相対論講義録2005年第13回

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10.2  4元速度

 まず、ニュートン力学における3次元速度[(dxi)/dt]を
Vμ = ( c( dt

) ,( dx

) ,( dy

) ,( dz

) )
に置き換える。固有時τはローレンツ変換で変化しないため、xμがαμ νxνとローレンツ変換される時、Vμ → αμ νVνとローレンツ変換される。すなわちVμは4元ベクトルであり、「4元速度」と呼ばれる。 物体の4元速度の自乗を計算すると、

( −c2( dt

) 2

 
+( dx

) 2

 
+( dy

) 2

 
+( dz

) 2

 
) = −c2
(10.2)
となる。つまり、4元速度は常に時間的(自 乗がマイナスになるベクトル)であって、4元速度の自乗は一定値なのである。3次元的に見ると物体はそれぞれ固有の速さを持って運動しているように見える が、4次元的に見れば全て同じ速さで運動している、と考えることもできる。ただし、
(4元速度の自乗)=((空間的速度の自乗)−(時間的速度の自乗))
(10.3)
という形になっているので、空間的方向の速度が速くなると時間的方向の速度も速くならなくてはいけない。
 「時間方向の速度」というのは変な表現だが、今考えている「速度」というのは「単位固有時あた りの変化」という意味であるから、「τ(固有時) が1変化する間にt(座標時)はどれだけ変化するか」ということである。動いているとこれが速くなる。というのはどういうことかというと、「小さいτの変 化に対し、tが大きく変化する」逆に言えば「tが大きく変化しているのにτがあまり変化しない」ということである。つまり、「時間方向の速度が速くなる」 というのは、「運動物体の時間は遅れる」ということの別の表現だということになる。
 4元速度の第0成分であるc[dt/dτ]を3次元速度vi=[(dxi)/dt]を使って表そう。(2)より、

−c2( dt

) 2

 
+ (


dxi
dt

=vi 

dt


) 2

 
=
−c2
( dt

) 2

 

( c2−|
v
 
|2) =
−c2

d(ct)

=

c

 sqrt(1-v^2/c^2)
= cγ

(10.4)
となって、ウラシマ効果の時間遅れの因子γにcをかけたものが出てくる。また、3次元速度viと4次元速度Vμの関係は[(dxμ)/dτ]=[(dxμ)/dt][dt/dτ]となることから、
V0 = cγ,     Vi = γvi
(10.5)
となる。物体が静止している時、4元速度は(c,0,0,0)となる。そして、速度vがcに近づくにつれてVμは無限大へと発散する。

【以下長い註】この部分は、最初に勉強する時は理解できなくともよい。
速度の合成則(2)を、4元速度の考え方を使っても導くことができる。x′座標系で見ると4元速度V′μを持っている物体があったとすると、x座標系では、
V0 = γ(V′0+βV′1), V1 = γ(V′1+βV′0),V2=V′2,V3=V′3
(10.6)
と、ローレンツ変換と同じ変換を受けることになる。[(vi)/c]=[(dxi)/d(ct)]=[(dxi)/dτ][dτ/d(ct)]=[(Vi)/(V0)]ということを使うと、

v1
c
= γ(V′1+βV′0)
γ(V′0+βV′1)
= V′1+βV′0
V′0+βV′1
=
V′1
V′0

1 +β V′1
V′0
=
v′1
c

1 +β v′1
c
= 1
c

v′1+v
1 + vv′1
c2

(10.7)


v2
c
= V′2
γ(V′0+βV′1)
=

V′2
V′0

γ(1+β V′1
V′0
)
=

v′2
c

γ(1+ vv′1
c2
)

(10.8)
(v3も同様)として求めていくこともできる。

【長い註終わり】

10.3  4元加速度、4元運動量と4元力

4元速度をさらに固有時τで微分したものを4元加速度と言う。式で書けば[(d2 xμ)/(dτ2)]となる。4元加速度の性質として、4元速度と(4次元の意味で)直交する。なぜなら4元速度の自乗が一定であることから、

0=

d


( ημν dxμ


dxν

)
0=
μν d2 xμ
2

dxν



(10.9)
となるからである。
4元速度に質量34をかけたものを4元運動量と呼ぶ。
Pμ = ( mc dt

,m dx

,m dy

,m dz

)
(10.10)
のようなベクトルで、これは3次元の運動量
pi=( m dx
dt
,m dy
dt
,m dz
dt
)
(10.11)
と、
Pμ=( mc γ, γp1, γp2 , γp3)
(10.12)
のような関係にある。ここで、4元運動量の第0成分にはどんな意味があるのかを知るために、この4元運動量の微分dPμについて考えてみる。
4元運動量は4元速度にmをかけたものであるから、その自乗Pμ Pμ = ημνPμ Pνは−m2c2という定数になる。この式を微分すると、
ημνdPμ Pν=0
(10.13)
であるが、これを少し変形すると、

ημνdPμ dxν
=0
dPi dxi
=dP0 d(ct)

dPi
dt
dxi
= c dP0

(10.14)
となる。つまり、[(dPi)/dt]とdxiの3次元的内積がcP0の変化量となる。ニュートンの運動方程式と同じように、
fi = dPi
dt

(10.15)
のようにして力を定義するならば、(14)はまさに
仕事 = cP0の変化
(10.16)
という式になる。これはcP0がエネルギーと解釈できることを示している。つまりエネルギーは「時間方向の運動量×c」なのである。量子力学でp=−i(h/2p)[∂/∂x],E=i(h/2p) [∂/∂t]のような対応になっているのは、エネルギーが時間方向の運動量だからであるとも言える。Eだけ符号が違うのも、もちろんημνが時間的成分のみマイナスであることが関係がある。
4元運動量の自乗はημνPμ Pν = −m2c2であるから、P0=E/cとおくと、
−m2 c2 = −( E
c
) 2

 
+ |Pi|2
(10.17)
という式が成立する。上の式から、運動量の大きさが増えるとエネルギーも増加する(自乗の差が一定値なのだから)。
ここで、そもそも運動量やエネルギーというものが、ニュートン力学においてどのように導出されたものか、ということを思い出そう。まず運動方程式
m d2 xi
dt2
=fi
(10.18)
から出発する。この両辺を時間で積分(区間は[ti,tf])すると、
m d xi
dt


t=tf 
− m d xi
dt


t=ti 
= tf

ti 
fi dt
(10.19)
という式が出る。これは、運動量の変化が力積である、という式である。
また、xiで積分すると、



xf

xi 
m d2 xi
dt2
dxi
= xf

xi 
fi dxi
m tf

ti 

d2 xi
dt2

dxi
dt
dt
= xf

xi 
fi dxi
m tf

ti 

d
dt

( 1
2

( dxi
dt
) 2

 
) dt
= xf

xi 
fi dxi

1
2
m( dxi
dt
) 2

 

t=tf 
1
2
m( dxi
dt
) 2

 



t=ti 

= xf

xi 
fi dxi

(10.20)
という式が出る。xiは時刻tiでの粒子の位置(xf,tfも同様)である。つまり、エネルギーは仕事fi dxiによって変化する量として定義されている。同様に、cP0はエネルギーと解釈されるべき量なのである。実際、vがcより小さいという極限で計算してみると、

cP0=
mc2 1


sqrt(1-β^2)
=mc2( 1+ 1
2
β2+…) = mc2 + 1
2
mv2+ …

(10.21)
となって、定数項mc2とβの4次以上の項を除けばなじみのある運動エネルギーの式1/2mv2が出てくる。なお、相対論で有名な公式35であるE=mc2はこの式のβ = 0にしたものである。つまり静止している物体もmc2だけのエネルギーを持っているということを表している。しかし、通常の力学ではエネルギーの原点には意味がない。取り出すことのできるエネルギーは結局はエネルギーの差であり、cP0の最小値はmc2なのだから、このmc2はこの一個の粒子の運動を考えている限りにおいては取り出すことのできないエネルギーということになる。この「静止エネルギー」mc2の意味は、単にエネルギーの原点がずれているだけにすぎないのである。しかしこのmc2がないとPμが4元ベクトルでなくなってしまうので、4元運動量として意味があるためにはmc2を消してしまうことはできない。
 この時点ではmc2は、実用的な見地からは深い意味はない。しかし、複数の物体が合体したり、あるいは逆に物体が分裂したりする現象を考えると、この式に含まれる深い意味が明らかになる。これについては後で話そう。
 なお、ここで定義した力fi=[(dPi)/dt]は、その定義(t微分を使ったところ)からして4元ベクトルになっていない。4元ベクトルになる力Fμ

dPμ

=Fμ
(10.22)
で定義すると、Fμ = [dt/dτ]fμという関係が成立する。このτは、今力が及ぼされている物体の固有時であるから、その物体が速度uiを持っているならば、

dt

= 1

 

1− u2
c2
 

(10.23)
である。
 Fμを「4元力」または「ミンコフスキーの力」と呼ぶ。
 4元力は4元ベクトルであるから、その変換性は他の4元ベクトルと同様で、x方向に速度βで移動する座標系へ変換した時、
F′1=γ(F1−βF0),     F′0=γ(F0−βF1),    F′2=F2,    ,F′3=F3
(10.24)
となる。fμ=√{1−(u/c)2}Fμという式が成立している(uは今考えている粒子の速度である)ことを考えると、fμの方の変換も計算できる。ただしその時は、x座標系とx′座標系では、物体の速度uiも速度の合成則に従って変換することに注意しよう。したがってfμの変換はFμに比べると複雑なものになってしまう。

10.4  質量の増大?

よく相対論の本では「運動すると物体の質量が増大する」という意味のことが書 いてある。この講義ではここまで一貫して質量mを定数として扱ってきた。で はこのmは増大するのだろうか?
もちろん、しない。では「運動すると物体の質量が増大する」とはどういう意味 なのか。ここで「そもそも質量の定義とは何か?」ということに立ち戻る必要が ある。 ニュートン力学における質量は運動方程式
fi = m d2 xi
dt2

(10.25)
によって規定されている。相対論的力学でも、力としてfμの方(4元力 Fμではなく)を使えば、ニュートンの運動方程式と同じ形の、
fμ = d Pμ
dt

(10.26)
であるが、運動量Pμはこの場合4元運動量であって、3次元運動量piと は少し違う。具体的には
Pi = m dxi

= mv

  sqrt(1-v^2/c^2)
=

m
静止質量 


vi


sqrt(1-v^2/c^2)

 




4元速度の空間成分 
=
m


sqrt(1-v^2/c^2)

 




相対論的質量 



vi
3次元速度 

(10.27)
となるわけであるが、この運動量のどこまでを「質量」と考え、どこまでを「速度」と考えるかには、上の二つのような流儀がある。なお、どちらかと言うと単に「質量」という時にはm、すなわち運動しているかいないかに関係なく同じ値をとるものを指す方が普通である。
どちらの流儀で考えるにせよ、ある力fiをdt秒間加えた時、[(mvi)/(√{1−(v/c)2})]がfi dtだけ増大するのは同じである。 なお、実際にPiを時間で微分したとすると、


dPi
dt
=

d
dt

( m vi


sqrt(1-v^2/c^2)
)
=

m dvi
dt



sqrt(1-v^2/c^2)
+
m vivj dvj
dt

c2( 1−( v2
c2
) ) 3/2

 


(10.28)
となる。つまり、力fiの方向と加速度[(dvi)/dt]の方向は必ずしも一致しない。速度viと加速度[(dvi)/dt]が直交しているような場合は第2項が消えるので非常に簡単になる。磁場中を走る荷電粒子の場合、ローレンツ力qB36を受けて円運動するが、加速度は速度と垂直(中心向き)に[(v2)/r]となるので、
qvB = m

  sqrt(1-v^2/c^2)

v2
r

(10.29)
となって、半径がr=[mv/(qBsqrt(1-v^2/c^2))] となる。非相対論的な計算では分母のsqrt(1-v^2/c^2)は表れない。実験によって支持されるのはもちろん相対論的な計算であり、荷電粒子を磁場中で加速する(サイクロトロンなど)実験装置ではこのいわゆる「質量増大」の効果を考えて設計せねばならない。
逆に、運動方向と加速度が同じ方向を向いていると、また話が少し変わる。この場合、viも[(dvi)/dt]もx成分だけが零でないとすると、


dP1
dt
=

m dv
dt


sqrt(1-v^2/c^2)
+
m v2 dv
dt

c2 ( 1−( v2
c2
)) 3/2

 

=

m dv
dt

( 1− v2
c2
)


( 1−( v2
c2
) ) 3/2

 
+
m v2 dv
dt

c2 ( 1−( v2
c2
) ) 3/2

 

=

m

( 1−( v2
c2
) ) 3/2

 

dv
dt


(10.30)
となり、この場合はむしろ質量が[m/((1−[(v2)/(c2)])3/2)] に増えていることになる。こちらを「縦質量」、さっきの[m/(√{1−[(v2)/(c2)]})] を「横質量」として区別する場合もある。縦質量の方が横質量より大きいのは、横方向に押す場合はvの大きさは変化しない(つまり運動量の分母は変化しな い)が、縦方向に押すとvの大きさを変える(運動量の分母も変える)のに余分な力が必要になるからである。このように、「質量が増大する」という考え方 は、「質量」と「速度」の両方が時間的に変化すると考える分だけ、計算がかえって複雑になる場合もあり、あまり推奨されない。質量は常にmで一定だと考え て、運動量の式には分母にsqrt(1-v^2/c^2)があるのだとした方が簡便である。どちらの流儀でも、「相対論では運動量がmvではなくmvγになる」ということを把握しておけば問題はない。
 ここで、fμが有限で時間経過も有限である限り、Pμは有限の値を取ることに注意しよう。速度を増やしていくと、v=cとなったところでPμは無限大となる。ゆえに、有限の力で有限の時間加速している限り、光速に達することはない。このことは光速cが物体の限界速度であることを示している。

学生の感想・コメントから

 4次元的に見ると全ての物体が光速で動いているというのは不思議だ。(多数)
 速度というものの定義の仕方の問題ですが、この考え方から固有時が動くと遅くなる、ということが説明できるあたりが面白いですね。

 質量というものは意外とどんなものかわかっていなかったが、加速しにくさだと聞いてなるほどと思った。
 来週の話では、もっと「質量とは何か」について考えることになると思います。

 物体は無限の力がないと光速に達し得ないとわかりましたが、光も質量を持っているんだから、光のエネルギーは∞にならないんですか?
 まず最初に。光には質量はありません。
 次に。今日説明したのは「光より遅いものを光の速度まで加速するには無限のエネルギーがいる」ということ。最初から光の速さのものについては何も言ってません。

 相対論的運動方程式でvが小さいとするとニュートン力学になると言いますが、時間成分は残ってしまうのではないですか?
 残ります。時間成分は時間成分で、エネルギーに関する式になります。

 物体はすべてmc2のエネルギーを持っているということですが、これを引き出せたとしたら石油にかわるエネルギー源になったりしませんか。ひきだせないみたいですけど。
 いえ、引き出せます。実は石油のエネルギーもこれから引き出したものなんです。これについてはまた来週。

 化学反応の発熱・吸熱反応はE=mc2が関係しているのでしょうか?
 もちろんです。このあたりの話は来週話します。

 4元加速が0になるということはどういうことなのでしょう??
 ????今日そんな話はしてないと思いますが????

 4元速度と4元加速度は直交するというような、3次元での円運動と同じことが起こるのはなぜですか?
 3次元の等速円運動では、|v|2が一定になるので、これを微分して、v・(dv/dt)=0。つまり、考え方は同じです。

Footnotes:

34相対論では質量という言葉にいろんな定義があるのだが、少なくともこのテキストに関しては、「質量」とは「静止質量」のことである。他の質量の定義は後で述べるが、基本的な量は「静止質量」であり、これはローレンツ変換によって変化しない、定数である。
35意味はわからなくてもこの式だけは知っている、という人も多いので、もしかすると、物理の公式の中で一番有名かもしれない
36ここでは説明しないが、qvBで表されるのがfなのかFなのかは、電磁場をローレンツ変換した時どうなるべきかということから決まる。


File translated from TEX by TTHgold, version 3.63.
On 19 Jul 2005, 15:36.