非従来型CDW状態での輸送現象の理論
金属とは、弱い電場を掛けると、すぐに電子が動き出し、
電流を流す物質のことですが、固体中で電子が身動きできない
状態にあって、電流を流さない物質も多数あり、それらは絶縁体と
呼ばれています。それぞれの性質は、量子力学によってかなり
深く理解された一方で、20世紀の半ば以降、それらを
合わせ持つ物質、すなわち、高温では金属で、低温にすると
絶縁体に変わる物質が数多く見つかり、「金属絶縁体転移の
問題」として広く興味を集めるようになりました。
本研究で取り上げたPrRu4P12は、
項目5でも触れたスクッテルダイト物質の一種なのですが、
10年ほど前に金属絶縁体転移が発見され、最近それが
電子の秩序形成と関連した新現象であることが分かってきた
経緯があります。
一般に、イオンに局在した電子(局在電子)は、量子力学に従って、
とびとびのエネルギー値(準位)を持ちます。この点に関して、
スクッテルダイト中のプラセオジウム(Pr)イオンでは、
エネルギーの低い電子が、シングレットとトリプレットと
呼ばれる2準位のどちらかを占有することが分かっています。
本研究では、まず最初に、この局在電子の2準位と電流に寄与する
伝導電子との相互作用が、電子の秩序化と金属絶縁体転移の同時発生を
導くことを示しました。(それは、伝導電子の電荷秩序が局在電子の
占有数秩序により誘起されたもので、非従来型CDWと呼ぶことができます。)
その上で、局在電子の占有がシングレットとトリプレットの間で
激しく揺らいでおり、それが、電気抵抗などの輸送特性の温度変化に、
通常の絶縁体の振る舞いからの大きなズレをもたらすことを明らかにしました。
これらの計算結果が最近の実験結果をよく説明することを示し、
この現象が新種の金属絶縁体転移であることを指摘しました。
[1] R. Shiina: J. Phys. Soc. Jpn. 77 (2008) 083705-1-4.
[2] R. Shiina: J. Phys. Soc. Jpn. 78 (2009) 104722-1-11.