Prof. Patrik Fazekas
ハンガリーのFazekas教授が2007年5月に急逝されました。
Fazekasさんとは長年の研究交流があり、またお世話になった方でもあるので、
ここに簡単に思い出などを書き留めておきたいと思います。
Fasekasさんとの初めての出会いは、私が理科大の博士課程の学生時代で、
1995年だったと思います。当時取り組んでいた近藤格子系の
研究に興味を持ってくれたのが縁でした。笑顔を絶やさず拙い英語を
熱心に聞いてくれまして、謙虚で優しい人柄なのがすぐに分かりました。
その後、私が東工大の斯波先生のポスドクとなり、Fazekasさんも斯波先生とは
旧知の間柄だったことから、長くお付き合いすることになったわけです。
おそらくハンガリーというお国柄もあってのことでしょうが、
Fazekasさんは世界中を渡り歩いて研究生活を送っていました。
特に2000年以降は毎年のように訪日していまして、私がいた首都大にも
何度か足を運んでくれました。あるとき夕食をご一緒
して蟹を勧めたところ、「この生き物は何だ」と気味悪そうにしながら、
最後には、とても美味しいと甲羅の隅々まできれいに食べていたことが
懐かしく思い出されます。日本人も日本の食べ物も大好きだったようです。
Fazekasさんは電子相関を軸に幅広い問題に取り組まれ、それはしばらく
前の著書からも伺えます[1]。特に、初期の仕事として有名なのが、
Andersonと共著のスピン液体の論文[2]で、30年以上前の仕事ですが、
そこで提起された問題はまだ未解決なのではないでしょうか。
ちなみにFazekasさんはAndersonのポスドクだったそうです。
2000年以降は、f電子系やd電子系の軌道秩序の問題に取り組んでおり、
私とも研究交流があったことは前述のとおりです。当時、日本で研究が
始まったばかりの「スクッテルダイト化合物」にいち早く目を付けて論文を
出されたことには、ちょっと驚かされ、また関心したことを覚えています。
亡くなる直前まで精力的に仕事をされていたようです。
近年欧米では、与えられたモデルを如何に解くかということに理論の重点が
置かれ、現実の物質とモデルの関係をしっかり理解している理論家が
少なくなっているように思います。こうした物質の分かる数少ない理論家の
一人として頑張っておられただけに、Fazekasさん急逝は大変残念です。
後に残った私たちが一層頑張らなければという思いが、日に日に強く
なっています。
[1] P. Fazekas:
"Lecture Notes on Electron Correlation and Magnetism", Series in Modern
Condensed Matter Physics 5, World Scientific (Singapore), (1999)
[2] P. Fazekas and P.W. Anderson:
"On the ground state properties of the anisotropic triangular antiferromagnet",
Philosophical Magazine 30 (1974) 423-440.
---2009年10月1日記