今日の講義の内容
最初にここまでの復習を長めにやった。等温操作と断熱操作の違いについて。受講者の皆さんに質問しつつまとめた。
等温操作 |
断熱操作 |
環境の温度が一定。系の温度は最初と最後では環境の温度と一緒になって平衡に達する。 |
温度は変わる。では一定なものはなんだろう? |
環境との間に熱のやりとりがある。 |
環境と切り離されている。 |
準静的な場合、系のした仕事はヘルムホルツ自由エネルギーの減少となる($\mathrm dF=-P\mathrm dV$)。 |
系のした仕事は内部エネルギーの減少となる($\mathrm dU=-P\mathrm dV$)。 |
準静的でない場合、系のする仕事は経路(変化のさせ方)により変わる。 |
準静的でなくても、系のする仕事は出発点と到着点が同じなら経路によらない。 |
等温線の上なら逆の操作も可能。 |
(準静的な場合を除いて)一方通行である。 |
以上のような違いを踏まえた上で、上の疑問「では一定なものはなんだろう?」への答えとして考え出されたものが「エントロピー」である。
「保存量を探す」という考え方は力学では運動量・エネルギーの保存則という形で成功したので、ここでも同様のことを(エネルギーとは別の量で)目指していると思えばよい。
カルノーサイクルは、等温操作を横線、断熱操作を縦線で表現すれば

になるが、この「横軸」にあたるものが欲しい。この横軸が「横軸」たるためには、長方形の上辺の下辺が一致しなくてはいけない。
つまり、
- 図の$2\to3$と$4\to1$で「変化量」が0。
- 図の$1\to2$での「変化量」の積分と、$3\to4$での「変化量」の積分が逆符号で絶対値が同じ。
になる量がエントロピーである。
$S$は変化量ですか?
いや、状態量である$U,F,T$で書かれた、状態量です。
このような量の候補として$S={U-F\over T}$がある。これは$1\to2$での「変化量」と$3\to4$での「変化量」が等しいことはカルノーの定理よりわかる。$2\to3$と$4\to1$で「変化量」が0にするためには、温度が変化したときの$F$の変化を調整してやればよい。
$S={U-F\over T}$ですが、$T=0$だと困りませんか?
困ります。というわけで、実は$T=0$すなわち絶対零度に達することはできない、という法則もある、という考え方もあります。実際、絶対零度の熱源をつかってカルノーサイクルを回すと効率100%のエンジンができてしまうので困るわけです。
$S=0$の基準点はどうするんですか?
この段階では「適当」でいいです。そもそも$U$や$F$の原点も適当に決めていいので。もう少し話が進むと$T\to0$では$S\to0$にならなきゃいけないとか、あるいは統計力学では$S$のゼロ点が決まるとか、そういう話になりますが、とりあえずは「エネルギーと同じで原点は深い意味がない」と思っていてください。
この後、理想気体の場合でエントロピーを計算した後、エントロピー原理を説明した。
ここで大事なことは「断熱準静操作では変化しないもの」として導入したエントロピーが実は「断熱操作ではかならず増えるまたは不変なもの(減らせないもの)」であったということ。これはケルビンの原理もしくはそれと等価なプランクの原理によりわかる。
こうして「可能な操作なのかどうか」がエントロピーが増えているか減っているかで判定できるようになる。
受講者の感想・コメント
青字は受講者からの声、赤字は前野よりの返答です。
主なもの、代表的なもののみについて記し、回答しています。
今日ははじめに復習があったのでよかった。
聞いていくうちに「ああ、もっと復習しないといかんなこれは」と思いました。
すごく復習できました。Sは断熱準静操作のときに一定となる量として定めたということがわかりました。
そういうものがちゃんと定義できるというのが熱力学のうまくできているところです。
エントロピーは増大するとしって、改めてエネルギーとは別物であることがわかった。
もちろん、別です。
ケルビンの原理の影響力というか範囲はすごく広い。
そりゃもちろん、熱力学の原理ですから。
断熱操作の一方通行性を数式でより簡明に表現できることにエントロピー導入のかいを感じた。
この後、Sという変数のありがたみがさらにわかってくると思います。
もう前期の半分終わってしまったとは思えないです。
いや、なんと${2\over3}$が終わりました。
エントロピーとエンタルピーは単なる言い間違えだと思っていた。
という人たまにいるけど、もちろん全然違います。
温度が下がっただけではエントロピーが下がったとはいえないことに驚いた。
他の変数(VとかNとか)が変わらずにエントロピーが下がったんなら、温度も下がってます。
学生が環境、先生が系だとしたら、先生は等温操作で仕事をしてますか? それとも断熱操作ですか?
互いにやりとりはあるから断熱ではないだろうけど、この場合の「温度」って何で、「仕事」って何だろうね??