相対論講義録2005年第14回

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10.5  運動量・エネルギーの保存則

ニュートン力学での運動量保存
 ニュートン力学においては、運動量の保存則がどのように導かれたかを思い出そう。質量mi(i=1,2,…,N)のN個の物体がそれぞれpiの運動量をもち、i番目の物体からj番目の物体へは力fijが働くとすると、

d
p
 

i 

dt
=

j ≠ i 


f
 

ij

(10.31)
である。(テキストではfjiとなってましたが、これだと図とあってませんね)
 これをiで足し上げると、



i 

d
p
 

i 

dt
=

[i,j || i ≠ j] 


f
 

ij

(10.32)
となる。
 作用・反作用の法則により、fij=−fji(i番目がj番目に及ぼす力は、j番目がi番目に及ぼす力と同じ大きさで逆向き)である。i,jの和を取る段階でかならずfijfjiの両方の和が表れるので、この二つが消し合うことにより、

d
dt

(

i 


p
 

i 
=0
(10.33)
となる。すなわち、運動量の和i piは保存する。
相対論的力学においても[(dPμ)/dt]=fμが成立しているので、fμについて作用・反作用の法則が成立していれば、同様にPμの和が保存する。ここで、保存則が[d/dτ](Pμ)=0ではなく[d/dt](Pμ)=0であることに注意せよ。固有時τ は粒子一個一個について独立に定義されているものだから、複数の粒子の運動量の固有時微分[(dPμ)/dτ]を足すことには意味がない。作用・反作用の法則が成立するのも、Fμに対してではなくfμに対してである。
運動量の変化の図  なお、相対論では運動量とエネルギーは同じ4元運動量の空間成分と時間成分という形にまとまっているので、運動量だけが保存してエネルギーが保存しないとか、あるいはこの逆のことなどはあり得ない。違う座標系に移れば時間成分と空間成分は入り交じる(たとえば、P′0=γ(P0−βP1) というふうに)ので、全ての座標系で運動量保存則が成立するためには、エネルギーも保存していてくれないと困るのである。これは相対性原理からの帰結であ る。ニュートン力学では「摩擦があるからエネルギーが保存しない」という状況が許されたが、相対論的力学では摩擦によって失われたエネルギーもちゃんと勘 定して保存する形になっていなくてはいけない。
 上では作用・反作用の法則が成立ということを仮定したが、相対論の場合にはこの仮定にも注意 が必要である。なぜなら、相対論では空間的に離れた場所での同時刻には意味がない。上の図では、離れた物体との間で力が「同時に」働いているかのごとく書 いているが、実際にはそんなことは起きない(そもそも、力も光速より速く伝わるはずがない!)。したがって厳密には、作用・反作用の法則を単純に適用して よいのは、物体と物体が接触して(同一時空点に存在して)力を及ぼす場合である。クーロン力を「二つの電荷の押し合い(引き合い)」と考える場合、作用反 作用の法則が成立しているとは限らない。ただし、クーロン力を「電荷と、その場所の電磁場との相互作用による力」と考えるならば、ちゃんと作用・反作用が 成立するのだが、その場合は「電磁場の持つ運動量」を計算してやらなくてはいけない。
 まずは物体が接触して衝突するという単純な問題の場合で相対論的な場合と非相対論的な場合にどのような差があるかを確認しておこう。
3次元的衝突
 静止している質量mの物体に、同じ質量の物体が運動量p0を持って衝突したとする。結果として二つの物体の運動量がp1,p2になったとすると、


p
 

0 
=
p
 

1 
+
p
 

2 

(10.34)
という式が成立する(運動量保存)。この式はp0,p1,p2が三角形を形作ることを示している。一方、非相対論的な計算では、エネルギーの保存則が

|
p
 

0 
|2

2m
=
|
p
 

1 
|2

2m
+
|
p
 

2 
|2

2m
    すなわち     |
p
 

0 
|2 = |
p
 

1 
|2+ |
p
 

2 
|2
(10.35)
となる。これからp0,p1,p2で作った三角形がピタゴラスの定理を満たすこと、すなわちこれが直角三角形となって、p1p2 が垂直であることがわかる。これはビリヤードの玉などでも確認できる現象である。
相対論的な計算では、エネルギー保存則は

 
|
p
 

0 
|2c2+m2c4
 
+m c2 =  
|
p
 

1 
|2c2+m2c4
 
+  

|
p
 

2 
|2c2+m2c4
 

(10.36)
となるので、もはやp1p2は直角ではなくなる。細かい計算は省略するが、角度θは90度より小さくなる。この現象は霧箱の中にβ線を入射させて、電子と衝突させるなどの実験で実際に起こることが確認されており、相対論的力学が正しいことの証拠の一つとなっている。

 この式の左辺にだけ、mc2を足すのはなぜですか?
 mc2は、止まっている粒子のエネルギーです。衝突前は止まっている粒子が一個あるからつけました。衝突後は二つとも動いていて、そのエネルギーは計算すみだから、もう足さなくていい。

10.6  質量とエネルギーが等価なこと

粒子の運動量とエネルギー
 最初に注意しておくが、この節で扱う質量は、静止質量である。
すなわち、エネルギーE、運動量pとした時、
E2 − p2 c2 = m2 c4
(10.37)
で定義されるところの質量(つまり速度や座標系によらずに定義される質量)である。物体が静止している場合はp=0となってE=mc2となる。エネルギーの負符号は許さない。許してしまうとエネルギーE=−√[(p2c2 + m2 c4)]はpが大きくなることによっていくらでも(−∞まで)小さくなれる。「物体はエネルギーの低い方に行きたがる」という原則からすると全ての物体がみなE=−∞へと落ち込みたがって具合いが悪い。エネルギーには底がないといけないのである(図参照)。
すでに述べたように、エネルギーは「運動量の時間成分×c」であり、物体が静止している場合でもmc2だけあることになる。cが3×108[m/s]であるから、これは非常に大きなエネルギーである(1gの質量は、9×1013[J]、すなわち90兆ジュールのエネルギーに対応することになる)。
しかし、たとえエネルギーがmc2 だといっても、これよりも低いエネルギーの状態がないのなら、これには意味がない。エネルギーを取り出すには、状態をエネルギーのより低い状態に「落す」ことによってその差をもらいうける必要があるが、このエネルギーは最小値がmc2であるから、このエネルギーを取り出す方法がない。取り出せないエネルギーはいくら大きくとも意味がない。
質量を持った物体と質量を持った物体が反応してその総質量を変えるような過程があれば、この質 量の差が物理現象にエネルギーの差として表れてくる。そこで以下で、そのような過程を相対論的に考えると(すなわち、ローレンツ不変性を要求していくと) どのような結果が得られるかを考察しよう。
質量増加の図
今、質量mの二つの物体が逆向きの速度vと−vを持って正面衝突して合体したとしよう。単純に考えると質量2mの静止した物体が残る、と言いたいところだが、はたしてこんな現象は相対論的に正しいだろうか。これらの物体の4元運動量を考えると、保存則の成立から
衝突前:(mcγ,mvγ,0,0)と(mcγ,−mvγ,0,0)
(10.38)
であるから、
衝突後:(2mcγ,0,0)
(10.39)
となることになる。γ = [1/sqrt(1-v^2/c^2)]は1より大きいから、衝突後の質量は2mより大きくなっていることになる。
こうなることが相対論的に考えれば必然であることを確認しよう。相対性原理により、同じ現象を、速度−vを持って運動している観測者が見たとしても同じことが結論できねばならない。この時、速度の合成則を使わねばならないので、速度−vで動きながら速度vの物体を見た時の速度は、2vではなく、[2v/(1+[(v2)/(c2)])]であることに注意せよ。この速度に対応するγは、

1

 
1−( 2v
c(1+[(v2)/(c2)])
2

 
 
=
1+ v2
c2


 


( 1+ v2
c2
2

 
4v2
c2
 
=
1+ v2
c2


 
1−2 v2
c2
+ v4
c4
 
=
1+ v2
c2

1− v2
c2

(10.40)
となることに注意して、二つの座標系で運動量とエネルギーを計算してみる。
もう一方はもちろん静止して見えるので、
衝突前:(
mc( 1+ v2
c2

1− v2
c2
, 2mc v
1− v2
c2
,,0,0 と(mc,0,0,0)
(10.41)
のような運動量を持っていることになる。この二つの和を取って、
衝突後:( 2mc
1− v2
c2
, 2mc v
1− v2
c2
,,0,0
(10.42)
となる。
4次元的運動量の合成

[2m/sqrt(1-v^2/c^2)]=Mと書くと、

(
Mc

  sqrt(1-v^2/c^2)
, Mv

sqrt(1-v^2/c^2)
,0,0)

(10.43)
という形になり、質量Mの粒子が速度vで動いている時の式となる。
以上からわかることは、二つの粒子が合体するという過程で、エネルギー保存、運動量保存を満足させたなら、必然的に質量は保存しないということである。
 このことは以下のように考えることができる。そもそも質量はm2 c4 = E2 − p2 c2という式を満たしている。2個の粒子のエネルギーを足す時、Eは常に正であるから、純粋に足し算される。ところが運動量を足す時は、この二つがベクトルであるため、運良く同じ方向を向いていた場合以外は、単純な和よりも小さくなる。たとえば(E1,p1)というエネルギー、運動量を持った粒子と(E2,p2)というエネルギー、運動量を持った粒子二つをひとまとめに考えると、全エネルギーはE1+E2であり、全運動量はp1+p2であって、この大きさは|p1|+|p2|より大きくなることはない(たいてい、より小さい)。つまり合体の結果、より「時間成分が多い」ベクトルができあがる。これが質量を単純な和よりも大きくするのである。
 相対論的に考えれば、かならずある座標系で見ればp1+p2=0となる。そうなってもE1+E2はもちろん0ではなく、しかもこの大きさはm1c2+ m2 c2より大きくなることがすぐにわかる。
 左図のような4元ベクトルの足し算では、和の結果は元のベクトルを単純に足したものより長い(4次元的意味で、長い)ベクトルになるのである。
電磁波の放射と質量増加
 アインシュタイン自身は1905年の論文で以下のようにして質量とエネルギーが等価であること を導いている。今、静止した、質量Mの物体が反対向きに2個の光を出す。光のエネルギーが一個あたりEだとすると、物体のエネルギーは2E減るはずであ る。しかし、逆向きに飛び出したのであるから、物体の運動量は変化せず、今も止まっているはずである。これを、物体が速度V で動いて見える座標系から見たとする。Vの方向は光の飛び出した方向と同じだったとする(註:アインシュタインは角度θの方向に飛び出すとして一般的に解 いている)。光はエネルギーEと運動量の大きさpの間にE=pcの関係があるので、物体の静止系ではエネルギーEで運動量±E/cである。運動している系 では、これをローレンツ変換した量となる。表にまとめると、

静止系 運動系

エネルギー 運動量 エネルギー 運動量
物体 Mc2 0 Mc2γ MVγ
光1E E/c γ(E−VE/c) γ(E/c−VE/c2)
光2E −E/c γ(E+VE/c) γ(−E/c−VE/c2)
放射後の物体Mc2−2E 0 (Mc2−2E)γ (M−2E/c2)Vγ
であり、この式を見ても、放射後の物体がM−2E/c2の質量を持った物体として振る舞うことがわか る。なお、アインシュタインがこの式を導いた時、光のエネルギーと運動量が運動系でどのようになるのかはローレンツ変換によってではなく、電磁気の法則か ら導いている。アインシュタインはこのような考察から、どんな形であれエネルギーが放射されるとその物体の質量はE/c2だけ減少するであろうと結論した。
 同様に、熱も質量に貢献する。熱が移動するということはミクロにみれば分子の運動エネルギーが増すということである。N個の粒子からなる系があるとして、書く粒子が4元速度PIμを持っている(Iは粒子を区別する添字とする)とすると、全体としてはI PμIの4元運動量を持つことになる。このN個の粒子が箱に閉じ込められた気体だとして、箱の静止系で見れば運動量の和I PiI=0となる(全体として気体が動いてないのだから)。しかしI P0Iはもちろん0ではなく、単なる静止エネルギーの和I mI c2より大きくなる(P0I = mc/sqrt(1-v^2/c^2))。つまり、箱に入った気体のように、個々の構成粒子は運動しているが全体としては静止しているような物体の質量は、その運動エネルギーに対応する分だけ、大きくなるのである。
 E=mc2という式は原子力などでのみクローズアップされることが多いが、もちろん原子力特有のものではなく、全てのエネルギーで成立すると考えられる。たとえば伸び縮みしたばねは、自然長のバネより[(1/2kx2)/(c2)]だけ質量が大きいであろうと思われる。ただしこのような日常的なレベルではc=3×108という数字の大きさのために、観測可能なほどの差にはならない。
 実はE=mc2という式は、アインシュタインが作ったものでもなけれ ば、相対論によって始めて導かれたものでもない。純粋に電磁気学的な計算から、電子のような荷電粒子を動かす時の抵抗(慣性に相当する)が、回りの電場の エネルギーの分だけ増えることを電磁気の法則から導かれていた。簡単に言うと、電子を動かそうとすると、回りの電場も動かさなくてはいけない。しかし、電 場は電子と全く同じように時間的に変化することはできず、電場の変化は電子の運動に、少し遅れることになる。この遅れた電場は電子を加速と逆方向にひっぱ るのである。
電磁気におけるE=mc^2の簡単な説明
 電子を加速するためには、その力の分だけ余計な力が必要になる。これがあたかも「電子の周りの電磁場も質量を持っている」かのように作用するのである。ポアンカレやローレンツの計算により、この質量は電磁場のエネルギーに比例し、かつ[m/sqrt(1-v^2/c^2)] と同じ速度依存性を持つことも計算されていたのである。 もちろんこれだけでは、電磁的なエネルギーを起源とする質量以外に対しても同じ式が成立するかどうかは、実験してみないとわからない。ただ、ローレンツ変 換に対する不変性を考えると、そうであることがもっともらしい(相対論的には自然な結論である)ということが言えるのみである。幸いにも、実験はそれを支 持している。
 たとえばヘリウム42He(2つの陽子、2つの中性子、2つの電子からなる)の質量は4.0026032497u(原子質量単位)であって、重水素(1つの陽子、1つの中性子、1つの電子よりなる)の質量2.01410177779uの2倍より少し軽い。そもそも原子質量単位は126C の質量を12uとして定義されているが、水素11H の質量は1.0078250319uである。このように原子は構成要素である陽子や中性子の質量の和を取ったものよりも軽くなる。これを質量欠損と呼び、 その原因は原子が作られる時に、γ線などのさまざまな形でエネルギーが放出されることである。鉄など、周期表で真ん中あたりにある元素は質量欠損の割合が もっとも大きく、その分安定であり、ウランなどを核分裂させるとエネルギーが得られる理由はこれである。
 ポアンカレやローレンツは相対論的見地を持って計算したわけではなかったのに、このような結 果が出た。しかしそれは驚くにはあたらない。相対論はそもそも、電磁気学(あるいはマックスウェル方程式)を尊重することによって生まれたものである。だ からマックスウェル方程式にしたがった計算を正しく実行すれば、相対論的にも正しい結果が出るのは当然なのである。特殊相対性理論がマックスウェル方程式 によって記述される電磁気学を正しく発展させた結果生まれたものであることがこの事実からもわかる。むしろ、相対論を持って電磁気学が完結すると言っても よい。


学生の感想・コメントから

 衝突の時、角度が直角より狭くなるということですが、ぶっつける粒子をものすごく速くすると、角度は0に近づいていくのでしょうか。
 はい。ああなる理由は、ニュートン力学では運動量は速度に比例して増えるけど、相対論的力学では速度がcに近づくにつれて急速に運動量が増えるからです。

 二つの物体をぶつけることで質量が増えるということでしたが、これは動いている人の座標系から見てですか??
 質量というのは、座標系によらない量ですから、誰から見ても増えるときは増えます。

 二つの物体がくっつくと重くなるという話でしたが、酸素と炭素で二酸化炭素ができる時は軽くなる。なぜ???
 二酸化炭素ができたときに、熱という形でエネルギーを放出するからです。最初に考えた合体ではエネルギーは物体にとどまっています。

 相対論以前にE=mc2が知られていたという話ですが、その式のcはどこから来たのですか? 光速度不変じゃないですよね?
 いい質問です。cはマックスウェル方程式から来ます。マックスウェル方程式の中には(MKSA単位系では自明じゃないですが)cがちゃんと入っているんです。それはマックスウェル方程式を解くと電磁波が出てくることからもわかりますね。

 質量保存則は成立しないのですか?
 近似的な法則としては成立してます。でも厳密には成立してません。

 最後の電磁力の話は空気の抵抗とかは関係ありませんね?
 ありません。真空中でも、電気力線や磁力線の遅れは生じます。

 マイケルソン・モーレーの実験を使ったタイムマシンのアニメーションは高校生にはわかりにくいと思います。
 そんなことありません。全員がわかるということはないでしょうが、わかる高校生はたくさんいましたよ。本質的な部分を理解できる力があれば、中学生でも大丈夫です。

 相対論的な電磁気の話もホームページでやってください。
 うーん、ちょっとたいへんだけど、考えます。

 テストがんばります。
 がんばってください。だいぶがんばらないとつらそう・・・・。

 E=mc2は電磁気学ですでに知られていたのは驚いたが、相対論が電磁気学からできたことを考えると当然だと思った。「特殊相対性原理」と「光速度不変」ということからここまで面白い結論が得られるのはすごいと思う。
 ほんとに相対論はすごいです。こういう感想を持ってもらえてよかったと思います。ついでに、相対論の元になった電磁気学も、かなりすごいものです。

 なお、テストは来週のこの時間。8月2日です。


File translated from TEX by TTHgold, version 3.63.
On 19 Jul 2005, 15:36.