今日の講義の内容

 まず教科書の「要請2.1」「要請2.2」について。

 要請2.1は

  • 等温環境の中にある系は、しばらく経過すると「平衡状態」に達し、以後変化しなくなる。
  • 同じ環境に置かれた系の状態は、有限個の示量変数の組で完全に決定される。

とまとめることができる。

 要請2.2は

  • 系を特徴づける「温度」という実数量が存在する。
  • 同じ温度の環境内にあって示量変数の組も等しければ、状態は一つに決まる。

とまとめられる。

 これから任意の平衡状態は、温度と示量変数の組$(T;X)$で表現できる。また、他の物理量(たとえば圧力)もこれらの関数として$p(T;X)$のように表現される。

 前回、

のアニメーションを動かして「ゆっくり動かさないと圧力や温度は『系の状態量』にならない」ということを納得してもらったが、さらにこれを動かしつつ、

「ピストンを引く時(行き)」と「ピストンを押すとき(帰り)」は同じ状態の逆回しになっているか?なっていないとしたら、どこが違うか?

ということを考えてもらった。

ピストンに掛かる気体の力(圧力)が違う。行きは弱く、帰りは強くなっている。
温度が違う。行きでは温度が比較的下がり、帰りは上がっている。

という指摘がきた。もう一つ、密度も変化している。

では、行きと帰りが「逆」現象になるにはどうすればいいだろうか。あついは別の言い方をすると、圧力、温度、密度などが行きと帰りで同じになるようにすればどうすればいいだろう?

ゆっくり動かせばいい?

 そういうこと。それが「準静的」操作というやつで、これの場合だけ「逆の現象」が起こる。力学では(たとえば放物運動)「ビデオに撮って逆回し」もまた実現する運動だが、熱力学で「逆回し」が可能になるには「準静的に動かす」必要があるのである。

 続けて、要請2.4

  • 環境と系を切り離した状態でも、状態は平衡状態に達する。
  • その平衡状態の温度は環境と違ってもいい。

について説明したのち、

で断熱操作の方もアニメーションを動かした。こちらは温度が元にもどらない(環境と切り離されているから)のが等温操作との大きな違いである。

 どちらの操作でも、過程の途中は平衡状態ではない。「等温操作」というものを定義するが、それは途中まで等温だと言っているわけではなく、最初と最後が等温環境の中で平衡なら「等温操作」と呼ぶ。

 さて、ここで「準静的なら逆ができる」ということにこだわったが、それには理由がある。そもそも最初から言っていたように、熱力学ではいろんな状況での「エネルギー」を考える。ところがある操作の「行き」と「帰り」で仕事の絶対値が違っていると、「行って帰って」でエネルギーが元にもどらない。よって「エネルギー」を定義するために準静的な操作が重要になってくるのである。どう重要になってくるのかについては、次回。

受講者の感想・コメント

受講者の感想・コメント

 青字は受講者からの声、赤字は前野よりの返答です。

 主なもの、代表的なもののみについて記し、回答しています。

第一回、第二回と違って教科書に沿っていたのでやりやすかったです(同様の感想多数)。
最初は概観を流した方がよかったかと思ったんですが、わかりにくかったですかね。

要請というものを用いるのはなんかめんどくささを感じますが物理を議論するには必要だからしょうがないのかなぁと思いながら聞いてました。
しょうがないです。というか、理論的体系を作っていくときは物理に限らずなんらかの要請は必要です。

等温と断熱の違いがわかった。
この二つの違いを軸にして今後の説明をしていきます。

等温操作の途中では温度が一定でないことがわかった。
そうなのです。「等温」操作だけど途中は等温でなくていいのです。

ピストンの圧力をなるべく下げないようにゆっくり引くとありましたが、環境の温度を上げてもいいのかなと思いました。
環境の温度は変わってません(等温操作の話なので)。

準静的はとても大事な操作だということがわかりました。だから化学の実験などはゆっくり操作するんですね!
実験のときはまた別の理由がありそうだけど。

仮に外部と熱のやりとりができて-247度で冷やしながら準静的で押したら壁までピストンを押すことが可能ですか?
その条件の意味がわからないけど「壁まで押す」っての「体積を0にする」って意味なら、それは無理というものだな。

力学や電磁気学には時間対称性があって熱力学にはないのは興味深かった。熱というのは力学的エネルギーが保存しないときの一つのエネルギー形態であると考えるならば、時間対称性を持たないことはNoetherの定理と関連付けると少し納得できるように思える。
熱力学で何かが保存すると言えるのは準静的なときだけ、というのはまさに対称性のおかげですね。

準静的操作は平衡状態の維持が大事だというのがわかりました。
平衡状態を経由しつつ変化する、というのが大事なところです。

復習しようと思っても準静的な授業ではないので復習しきれない。
授業準静的にやってたら90分で何も喋れませんがな。

準静的操作を実現してください。
∞の時間が掛かるから、ムリ。

熱力学が少しかわいく思えた。今だけだと思いますが。
まぁ最後まで行っても、そんなに怖いもんでもないよ拭き。

真空状態において熱いコーヒーカップは常に同じ温度といえると思う。これも平衡状態であると思う。
いや、真空でも放射で冷めます。

要請多すぎ…。
まだまだありますよ。

温度とは何かという問いが意外に深いものであることがわかった。
深いですよ。あとで「熱力学的温度」が出てくると「そんな決め方なのか」とびっくりするかも。そして統計力学で「統計力学的温度」とつながると、二度びっくりする。

今日は「準静的は逆にたどれる!」が重要な事だった。
そう、そこは大事。

要請は妖精さんが考えたから仕方ないや〜くらいで大丈夫ですかね。
そのオヤジギャグなセンスは大丈夫じゃないと思う。

来週の熱力学は「エネルギーをどう定義するか」ですか、がんばります。
熱力学のうち、等温操作ではどうエネルギーを定義するか、という話になります。

日曜日の新歓でスポーツレクをしたせいで筋肉痛がやばいです。
それはお疲れ様。

授業の内容