電位と電流

 今日もチェックテスト(口頭と板書で説明)から入りました。

 図のような回路で、電流は$I_1 > I_2$になる、と思っている中学生がいます(もちろん、正解は$I_1 = I_2$です)。この子に$I_1=I_2$である説明をしてください。
 また、この子は「もし$I_1=I_2$ならば、いったいどこから光のエネルギーはやってくるの?」という疑問も持っています。できればこれにも答えてください。

 5分ほど考えてもらって提出してもらった。

 無回答(5分では解答を思いつかなかった)が4分の1いたのは、ちょっと困ったものである。

 解答の中にも不満なものもあって、たとえば

 一本の導線では電流は一定だから。

で終わっているものがいくつかあったが、これでは全く答えになっていない(中学生は不満だろう)。中学生の疑問は「なぜ一本の導線では電流が一定なのか」にあるのだから、これは「そうだからそうなんだ」と言っているだけで「教科書に書いてあるから信じよ」と言うのと変わらない。

 電流計で測定してみせればよい。

 という解答もあったが、これも子供の疑問「なぜ?」に答えていることにならない。

 物理でも「自然がそうなっているのだから仕方がない(測定したらそうだから仕方がない)」ということはある。そういうのは「運動の法則」のような「原理」だけである。そうでないものまで「そうなんだから仕方がない」という説明をしてはいけない。

 電流は量でなく速さを表すものだから。

というのもあった。これはあきらかにおかしい(電流の定義は後で書くが、量にも関係している)。

 少しましなのは、

 電流が消費されて電球が光っているのではない。

という解答だが、これには「じゃあ、何が消費されているの?」という疑問が返ってくると思うので、そこまで含めてちゃんと答えたいところである。

 電流は同じ電気がぐるぐる回っているから、中を通る電気量は減らない。

という感じの、電荷の保存則を使って説明しようという解答がいくつかあった。これはだいぶ「理由」になっている。

 たとえば電球を通った後電流が減るのだとすると、(後ろの電流の定義をよく見ること)電球の中に電荷がどんどん溜まってしまう。これはありえない、ということは電流がなにかをわかっている中学生なら納得してもらえる(だから定義は重要なのだ)。

 さて、問題は「それじゃどうして光るの?」という疑問がさらにやってきた場合である。

 中学生がこういう疑問を抱く理由は「電球でエネルギーを放出しているから誰かがエネルギーを損しているはずなのに、電流が減らないとしたら誰も損していない(ように見える)」ことにある。したがってこの子の疑問を完全に解消するためには、

↑の2箇所にいる電荷は何が違うのか、をちゃんと説明してあげなくてはいけない。

 実際中学生に説明はかなり難しい話になるが、せめて「大学生が納得する理由」を自分の中で持っていないと、説得力ある教員にはなれないだろう。

困ったときは定義に戻れ

 この説明をちゃんと行うために、電流および電位の定義を思い出そう。

 1秒あたり1C(クーロン)の電荷が流れてくるのが1A(アンペア)の電流である実はSI単位系ではアンペアが先に定義されてそれを使ってクーロンを定義するので、この話は逆だが、まぁそこはいいことにしよう。

 時間ごとに流れてくる電気量で定義されているのだから、量と速さの両方に関係した量である。

 また、電位の定義は以下の通り。

 $q$[C](クーロン)の電荷が電位$V$[V](ボルト)の電位の場所にいるときに持っている静電気力の位置エネルギーは$qV$[J]である。

 電池が行うことは、化学反応を使って電荷を移動させ、陽極の電位を上げ、陰極の電位を下げることである。

 導線でつながれた先は電位が等しくなるので、電球の左と右で電位差が生じる。

 これが「電球を通る前の電荷と通った後の電荷の違い」である。電位差が高い方から低い方に正電荷が移動する実際には低い方から高い方へと電子が移動するが、エネルギーの収支は同じ。ことによってエネルギーが下がり、その分のエネルギーが電球から出る光となる。

 電流の説明として、水の流れで説明しようというものがよくある(「電流の水流モデル」でgoogle画像検索)。これは電位を高さで、電流を水の流れで説明しようとしたもので「電池が電荷の位置エネルギーを上げ、抵抗(電球など)のところで位置エネルギーが下がる」ということを説明しようとする図である。

 皆さんが理科の先生になってこの図を使うときも、電位の定義が「1Cあたりの静電気力位置エネルギーである」ということを理解した上で使うのでないと、おかしな説明になってしまうので気をつけよう。

 なお、ついでながら電流の担い手である電子の運動エネルギーはこういう話ではほぼ関係ない。実際計算してみると電子は思っていたよりもずっと遅い(秒速1ミリ以下である)。

 この後は、「電位はエネルギーであり、『架空の高さ』である」ということを理解してもらうために、Androidタブレットのシミュレーションで電位の雰囲気を味わってもらった。使ったアプリは以下の2つ。

 アプリで、「プラス電荷がいるところは電位という『架空の高さ』が高くなる」というイメージを持ってほしい。

 もう一度強調しておくが、電位の定義を知った上で「電流は電荷の運動エネルギーを運んでいるわけではなく、電位差のある間を電荷が移動することにより電荷の位置エネルギーを変化することでエネルギーを運んでいる」という概念を持っていないと「電池から電球へとエネルギーが移動するのはどのようにしてか」ということが説明できない(もちろん、最初に書いた中学生の質問にも答えられない)。

受講者の感想・コメント

受講者の感想・コメント

 青字は受講者からの声、赤字は前野よりの返答です。

 主なもの、代表的なもののみについて記し、回答しています。


電流や電圧の定義をわかっていなかったので、中学生にする説明がまったく思いつきませんでした。
「人に説明できるほどにわかる」←これはとても難しい。がんばろう。

なぜ電球が点灯したときに電流が変化しないかから話が始まった。最初は電流は変化しないからと機械的に考えていたが、位置エネルギーの話が出て納得した。電気と力学は本質は近いものだと感じた。
力学は電磁気の基礎(というより、物理全部の基礎)です。

電流を流したときになぜ電球は光るのか、何のエネルギーを使っているのか、今でわかってませんでしたが、今回の授業で理解できました。
今日の授業だと実は説明の半分です(エネルギー収支だけで、どういうメカニズムかはまだ説明できてない)。

仕事という分野はいろいろな物理の分野に精通しているんですね。
仕事は確かにいろんなところで使います(エネルギーもね)。

毎回のことだけと今回特に知識が足りないと思いました。さすがにもっと勉強しようと思います。
しましょう。

定義をきちんと覚える。また自分ならどう教えるのかも考える。
「どう教えるか」は大事な視点です。

自分が電気分野が苦手な理由は電位という概念をしっかり理解していなかったからだと思った。すべり台の絵はみたことがあるけど、それでも運動エネルギーが関係していると勘違いしてしまっていた。
エネルギーや仕事の考え方の延長上に「電位」「電圧」があります。このあたりをしっかり理解しておこう。

電流と電位