今日の講義の内容

 最初は例によって講義を受ける上での注意から。だいたいは講義録の表紙ページに書いた通りです。大事なことは

です。最後のは何かというと、机の前だけで勉強するんじゃなく、ふとした日常でも物理現象を感じていてね、ということ。

 とまぁ説教じみた話が終わって、「熱力学」の授業の最初の問いとして

「熱」とは何か?

を聞いてみたのだが、本日出てきた答は以下の通り。

 この中のいくつかはむしろ「温度」の説明になっている。唯一近いのは「エネルギーの移動」だが、これだと「エネルギーの移動」に対応する量は熱以外にもあるので、「熱ってなに?」という質問に答えたことにならない。

 ここまでで熱は「エネルギーの移動」の一種ということになった。こうなると

「エネルギー」とは何か?

という質問をしてみたが、こちらも、曖昧な答しか返ってこなかったのだが、

 具体的には、エネルギーとは下の図のように「仕事をされたことによって増減する物理量」ということになる(下の図こそがエネルギーの定義である)。

 「仕事」の方も上に書き込んだように、力$\vec F$を受けた物体が$\Delta \vec x$移動した時、仕事は$W=\vec F\cdot\Delta \vec x$である。この仕事を行ったとき、行う方は$W$だけエネルギーを失い、された方はエネルギーが$W$増える。よって一方で$-W$、もう一方で$+W$だけエネルギーが変化して、全体のエネルギーは保存する、というのがエネルギー保存則の導出である。

 何を考えるときにも、「定義」をちゃんと行なうことは重要。曖昧な定義ではけっして理解できないので、この点は注意しよう。

 さて、ここまでいかにも「エネルギーが保存する」という話をしたが、実はエネルギーがどっかへ行ってしまう(ように見える)現象は結構ある。

 たとえば物体を落下させると床にあたり跳ね返るが、けっして元の高さまで戻ってこない(位置エネルギー$mgh$がどこかへ行ってしまった)。これを「物体が原子・分子でできていること」に注意して考えると、

 

のように説明ができる。↑にアニメーションがあるので眺めてみて欲しい。

 熱以外にも音になったりしませんか?―どっちが多いんでしょう?

 それは状況によるね。固いものを落とすと「ごつん!」とでかい音がするけど、柔らかいもの(ちなみに授業では布でできたカバンを落としてたのであまり音はしなかった)だと音は出ないし。状況によっては火花が散って光まで出る。

 そういうことを考える学問もあるわけですか。

 音がどれだけ出るかとか出ないようにするにはどうすればいいかを知らないとエネルギーを損することになるから、もちろんそういうことはいろいろ考えるよ。

 同様に、空気中を運動する物体が空気抵抗によって止まっていく様子を分子運動という観点から見たのが、

 

である(↑にアニメーションがある)。

 さて、以上のような説明を聞いて、

ははぁ、熱力学というのはこういう分子運動によるエネルギーの変化(散逸)を考える学問なのだな。

と、思う人もいるかもしれない。ところが、そうではないのである。ここで分子運動の話をしたのは、あくまで熱力学の背後にある物理を「ちょっと覗いてもらう」為である(いわば「カンニング」なのだ)。どちらの場合も「分子を見る眼」があれば「エネルギーは散逸する(広範囲に広がっていく)だけでなくなってはいない」ということがわかる。しかし、分子などというものの存在が確立するのは熱力学ができてからずっと後である(分子運動という「隠れたエネルギー」の存在を仮定することは熱力学に必要ない)。

 では熱力学の考え方はどうかというと、そういう細かいことを考えるのではなく、目に見える現象だけを追いかけて物理をしよう、というところになる分子運動のエネルギーをちゃんと計算して物理現象を知ろう、というのは「統計力学」の方の守備範囲である。

 その分子運動で、分子が全部右へ走ったりとかすることはないんですか?

 そういうことが起こる確率は宇宙の寿命何十回分まっても起こらないほど少ないから大丈夫。そういう確率を考えるのも、統計力学の仕事です。

 少しだけここからの流れを説明しておこう。力学ではエネルギーを「仕事をするとその分減り、された方がそれだけ増加するもの」として定義するわけだが、熱力学では同様に「仕事をすると減るもの」を考えるが、「どのように仕事をするか」に代表的な二つ、「断熱操作」と「等温操作」を考える。

 「断熱操作」は(まだ熱を定義してないけど)、周りとの「熱の出入り」を断って行なう操作で、つまりは外界からの影響なしで行なう操作。一方「等温操作」は考えている系が等温に保たれているので、外から熱をもらったり放出したりできる。

 どちらの場合でも系に仕事をさせるとエネルギーが増減するのだが、

のように、対応する「エネルギーのようなもの」が違う($U$と$F$)と考えるのである。

 $U$と$F$を具体的にどう定義して、それを「熱」に結びつけていくかは、来週以降でじっくりとやろう。

受講者の感想・コメント

受講者の感想・コメント

 青字は受講者からの声、赤字は前野よりの返答です。

 主なもの、代表的なもののみについて記し、回答しています。

仕事やエネルギーとか基本的なところが意外にわかってなかった。
まずは基本的なところが理解できてないと、その上には行けないので、しっかりやりましょう。

「熱」という言葉はよく使うが、その定義を言葉にできなかった。現時点ではまだ知らないが、のちのち定義を言えるようになりたい!
この授業の半分くらいは使いって説明していきます。

力学の復習をしなければと思いました。
やりましょう、是非。

エネルギーと仕事の関係を改めて思い出すことができた。
身につけておきましょう。

「熱」の分野は大学受験の頃から苦手だったので頑張ります。
高校物理でやるより、筋が取った話にはなると思います。

2年前、少し聴講したので聞いた話もあり、自分的にはわかりやすいものだった。熱力学が得意なフレンズになります!たーのしー!
1年生のときから勉強してたのね。だんだん難しくなります。

初回から迫熱した力説で熱についての熱弁ですごかった。
私じゃなく、皆さんが迫熱(?)して欲しい。

自分で「熱」とは何なのかがわかっていなかったことに驚きました。初心にかえって頑張ります。
物理の勉強はまず「これは何?」という定義から始まります。

地学系ですが気象の研究室にいて熱力学がよく出てくるので履修しました。物理量の定義が自分の中であいまいにしている部分が多かったのですが、今日考えてみて、ちゃんとわかると面白いと思いました。
物理はまず「定義」を理解していくことから始まります。

「熱」が自由エネルギーと内部エネルギーで表現されることは自前に勉強していたので知っていたが、より深くどういうものかを考えられた。摩擦の場合を考えるのが分かりやすいと個人的には思いました。
自由エネルギーの定義は次からやりますが、この二つのエネルギーが「なぜ必要か」は今日話した通りです。

先輩方が追々試かかっているのを見てすごく恐怖です。きちんと集中して着いていけるおうに頑張ります。
まぁ、普通に勉強していれば追々試なんてことにはなりませんよ。

熱とはなにかついて、物理学の定義ではエネルギーの移動だとわかった。
いや、「エネルギーの移動」では熱以外のも入ってしまうから、定義としては足りない。

熱というものの定義の難しさがわかった。
「ではどうするか?」が次からのテーマです。

エネルギーの移動時に熱エネルギーが発生することがわかった。
わかってな〜〜い! 熱は「エネルギーの移動」の一つの形、ってことを説明したんだけど。

Qを定義するためにU,Fを定義して差を取るというのは大変納得できた。
次でFをどう定義していくかをやっていきましょう。

Fが気になります。
来週からじっくりやります。

熱エネルギーって何かわかりません。少しでも理解するために教科書読みます。
教科書は繰り返し読んでいってください。

先生は物理の参考書を書いていますが、一番売上が良い書籍は何ですか。
一番最初に出た「よくわかる電磁気学」ですかね。

「もうダメだ」と思ったときのモチベーションの保ち方を教えてください。
しっかり飯食って「明日がある」と思ってぐっすり寝る。

授業の内容