波動論2006年度講義録第3回

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1.3.2  積分する

 円運動の射影であると考える方法は、単振動だからたまたま使えた方法であるが、この節の話は一般的な、微分方程式の解き方としては単純な方法である。
まず(1.1)よりもさらに単純な方程式である[d x/dt]=λxの場合で説明しよう。この式を積分するには、以下のように行う。


dx
dt
=
λx

↓(両辺にdtをかけて、xで割る)

dx
x
=
λdt

↓
(両辺を不定積分)

∫

dx
x
=

∫ λdt

↓
(1/xの積 分はlogx)


logx =
λt +C    (Cは積分定数)
x=
C′eλt   (C′=eC)

(1.25)
 1/xを積分して logxにするところ、絶対値はいらないのですか? log|x|ではないのですか。
 ああ、そこは説明が不足してました。まじめに積分すればもちろん log|x|と、絶対値が要ります。
 ところがlogxとlog|x|の違いは基本的には定数なので、右辺のC に含まれてしまうんです。
 logxとlog|x|が違うのは、xが負の時です。たとえばx=-a (aは正の数)とすると、

log(-a) = log a + log(-1) = log a + iπ

となり、違いは定数iπです。ですから、右辺の積分定数Cの値をその分だけ ずらしておけば、log xでも log|x|でも同じことになってしまうわけです。というわけで、上では絶対値を省きました。正確にはlog |x|と書いておくべきでしたね。


余談

 このような計算の[dx/dt]=λxから[dx/x]=λdtと変形するところで、「こんなことしていいの?」と疑問 に感じる人がいるようだ。「[dx/dt]はこれで一つの記号であって、dxをdt で割ったものではない!」と教わるから、こうしてはいけないと思ってしまうようである。結論を言うと、これはやっても問題ない。

 今 考えている問題では、xとtは独立な変数ではなく、tを決めればxが決まる。グラフで書けば、t−xグラフの任意の点が存在するわけではなく、ある線の上 だけが現実に存在するところ。[dx/dt]とはその線の上でxを変化させた量dxとtを変化させた量dtの比である。ただし、dxもdtも0になるよう な極限で定義されているので、そういう意味では「記号であって単なる割り算ではない」ということになる。だが、この線の上の話をしている限り、 「[dx/dt]=aなら、dx=a dt」と考えることには何の問題もない。ただ、あくまでも「dxやdtというのは微小量(=後で0になるような極限を取る量)」であることは忘れてはいけ ない。こういう計算においては(dx)2やら(dt)2が0にされる(微小な量の自乗は0とみなす)ことも 忘れずに。


[(d2 x)/(dt2)] = −ω2 xはそのまま積分するのは無理で、「両辺に[dx/dt]をかける」というテクニックが必要である。そうすると、

dx
dt

d2 x
dt2
= −ω2 x dx
dt

(1.26)
となる。この式をよく見ると、左辺は1/2([dx/dt])2 の微分であり、右辺は−1/2ω2 x2の微分である。

余談

この「[dx/dt]をかけてからtで積分する」という処方を、位置エネルギーUで表現される保存力−[dU/dx]の元で運動する物体の運動方程式
m d2 x
dt2
= − d U
dx

(1.27)
に適用すると、

1
2
m ( dx
dt
) 2

 
= −U + C
(1.28)
という形になる。つまり、エネルギー保存則1/2mv2+U=(一定)である。力学 ではよく使われる計算である。なお、「dxをかけて積分するが、左辺に関してはdx=[dx/dt]dtと変数変換する」という処方だと考えても結果は同 じ。



 これで

1
2

( dx
dt
) 2

 
= − 1
2
ω2 x2+C
(1.29)
となる。Cは積分定数で、どういう値を取るかは初期条件で決まる。ただ、この式を見る限り、負の数はあり得ない(もしC < 0なら、右辺が負になり、どうみても0以上である左辺と=にならない)。そこで、C=1/2ω2 A2と置いて16、

1
2

( dx
dt
) 2

 
= − 1
2
ω2 x2+ 1
2
ω2 A2 = 1
2
ω2(A2−x2)
(1.30)
とする。当然、A2 ≥ x2が成立していなくてはいけない。これから、

dx
dt
= ±ω
  _____
√A2−x2
 

(1.31)
という式が出るので、さらにこれを積分する。まず、

dx

  _____
√A2−x2
= ±ωdt
(1.32)
と変数分離して、左辺においてはx=Asinθと変数変換17す ると、

dx

  _____
√A2−x2
= Acosθdθ
A
√

1−sin2θ
= ±dθ
(1.33)
となって18、積分の結果は
θ = ±ωt +α
(1.34)
である。αは新たな積分定数。これから、
x = Asinθ = Asin(±ωt +α)
(1.35)
となる。複号がついているが、符号マイナスの方は、

x=
Asin(−ωt+α)

=
Asin(−(ωt−α))
↓(sin(−θ)=sin(θ +π))
=
Asin(ωt−α+π)

(1.36)
となる。つまり、α→ −α+πという置き換え(αは任意だから置き換えても問題ない)でこのマイナス符号をとっぱらってしまうことができるので、
x=Asin(ωt+α)
(1.37)
の方だけを解として採用すれば充分である19。
 このようにしてn階微分方程式を解いていくと、最終的に解が求まるまでにn回積分することになることを注意しよう。積分すると必ず積分定数が現れる。そ して積分定数は、微分方程式だけでは決まらない(初期条件や境界条件を使って定める)。よって、

n階微分方程式の解のパラメータ

 n階微分方程式の解はかならず、ちょうどn個の「方程式からは決まらないパラメータ」を含むことになる。
 運動方程式は二階微分方程式であるから、二個、「方程式からは決まらないパラメータ」を含む。多くの場合、その二つのパラメータは初期位置と初速度であ る。単振動の場合「振幅」と「初期位相」に(Asin(ωt+α)と書いた時のAとα)になることもあるし、これをAsinωt+Bcosωtと書いた場 合であれば、「sin部分の振幅」と「cos部分の振幅」をパラメータとしていることになる。
 n解線型微分方程式のn個の互いに独立な解f1,f2,…fnをみつけたとしよ う。すると、a1,a2,…,anを任意の数として、a1f1+a2f2+…+anfnも 解になった。このaiもまた、方程式から決まらないパラメータで、すでにn個ある。ゆえに、それ以上に解が見つかることはない。こ の条件自体は方程式をどう解いたかには関係ないことなので、どんな解き方であれ、

 線型微分方程式の解の個数

 n階の線型微分方程式を解いたのなら、n個の互いに独立な階を見つければ十分である。

ということが言えるのである。

1.3.3  定数係数の線型同次微分方程式の一般論を使う

 ここでは線型同次であり、かつ係数が全て定数であるような微分方程式を解く時に一般的に使える方法を説明する。
An dnf
dxn
+ An−1 dn−1f
dxn−1
+…+ A2 d2f
dx2
+ A1 df
dx
+ A0f=0
(1.38)
(上の式の最後にfが抜けてました。訂正しておいてください)
のような方程式を解くとしよう(Anはすべて、xによらない定数である)。このような方程式は解の形をeλxと 仮定することで解くことができることを以下で示そう。
[d/dx]eλx=λeλx、[(d2)/(dx2)]eλx=λ2eλx… であることを考えると、上の式にf=eλxを代入すると、
( An λn+ An−1 λn−1+…+ A2 λ2+ A1 λ+ A0) eλx = 0
(1.39)
という式に変わる。eλxは0ではないから、これで問題は
An λn+ An−1 λn−1+…+ A2 λ2+ A1 λ+ A0 = 0
(1.40)
というn-次方程式を解けという問題に変わったわけである。このn-次方程式を「特性方程式」と呼ぶ。特性方程式が無事解けて、λ1,λ2,…,λn−1,λnと いうn個の解が見つかれば(実はn個解が見つからない場合があるのだが、それについては後で補足する)、
f = an eλn x+an−1 eλn−1 x+…+a2 eλ2 x+a1 eλ1 x
(1.41)
が解となる。一般論として、n階の微分方程式の解はn個の未定数(パラメータ)を持つ。上の解にはn個のパラメータを含んでいるから、これ以上解はみつか らない。
 少し話を具体的にして、

d2
dx2
f + df
dx
−2 f = 0
(1.42)
という方程式を解いてみよう。解をeλxと仮定すると、
( λ2 + λ−2) f=0
(1.43)
となるので、特性方程式は λ2 + λ−2=0となり、これを

λ2 + λ−2=
0
(λ+2)(λ−1)=
0

(1.44)
と因数分解して解くと、λ = 1,−2という二つの解が出る。ゆえに求めるべき解は
f = A ex+B e−2x
(1.45)
となる(A,Bは未定のパラメータ)。

 この後、こうして解が求められることへの別の説明がり、さらに重解がある 場合の対処法についての話が続きますが、ここでは省きました。飛ばしたところは色を茶色にしておきます。
 このようにして解が求められる理由は、以下のように考えること もできる。λ2 + λ−2=(λ+2)(λ−1)と因数分解できるということは、方程式(1.42)は

(
d
dx
+2 )
( d
dx
−1 ) f=0
(1.46)
と"因数分解"できるということなのである。この式は

( d
dx
+2 ) f=0   または   ( d
dx
−1 ) f=0  が成立する。
(1.47)
ということだと考え直せる。つまりf=e−2xとf=exが解となる、というわけである。
 この手法は定数係数でないと使えないが、それなりに便利である。ただし、 こ の解法は、n-次方程式(1.40)が重解を持つ場合はうまくいかない。重解があると解の数が減ってしまうからである20。


d2
dx2
f −2k df
dx
+ k2 f = 0
(1.48)
という例で、この場合の対処方法を考えよう。上で述べた手順通りにやると、
λ2 −2kλ+k2=0   すなわち   (λ−k)2=0
(1.49)
となって、解はλ = kしか出ない。ということはつまり、ekxだけが解となる。しかし、二階線型微分方程式なのだから、解は二つ出る筈である。
 ここで以下のことに注意しよう。特性方程式に重解があるということは、元 の 方程式は

( d
dx
−k ) 2

 
f=0
(1.50)
と書けるのである。ekxは ([d/dx]−k) f=0の解である。今求めたいのは「([d/dx]−k) を2回かけて0になる関数」であるのに、「([d/dx]−k) を1回かけて0になる関数」(=ekx)だけを求めたことになる。
 実は「([d/dx]−k) を1回かけると(定数)×ekxになる関数」も解になるのである。そういう関数はすぐに作ることができる。答は
x ekx
(1.51)
である。実際これに([d/dx]−k)をかけてやると、

( d
dx
−k ) (xekx) = d
dx
(xekx)− kxekx = dx
dx
ekx + x d
dx
ekx − kx ekx = k ekx
(1.52)
となる。これにもう一度([d/dx]−k)がかかれば、答は0である。
 よって、λを決める方程式に重解があった時は、eλxだけでなく、xeλxも解になる。こうして、ちゃんと2個の解が得られた。
 以上のように考えると、特性方程式に重解が現れた場合、二重解ならeλx,x eλxを、三重解ならeλx,xeλx,x2 eλxを解とすればよいことがわかる(以下同様)。

 この上まで飛ばして、ここから説明を続けました。

 では、単振動の方程式に戻ろう。一般論通り、x(t) = eλtとおくと、

d2
dt2
(eλt) = −ω2 eλt
(1.53)
となるから、特性方程式は
λ2 = −ω2
(1.54)
となり、その解はλ = ±iωである。つまり解は
x(t)=C eiωt+De−iωt
(1.55)
となる。x(t)は実数の筈なので、(x(t))*=x(t)とならなくてはいけない。
(x(t))* = C* e−iωt+D*eiωt
(1.56)
だから、D=C*(C=D*)である必要がある。ここで「二階微分方程式なのに解にパラメータが一つしかな い!」と心配する人もいるかもしれないが、それは無用である。なぜなら今の場合Cは複素数なので、C=CR+iCIと いうふうにCの実数部CRとCの虚数部CIに分ければ、ちゃんと実数2個分のパラメータがあることになる。
 このように複素数を使って単振動を表す方法とその利点については、また後で述べる。

 さらに、時間の都合で、次の1.3.4節も飛ばしました。ごめんなさい。 時間があったら後で戻ってやります。

1.3.4   級数展開で解く

 最初に書いておくが、単振動の運動方程式を解くときに、こんな面倒なこと をする必要はない。ここまでで説明した手法で充分だろう。しかし、後々、ここまでの方法では簡単には解けない微分方程式を解く時もあるだろう。その時には 今から説明する級数展開という方法が役にたつ。そこで、簡単な場合でその予行演習をしておこうというのがこの項の目的である。
 まず、時刻t=0で物体がx=Aにいて、初速度が0であったとしよう。す ると、この時右辺は−ω2 A+(t=0で0になる部分)という形になる。左辺にも同じ項がでなくてはいけない。2階微分して−ω2 Aになるためには、xには−1/2A ω2 t2という項が必要である。すると左辺はA−1/2Aω2 t2+ …という形になる。数式で表現すると、


d2 x
dt2

= −ω2 x
↓(x=Aと置いてみよう)
(左辺に  −ω2 Aが足りない→)      0
= −ω2 A
↓(xに− 1/2Aω2 t2を足す。)

( 1
2
Aω4 t2が足りない→)      −ω2 A
= −ω2 A + 1
2
Aω4 t2
↓(xに1/24 Aω4 t4を足す)


:     以下、えんえんと続く。


(1.57)
 これをえんえん続けると、
x = A ( 1− 1
2
ω2t2 + 1
24
ω4t4 − 1
720
ω6t6+ 1
40320
ω8 t8+… ) =A ∞
��
n=0 

(−1)n
(2n)!
(ωt)2n
(1.58)
となることがわかるが、これはすなわち、x=Acosωtということであ る。
 もっと一般的な式を出しておこう。まず、解を
x(t) = ∞
��
n=0 
an tn = a0 + a1 t + a2 t2 + a3 t3 + …
(1.59)
とする。まだanを決めていないので、これで(時刻t=0において発散したりしないという条件はつく が)任意の関数を表すことができる。これを 運動方程式に代入する。左辺は

d2 x(t)
dt2
= ∞
��
n=0 
n(n−1)an tn−2 = 2 a2 + 6a3 t + 12 a4 t2 + 20 a5 t3 + …
(1.60)
となる。ここで、n=0とn=1はn(n−1)=0となるので和に入らない ことに注意しよう。ゆえに、この式は

d2 x(t)
dt2
= ∞
��
n=2 
n(n−1)an tn−2 = 2 a2 + 6a3 t + 12 a4 t2 + 20 a5 t3 + …
(1.61)
と書いてもいい(nの和が2からになったことだけが違いである)。
 結局運動方程式は

∞
��
n=2 
n(n−1)an tn−2 = −ω2 ∞
��
n=0 
an tn
(1.62)
と書けることになる。左辺にはtn−2(nは2から∞まで)が、右辺にはtn (こっちのnは0から∞まで)があることに注意しよう。同じ次数のものが 上下にならぶように式を書き直すと、


2·1·a2
+3·2·a3 t
+4·3·a4 t2
+…
+k(k−1)ak tk−2
+(k+1)k ak+1tk−1
+…



=
−ω2 a0
−ω2 a1 t
−ω2 a2 t2
+…
−ω2 ak−2 tk−2
−ω2 ak−1tk−1
+…




(1.63)
となる。
 この式は任意のtの値で成立しなくてはいけないのだから(つまりtの恒等 式 なのだから)、tkの各係数がすべて一致しなくてはいけない。そこで、上の式を縦に見ることで、2a2 = −ω2 a0, 6a3=−ω2 a1,…のように次々とanに関する式を作ることができる。代表としてtk−2に比例する項を取り上げると、

k(k−1)ak =
−ω2 ak−2
ak =

−ω2
k(k−1)
ak−2

(1.64)
となる。次にこの式をk→ k−2と置き換えた式ak−2=[(−ω2)/(k−2)(k−3)]ak−4を代入する。以下同じことを

ak =

−ω2
k(k−1)
· −ω2
(k−2)(k−3)
ak−4
=

−ω2
k(k−1)
· −ω2
(k−2)(k−3)
· −ω2
(k−4)(k−5)
ak−6

(1.65)
のように延々続けていくと、kが偶数なら最後に[(−ω2)/2·1]a0が出ておわる。その間に−ω2はk/2個出るだろう。
 一方、kが奇数なら、最後に[(−ω2)/3·2]a1が出て終わる。−ω2は[k−1/2]個出る。結果をまとめると、
ak = {

(−ω2)k/2
k!
a0
kが偶数

(−ω2)[k−1/2]
k!
a1
k が奇数
     または、 {
a2n=(−1)n ω2n
(2n)!
a0

a2n+1=(−1)n ω2n
(2n+1)!
a1

(1.66)
a0,a1は最後まで決まらない。二階微分方程式なのだから、決まらないパラメータが二つあって ちょうどよい。

sinθ
=

∞
��
n=0 
(−1)n 1
(2n+1)!
θ2n+1

(1.67)

cosθ
=

∞
��
n=0 
(−1)n 1
(2n)!
θ2n

(1.68)
という展開と見比べると、解は
x(t)=a0 cosωt + a1
ω
sinωt
(1.69)
である。当然ながら、結果は他の場合と一致する。
 級数展開という方法は、ずいぶんややこしいと思えるだろう。しかし、こう い う方法を使わないと解けない微分方程式も、もちろんある。ある意味、級数展開は微分方程式を解くための最終兵器である。

1.4  複素数で表現する単振動

 ここで、後で使うために、単振動を複素数を使って表現する方法を学んでおく。諸君の中には「複素数なんて嫌いだ」とか「複素数が出てくるとよ くわからなくなる」とか思う人が多いかもしれない。しかし、振動を複素数で表すことで計算は飛躍的に簡単になる。また、量子力学の波動関数は本質的に複素 数で書き表すべきものであり、量子力学を複素数を使わずに計算することは不可能ではないにせよとても面倒なことになる。量子力学で使う時のためにも、複素 数による計算に慣れておくことは大事である。量子力学までいかなくても、波動の計算でも十分役に立つ。
 たとえ最初とっつきにくく感じたとしても、複素数で計算する方法を知っておいた方が、将来においては絶対に得をする。我慢をして複素数を使う 方法を習得すれば、後のメリットは非常に大きい。そこでここで、複素数を使って振動を表すとはどういうことか、それにはどのようなメリットがあるのかをま とめておく。
 本来の単振動の解はy=Acos(ωt+α)または、y=Bsin(ωt+β)である。sinとcosは本質的には位相の差だけであって、α を適当にずらせば同じである。具体的には、cosθ = sin(θ+[π/2])なので、β = α+[π/2],A=Bとすればこの二つの式は同じである。以下ではcosの方の式で考えよう。
 ここで、Aei(ωt+α)という複素関数を考える。オイラーの式21(eiθ=cosθ+ isinθ)を考えると、この複素関数の実数部分を取ればAcos(ωt+α)すなわちyとなる。
 実数だけでいいものをわざわざ虚数部分を足しているわけで「計算すべきものの数が増えてむしろややこしくならないか?」と心配する人がいるか もしれないので、この時点ですぐわかる複素数表示のメリットを上げよう。
Aei(ωt+α) =

A eiα
=A′ 
eiωt=A′eiωt
(1.70)
と書き直すと、未知数の部分をA′に押し込めることができる。Aは実数だがA′は複素数なので、未知数は(A,α)→ A′(実数2成分→複素数1成分)と変化した。ゆえに未知数の数が減ったわけではない。ただ、一カ所に固まったということが大事なのである。sinまたは cosを使っていると、



A
未知数 
sin(ωt+

α
未知数 
)
(1.71)
となる。それに比べ、



A′
未知数 
eiωt
(1.72)
と一カ所に固められていると、計算の見通しが立ちやすくなり、少し楽になる。
 たとえば、cosθ− sinθ = √2cos(θ+[π/4]) という式がある。この式は、右辺に加法定理を使うと証明できる。念のために書いておくと、

cos(A+B)=
cosAcosB−sinAsinB
↓(A=θ,B=π/4 を代入すると、)

cos ( θ+ π
4
) =
cosθcos π
4
−sinθsin π
4

=

1
√2
cosθ− 1
√2
sinθ

(1.73)
という計算を行う(これが左辺÷√2である)。。
 だが、左辺を見てすぐに右辺を書き下すのは(慣れれば簡単だが、慣れるまでは)難しい。複素数を使って表現すると、cosθはeiθの 実数部分であり、−sinθはieiθの実数部分であるから、cosθ−sinθは
eiθ+ieiθ=(1+i)eiθ
(1.74)
の実数部分である。この式において、eiθという「θが変化すると変化する部分」が一塊となって同類項でくくってしまえたことに注 意しよう。これが複素数の形で書いた時のありがたみである。
 ここで1+i=√2ei[π/4]であることに思い至れば、すぐに、
eiθ+ieiθ=√2eiθ+i[π/4]
(1.75)
とできる。これの実数部分をとれば、√2cos(θ+[π/4])である。
 1+i=√2ei[π/4]に思い至るためには、右の図のような図を描くとよい。このように実数 部分を横軸、虚数部分を縦軸に取った平面を「複素平面」と呼ぶ。複素平面上で、右向きの長さ1のベクトルは「実数1」を表し、上向き長さ1のベクトルは 「虚数単位i」を表す。二つを足した物は、数としては1+i、複素平面上では右上斜め45°向きの長さ√2のベクトルである。
 つまりは「いったん複素数化→複素数で足し算→実数部分を取り出す」という一見遠回りに見える計算の方が、実数のみの計算よりも楽にできることがあるの である(特に波動や振動を考えるときには!)。
 複素数を使うメリットは、2つの振動の合成を行う時、上のような図形的な足し算ができるということにある。もう少しややこしい場合の例を見よう。
 より一般的な場合を考えて、その時の複素数表示の威力を確認しておこう。
Asin(ωt+α)+Bsin(ωt+β) =
√
 

A2+2ABcos(α−β)+B2
 
sin(ωt+γ)
(1.76)
という公式がある。ただし、γは後で求める角度である。
これも複素化してから考えよう。まずAeiωt+iα+Beiωt+βを考える(これの虚数部分が Asin(ωt+α)+Bsin(ωt+β) である)。
Aeiωt+iα+Beiωt+iβ=Ceiωt+iγ
(1.77)
として、Cとγを求めていこう。複素化したおかげで、この式からt依存性を取り除くことはすぐに実行できて、
Aeiα+Beiβ=Ceiγ
(1.78)
である。
  Cを求めるために、この式の複素共役
Ae−iα+Be−iβ=Ce−iγ
(1.79)
を持ってきてかけると、

( Aeiα+Beiβ)( Ae−iα+Be−iβ)=
C2
A2 +ABei(α−β)+ABe−i(α−β)+B2=
C2
A2 +2ABcos(α−β)+B2=
C2

(1.80)
となる。ゆえに、C=√{A2+2ABcos(α−β)+B2}である22。
 これから、eiγも、
eiγ = Ceiγ
C
= Aeiα+Beiβ


√

A2+2ABcos(α−β)+B2

(1.81)
と計算される。なお、γがどの角度になるのは、図に示した23。



この式の実部と虚部を考えれば、
cosγ = Acosα+Bcosβ


√

A2+2ABcos(α−β)+B2
,sinγ = Asinα+Bsinβ


√

A2+2ABcos(α−β)+B2

(1.82)
あるいは、
tanγ = Asinα+Bsinβ
Acosα+Bcosβ

(1.83)
という式を作ってγを計算することができる。

 上で示したような複素数で表した波の重ね合わせを表現するアプレットは、ここ。

1.5  章末演習問題

 以下の演習問題のうち一問をレポート問題と します。どれにするかは来週指示します。
[演習問題1-1]
 ばね定数k、自然長lのばねを2本、質量mの物体に取り付け、図のように配置した。
  1. 図のように、x,y座標を置く。物体が垂直方向にのみ運動し、x=0に保たれるとして、運動方程式を求めよ。
  2. つりあいの位置を求めよ。
  3. yのつりあいの位置からの変位は小さいと仮定すると、運動が単振動となることを示し、その角振動数を求めよ。
[演習問題1-2] 以下の定数係数線型同次微分方程式を解け。
  1. [(d2)/(dx2)]f(x)−3[d/dx]f(x)−10f(x)=0
  2. [(d2)/(dx2)]f(x)−6[d/dx]f(x)+9f(x)=0
  3. [(d3)/(dx3)]f(x)−f(x)=0
[演習問題1-3]

d
dx
F(x) = kF(x)
の解はF(x)=A ekxであること(Aは任意の定数)を、F(x)=��n=0 an xnと級数展開することで示せ。
[演習問題1-4] [(d2)/(dx2)]f(x)−3[d/dx]f(x)+10f(x) =0という方程式の実数解を求め、そのグラフの概形を書け。
[演習問題1-5] 次の複素数の和が0になることを、複素平面上に図を描いて説明せよ。
  1. 1−i+√2ei[3π/4]
  2. 1+ei[π/3]+e−i[π/3]
  3. 1+ei[π/5]+ei[2π/5]+ei[3π/5]+ei[4π/5]
[演習問題1-6] 以下の三角関数の公式を、eiθ=cosθ+isinθという式を利用して証明せよ。
  1. sin(α+β)=cosαsinβ+sinαcosβ
  2. cos(α+β)=cosαcosβ−sinαsinβ
  3. cos3θ = cos3θ−3cosθsin2θ
  4. sin3θ = 3cos2θsinθ−sin3θ


Footnotes:

16こういうことをす ると「勝手にこんなことしていいんですか!?」と不安になったり、「こんなふうに決めつけてはいけない!」と怒り出したりする人がいる。しかし、Cは 「(今のところ)任意の正の数」であり、1/2ω2 A2も 「(今のところ)任意の正の数」である。Aがまだ決まっていないのだから、決めつけているわけではないのである。ただし、C=−1/2ω2 A2とする人がいたら、その時は「左辺がプラスなのに右辺がマイナスじゃないか!」と怒った方がいいだろう。
17「こんな変数変 換、どうやって思いつくの?」と疑問に思うかもしれない。残念ながら「こうやれば確実に正しい変数変換が見つかる!」というような万能特効薬は存在しな い。物を言うのは経験(「前にも似たような積分やったことあるぞ」)と、試行錯誤(「とりあえずやってみよう→だめか→じゃあ次はこれ」)である。スマー トな方法より「汗水たらして頑張る」ことが大切。
18(1.33)のdθの前の複号は、cosθが正か負かによって変わる。この複号は(1.31)で出てきた複号とは出所が違う。つまり別の複号であるから、「両辺に±が出てきたから消してしまお う」というわけにはいかないことに注意。
19ここでαは「任意 の定数」として導入したので、α→ α+πと置き換えたって何の問題もない。
20「複素数解でも大 丈夫なのか?」と心配する人がいるかもしれないが、複素数解であっても立派な解である。すぐ後で虚数解が出る場合が出てくる。
21オイラーの式を証 明するには、eiθ=��n=0∞ [1/n!](iθ)nと いう式のnが偶数の部分とnの奇数部分を考えるとよい。上の公式(1.68)と(1.67)が出てくる。
22ここで、Cの答え に±はつかない。Cがもし負だったら、γ→ γ+πと置き換えることでマイナス符号と取っ払うことができる。
23この図の三角形に 余弦定理を使ってCを求めるという方法もある。


学生の感想・コメントから


 今更ながら、cos(θ+π/2)はsinθじゃなく、 -sinθだと思う。
 おっしゃる通りです。黒板にテキストと違う式を書いてしまってましたね。 できたらその場で指摘してください(;_;)。

 虚数表示って便利ですね。今度から嫌わずに使うようにします(同様の感想多数)
 これがわかってくれると、とてもうれしい。

 級数を使った方法でならば、どんな微分方程式でも解けますか?
 どんなのでも大丈夫かというと、発散が強かったりすると難しいこともあり ます。非線型だと手がつけられなくなることもあるし。

 線型同次方程式の解き方を覚えたので、次から使おうと思う。
 この講義でも、すぐに使う例が出てきます。

 量子力学でも複素数が出てくるが、計算のテクニックという意味だけなら出てきても当然なんだ なと思いました。
 量子力学の場合は、実数部と虚数部の両方にちゃんと意味があるあたりは ちょっと違いますが、やはり虚数を使わずに書こうとするとものすごく面倒な計算になってしまいます。

 第2章から難しくなるそうなので不安だ。
 一個一個確実に理解していけば大丈夫ですよ。

 もうちょっとゆっくりしゃべってください(複数)
 すいません。気をつけます。どうも癖で、ついつい早口になります。

 (1. 80)式がよくわからなかった。
 うーん、ちょっと早かったか。普通に展開した後、eiθ+ e-iθ= 2cosθという置き換えをします。

 波動の解き方は前述の4種類以外にもあるんですか?
 もちろんいろいろあります。物理数学IVでやっているフーリエ変換など も、波動方程式を解くのに使われます。

 章末問題はどういう扱いなのですか? 授業で扱うのですか? 扱わない場合、解答などどうな るんですか?
 うち1問がレポート問題となります。そのレポートが評価なので、解答は (少なくとも授業が終わるまでは)配布しません。わからないところがあったら聞きにきてくれれば答えます。

 cosθ - sinθ = √2 cos(θ+π/4)を eiθ+ ieiθ=√2ei(θ+π/4)の実数部だとす る時、虚数部は無視でいいんですか?

 虚数部は虚数部で、

sinθ+cosθ = √2 sin(θ+π/4)

という、また別の式になります。つまり複素数の式1個から、実数の式が2個 出るんです。

 意味ぷ〜。家 でもう一回復習してきます。
 「意味ぷ〜」って(^_^;)。わからない時は質問しましょう。それが一 番。いつでも部屋に来てくれてもいいです。

 解の虚数部は 現実には何の意味もないということでいいんでしょうか?
 ないと思ってくれていいです。量子力学の波動関数の時は、実数部と虚数部 を合わせて一つの物理量なので、両方に意味があります。

 つまり、物理において、現実ではあり得ない複素数を使うのは便利だからなのですね?
 そうですね。「便利なものは親の仇でも使う」のが正しい科学者です。

 (1.44)から(1.45)になるのがわかりません。
 もともと、f=eλxと置いて見た結果、(1.44)が出たわけです。 (1.44)を解くことで、λ=- 2,λ=1という答が出ました。ということは、f=e-2xとf=exが元の方程式の解ということになります。線型同時方程式では、二つの解が求まればその 二つに定数かけて足したもの、f=Ae-2x+Bexも解になるのです。
 なお、質問はできる限り、授業中にしましょう。

 dx/dtに関する余談がためになった。
 あの辺はひっかかる人が多いので、一応説明入れておきました。

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On 30 Oct 2006, 10:24.