遷移金属系における軌道効果の解析
1.LaMnO3(マンガナイト) [1]:
少量の伝導電子をドープされたマンガン(Mn)酸化物が強磁性体であることは
古くから知られていましたが、近年この系で巨大磁気抵抗効果や
多彩な磁性相の存在など重要な発見が相次ぎました。
我々は、Mnイオンのeg軌道の縮退が低温の
様々な磁気構造の安定化に重要な役割を担っていると考え、
異なるMnサイトのスピン及び軌道の相互作用
について解析を行いました。電子の局在極限での有効モデルによって、
軌道縮退系では、異なる自由度間の混成型相互作用の存在により、
スピンが対称性の低い空間配列を取りやすい事を明らかにしました。
安定磁気構造に関する理論実験の比較において、良い一致が
得られることを示しました。
2.V酸化物 [2, 3]:
バナジウム(V)酸化物が多様な結晶構造を示し、また電子状態も
結晶構造に応じて極めて多様な性質をとることが、1970年頃から分かってきました。
なかでも最も有名なのが金属絶縁体転移を示すV2O3であり、
半世紀以上にもわたる長い研究の蓄積がある系です。
この物質に関して、1990年代の後半になり、共鳴X線などの
新しい実験手段による研究が進み、以前信じられていた
秩序状態と整合しない結果が得られ、理論的な再検討が
必要になりました。こうした背景に立って、本研究では、
絶縁相における軌道秩序という新しい観点からV2O3
の電子状態の解析を行っています。まず、Vのt2g軌道の
特徴を正確に考慮して有効ハミルトニアンを導き、安定な軌道状態の
解析を行いました。その結果、Vイオン内のフント結合が強い場合、
複数のVイオンからなる分子軌道を形成する傾向が
現れること、分子軌道間の相互作用により強い揺らぎを伴った
新規な軌道秩序が安定化することなどを示しました。その上で、
新旧の複雑な実験結果に統一的な解釈を与えることに成功しました。
[1] R. Shiina, T. Nishitani and H. Shiba:
J. Phys. Soc. Jpn. 66 (1997) 3159-3170.
[2] F. Mila, R. Shiina, F.-C. Zhang, A. Joshi, M. Ma, and T. M. Rice:
Phys. Rev. Lett 85 (2000) 1714-1717.
[3] R. Shiina, F. Mila, F.-C. Zhang, and T. M. Rice:
Phys. Rev. B 63 (2001) 144422-1-16.