相対論講義録2005年第8回
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6.2
ウラシマ効果
マイケルソンとモーレーの実験における、南北方向の光について思い出す。実験装置が動いていないという立場(地上にいる人の立場)で観測すると、距離2
L
を光が進むので、往復に[(2
L
)/(
c
)]かかる。一方同じ現象を、装置が速さ
v
で東に動いているという立場(地球外の人の立場)で観測する。この人にとっては光は南北方向にではなく、少し斜めに(光の速度ベクトル
c
と地球の速度ベクトル
v
が図に書いたような関係になるように)進んでいる。この人にとっての光の速度の南北方向成分は
になる(当然
c
より遅い)。
ゆえにこの時に光が発射されてから到着するまでの時間は[(2
L
)/
]となる(
L
は南北方向の距離であることに注意せよ)。つまり、地球外の人の方が同じ現象にかかった時間を
倍だけ、長く感じることになる。
このように、動いている人(この場合は地球上にいる人)の時間は止まっている人(この場合は宇宙から観測する人)の時間より遅くなることになる。これを浦島太郎の昔話になぞらえて、ウラシマ効果と呼ぶ。
これについても
javaアプレットによるアニメーション
を見せたが、プログラムの方はロケットが右に動いているのを使ったので、図とうまく合わなくてよくなかった。来年は改善しよう。
今、地上の立場を
x
′座標として考えると、発射は
x
′=0,
t
′=0であり、到着は
x
′=0,
t
′=[(2
L
)/(
c
)]となる。これを(
6.7
)と(
6.8
)に代入して考えると、各々の座標系の上で
地上の座標系
宇宙船の座標系
発射
x
′=0,
t
′=0
x
=0,
t
=0
到着
x
′=0,
t
′=[(2
L
)/(
c
)]
x
=
A
′
v
×[(2
L
)/(
c
)],
t
=
A
′×[(2
L
)/(
c
)]
のように発射と到着が記述されることになる。到着の時刻は、宇宙船の座標で測った方が
倍長いのだから、 [(2
L
)/(
c
)]×
=
A
′×[(2
L
)/(
c
)]となって、ゆえに
A
′=
ということになる。
この時間が遅れるというのは、時間座標の目盛りが変化するということですか?
いえ、これも本当に遅れます。というのはここでは光の往復というのを例にとって考えているけど、 ありとあらゆる物理現象についてこの時間の遅れは適用されるはずだからです。そもそも相対論ができたのは、どんな座標系でもマックスウェル方程式が成立す るはず、ということからです。ということは、他の電磁気的物理現象も同じように遅れるはず。人間の脳の動きとかも立派な電気的反応なんだから、電磁気的な 動きの時間が遅れるなら、人間の思考だって同じ。もちろん全ての物理法則がそうだと考えれば、すべての物理現象の時間が遅れると考えてよいわけです。
もちろんほんとにそうなのかは実験で確認すべきことなんだけど、移動する時計が遅れるというのは実験事実です。
なお、立場を逆にして、宇宙の方で南北方向に光を往復させたとすると、宇宙ではその時間を[(2
L
)/(
c
)]と感じ、地上では[(2
L
)/(√[(
c
2
−
v
2
)])]と感じるということになる。これを使えば同様の計算により、
A
=
とわかる。
ここで、地上でも宇宙でも相手の方が時間が遅いと感じるなんておかしい、と思うかもしれないが、次のように考えるとおかしなところは何もない。
地上で実験する場合、光の発射と到着は図Aに矢印で「発射」と「到着」と示した2つの時空点である。この場合、
x
′座標系で見て同じ場所に光が戻っている。
x
座標系でみれば、同じ場所に光は戻っていないことになる。一方、宇宙で実験する場合(図B)の「発射」と「到着」は、
x
座標系で見て同じ場所に光が戻る(
x
′座標系では同じ場所に戻らない)。
どちらで実験する場合も、実験装置と共に動いている方は、[(2
L
)/(
c
)]という時間を観測する(これは相対性原理からして当然)。もう一方は、その時間を、「自分の時間」を使って測定するのだが、互いの同時刻面は相手に対して傾いている。その傾きがゆえに、双方が「おまえの時間の方が遅い」と判断することになるのである。
図B'は、図Bを、
x
′−
t
′座標系が垂直になるように書き直したものである。
ct
軸に関しては図Bを左右逆転したような図になっている(速度逆向きの座標変換だから)。
また、図C中の点線は原点からいろんな速度で出発した人の時計が同じ時刻を刻む時空点を線でつないだものである。速く動く人ほど持っている時計は遅く進むので、垂直に対して傾いた軌道をとっている人ほど、止まっている人との時間差が大きくなる。
結局、
x
′−
t
′系での同時が
x
−
t
座標系から見ると傾いていて
x
−
t
座標系での同時と同じではないため、このように「互いに相手の時間を短く感じる」という一見矛盾した結果が出る。
ロケットが地球に帰ってきたら、どっちの時計が進んでいることになるんですか?
地球です。
では、お互いに遅くなるという話はどうなるんですか?
地球に戻ってくるためには、どこかで方向転換をしなくちゃいけません。そのために、今度は座標系が3つ必要になるんです。
左の図で、紫で書いたのが行きのロケットが静止する座標系。この座標系のx'軸(つまり同時刻の線)は右上がりの直線になります。
緑で書いたのが帰りのロケットが静止する座標系。この座標系のx''軸(つまり同時刻の線)は左上がりの直線。
ロケットがUターンする時、(x',t')座標系から(x'',t'')座標系に乗り換えが行われることになります。この時にロケットから見て同時になる地球の位置(時間)が、図のJump!とあるように飛びます。
つまりロケットは離れて行っている間は「地球の方が時間が遅い」と思っているんだけど、加速し終わった瞬間、地球ではあっと言う間に「Jump!」分の時間が経っているので、やはり地球での方が長い時間が経つことになるわけです。
二つの座標系の話をしている間は「お互いが遅い」で済むんだけど、3つ以上あるとそれぞれの立場をちゃんと考えないとうまくいかない。
以上から結果をまとめよう。
x
′
=
γ(
x
−β
ct
)
(6.9)
ct
′
=
γ(
ct
−β
x
)
(6.10)
(ただし、β =
v
/
c
、γ =
という座標変換をすれば、どの座標系でも光速は一定値
c
を取ることがわかった。
[問い6-1]
上の変換の逆変換が、数式を
v
→ −
v
と置き換えたものに等しいことを示せ。
なお、ここまで
y
,
z
座標については何も考えなかったが、
y
,
z
および
y
′,
z
′の原点が一致しているとすれば、
y
′=
y
,
z
′=
z
(6.11)
が成立する。
y
=0と
y
′=0は一致しなくてはいけないので、この形になる。
y
′=α
y
のように伸縮しても良さそうに思えるかもしれないが、もし
y
′=α
y
だったとすると、その逆変換は
y
=[1/α]
y
′となる。もしα ≠ 1であると、
y
座標に関して「
x
方向に動くと伸びるが、−
x
方向に動くと縮む」というおかしなことが起こってしまう。
x
のどちらが正方向なのかは人間の勝手で決めるものであるから、そんなものに物理現象が左右されるのはおかしい。
この変換を最初に導いたのはアインシュタインではなくローレンツなので、これを「ローレンツ変換」と呼ぶ。しかし、ローレンツはローレンツ変換における新しい座標での時間
t
′を「局所時」と呼んで、本当の意味の時間ではないと考えていたらしいし、ローレンツ短縮は物理的収縮だと考えていた。数式としては正しいものを出していたが解釈を誤っていたわけである。
学生の感想・コメントから
呆然としてしまった
(似たような感想多数)
うーん、なかなかすぐにはわからないみたいですね。来週もう一回おさらいしましょうか。
「ローンレンツ短縮はは物理的収縮だと考えていた。数式としては正しいものを出していたが解釈を誤っていたわけである。」とありますが、ローレンツ短縮は物理的収縮じゃないんですか?
この場合の「物理的収縮」とは「何かに押されて縮む」というような「物理的力による収縮」という意味です。ちょっとわかりにくかったか。座標変換によって縮んでいるんだよ、力は関係ないんだよ、と言いたかったのです。
x系とx'系のどちらも互いに時間が遅れるということは絶対的な時間というのはないんですか?
もちろん、ありません。絶対的な時間が無い理論だから「相対論」なのです。他の人の感想に
「相対論というのはうまい名前の付け方ですね、ズバリ言い当てています」
というのがありました。そういうことなのです。
前回の講義録の最後で途中から動き出す電車内の人が電車の両端の時計を見ると時間がずれてみえるとありましたが、あれは「vが変化する時の加速」が原因ですか?
「加速」によって、「座標系を乗り換えた」ことが原因です。
ローレンツ変換の式から、どの座標系でも光速度cが一定になる理由がわかりません。
むしろ逆に「光速度cが一定である」という条件から、ローレンツ変換が出てくると思ってください。ローレンツ変換で光速度が一定であることは、x=ctを代入するとx'=ct'が導けることからわかります。確認してみてください。
ウラシマ効果で光速と同じ速さで動くと時間がとまることになるのですが、時間がとまって移動できるので、ワープしていることになるのでしょうか?
なりません。なぜなら止まる時間は、動いている人(物?)にとっての時間で、外から見た時間じゃないからです。外から見て時間0で物体が移動しないと、ワープとは言えませんね。
宇宙船が折り返した時、座標が変わり、急に時間が経つとき、宇宙船からはその間に地球上で起こったことは確認できないんですか?
いいえ大丈夫です。なぜなら、宇宙船が地球で起こったことを確認するためには、地球から宇宙船に光が届かなくてはいけないからです。座標系がとんだことによって時間はジャンプしますが、その飛ばされた時間の間に出た光も、ちゃんと宇宙船に到着します(図を参照)。
もしロケットに乗っている人と地球にいる人が生中継でつながるとしたら、ロケットに乗っている人の声はお互いスローで聞こえるんですか?
ロケットが地球から離れていく時はそうです。近づいていく時は、ドップラー効果の方が強く効くので、むしろ速い声に聞こえます。離れていく時にスローになる割合も、ドップラー効果により大きくなっています。
声の届くまでの距離を考慮するとかではなく、時間の流れが違う空間にいる者同士が交流するとどうなるんですか?
距離を考慮しないということはドップラー効果を忘れるということかな。だとしたらウラシマ効果の分遅くなることになります。
それぞれの立場からの時間の流れを、第3の立場にいる人がみたらどうなるんですか?
うーん、それは第3の立場がどんな立場かがわからないとなんとも言えない
。
File translated from T
E
X by
T
T
Hgold
, version 3.63.
On 14 Jun 2005, 11:39.