根底からの物理に戻る

「根底からの物理」行列のできる物理屋をめざす(その1)

今日は「固有値と固有ベクトルがわかりません」という質問が来たので、まずは準備したテキストとは別に、1次変換を理解するためのjavaアプレット(geogebraで作成)を見せた。

lt1.png

プログラムは↑の図のような感じ。このページにあるので実行してみてください。

なお、図中の$e_x,e_y$はそれぞれx方向とy方向の単位ベクトルです。$Me_x,Me_y$は、各々を今の行列Mで変換した結果。

このページにあるのは全て単なる画像なので、動きません。↑のページに行って存分に動かしてください。

最初は、 $$ \left(\begin{array}{c} x'\\y'\end{array}\right)=\left(\begin{array}{cc} 2&1\\ 1&2\end{array}\right)\left(\begin{array}{c} x\\ y\end{array}\right) $$ で表現される1次変換を描いている。vが変換前の位置ベクトル、Mvとあるのが変換後の位置ベクトルである。vはマウスで動かせるので、

lt2.png

こんなふう↑に動かして、それに応じたMvの動きを見てほしい。

vを動かせばMvも連動して変わる。一般の場合にはvとMvは、大きさも違えば向きも方向も違う。

遊んでいるうちに、

lt3.png

や、

lt4.png

のように、「vからMvで、ベクトルの長さは変わるけど、方向は変化してない」という状況が(今の場合なら二つ)あることに気づくだろう(上の図のちょうど逆向きを入れると4つの向きになる)。

固有ベクトルとは、このように変換によって方向が変わらないベクトルである。

この1次変換は、実は$\left(\begin{array}{c}1\\ 1\end{array}\right)$の方向を3倍し、$\left(\begin{array}{c}1\\ -1\end{array}\right)$の方向には変化させない、という引き伸ばしであったことがわかる。

実際に計算で確認することができるが、ここでは省略。

行列の行列式というのは、実はこの固有値の積である(最初の例では3になる)。固有ベクトルと固有値を求めることは、「今考えている変換によって変わらない方向」を見つけているということになる(方向は変わらないが、長さもしくは向きは変わる)。そのような方向を見つけることができれば、変換のイメージを持つことができる。

なんで固有ベクトルや固有値を求める必要があるんですか?

これはつまり、行列によって起こされる変換をよりわかりやすくまとめるということをしています。こうして固有値や固有ベクトルを出すことで「この変換(行列で書かれたややこしいの)は、実はある方向を3倍するとか、そういう計算なんだな、とわかってきます。ただわかりやすいだけでなくて、固有値や固有ベクトルがわかると、そのベクトルの前では行列をただの数に置き換えられるので、行列を何度もかけたりすることもできます。

ここで、「せっかく固有ベクトルが見つかったのだから、その固有ベクトルの方向に新しい$x$軸、$y$軸を持ってくればいいのではないか?」と思う人もいるかもしれない。新しい、元の座標で$\left(\begin{array}{c}1\\ 1\end{array}\right)$の方向を向いている座標軸を$X$軸とよぼう。同様に、元の座標で$\left(\begin{array}{c}1\\ -1\end{array}\right)$の方向を向いている座標軸を$Y$軸と呼ぶことにする。$\left(\begin{array}{c}X\\ Y\end{array}\right)$という座標は、今考えている一次変換で、$\left(\begin{array}{c}3X\\ Y\end{array}\right)$と変換される。つまり、$\left(\begin{array}{c}x\\ y\end{array}\right)$に対する変換の行列$\left(\begin{array}{cc} 2&1\\ 1&2\end{array}\right)$に対し、$\left(\begin{array}{c}X\\ Y\end{array}\right)$に対する変換の行列は$\left(\begin{array}{cc} 3&0\\ 0&1\end{array}\right)$になる。このような操作を変換行列の「対角化」と言う(このあたりの計算詳細は今回は省く)。

プログラムの右上の方にあるスライダは、行列の各成分を変化させる。いろいろな値を入れてみて、変換がどのようになるか、その時に固有ベクトルが見つかるかどうか、試してみよう。

たとえば行列を$\left(\begin{array}{cc}1&0 \\ 0&-1 \end{array}\right)$にすると、上下を反転する変換になる。

lt5.png

↑こんな感じである。この場合の固有ベクトルは単純で、x軸方向を向いたもの(反転しても変化しない)とy軸方向を向いたもの(反転すると元と正反対の向きのベクトルになる)である。確認しよう。

いろいろな状況について固有ベクトルを探してみよう。ただし、(図で見えるような形では)ない場合もある。たとえば、$\left(\begin{array}{cc}1& 1 \\ -1& 1 \end{array}\right)$では、

lt6.png

のような状況になって、vとMvが常に45度の角度をつけており、決して同じ長さにはならない。

実はこの場合、(計算してみるとわかるのだが)「複素数の固有値」を持っているのである。

授業では特に触れなかったが、45度回転する行列になっているということは、4回、回転させれば(つまり今考えている行列を4回かければ)反転して固有値-1になるということである。そう考えると「虚数の固有値」を持つ意味がわかってこないか?

行列式が正か負か、の違いについても、プログラムで確認しておこう。

lt7.png

が負の場合の様子である。実際に動かしてみるとわかるが、行列式が負の場合、v(変換前)をぐるぐる回すと、Mv(変換後)が逆回りするのである。つまり、行列式が負の場合、その変換の中に、鏡に写した時のような「反転」が入っているのである。

行列式は固有値の和であるが、今固有ベクトルが二つで固有値も二つなので、両方正か両方負なら固有値は正で、一方が負で一方が正なら固有値負である、とも言える。こう考えると固有値が負の時は反転が入る意味もわかってくるだろう。

なお、行列式が0になる例は以下の通り。

lt8.png

これも動かしながらどうなっているのかを確認して欲しい。行列式が0になる変換では、平面が直線一つの上に縮んでしまうことがわかる。

今日は(今日も)計算よりも図で一次変換というものを理解してもらった。

他にこれらの固有値や固有ベクトルを作ることが量子力学などでの計算とどうつながるのか、という話と(ちょうど行列式が面積だという話もしたので)外積の話などもした。


↓コメントなどは以下にどうぞ。



トップ   新規 一覧 単語検索 最終更新   ヘルプ   最終更新のRSS