強相関電子系について:
固体中の電子の性質を決める重要な要因の一つに電子間力があります。電子は、
その名の通り電気の素である電荷をもっており、そのためお互い自由には動けず、
常にクーロン反発力を感じあって運動しているのです。
固体電子の研究の中で、こうした電子間力の強い物質群の研究は、特に「強相関電子系」
と総称される一分野を形成しています。電子が、一つ一つ独立ではなく、
強い電子間力による相互関係、すなわち「相関」のもとで運動している、そのとき
電子系全体がどのような状態になるか、ということを研究する分野です。
では、なぜ強相関電子系の研究が重要なのでしょう? その答えは、電子間力により、
思いもよらない現象が引き起こされることがあるからです。そして、歴史的に見ても、
そうした新現象を発見し、解明を進め、制御を可能にすることが、様々な応用技術の
発展に極めて役に立ってきたからです。例えば、磁石に代表される磁性現象やゼロ抵抗を
もたらす超伝導現象はその典型例とも言えるでしょう。実は、磁石とは、固体内の電子の
スピンが電子間力により勢揃いした状態ですし、超伝導とは固体内の電子がやはり電子間力
により散乱されないペアを形成した状態なのです。
私の研究分野は、このような電子相関がもたらす豊かな物理を、(実験ではなく)
数学によって解明してゆく理論物理の一分野でもあります。多数の電子の相互作用
に関わる問題は「多体問題」とも呼ばれ、数学的にも重大な難問を含んでいます。
理論の研究では、しばしば、一見複雑な固体現象が、一見抽象的な数学によって、
極めて精緻に解明されることを目の当たりにします。それは、芸術作品に触れた
ときの驚きや感動に勝るとも劣らぬ体験であり、同時に理論に生命を吹き込む
この上ない喜びが感じられる瞬間でもあります。
実際の研究は、机上や頭の中での計算に、コンピュータを援用して行っていますが、
その詳細を分野外の人に伝えるのは容易ではありません。もし、「固体電子」や
「理論研究」に興味もたれたら、気軽に研究室をお尋ね下さい。
研究室では、コーヒーを飲みながら、ウロウロしていることが多いのですが、
暇を持て余しているのではなく「研究」をしている(あるいはしようとしている!)
のです。そのあたりの雰囲気もお伝えできたらと思いますので。
---2013年1月30日記