自然科学のための数学2014年度第16講


「自然科学のための数学II」を始めるにあたって

ここで言いたいことは「自然科学のための数学I」で最初に言ったことと、ほぼ同じです。

御願いしたいこと

まず、集中して聞いてください。授業中は目と耳と頭を私と私のしゃべっている内容に向けていただくよう、お願いします。教科書は指定せず、プリントにしていますが、そのため板書すべき量はかなり少ないはずです。時々、「ノートを取るのに忙しくて話を聞いてなかった」という本末転倒なことを言う人がいますが、授業を聞かないのなら教室にいる意味はありません。

なお、他の先生は怒るのかもしれませんが、私は黒板をカメラで撮る人がいても怒りません。字を書くのが遅いので写真を撮りたい、という人はどうぞメモ替りに携帯で(可能ならシャッター音を消して)写真を撮って下さい(ただし、写真撮って安心して、写真見直すこともしないんじゃ、駄目ですよ)。

こちらからも授業中に質問します。互いに質問しやすいよう、

座席は前から詰めて座って下さい。

もっとも大事なお願い。

わからないところがあったら遠慮なく質問してください。

「こんなことを質問してもいいのだろうか」と悩む必要はありません。学問の世界での偉さの順番は

するどい質問をする人ばかな質問をする人>>>>>>>質問をしない人

です。質問をしない人は「質問できないということは、話をちゃんと聞いてないのだろう」と判断されます。せめて首をかしげる程度でもいいですからリアクションを返してください。「前に(あるいは他の授業で)聞いたはずだが忘れてしまった」という場合でも遠慮は要りません。この授業の目的はあなたたちが「数学を使いこなせる自然科学者」になることです。

幸いなことに、大学の先生の多く(私も)は、質問されるのが大好きです。

ただし、覚悟しておいてほしいのですが、数学は難しい学問です。これまでになかった新しい概念、新しい計算テクニックが出てきます。わからないところを残したままにしておくとどんどんわからなくなります(これはどんな学問でも同じことですが)。わからないところは早めにつぶしてください。

学問は、「新しい概念を学ぶ」という形で勉強が進んでいきます。ただ「式を覚えてあてはめればよい」という勉強をしては、絶対ダメです。

評価

「自然科学のための数学I」では期末試験のみにしましたが、結果として普段勉強しないもんだから単位を落とす人続出でした。というわけで、IIでは授業中に小テストを行い、その合計点を満点が30点になるように調整します。さらに学期の最後に70点満点の期末試験を行い、合計点で評価します。合計点が60点以下は不可です。

この評価方法には、試験前だけではなく普段から勉強して欲しいという願いが込められてます。

感想・コメントノート

毎回授業の最後に、授業の感想・コメントを書いてもらいます。これは出席を兼ねています。なお、ここに質問を書いてもかまいませんが、できる限り授業中に質問するようにしてください。特に「ここがわからないとこの先もわからなくなる」ような点の質問は、最後に書いてもらっても手遅れです(下手すると、次の週に質問の答が返ってきても、質問の内容を自分で忘れている人もいます)。重要な質問はすぐにしましょう。

書いてもらった内容および質問に関しては、次の授業でコメントして返します。一部は授業の最初で触れることもあります。また、この感想、質問などは以下で記すWebページあるいは将来出すかもしれない本等の媒体で公表します(書いた人の名前は載せません)。世界じゅうから見ることができるページに載る可能性があるわけですから、その点は御注意&御了承願います。

ホームページ

講義の内容およびその時出た主要な質問などに対する解答および書いてもらった感想・コメントシートへの回答は、このページの中にまとめます(授業の日の深夜までに更新されます)。

主な感想・コメントへの回答は次の時間の最初でも行いますが、全部に対して答える時間はないかもしれません。早く答えが知りたいという人はこのページを見てください。

また、授業で使ったプログラムを家でも実行してみたいという人は、このページの中で実行できるようにしておくので、心ゆくまでやってみてください。

勉強していてわからないところがあったら、理307号室まで来るか、maeno@sci.u-ryukyu.ac.jpへメールしてください。携帯のメールではないのですぐに返事はかえってこないかもしれませんが、必ず返信します。また、携帯のメールと違って夜中でも着信音は鳴らないので「今メールしていいだろうか」と心配する必要はありません。

何のために数学を使うのかということ---試験結果を見て

この授業は「自然科学のための数学」です。皆さんは理学部の人なので、今後勉強していく自然科学の中で「使う」ために数学を勉強しているはずです(少なくとも、この授業はそのために存在してます)。

ところが、前期の試験結果を見ている限り、多くの人が「数学」を「道具」として使いこなせていません。「道具として使いこなす」というのはつまり、ちゃんと数式の意味を読み取り、その中身をわかった上で計算して、答えを実際の自然現象と比較して検討できる、ということです。

「自然科学のための数学I」の試験を受けた人は、

球形の芳香剤がある。この芳香剤は単位時間(1秒)ごとに表面積$\times A$($A$は定数)の体積ずつ蒸発していくとする(空気に触れている部分が広いほど蒸発が速いのでこういうことになる)。今この芳香剤の半径が$R$だったとして、何秒後に全部蒸発するか。
(ヒント:体積を$V$、表面積を$S$とすると、${{\mathrm d} V\over {\mathrm d} t}=-AS$という微分方程式が立つ)

という問題が出ていたことを覚えているでしょうか。

あまりに多くの人が、以下のような間違いをしていて、本当にがっくりしました。

間違い!
${{\mathrm d} V\over {\mathrm d} t}=-AS$を積分して、$V=-ASt+C$になる。
$t=0$で$V={4\pi R^3\over 3}$だったので、 $$ {4\pi R^3\over 3}=C $$
より、時刻$t$で$V=0$になるとすると、 $$ 0=-A\times 4\pi R^2 t +{4\pi R^3\over 3} $$
を解いて、$t={R\over 3A}$が全部蒸発する時間。

ここで、上の式の右辺の$-AS$を積分して$-ASt$としてしまった人は、$A$も$S$も定数、すなわち「変化しない数」だと思っていることになります。

$S$は定数なんでしょうか?---実際に頭の中に「芳香剤が蒸発していく」というイメージがあれば、絶対にそんなことを間違えないはずですね。

正解を書いておきましょう。実際には$S$は表面積だから半径が$r$の時は$4\pi r^2$です(そして$r$は変化する量です!)。体積は$V={4\pi\over 3}r^3$ですから、 $$ {{\mathrm d} \over {\mathrm d} t}\left({4\pi\over 3}r^3\right)=-A \times 4\pi r^2 $$
を、 $$ {4\pi}r^2{{\mathrm d} r\over {\mathrm d} t}=-A \times 4\pi r^2 $$
より、${{\mathrm d} r\over {\mathrm d} t}= -A $となり、積分すると$r=-3A t +C$。初期条件は$t=0$で$r=R$から$C=R$となり、$r=0$となるのは$t={R\over A}$のときです。

こういう間違いをするということは

「何が変化する量か(変数か)」ということが全くわかってないままに式を見て機械的に操作すれば答えが出ると勘違いしている。

からだと思います。目の前に出てきた${{\mathrm d} V\over {\mathrm d} t}=-AS$という式を解くのにいっぱいいっぱいで「どんな自然現象が起きているのか?」を考えずに字面だけを見て、手を動かしているということではないですか。

こういう間違いをしているようでは(たとえ「計算」ができても!)「数学を使えている」とは言えません。もちろん「試験だからテンパっている」ということはあるのかもしれませんが、それにしてもこの間違いは多すぎて、「ああ、何も考えずに計算しちゃう人がこんなに多いんだなぁ」という気持ちになりました。

なお、もっとひどい間違いとしては、${{\mathrm d} V\over {\mathrm d} t}=-AS$を${{\mathrm d} V\over {\mathrm d} t}=-A\times 4\pi r^2$とした後、「両辺を積分して」といって$V=-A{4\pi r^3\over 3}+C$とした人がいました。左辺は時間$t$で積分して、右辺は半径$r$で積分しているんですね(いったいどういう計算だこれは)。

意味もわからずとにかくなんか計算したら答え出るだろ、みたいな勉強はやめましょう。それは「自然科学のための」数学ではないです(いやそもそも数学じゃない)。

というわけで、この授業を始めるにあたって、皆さんへの、大事なお願い。

「使える数学」を身につけましょう。

微分も積分も、そしてこれから「自然科学のための数学II」で勉強することになる微分方程式も、すべて自然現象を理解するという目的を持って行われる、「意味のある計算」です。

この授業の目的は、皆さんにその力をつけてもらうことです。その力がつけば、単位は自動的についてきます。

では、次のページから「自然科学のための数学I」の復習です。


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