鉄が磁石になる原因は電子のスピンにあるのですが、1980年頃から、そのミクロな原因が良く分からない秩序化現象が
数多く見つかり、「隠れた秩序の問題」と呼ばれるようになりました。
特に、元素の周期律表の下端に位置する希土類系列やアクチナイド系列
の元素を含む物質(通称f電子系)で発見が相次いだことから、
こうした元素に特有の未知の性質があるのではないか、と考えられる
ようになったわけです。その中で、本理論研究の対象として
取り上げたCeB6(セリウムヘキサボライド)は、最も実験研究が進み、
隠れた秩序現象の典型物質と見做されていた物質でした。
我々は、まず、Ceなどの希土類イオンの電子について詳しく調べ、
それが、磁性だけでなく、「多極子」という隠れた
物理量を持っていることを、初めて明らかにしました。
スピンのような従来の磁気モーメントは
双極子となりますが、四極子や八極子などが、
実験では観測されにくい形で存在しているということです。
因みに、その大雑把なイメージは、双極子を棒磁石のようなものとすれば、
高次の多極子とは、花びらや金平糖のような複雑な形状の
分極ということが出来ます。
続いて、量子力学に基づいて多極子の正確な定義を確立し、
多極子の分類を行ないました。これにより、
CeB6が四極子の秩序状態にあること、また、磁場で
誘発された磁性を実験で観測することで、直接観測出来ない四極子構造の
同定が可能なことを示しました。さらに具体的なモデル解析も行い、
各多極子の寄与の大きさを議論しました。