それは大事なポイントですね。

面白かった。しかしこんがらがっちゃうのでしっかりまとめようと思いました。
確かにこんがらがりやすいので、自分なりに整理してみてください。

少しイメージできなかったので、ノートと教科書をみて考える。
じっくり読んで、考えてください。

ルジャンドル変換について調べようと思うんですが、数学の何の分野になりますか?
「解析」や「関数論」にあたります。ルジャンドル変換については教科書にも詳しく載っているし、また授業でもやりますよ。

断熱変化でピストン内の温度が上昇していくことになっとくした。
イメージ作っておきましょう。

アンドロイドの断熱変化が楽しかったです。
動かしながらイメージを理解してください。

FとUの違いがわかりました(同様の関数多数。
そのうち、この違いから、「熱」が定義されます。

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