四極子相のNMRと磁場誘起八極子の理論

論文[1]により、CeB6の低温相の正体が四極子の 秩序状態であることが分かってきました。 一方、四極子と一口に言っても、厳密には5種類の成分があるの ですが、CeB6の四極子が「そのうちどれか」あるいは 「どういう組み合わせか」という問いには、明確な回答が 与えられていませんでした。その大きな理由は、 この物質に「核磁気共鳴(NMR)と中性子散乱の矛盾」 として知られた長年の謎あり、それが未解決だったことにあります。

論文[2,3]では、上記のNMRの謎に挑むため、 核スピンと電子の相互作用(超微細相互作用)に関して、 これまでの公式を用いず、基礎原理から導き直す仕事に取り組み ました。その結果、核スピンに掛かる磁場として、従来の 双極子場だけではなく、より高次の八極子場が存在していることを、 群論を用いて初めて明らかにしました。また、Ceの多極子モデルに基づく 超微細場の計算を行い、これまで謎とされてきた実験結果が、 この八極子場によりほぼ完全に説明され、中性子散乱との間の矛盾が きれいに解消することを示しました。 こうして、CeB6の秩序変数が、四極子の成分も含めて完全に 決定されると同時に、この物質が、史上初めて、八極子の寄与が 現れる例として確立されたわけです。

長年の懸案が、八極子という新概念を導入することによって 解決できたことは、CeB6のその後の研究を一気に加速し、 我々のグループを含めて、後進の多くの論文に解析の基礎を 提供しました。 さらに、本研究で発展させた超微細相互作用の解析法は、 多極子系に対する一般的手法として、その後のNMR研究に 大きく寄与することになりました。

[1] R. Shiina, H. Shiba and P. Thalmeier: J. Phys. Soc. Jpn, 66 (1997) 1741-1755.
[2] O. Sakai, R. Shiina, H. Shiba and P. Thalmeier: J. Phys. Soc. Jpn. 66 (1997) 3005-3007.
[3] R. Shiina, O. Sakai, H. Shiba and P. Thalmeier: J. Phys. Soc. Jpn. 67 (1998) 941-949.
[4] 椎名亮輔、酒井治: 固体物理 33 (1998) 631-643.
[5] 酒井治、菊地淳、椎名亮輔、瀧川仁: 日本物理学会誌 63 (2008) 427-434.