初等量子力学2006年講義録第2回

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第2章 光の粒子性の発見-黒体輻射

 20世紀初頭の物理学者たちがいかにして「光は粒子でもある」という認識を得るにいたったかを説明するために、この章では、プランクが1900年に発表 した黒体輻射の研究について述べよう。これが量子力学の始まりなのである。

2.1  黒体輻射と等分配の法則

 19世紀末、プランクが研究していたのは黒体輻射もしくは空洞輻射と呼ばれる現象である13。空洞輻射の研究はもともと溶鉱炉の 中がどの温度でどんな色に見えるかという疑問から始まった。実際どうなるかというと、低温では赤く光るのだが、温度があがるにしたがって橙、黄、白と白っ ぽくなっていく。そしてさらに温度があがると今度は青白くなる。これは実は恒星の色と温度の関係とほぼ同じである。右のグラフがこの輻射のスペクトルであ る。可視光は振動数が3.9×1014から7.9×1014Hzである。5000Kのグラフを見ると、この 範囲では、グラフはおおむね右下がりになっている。これは振動数の低い(波長の長い)成分の方が多いということであり、赤い色であることがわかる。温度を あげるにしたがってグラフのピーク部分が振動数の高い(波長の短い)方向へ移動し、色が白→青と変わる。これがなぜ問題なのかというと、古典力学を使って 計算する限り、赤い色が理論的に導けないのである。

 黒 体輻射の色を見るアプレットはこちら
その理由を説明しよう。統計力学(ただし、古典統計力学)では等分配の法則という法則がある。
「熱平衡状態にある物質には、1自由度あたり1/2kT のエネルギーが分配される」
という法則である。k=1.380658×10−23J/Kで、ボルツマン定数と呼ばれる。
たとえば単原子分子の理想気体では分子一個あたりの持つエネルギーは3/2kTとなる(動く方向が3つある ので3倍される)。また2原子分子であれば、5/2kTとなる(単原子分子の場合に比べ、2方向に回転でき る)。もちろん1/2kTなどの値は平均値もしくは期待値である。実際の原子はいろんなエネルギーを持って いるが、その分布の平均がこの大きさになる。また固体分子の場合、一定点を中心に振動を行っていると考えることができるが、その振動の位置エネルギー(1/2kx2) に対しても同様に一つの自由度あたり1/2kTのエネルギーが分配され、全自由度は6となり、1分子あたり 3kTのエネルギーを持つ。
  実際に分子がこのようなエネルギーを持っていることは、比熱の測定から確認できる。上で述べたことから、二原子分子の気体の温度を1度あげると、1分子あ たり5/2kだけエネルギーが上昇する。ということは、温度1度上昇させるには5/2k× (分子数)が必要である。固体の場合は、温度を1度上昇させるには3k×(分子数)のエネルギーが必要である14。この値は、実測とだいたい一致する。
 原子はさまざまな形態のエネルギーを持っている。そのさまざまな形態のエネルギー、たとえば回転のエネルギーにも並進のエネルギーにも振動の位置エネル ギーにも、等しく1/2kTずつのエネルギーが分配されているのだから、この法則が普遍的なものであろうと 考えるのは理にかなっているように思われる。
 まだ統計力学は勉強してないと思うが、ここではとりあえず「等分配の法則」というものがあるということだけ知っておけばよい。しかし,なぜこんな法則が 成立するのか、雰囲気だけでもつかむために、以下のようなたとえ話で考えよう。
 6個のリンゴを3人でわける分け方を考える。3人に2個ずつ、と平等にわける分け方は何種類だろうか。まず最初の一人に2個渡す方法が6C2=15 通り。次に残った2個をもう一人に渡す方法が4C2=6通り。最後の一人には残ったものを渡すしかないか ら、1通りだけ。結局「平等にわける」場合の数は90通りとなる。
A君 B君 C君  場合の数
6 0 0 1
5 1 0 6
4 2 0 15
4 1 1 30
3 3 0 20
3 2 1 60
2 2 2 90
では、特定の一人に6個あたえて、他の二人には与えない場合はというと、これは1通りしかない。3人のうち誰でもいいから一人に6個与えて他には与えない という場合でも3通りであり、平等にわけるよりもずっと場合の数が少ない。いろいろな分けかたについて場合の数がいくらになるか、ざっと計算したのが右の 表である(A君B君C君の入れ換えで実現できるものは省いた)。より平等にわければわけるほど、場合の数が大きくなるのがわかるだろう。
 たとえば気体を箱につめてしばらくほっておいたとすると、互いに気体分子が衝突しあってエネルギーのやりとりを行うだろう。エネルギーをリンゴに、気体 分子をA君B君C君に見立てる。気体分子が激しくエネルギーのやりとりを行っているという状態は、A君B君C君がリンゴを投げあっているような状態であ る。その時、状態は刻一刻と変化を続けているだろう。しかし、その変化がでたらめに起こるとしたら、やはり数の多い(90通りもある)「平等にわける」状 態が一番多く実現するに違いない。これがすなわち等分配の法則である。今リンゴ6個で3人、という少ない数で話をしたが、実際の気体ではどちらもアボガド ロ数程度のものであって、ますます「平等なわけ方」の割合が大きくなる。
 つまりは「自然はえこひいきしない」という法則なのだが、その根拠が「物事がランダムに起こるならば、えこひいきされた状態は数が少ないがゆえに確率が 小さい」という、言ってみれば単純な理屈であるところが統計力学の面白いところである。統計力学の基本は「場合の数が多い方が勝つ」なので ある。これに「平等にエネルギーを配った方が場合の数は多くなる」という事実を加えると、「全ての自由度に平等にエネルギーが分配される(なぜならば、そ の場合の数が一番多いんだから)」という「等分配の法則」が出てくるのである。等分配の法則の厳密な導出過程などについては統計力学の授業で勉強して欲し い。ここではとりあえずの雰囲気を理解し、かつ、この法則が成立していることが実験事実であるということを覚えておこう。たとえば一つの空気中の酸素と窒 素は、分子一個の質量は違うにも関わらず、だいたい同じ平均エネルギーを与えられている。これは実験的に確かめられていることである(具体的な数値による 根拠は、演習問題を見よ)。
 以上の話からもわかるが、等分配の法則が成立するためには、各自由度が平等になるように、エネルギーのやりとりがスムーズに行われる必要がある。黒体輻 射の場合、その前提が(量子力学のおかげで)崩れることになる。どう崩れるのかを理解するために、等分配の法則を使って黒体輻射を考えるとどのような結果 が出るのか、まず説明しよう15

2.2  箱に閉じこめられた電磁波

 等分配の法則が、溶鉱炉の中にある光(電磁波)の場合にも適用できるとしよう。溶鉱炉の壁が温度Tを持っているとすると、壁を作っている分子も一個あた り3/2kTの運動エネルギーを持って分子運動している。さらに振動しているということは復元力が働くのだ から、その力に関連した位置エネルギーも3/2kT程度持っているだろう。そして、そのエネルギーを壁の中 の電磁波とやりとりする。激しいやりとりの末に、各自由度ごとに1/2kTずつのエネルギーを持った状態に なると平衡に達するであろう(と考えるのが等分配の法則)。その状態では電磁波の振動の1自由度ごとにkTのエネルギーが分配されることになる(固体の振 動と同様、1自由度に対して運動エネルギー+位置エネルギーを考えるため、1/2kTの2倍になってい る)。そのような考え方をすると、溶鉱炉内部はどんな色になるだろうか。
 この考察のためには、溶鉱炉内の電磁波がどれだけの「自由度」を持っているのかをまず考えねばならない。とりあえず話を簡単にするため、溶鉱炉の中はか らっぽとし、壁で電磁波が固定端反射していると考える。空洞輻射という名前がつけられているのはそういう意味がある。
まず1次元の空洞の中の電磁波を考えることから始めよう。両端を固定された振動であるから、ギターや琴の弦の振動と同じように考えることができる。その振 動の様子を描いたのが次の図である。
 端から端までの長さをLと考えると、n=1,2,3,…と腹の数が増えていくにしたがって、波長は2L,L,[2L/3],L/2,… と短くなっていく。
腹の数 波長 波数 振動の様子
n=1 2L [π/L]
n=2 L [2π/L]
n=3 [2L/3] [3π/L]
n=4 L/2 [4π/L]
なお、実際に振動しているのは電場と磁場であるので、上の、弦が振動しているかのごとき図はあくまでイメージである。n=1,n=2の場合の電場の様子を 矢印で示して図に書くと
のようになる。矢印の長さはその場所の電場の強さを表す。

上の表の電磁波の様子のアニメーションはこちら

 上の波を式で表せばsin[π/L]x,sin[2π/L]x,sin[3π/L]x,…のように書ける。このようにsinで書ける関数のsinの中身 のことを「位相」と呼ぶ。位相がxの1次関数である時、xの前の係数を「波数」と呼ぶ。別の言い方をすると、この式をsinkxとまとめた時にkにあたる ものが波数である。波数は単位長さあたりどれだけ位相が変化するかを表す。位相は、波一個(長さにして一波長)で2πだけ変化するから、単位長さあたり、 [2π/波長]だけ変化する。すなわち、(波数)=[2π/(波長)]である。今後、この波数を使って波を分類することが多い16。波数で分類すると都合がいいのは、 上の例であれば波数kはk=[nπ/L]という形になって、nに比例して増えていくからである。
なお、実際に振動が起こる時は、図に書いたようなきれいな振動が起こるとは限らない。むしろこれらがまざりあったような振動が起こる。これはギターの弦を 鳴らした時に「倍音」が出るのと同じことである。倍音が出なければギターの音も琴の音も、音叉の出す音のような味気ないものになってしまう17
以上は1次元での考察であった。実際には3次元の箱の中の振動を考えなくてはいけないが、3次元の振動は図に書きにくいので、その前に2次元の振動を図示 しながら考えていこう。2次元の場合、空間座標をx,yの二つとすると、この二つのそれぞれの方向についてnx個、ny個 の腹ができているような波を考えることができる。図で表すならば
となる。

 以下は上の図のアニメーションバージョン。


 い ろんな波を重ねたアニメーションのアプレットはこちら

式で表すならば、
sinnx π
L
xsinny π
L
y
(2.1)
である。
図ではn=2までを書いたが、実際にはn=∞まで、任意の数を取ることができる。
 黒体輻射の場合、まわりの壁とエネルギーをやりとりすることによって、振動の様子は刻一刻と変わっていく。実際に起こる振動はこれらのうちのどれかとい うわけではなく、いっせいに起こる。実現するのはいくつかの波の重ね合わせである。古典力学的に考えれば、波のエネルギーは任意の値をとることができるの で、いろんな振幅の波の足し算が実現可能である。右の図は(nx,yy)=(3,5)の波と(nx,ny)= (2,4)の波の重なった状態である。
 では次に、3次元の場合を式で示そう。空洞を一辺Lの立方体とすれば、中に存在できる電磁波の波数は3つの方向それぞれごとにn[π/L]のように、 [π/L]の整数倍になる。
 ここまで、電場がベクトルであることを無視して、壁のところ(x=0,x=Lなど)で固定端境界条件を満たすように書いてきたが、実際はもう少し複雑で ある。今は周りの壁を完全な導体だと考えているので、導体内部で電場が0になる。また、電場は境界において接線成分が連続(マックスウェル方程式rotE=−[(∂B)/∂t]から出 る)であるので、壁に平行な方向は壁のすぐ外でも0でなくてはいけない。すなわち、壁と平行な方向は固定端条件を満たす。ゆえにx成分Exはy =0,Lおよびz=0,Lで0になっていなくてはいけない。同様にEyはx=0,Lおよびz=0,Lで、Ezはx =0,Lおよびy=0,Lで0となるようにしなくてはいけない。これにマックスウェル方程式divD= ρすなわち、[(∂Ex)/∂x]+[(∂Ey)/∂y]+[(∂Ez)/∂z]=[ρ/(ε0)] (真空中の場合)を加えて考えると、電場は

Ex=
E0x cos nxπx
L
sin nyπy
L
sin nzπz
L

Ey=
E0y sin nxπx
L
cos nyπy
L
sin nzπz
L

Ez=
E0z sin nxπx
L
sin nyπy
L
cos nzπz
L


(2.2)
のように、3つの0以上の整数(nx,ny,nz)(ただしnx=ny=nz=0 は省く。こうなると全成分が0になってしまう)を使って表される。なお、真空中なのでdivE= 0を満たさなくてはいけないので、振幅Ex0,Ey0,Ez0の間には、
nx Ex0+nyEy0+nzEz0=0
(2.3)
の関係がある。ゆえにこの振幅のうち2つが独立である(Ex0,Ey0,Ez0のう ち二つを決めれば、あとの一つも決まる)。これは、電磁波(光)の偏りの成分(つまり偏光の成分)が2つしかないということを意味している。
ということは、空洞内に存在できる電磁波は、(nx,ny,nz)の取り得る数×2 だけの自由度がある、ということになる。すなわち、無限大である。そして、この「自由度」一つずつにkTのエネルギーが与えられることになる。もし、どん なに短い波長の電磁波でも(つまり「どんなに大きな波数の電磁波でも」)存在できるとすれば、空洞の持っているエネルギーは無限大になってしまう18。実際にはグラフにあるように、ピー クを過ぎると短い波長(高い振動数)の電磁波は少なくなっていくので、エネルギーが無限大という状況は避けられている。
では、いったい何が高い振動数の光へのエネルギー分配を妨げているのであろうか。それを考えるために、もう少し、振動数ごとにどれだけのエネルギーを持つ べきかの計算を続けよう。



[問い2-1] 上で求めた定常波解 は時間依存性を持つので、たとえばz成分は
Ez(x,y,z,t) = sin nx πx
L
×sin ny πy
L
×cos nz πz
L
×f(t)
と書ける。真空中の電場の満たす式

( 2
∂x2
+ 2
∂y2
+ 2
∂z2
1
c2

2
∂t2
) Ez(x,y,z,t)=0
からf(t)を求め、この電磁波の振動数がν = [(c√[((nx)2+(ny)2+(nz)2)])/2L] であることを示せ。



 次の図は(nx,ny)の分布を表す図である(本来はnzもいれて立体的な図にす るべきだが、ややこしくなるので省略した)。格子点(+の場所)一つ一つが、空洞内に存在する電磁波の2モード(この「2」は偏光のおかげ)が対応する。

 「自由度」という言葉の意味がいま一つわからないのですが。
 「自由度」というのは、「変えることができる変数の数」です。単原子分子 なら、x方向・y方向・z方向の運動量がそれぞれ別々に変化できるから、自由度3。2原子分子なら、回転が2つ加わって自由度5。電磁波の場合、今考えて いる波の一つ一つの振幅を自由に変化させることができるので、波のパターン(モード)の数だけ自由度があります。

 単原子分子で回転が入らない理由は何ですか?
 このレベルで は原子は大きさがないと考えているので、大きさがないものが回ってもエネルギーありません。厳密に言うと原子にだってちゃんと大きさがあって回れるはずで すが、そのエネルギーはいろんな理由で計算に入ってきません。

 この空間で原点を中心とした一つの球面の上にあるモードは、同じ振動数を持つ。図に書かれたように、ある程度の振動数の幅の中(νからν+∆νまで、あ るいはν′からν′+∆νまで)にある格子点の数は、νが大きいほど大きい。
 
振動数がνからν+∆νの間にある格子点の数(電磁波のモードの数)を勘定してみる。問い2.2から、ν = [(c√[((nx)2+(ny)2+(nz)2)])/2L] であることはわかっているので、逆に考えると振動数νならば、nxの最大値は [2Lν/c]に近い自然数となる。(nx,ny,nz)の空間で考えると、この空 間内の体積1の立方体一つごとに格子点は一個あるので、体積を計算すれば格子点の数を概算できる。振動数がνからν+∆νの間にある格子点の数は、半径 [(2L(ν+∆ν))/c]の8分の1球と、半径[2Lν/c]の8分の1球の体積の差をとって、

1
8
×
3

( 2L(ν+∆ν)
c
) 3

 
1
8
×
3

( 2Lν
c
) 3

 

(2.4)
となる。これから、モードの数×kTがエネルギーになるとする(つまり等分配の法則が成立するとする)と、単位体積あたり、単位振動数あたりのエネルギー は
E(ν)= 8πkT
c3
ν2
(2.5)
で表される。この式はレイリー・ジーンズの公式と呼ばれる19



[問い2-2] (2.4) から(2.5)を出す計算を実行せよ。ただし、電磁波(光)がi一つの(nx,ny,nz) の組に対して2個の自由度があるので、モードの数が2倍になることを忘れないように。



 こう考えていくと、高い振動数の波は、(それだけ格子点の数が多くなるから)よりたくさんの自由度を持っており、むしろ高い振動数の方がエネルギーは大 きくなりそうに思われる。ところが実際の分布ではグラフには山があり、振動数の大きい光はエネルギーが減ってしまう。5000Kぐらいでは赤っぽい色にな るが、それは可視光内で波長の短い青の部分がグラフの山より右にあたり、赤の光の方が大きなエネルギーを持っているからである。
 以上のように等分配の法則は成立していない。しかし一方で、波長の長い部分(振動数の小さい部分)つまりグラフの左側部分に関しては等分配の法則は非常 によく成立している。したがって等分配の法則が完全に間違いだとも言い切れない。

2.3  等分配の法則の破れの原因-光のエネルギーの不連続性

 では、等分配の法則が高い振動数の領域で崩れてしまう理由は何だろうか?-プランクはこの理由を以下のように考えた。
 と、いうところで時間が来たので、解決編は来週なのだが、だいたいのお話 として、





という話をした。つまり、人数(自由度)の多い高い振動数の光にたくさんお 金(エネルギー)を取られるかと思いきや、振動数の高い光の要求額(つまり、振動数の高い光を作るためのエネルギー)が大きかったために、むしろ取られず に済んでしまったということである。

 振動数の高い光を作るために大きなエネルギー(万札)が必要になる理由 は、光が粒子であって、粒子一粒を作るのに必要なエネルギーが振動数に比例して決まるからなのである。
 詳しい話はまた来週。

2.4  演習問題

[演習問題2-1] 以下の表を見て、各物質の1分子あたりの定積比熱を計算し、3/2k および5/2kと比較し考察せよ。

水素 窒素 アルゴン ヘリウム 水蒸気 ベンゼン
1グラムあたりの定積比熱(J/gK) 10.23 0.740 0.313 3.152 1.542 1.250
分子量(g/mol) 2 28 40 4 18 78
[演習問題2-2] 酸素分子一個の運動エネルギーが3/2kTであるとして、酸素分子がだい たいどれぐらいの速度で走り回っているかを計算せよ。結果を音速(340m/s)、および脱出速度(11.2km/s)と比較して、その物理的意味を述べ よ。
[演習問題2-3] 真空中のマックスウェル方程式
div
E
 
=0,   div
B
 
=0,   rot
E
 
= −
∂t


B
 
,   rot
H
 
=
∂t


D
 

(2.12)
と、真空中ではB=μ0 H、D=ε0Eであることから真空中の電場E が満たすべき方程式を導け。
ヒント:ベクトル解析の公式
rot(rot
A
 
) = grad(div
A
 
)−∆
A
 

(2.13)
(∆ = [(∂2)/(∂x2)]+[(∂2)/(∂y2)]+[(∂2)/(∂z2)]) を使って、なんとかしてE以外の変数(D,H,B )を消去してしまおう。
[演習問題2-4]


E
 
= E0
e
 

y 
sin ( k ( x− 1




ε0μ0
t ) )
(2.14)
が演習問題2-3で出し た方程式の解であることを示せ。この式はどのような速度で伝播する波を表しているか。MKSA単位系で計算せよ。ε0=8.854×10−12Fm−1、μ0=1.257×10−6NA−2で ある。答えの数字に見覚えはないか?
[演習問題2-5] プランクの出した式 [(8πhν3)/(c3)][1/(e[hν/kT]−1)] を振動数0から無限大まで積分すると、黒体輻射の持つ単位体積あたりのエネルギーが計算できる。その答えはT4に比例することを示 せ(この関係をステファン・ボルツマンの法則と呼ぶ)。ただし、公式




0 
dx x3
ex −1
= π4
15

(2.15)
を使え。
[演習問題2-6] プランクの出した式 [(8πhν3)/(c3)][1/(e[hν/kT]−1)] を、νが小さいとして、あるいはhが小さいとして近似22す ると、レイリー・ジーンズの式[8πkT/(c3)]ν2に等しくなることを確かめよ23

Footnotes:

13「黒体」とは、光 を全く反射しない物体のことで、空洞もまた、一つの黒体である。光を反射する物体であれば、どの波長の光を反射するかによって、色がつく(赤色光を反射す る物体は赤く見える)。空洞放射の色はそのような物質の属性とは関係ない。
14これをデューロ ン・プチの法則と言う。
15なお、歴史的順番 はここで説明している順番とは少し違う。プランクが正しい輻射公式を出した1900年には、まだ次で説明するレイリー・ジーンズの式は導かれてはいなかっ た。
16「波数」という言 葉から「波の数」と勘違いする人がいるが、波数の定義は「単位距離あたりの位相の変化」である。「単位距離あたりの波の数」ならば[1/λ]で計算でき る。波数はこれの2π倍。
17ギターと琴の「音 色」の違いは、倍音の混ざり具合の違いである。だから同じ「ド」でもギターとでは違う音に聞こえる。
 (琴→音と打ち込みミスしてました)
18これは、空洞を 作って有限温度の物体を接触させると、熱平衡に達するまでの間に空洞が無限の大きさの電磁エネルギーを吸い込むことができるということである。もちろんこ んな現象が起こるはずはない。
19実は歴史的に言う と、このテキストでは後で出てくるプランクの式の方がレイリー・ジーンズの公式よりも先に出されている。しかもレイリー・ジーンズの式と呼ばれる式自体を 導出したのは、アインシュタインの方が先である。その論文こそが、光量子仮説の論文なのである。
23たまにこういう問 題を見て「νは小さいから、小さいものの3乗であるν3は無視できる。よって分子はゼロ」とかやってしまうあわてものがいる。物理 では確かによく「小さいから無視できる」とやるが、無視できるのは「(大きいもの)+(小さいもの)」のように大きいものと足し算されている小さいもので ある。100万円持っている人は100円を無視してもいいが、100円しか持っていない人は100円を無視できない。


学生の感想・コメントから

 今週の後半はよくわからなかった(多数)
 来週は後半部分のやり直しから入ります。

 古典力学的な 考え方については疑問点が出なかった。量子論的な考え方とじっくり比較して、どのような点に問題点があるのかを、しっかりと理解したい。
 古典論は理論的にはうまくいくように見えます。ところが実験してみるとそ れが裏切られて、古典論ではうまくいかない。そこが物理の面白いところです。

 始まりは黒体 輻射。わからなくなったらここに戻ります。
 ここからだと量子力学そのものへの道はちょっと長いかもしれません。でも 結局何か新しいことを勉強する時は「なぜこんなものが必要なのか?」をつきつめることが必要です。量子力学の場合は今日がその始まりですね。

 プランクさんはすげーな〜。
 すげぇよ。

 ますます光が 何なのかわからなくなってきました(多数)
 悩んでください。今物理の先生している人たちもみな、昔そうして悩んだの です。

 2原子分子の 回転が二つになる理由は?
 回転というのは本来、x軸まわり、y軸まわり、z軸まわりで3つありま す。2原子分子の場合、軸まわりの回転は(原子に大きさがないので)回転してないのと同じなのです。

 青白い星の温度は2万度にもなると聞いて驚いた。色で温度を測るという考え方はすごい。
 遠くの恒星の温度は温度計では測れないので、色(正確に言うと、スペクト ル分析)で調べるしかないのです。

 最後で「光子 の大きさが違う」とか言ってたのは、エネルギーの違いですか?
 はいそうです。「光子のエネルギーの大きさが違う」と言ったつもりでし た。

 物体がエネル ギーをもらうと光る理由がわかりません。
 電気を持った物体が動くと、回りに電場や磁場が発生して電磁波になって飛 んでいく、というのが一つの説明です。量子力学的にはもうちょっとややこしいのだけれど、それはまた後で。

 E=hνを知っている私にとって、古典統計力学の考え方の方が難しく感じました。
 それはあるかも。後期の統計力学の勉強の時に今日の話を役立ててくださ い。

 シリウスの持つ熱エネルギーは一番大きいのですか?
 1番ではないと思いますが、シリウスは青っぽいので、かなり温度が高いの は確かです。

 太陽はどうやってエネルギー出しているんですか?
 核融合です。

 高い振動数の光に分配されなかった分のエネルギーは他にまわるのかが気になりました。
 はい、他に回ります。最初に見せたグラフの形になって落ち着くわけです。

 先生がどのような質問に答えているかわからず、答だけ聞いても意味はあるんですか?
 質問が聞こえなかったんですか? それはすみません。確かに意味はないで すね。でもそう思うなら、その時その場で「聞こえなかったんですけど」と言ってください。授業終わってから書かれても、手遅れですから

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On 21 Apr 2006, 18:28.