近藤格子の諸問題
強相関系の基礎模型の一種として、局在電子と伝導電子の
相互作用を眼目とする近藤格子模型および周期アンダーソン
模型が挙げられます。私は、これらの基礎模型に現実の物質の
特徴を取り入れた解析を行うことによって、f電子系における
いくつかの興味深い多体効果の解明に取り組みました。
1.近藤半導体の不純物効果 [1]:
半導体的なCe化合物(近藤半導体)における不純物効果に関して、
相互作用とランダムネスを同時に含むモデル解析を行いました。
伝導電子・f電子の混成によるギャップ形成機構を
不純物状態の性質と関連付けて議論し、
Ce3Bi4Pt3などの
代表的な近藤半導体における置換実験を説明することに成功しました。
2.f2拡張アンダーソン模型の局在転移 [2]:
PrやU化合物で実現するf2格子系における価数揺動機構を
解明するため、1重項結晶場基底を局在極限にもつ多軌道
周期アンダーソン模型の解析を行いました。Gutzwiller変分法により、
f電子の局在化が結晶場分裂に対して不連続転移として生じうることを示し、
加えて転移点近傍での特異なフェルミ液体効果を調べました。
3.励起子媒介による超伝導機構 [3]:
f2系の非従来型超伝導の起源として有望視されている
結晶場励起(励起子)媒介によるクーパー対形成機構の解析に取り組みました。
特にUPd2Al3に関して、励起子の非弾性散乱を考慮した
強結合理論による解析を行い、実験結果と詳細に比較することによって、
この機構が現実系で実現していることを示しました。
(マックスプランク研究所グループにおける共同研究。)
[1]R. Shiina:
J. Phys. Soc. Jpn. 64 (1995) 702-705.
[2] R. Shiina:
J. Phys. Soc. Jpn. 74 (2005) 3267-3275.
[3] N. K. Sato, N. Aso, K. Miyake, R. Shiina, (以下6人): Nature 410 (2001) 340-343.