2005年度「相対論」試験問題


以下の問いのうち、4問を選択して答えよ。5問以上答えた場合は点数のいい方から4問分を集計して得点とする。

[問い1] ローレンツ変換の形を求めたい。以下の計算において、y,z座標は簡単のため無視して、x,tの2次元座標で計算をしよ う。二つの座標系の変換が1次変換であり、かつ原点が一致するとする。いま、x′座標系の原点x′=0がx座標系では速度vで運動しているとすれば、座標 変換の形は
x′=A(v)(x−vt),    t′=B(v)(t−α(v) x)
となる。A(v),B(v),α(v)はvの関数であり、その形は後で求められる。
  1. x座標系において原点から発せられた光はx=ctを満たす。光速度不変 の原理から、この光は同時にx′=ct′を満たさなくてはいけない。このことから、A(v),B(v),α(v)の間に成り立つ式を求めよ。
  2. 逆向きに進む光は、x=−ctとx′=−ct′を同時に満たす。このことからもう一つの式が出る。求めよ。
  3. ローレンツ変換は等方的であろうから、A(v)=A(−v),B(v)=B(−v)と考え られる。また、v→ −vということはx軸の向きをひっくり返すとい うことだから、α(−v)=−α(v)であろう。この対称性と上の二 つの答から、α(v)を求めよ。また、A(v)=B(v)であることを示 せ。
    問題文に関するお詫び:最初にあるA(v)=A(−v)とかの説明(青い字の部分)は、本来次の 4.のための説明でした。この問題ではこの条件は使いません。
  4. この変換を行列で書けば、

    (
    x′
    t′
    ) =A(v)(
    1
    −v
    −α(v)
    1
    )
    (
    x
    t
    )
    となるだろう。この逆変換はv→ −vと置き換えられば得られるであろうから、

    (
    x
    t
    ) =A(v)(
    1
    v
    α(v)
    1
    )
    (
    x′
    t′
    )
    である(上で使った対称性をここでも使った)。これがちゃんと逆変換になることから、A(v)を求めよ。

解答例


[問い2] 4元運動量はPμ = m[(dxμ)/dτ]と定義される。ただし、固有時τは
c22 = c2 dt2 − dx2 −dy2 −dz2
で定義される。
  1. 4元運動量の各成分を、3次元速度vi = [(dxi)/dt]および3次 元速さv=√[((v1)2+(v2)2+(v3)2)]を使って表 現せよ。
  2. 座標xμが(x′)μμ νxνのようにローレンツ変換された時、4元運動量はどのように変換されるか?
  3. τが「固有時」と呼ばれるのはなぜか?
  4. 4元運動量の自乗ημνPμ Pνはどのような値を取るか、 求めよ。ただし、η00=−1,η112233=1で あり、それ以外のημνは0である。
  5. 4元運動量の第0成分のc倍(cP0 )がエネルギーであることを導け。
解答例


[問い3]
ある座標系(x,ct)で見ると、最初止まっていた電車(この時、長さLであっ た)が、時刻ct=0で一瞬で加速して速度vを持った。
発射する電車の時空図
その状態を表しているのが右のグラフである。動き出した後の電車が静止して見えるような座標系(x′,ct′)を考える。
  1. ct′軸が垂直、x′軸が水平になるように、グラフを書き直せ。電車の先端、後端を表す線を書き込むこと。
  2. (x′,ct′)座標系で見ると、電車は最初速度−vで動いていたものが静止したこ とになる。しかも、同時の相対性により、電車の各部分が静止する時刻は同時で はなく、電車は先端の方が先に静止したことになる。先端が停止してから後端が 停止するまでの時間はどれだけか。
  3. (x′,ct′)座標系で考えると、電車の長さは停止が始まる前はどれだけだ ったことになるか。
    (註:(x′,ct′)座標系で測った「電車の長さ」とは、(x′,ct′)座標系で見て 同時刻(ct′が一定)において電車の先端と後端がどれだけ離れている かで考える)
  4. 電車の固有長さは、最初(加速または停車が始まる前)はどれだけで、 最後(加速または停車が終了した後)はどれだけか。固有長さとは、そ の時その時で電車が静止している座標系で測った電車の長さである。つ まり「加速前の(x,ct)座標系での長さ」と、「加速後での(x′,ct′) 座標系での長さ」である。
  5. 電車の固有長さが変化してしまう(もし、電車が伸び縮みしないような 固い物質でできていたとしたら、破壊されることになる)。こうなる理 由を説明せよ。
    (単に「ローレンツ短縮が起こるから」のような説明は却下である。(2)の答と 照らし合わせて、どのような物理現象が起きているのかを具体的に示す こと)

解答例


[問い4]
物体Aと物体B
ある座標系(x,ct)上で一次元運動を考える。この座標系上で、速度vで動く物体Aと、速度wで動く物体Bがある。
  1. 物体Bの4元速度Wμの第0成分W0と第1成分W1はwを使ってど のように書けるか(註:y,z方向は今考えていないので、W2,W3は0 である)。
  2. Aが静止するような座標系を(x′,ct′)座標系とすると、(x,ct)から (x′,ct′)へのローレンツ変換はどう書けるか。
  3. (x′,ct′)座標系では、Bの4元速度(W′)μ の第0成分と第1成分は どうなるか(ここでも、y,z方向は考えない)。
  4. (3)の答から、Aの上に乗っている観測者から見たBの(3次元的)速度を求めよ。
  5. |v| < c,|w| < cならば、(4)の答の絶対値がcより小さくなることを証明せよ。
解答例


[問い5]
マイケルソン・モーレーの実験装置は、模式的に表すと下の図のようなL字型の 装置で、中心にある発光点から光が出発し、上と右にある鏡で反射してまた発光 点に戻ってくる。装置が静止している座標系で測定すれば、腕の長さはどちらも Lである。それゆえ、この座標系では光が同時に発光点に戻ってくることは自 明である。
マイケルソン・モーレー実験の概念図
のように時空点A,B,Cを定める。
特殊相対性原理から、この座標系に対して並進しているどのような座標系でも同 じ物理法則が成立するのであるから、この装置がどのように並進運動していたと しても、光が同時に発光点に戻ってくるという事実は変わらないはずである。そ こで、装置が右に向かって速度vで等速運動しているように見える座標系でこ の問題を考える。
下の図は、この座標系における、マイケルソン・モーレーの実験の装置の発光点 と右側の鏡の軌跡を描いたグラフである。
マイケルソン・モーレー実験の時空図
グラフのx座標は横方向を表す。縦方向(y座標の方向)はグラフには書かれて いない。
光が発光点を出発する時空点を原点(x=0,ct=0)とする。ct=0において、発光点と右側の鏡は、L′=L√{1−(v/c)2}だけ離れている。
  1. A,B,C、および右側の鏡で反射して戻ってくる光の軌跡を書き込んだグラ フを解答用紙に書け。
  2. A,B,Cの(x,ct)座標を求めよ。
  3. A点とB点は、装置の静止系においては同時刻である。このことから、装置の静止系の同時刻線をグラフに書き込め。その線はグラフ上でどれだけの傾きを持つか。
  4. 装置の静止座標系を(x′,ct′)とし、(x,ct)座標系と原点は一致しているものとする。A,B,Cの各点の(x′,ct′)座標を求めよ。
解答例


[問い6] 以下は電磁気学で有名なパラドックスである。いっけん「特殊相対性原理には反例がある」という主張が行われているが、それはこの論理展開のどこかが間違っているからである。どこが間違っているかを指摘し、パラドックスを解決せよ。
数式を使って厳密な証明まで行わなくてもよい。
 電流が流れている導線から少し離れたところに静止した電子がいる。導線には流れている自由電子(−電荷)がいるが、静 止している金属イオン(+電荷)もいて、全体として電荷は中和している。ゆえに導線のまわりに電場はない。電流があるから磁場はあるが、磁場は止まってい る電子に力を及ぼすことはない。よってこの電子は力を受けない。
 ここで、流れている電子と同じ速度で移動しながらこの現象を見たとしよう。電子は止まって しまうが、金属イオンは逆に動き出すので、やはり電流は流れている。故に磁場はやはり発生している。今度は外においてある電子は動いている。磁場中を動く 電子は力を受けるので、この立場で考えると電子には力が働く。
 ということは、この場合、見る立場によって現象が違う。つまり、特殊相対性原理の反例が見つかった。
導線の横を移動する人
(ヒント:図をよく見てみよう。右の図は左の図を動きながら見たものである。そのように動きながら見た時に、相対論では起こる筈の「ある現象」が、図では起きていない。そこが上に含まれた「間違い」である。それに気づけばパラドックスは解ける)
解答例



[問い7] 素粒子を加速して衝突させ、新しい粒子を作るという実験がある。質量mの 粒子を質量mの粒子を衝突させて質量M(M > 2m)の粒子をつくるという実験を しているとしよう。この反応が起こるとき、他の生成物はなく、エネルギーは保 存する。
(A)一方の粒子を静止させておいてもう一方を速さv1に加速してぶつける。
(B)双方を速さv2まで加速して正面衝突させる。
の二つの場合で、同じ質量Mの粒子ができたとする。
  1. v1とv2の関係を求めよ。
  2. v2,mを使ってMを求めよ。
  3. 最初は全ての粒子が静止している状態で始めるとすると、(A),(B)どちらの場合が、粒子に与える運動エネルギーが少なくて済むか。

解答例

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On 3 Aug 2005, 00:21.