量子力学2005年度講義録第2回

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第10章 物理量と期待値・続き

 この章は、本来は前期の最後(第9章)でやりたかったのだが、前期の終わりの時間が迫っていたので後期に回した部分。

10.1  期待値・固有値と物理量

 量子力学では、古典力学での物理量に対応するものはなんらかの形で演算子となり、古典力学的な 量はその演算子の期待値に対応する。「物理量が演算子になる」と言われると「いったいどういうこと?」と戸惑ってしまう人が多いと思うが、その意味はこう いうことである。量子力学では、時間発展する力学変数は波動関数45であって、観測によって得られる量(古典力学では力学変数だった量)は波動関数から得られる期待値や固有値に対応する。波動関数から期待値なり固有値なり、なんらかの値を取り出すために必要になる操作が今考えている「演算子」なのである。
 波動関数は空間の各点各点に値があるので、事実上無限の自由度を持っている。その無限の自由度の中から、ある特定の情報( < x > だとか < p > だとか)を引き出すのが「期待値を取る」という演算である。
 以下で証明する定理があるので、実数の観測値を持つ物理量に対応する演算子はエルミートでなくてはならない46



[問い10-1] 演算子がエルミートであれば、その固有値はかならず実数であることを証明せよ。
(Hint:∫(Aψ)* ψdx=∫ψ* Aψdxに、固有値方程式Aψ = aψを代入する。もしaが複素数だったらどうなるだろう?)
[問い10-2] 演算子がエルミートであれば、その期待値はかならず実数であることを証明せよ。
(Hint:期待値 < A > =∫ψ* Aψdxの複素共役をとってみればよい)
↑でプリントが二重積分になっていましたが、ミスプリであって積分は1回です。



 なお、二つの演算子A,Bが任意のψ,φに対して

ψ* Aφdx = (Bψ)* φdx
(10.1)
を満たす時、「BはAのエルミート共役である」と言い、B=Aと記号fを使って表す。エルミートな演算子とは、エルミート共役が自分自身と等しい(A=A)演算子である。

 †ってギリシャ文字かなんかですか?
 短剣を表す記号なんですが、なんで短剣がエルミート共役なのかは、私も知りません。

 さてここまでは座標xや運動量pの期待値を考えてきた。特に運動量は演算子−ihbar[∂/∂x]だと考えることができた。関数eikx
−ihbar
∂x
eikx=hbark eikx
(10.2)
という方程式を満たすから、固有値が hbarkであるような運動量の固有関数である。
 一般の波動関数は
ψ(x)= 1






dk ψ(k) eikx
(10.3)
のように、運動量の固有関数で展開することができた47。展開係数ψ(k)は、「今考えている状態が運動量hbarkを持つ確率振幅」と考えることができる。つまり、この状態の運動量を観測すれば、hbarkからhbar(k+dk)までの間の値が得られる確率が|ψ(k)|2 dkである。
 波動関数をある物理量を表す演算子(今の例の場合は−ihbar[∂/∂x])の固有関数(今の例の場合はeikx) で展開した時の展開係数の絶対値の自乗は、その物理量を観測した時にその値が得られる確率に比例する。この考え方を量子力学の確率解釈と言う。この解釈が 妥当かどうかは実験でチェックされるべきであるが、今のところはこの解釈を破棄しなくてはいけないような実験結果はない。

10.2  エネルギーの期待値と固有関数

 同じようなことを、他の物理量に対しても実行可能である。 たとえばエネルギーの期待値はihbar[∂/∂t]あるいはハミルトニアンHをψ*とψの間にはさむことで計算できる(シュレーディンガー方程式があるので、どちらであっても結果は同じ)。
 たとえば今ある波動関数を
ψ(x,t) = φ1(x) e−iω1 t2(x) e−iω2 t3(x) e−iω3 t+…
(10.4)
のように、各々がωiの角振動数を持った波e−iωi tの重ね合わせで表現したとする。
 これらの各項はシュレーディンガー方程式の解になっていて、

H φi(x)e−iωi t =
ihbar
∂t
i(x)e−iωi t)
H φi(x)e−iωi t =
  hbarωi φi(x)e−iωi t

(10.5)
という式を満たしている。最後の式は両辺をe−iωi tで割ると
i = Eiφi
(10.6)
という形になる(ただしEi=hbarωi)。この形の式は「定常状態のシュレーディンガー方程式」と呼ばれる。これの解は、エネルギーが固有値Eで確定している状態を表す。なぜe−iωtのような振動している解なのに、「定常状態」と呼ぶかというと、波動関数がψ(x,t)=φi(x)e−iωi tという形をしていると、確率密度ψ*ψや、間に(tの微分を含まないような)演算子Aをはさんだψ* Aψなどの式の中には時間依存性が入らない(eit×e−iωi tとなって消し合う)からである。
 我々は波動関数そのものは観測できない。観測して実験と比較することができるのは∫ψ* Aψdxのようにして計算される期待値だけである。よって、たとえ波動関数がψ(x,t)=φ(x)e−iωtのように時間的に変化していても、ψ* Aψと組み合わせた時にこの時間が消えてしまうのであれば、それは時間変化していないのと同じことである。それゆえ、波動関数がφ(x)e−iωtという形で書ける時は「定常状態」なのである。つまり、量子力学においては「定常状態」は「エネルギーの固有状態」と同じ意味になる。
ψ(x,t) = φ1(x) e−iω1 t2(x) e−iω2 t3(x) e−iω3 t+…と書けている場合はもちろん定常状態ではない。この式の各項がいろんな振動数で振動するので、ψ* Aψと計算しても時間が消えずに残る。もちろん、我々が普段見る古典力学的な物理現象(つまりほとんどの物理現象)は「定常状態」ではない。
このようにして展開した波動関数の各成分はhbarωiずつのエネルギーを持っている(そしてそれは演算子であるハミルトニアンHの固有値でもある) 。このようなエネルギー固有値の違う波動関数の重ね合わせに対して、運動量固有値の違う波動関数の重ね合わせの場合と同様の計算ができる。
 運動量の場合、波動関数を
ψ(x) = 1






dk ψ(k) eikx
(10.7)
のように分解したとすると、その各成分eikxは、hbarkずつの運動量(演算子−ihbar[∂/∂x]の固有値でもある)を持っていて、それぞれの成分の前についている係数ψ(k)の絶対値の自乗が、運動量がhbar kになる確率となる。そして波動関数ψ*とψの間に−ihbar[∂/∂x]をはさんで積分することで期待値を計算できた。
 エネルギーの場合も同じように、波動関数の間にエネルギーの演算子をはさんで積分する。すなわち



ψ*( ihbar
∂t
) ψdx
=

*1(x) e1 t*2(x) e2 t+…) ( ihbar
∂t
) 1(x) e−iω1 t2(x) e−iω2 t+…) dx
=

*1(x) e1 t*2(x) e2 t+…) (hbarω1φ1(x) e−iω1 thbarω2 φ2(x) e−iω2 t+…) dx
=
hbarω1


φ*1 φ1 dx

E=hbarω1 となる確率 
+hbarω2


φ*2 φ2 dx

E=hbarω2 となる確率 
+hbarω3


φ*3 φ3 dx

E=hbarω3 となる確率 
+…

(10.8)
となって、これは期待値の定義通りのものとなる。
 最後の行では、運動量同様、Hの固有値が違うものどうしをかけて積分すると0になる(直交する) すなわち、

φ*i φj dx = 0    (i ≠ jの時)
(10.9)
という事実を使って計算を楽にしている。これは運動量やハミルトニアンでなくても、エルミートな演算子であれば成立する(下の問題参照)。波動関数に関する計算を簡単にしてくれるありがたい法則である。



[問い10-3] 演算子Aがエルミートであるとする。ψ,φがAψ = aψ,Aφ = bφ(a ≠ b)のように、異なる固有値を持つ固有関数であった時、

ψ*φdx=0
となることを証明せよ。



 (10.8)の最後の表現を見ると、エネルギーの値であるhbarωiに、エネルギーがその値を取る確率∫ψ*i ψi dxをかけ、全ての場合で足し算されている。すなわちエネルギーの期待値を計算したものになっている。ここでも、ihbar[∂/∂t]なりHなりをψ*とψの間にはさむことでエネルギーの期待値が得られた。
時間依存性がe−iωtだけになっているような状態はエネルギーが確定している状態であるが、この場合、確率密度ψ* ψは時間によって変化しなくなってしまう。この事情は運動量の固有状態について考えた時に、eikx一つで表される状態(∆p=0) が、空間に均等に拡がってしまい、∆x=∞になるのと同様である。この意味で、∆x∆p同様に、∆Eと∆tの間にも
∆E∆t > h
(10.10)
という制限(不確定性関係)がある。なお、右辺のhは厳密な値ではない。
 ここで一つ注意。不確定性関係についてはよく「一方を観測しようとするともう一方の観測誤差が大きくなる」という感じの表現が見られる。だから誤解してしまう人が多いのだが、不確定性関係自体は「観測しようとすると」という前提があって成立するものではない。 誰かが観測するかしないかとは関係なく、一つの状態における∆pと∆x(あるいは∆Eと∆t)の間の関係なのである。後で具体的に示すが、∆xなどの値は xの標準偏差として(観測とは無関係に)計算される。∆xは「ψがこれぐらいの範囲に拡がっている」という意味での数値であって、観測誤差を示しているの ではない。もちろん、そのように拡がった状態を観測すればxの観測値は∆x ぐらいの幅をもって拡がってしまうのは当然であるから、「観測誤差は最良の実験装置でも∆x ぐらいになる」ということは間違ってはいない。間違ってはいないがしかし、ほんとうに大事なのは観測前からある「状態の拡がり具合」であることを忘れては いけない。
∆E ∆t > hの場合も∆x∆p > hの時と話は同じで、∆tは波動関数の「ある特定の状態」の時間的拡がり、すなわち「この範囲ではψ*ψにほとんど変化が見られない」という時間的長さなのだと解釈すべきである。 極端な場合、∆E=0になっているのは、上にあげたψ(x,t)=φ(x) e−[i/((h/2π) )]Etのような関数になっていて、ψ*(x,t)ψ(x,t)=φ*(x)φ(x)となっている。この場合、状態の確率密度には全く変化が見られない。また、∫ψ* x ψdxのように間にxをはさんで積分すればxの期待値が計算できるが、これもエネルギー固有状態ならば時間によらない。
一方、
ψ(x,t) = A1φ1(x)e−iω1t+A2 φ2(x)e−iω2 t
(10.11)
のような、二つの状態の重なりの状態を考えて、その状態に対してxの期待値を計算すると

< x > = ψ*xψdx =

(A*1φ*1(x)e1t+A*2 φ*2(x)e2 t)x(A1φ1(x)e−iω1t+A2 φ2(x)e−iω2 t)dx
=
|A1|2 φ*1(x)xφ1(x)dx+|A2|2 φ*2(x)xφ2(x)dx

+A1A*2 e−i(ω1−ω2)t φ2*(x)xφ1(x) dx +A1* A2ei(ω1−ω2) t φ1*(x)xφ2(x) dx

(10.12)
となる。今度はtは消えることなく、後ろ2項が時間的に変化する部分となる。つまり、これは定常状態ではないのである。
  そして、その変化は
ω1−ω2 = E1−E2
hbar

(10.13)
で表される振動数で起こる。一つのEしかない状態(つまりエネルギー固有状態)は時間的変化がまるでないつまらない世界だが、いろんなEを持つ波を重ね合わせることで、なんらかの時間変化を作ることができるのである。このエネルギーの幅が∆E=E1−E2であると考える。すると、時間[hbar/∆E]たつと確率密度が一回増減する。逆に言えば、これより小さい時間では確率密度はたいして変化しない。そういう意味でなんらかの状態変化が起こるには、[hbar/∆E]程度は待たなくてはいけない。
∆t=[ hbar/∆E]の範囲内には状態変化がほとんどない(その時間内ならどの時間も同等)のだから、何か実験を行った時、「何かが起こる時刻」はそれぐらいの幅の間 のどこで起こるのか予測不可能になる(ゆらぎを持つ)だろう。だが、∆t(時間的拡がり)は観測前からそこにあったのである。そしてその最初からあった不 確定性が、∆E∆t > hという式を満たすのである。

【以下長い註】この部分は、最初に勉強する時は理解できなくともよい。
 相対論では、3次元運動量piとエネルギーEは一つの4元ベクトルにまとまる。いわば、エネルギー(正確には、エネルギー÷c)は「運動量の時間成分p0」となってしまう。だから運動量を演算子で表すと−ihbar[∂/∂x ]であるのに対してエネルギーを演算子で表すとE=ihbar[∂/∂t]なのである。このようになるのは、波動関数ψ ≅ ei(x−ωt)のexpの肩が
i(
k
 
·
x
 
−ωt)= i
hbar

(

p
 
·
x
 
−Et) = i
hbar
pμ xμ
(10.14)
と書けることに関連している。最後の式ではp0=−p0=E/cであって、x0=ctであることを使って4次元的に書き直している。
 「運動量が−ihbar[∂/∂x]なのにエネルギーがihbar[∂/∂t]と、符号がひっくり返っているのはなぜですか?」という質問をされることもよくあるが、相対論的に定義されたエネルギーはp0(上付き添え字)であって、それを使ってローレンツ不変な内積を作ると、
pμ xμ = −p0 x0 + pi xi = −Et +
p
 
·
x
 

(10.15)
となることにその理由があると思ってよい。
 そして相対論的不変性を考えれば、∆x ∆p > hなのなら∆E ∆t > hになることも当然のように思えてくる。ただし、今やっているのはシュレーディンガー方程式という「非相対論的な波動方程式」なので、その立場では∆x ∆p > hと∆E ∆t > hはあくまで別の種類の式である。

【長い註終わり】
ハミルトニアンHは今考えている系がどんなものかによって、いろんな形(調和振動子なら[(p2)/2m]+1/2kx2、クーロン力なら[(p2)/2m]−[(ke2)/r]) を取る。そのようなそれぞれの場合について、固有状態(エネルギーが確定した状態)がどのようなものかを求めて行けば、実際に存在する状態はその固有状態 の重ね合わせで得られる。よって、エネルギー固有値を求めることが今後行うべき計算の第一歩になる。実は量子力学で行う計算のほとんどはこれである。「量 子力学の計算ってエネルギー固有値を求めるだけなのか。なんだつまらない」などと思ってはいけない。エネルギー固有値や固有状態が求められれば、それを重 ね合わせることでどんな状態の時間発展も計算できてしまうのだから、エネルギー固有値と固有関数を求める作業が完成すれば、完全な時間発展を求めたことと 同じである。
古典力学でも量子力学でも、目標の一つは「最初こういう状態にあった。時間が経ったらどんな状態に変化するか」 という問題を解くことである。古典力学では粒子の位置xや運動量pを与えることでその後の運動を計算できた。量子力学では、ある時刻の波動関数全体を与え て、それ以降の波動関数を計算していくことになる。量子力学の方が計算すべき者が多いことになるが、その計算すべき量を少しでも減らすために役に立つのが 重ね合わせとその逆の分解である。最初にあった状態をエネルギーの固有関数に分解する。各々の固有関数は決まった振動数で時間発展する。時間発展した後の 固有関数たちをまた重ね合わせれば、もとの波動関数がどう時間発展するかがわかるのである。
エネルギーに限らず、その他の物理量(たとえば角運動量x ×pなど、xやpの組合せで表現できるものでもよい)も同様にψ*とψの間に対応する演算子をはさみこむという操作で計算できると考えられる。演算子であるということを強調するのに、文字の上にハット( )を加えて、x,p,Eのように書くことがある。
一般の演算子Aに対して固有関数となる関数をψ123,… とする(すなわちAψi=aiψiのようにいろんな固有値a1,a2,… を出す関数を考える)。一般の波動関数ψは、
ψ = f1 ψ1+ f2 ψ2+ f3 ψ3+…
(10.16)
のように重ね合わせで表現できる。fiは、どの波動関数がどの程度まざっているかを示す係数である。各々の波動関数ψiが規格化済みだとすると、fiを求めるには以下のようにすればよい。


ψi* ψdx =

ψi*(f1 ψ1+ f2 ψ2+ f3 ψ3+…+fi ψi+…)dx
=
fi
ψi* ψi dx = fi

(10.17)
このように、ψ*iをかけて積分することによって、ψiを含む部分以外はゼロになってくれるおかげで、fiを計算できる。これはさっき証明した「異なる固有値を持つ固有関数は直交する」という性質のおかげである48。この計算法は、波動関数をいろんな形で表示する時に役に立つ(フーリエ変換はまさにこの計算法の一例である)。
この後、いろんな波動関数をいろんな表現で表していくことになる。たとえばエネルギーの固有値 を使って分解したり、角運動量の固有値をつかって分解したりする。そして分解した各成分を調べれば、現実にそこにある波動関数(一般には各成分が重ね合わ されたもの)の運動を知ることができる。


学生の感想・コメントから

 波動関数は観測できないのに、なぜあるとわかるのですか?
 観測されている事から推論して、波動関数とシュレーディンガー方程式という概念をつくり、それに基づいてどんなことが起こるか計算してみる。結果を実験と照らし合わせる。実験を完全に再現することができたら、「ある」と言っていい。

 ψ(x)とψ(k)というのが別の関数というのは間違えやすそうな気がしました。
 心配な人は文字を変えて書きます。ただ、同じ文字を使っている場合でもびっくりしないよう、そういう書き方を経験しておいてもらいたいと思って使いました。

 自由度が無限にあるという話を少ししてましたが、ある授業で1自由度あたりkT/2だけエネルギーが分配されるということを聞いたのですが、これは古典的な考えですか。
 等分配則は古典的な考え方ですね。それにあの場合の自由度は力学的自由度で、波動関数の自由度とは数え方が違います。

 エネルギーと時間の間に不確定性があるとはびっくりした。
 授業では話しませんでしたが、テキストに書いておいたように、相対論的に考えるとあって当然という気がするかもしれません。

 ΔE・Δt>hの不確定性関係でtが物理量でなくパラメータなのにこの関係が成り立っているのは、Eとtが互いに共役であることを示しているんですか?
 シュレーディンガー方程式を解くときの立場では、tとEは共役に扱っているわけではないので、それは違います。あくまでeiωtという波の重ね合わせによって生まれる関係だと考えるべきでしょう。

 波動関数がフーリエ展開できるというのは、波動関数が波を表していることの表れなのでしょうか?
 フーリエ展開すること自体は、どんな関数でもできます。ただ、展開された各項が波動方程式の解になっていることが、波動関数が波であることの現われです。

 今日やったことは計算の技術といってもよいのでしょうか?
 エルミート性をつかって計算を簡単にしたり、固有関数展開したりするところは計算の技術ですが、「固有関数展開した各項の係数が確率振幅を表す」というところに量子力学の物理の深い部分があります。

 固有状態というのはどういう状態のことですか?
 固有関数になっている状態のこと。

 定常波というのは、時間的、空間的に同様な波のことなんですか?
 いえ、進行しない波のことです。振動したり、場所による変化があってもかまいませんが、その波が伝播していかないように見える波です。

 
ψ(x) = 1






dk ψ(k) eikx
の前の係数はなぜ
1





なのですか??
 今日は細かい計算しませんでしたが、こうしておくとψ*(x)ψ(x)dx = ψ*(k)ψ(k) dkが成立するのです。

φ* 1hbarωφ2 dx = 0 がわからなかった。
 問い10-3をちゃんと解いてみましょう。

 表面項を考えないというのは、フーリエ変換で両端が同じ値をとるというのと同じかと思った。
 その場合も表面項は消えます。とにかく端っこの値が効いていないならば表面項は無視できる。

 僕のしているフーリエ変換はcosとsinでしたが?
 e=cosθ+i sinθなので、実は同じことなのです。

Footnotes:

45なお、正確に言う と「波動関数」というのは量子力学的「状態(state)」の表示方法の一つであり、実は他にも状態を表現する方法はある。だから『力学変数は量子力学的 状態である』とする方が正しい。しかもこれが成立するのはシュレーディンガー描像の場合であって、ハイゼンベルク描像(この講義では扱わない)の場合では 演算子の方を力学変数にする。
46もし古典的に複素数で表されるような量を考えているのなら、それに対応する演算子はエルミートでなくてもよい。ただ、あまりそういう量を使う例はない。
47念のために書いておくと、昔からの慣習で同じ文字をつかってψ(x),ψ(k)と書いているが、もちろん、ψ(k)は「ψ(x)のxにkを代入したもの」ではない。関数の形は全く違う。
48ただし、同じ固有値を持つ固有関数が複数個あるような場合には少々話が複雑である(いずれ出てくるので注意)。このような場合、「波動関数が(あるいは状態が)縮退(degenerate)している」と言う。


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On 20 Oct 2005, 12:18.