相対論講義録2006年度第13回

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 今日はまず最初に、前回の最後の、「
実はE=mc2はアインシュタインが最初じゃないんだよん」の話から始めた。前回は説明をはしょりすぎていたため。その分今日の説明は中途半端 で終わってしまったかも。

第9章 電磁気の4次元的な記述

9.1  マックスウェル方程式を4次元的に

 せっかく、電磁気学の基本方程式が不変になるようにローレンツ変換を定義したわけであるが、では電磁場そのものがどのようにローレンツ変換されるのか、 まだ計算していなかった。その部分を今から実行する。そのためには、電場と磁場を使って電磁場を表現することはあまり得策ではない。電場や磁場は3次元の ベクトルではあるが、4元ベクトルではないからである。
 そこで、電磁場を相対論的に表現するものとして4元ベクトルポテンシャルを導入する。
 もう一度マックスウェル方程式を考えよう。
div
D
 
=ρ     (
div
E
 
= ρ
ε0
)
(9.1)

div
B
 
=0
(9.2)

rot
H
 
=

D
 

∂t
+
j
 
     ( rot
B
 
0 ( ε0

E
 

∂t
+
j
 
) )
(9.3)

rot
E
 
=−

B
 

∂t

(9.4)
ただし右の括弧内は真空中であるとして、D,Hを使わないで書いた形である。以下では真空中のみを考えることにする。この式はj,ρが与えられているとして、E,Bを求めるという式になっている。
 ここでまずdivB=0という式に注目しよう。「divが0になるようなベクトルは、 別のベクトルのrotで書ける」という法則1が あるので、そのベクトルをAと書くことにして、B=rotAとする。Aをベクトルポテンシャルと呼ぶ。

【補足】この部分は授業では話さない可能性もあるが、その場合は読んでおいてください。
  「divが0になるようなベクトルは、別のベクトルのrotで書ける」を証明するには、具体的にそういうベクトルが作れることを示せばよい(面倒ではある が、少し試行錯誤するとできる)。ここではその逆「何かのベクトルのrotのdivは0である」ということを、図で説明しよう。rotのそもそもの定義 は、微小な面を考えて、その面の回りを回りながらベクトルを線積分した結果を微小面積で割ったものであった。別の言い方をすれば、rotAとは、Aを力と見立て、微小面 積を回る経路で一周した時にAのする仕事である。
ベクトルのrotで作ったベクトルのdivを作ってみると、左の図のようになる。立方体の各面で、外向きのベクトルに対して右ネジの方向に回りつつその仕 事を計算するのがrotAであり、その「外向き」の量を全部足したものがdiv(rotA)となる。図をよく見ると、矢印が各辺を2回ずつ、逆向きに通っている。この部分で計算される 「仕事」は互いに消し合うので、全部足すと0になる。

【補足終わり】
静電気学では、rotE=0である。「rotが0になるようなベクトルは、スカラーの gradで書ける」という法則2もあ るので、E = −gradφと書ける。φは電位、またはスカラーポテンシャルと呼ぶ。
この状況の物理的意味は以下の通りである。Fが力だとして、その線積分∫F·dxは仕事である。これを微 小な面積の回りで積分したものがrotであるから、これが0であるということは、一周回ってくると仕事が0、つまりこの力が保存力だということを意味す る。保存力であれば対応する位置エネルギーφが存在し、F=−gradφと書ける。
静電気学を離れ、時間的に変化するような電磁場を扱うとなると、この式は少し修正される。なぜなら、時間的に変化する電磁場ではrotEは0ではなく、rotE=−[∂/∂t]Bが成立するからである(つまりは、回路に誘導起電力が発生するよ、ということを述べている)。こ の式から、
rot
E
 
= −
∂t
rot
A
 

(9.5)
となる。ゆえに、Eは−[∂/∂t]A という項を含むべきである(Eに元から含まれている−gradφは、rotを取ると消え ることに注意)。以上から、


B
 
= rot
A
 
,   
E
 
= −gradφ−
∂t


A
 

(9.6)
と置くことで、マックスウェル方程式のうち、(9.2)と(9.4) は自動的に満たされた。
  ここで、我々のやりたいことは相対論的に共変な式に書き直すことなので、E,Bの定義をできる限り4元ベクトルを使った式に直していこう。まず、
B1 = ∂2 A3−∂3 A2, B2 = ∂3 A1−∂1 A3, B3 = ∂1 A2−∂2 A1
(9.7)
と書ける。
Eの式に関しては、[∂/∂t]があるが、4次元的な式にするためには、ここは[∂/∂ (ct)]=[∂/(∂x0)]=∂0に直したい。そこで両辺をcで割って、

1
c


E
 
=−grad ( φ
c
) −∂0
A
 

(9.8)
という式にする。これをテンソル記号で書くと、

1
c
Ei = −∂i ( φ
c
) −∂0 Ai
(9.9)
となる。ここで、[φ/c]=A0=−A0とおくと、

1
c
Ei = ∂i A0−∂0 Ai
(9.10)
である。こうすることによって、EもB も∂μ Aν−∂ν Aμの形(Aμを 微分して、添字を取り替えたものを引く形)になった。ただし、A0がAiと合わせて4元ベクトルとなるかど うかは、まだわからない。それは後で確認しよう。
 そこで電磁場テンソルFμν(もちろんこれがテンソルになるかどうかの証明はまだされていない)を
Fμν=∂μ Aν−∂ν Aμ
(9.11)
と定義すれば、

Ei
c
=Fi0=−F0i=F0i=−Fi0
(9.12)
および
B1=F23, B2=F31, B3=F12    まとめて、BiijkFjk
(9.13)
のようにして電場と磁場を一つの式で表せる。
 定義からわかるように、Fνμ=−Fμν。すなわち、Fμνは反対称である。それ ゆえ、成分は6個しかない。電場3個と磁束密度3個がちょうどこの6個になっている。行列の形にまとめて書くと
Fμν= (
F00
F01
F02
F03
F10
F11
F12
F13
F20
F21
F22
F23
F30
F31
F32
F33
) = (
0
Ex
c

Ey
c

Ez
c


Ex
c

0
Bz
−By

Ey
c

−Bz
0
Bx

Ez
c

By
−Bx
0
)
(9.14)
である。
 マックスウェル方程式のうち、divB=0は
1 F23+ ∂2 F31+ ∂3 F12=0
(9.15)
と書けるし、rotE=−[∂/∂t]Bは両辺をcで割ってからx成分を考えると、
2 F30 −∂3 F20=−∂0 F23
(9.16)
となり、変形すると、
2 F30 +∂3 F02+∂0 F23=0
(9.17)
と書ける。まとめると、
μ Fνρ+ ∂ν Fρμ+ ∂ρ Fμν = 0
(9.18)
と一つの式にまとまる。μ,ν,ρには、0〜3のうち、3つの重ならない数字が入る。
 残る式を考えよう。divE=[1/(ε0)]ρは、両辺をc で割ってから書き直すと、
1

F01
[E1/c] 
+∂2

F02
[E2/c] 
+∂3

F03
[E3/c] 
= 1
c ε0
ρ = μ0 ρc
(9.19)
となる(最後ではc2=[1/(ε0μ0)]を使った)。ここで、どうせ0である∂0 F00を足しておくと、



0 F00
=0 
+∂1 F01+∂2 F02+∂3 F03 = ∂μ F = μ0 ρc
(9.20)
となる。
rotB=μ00[(∂E)/∂t]+j)のx成分は
2

F12
B3 
−∂3

F31
B2 
0 ( ε0

c∂0
[∂/∂t] 

(

cF01
E1 
) +j1 )
(9.21)
と言う式が出せる。再びc2=[1/(ε0μ0)]を使いつつ変形すると、

2 F12−∂3 F31=
0 F010 j1



1 F11
=0 
+ ∂2 F12+∂3 F13+∂0 F10=
μ0 j1
μ F=
μ0 j1

(9.22)
以上から、ρc=j0とすると、
μ Fνμ0 jν
(9.23)
とまとまった式になることがわかる。では、ρc=j0とすることは正しいだろうか?

 中途半端だが、今日はここまで。来週、j0=ρc と取るのが妥当であること、Aμがベクトルであること、Fμνがテンソルであることを証明します。

Footnotes:

1適切な境界条件のも とで成立する。
2実際は、この法則 も、「divが0ならrotで書ける」の方も、適切な境界条件のもとでのみ成立する。たいていの場合は適切な境界条件がとられている。


学生の感想・コメントから

 マックスウェル方程式の見た目がすごく変わったのに驚いた(複数)
 電磁気というのは、相対論を使うとますますきれいに書けるのです。

 テストが不安だ〜〜(多数)
 テストでは、長い計算などではなく、内容を問う問題をメインにします。特 に、グラフを書いて説明する問題は必ず出すので、そのつもりで、基本的なところを理解するよう、勉強してください。

 E=mc2をアインシュタインより前にローレンツやポアンカレなどがやっていたとは意外だった(多数)
 なぜか知らない人が多いみたいないんですが、電磁質量というこの考え方 は、分厚めの電磁気の本なら載っています。

 (E=mc2に関する)ポアンカレの計算とか、どういう本を見たら載ってますか?
 たとえば、ファインマン物理学の4巻には、非常に詳しく載ってます。他にも砂川重信「理論電磁気学」など、厚めの電磁気の本を当たるといいでしょう。実際の計算では仮定を間違えると係数 がずれたりして、結構難儀してます。

 テンソルの計算が全然できない。
 とにかく練習しましょう。

 rotやdivなんて、忘れてしまっていた。
 そんなことじゃ困る。もう3年も半分終わったんだから、rotやdivは 手足のように使いこなせなくてはダメ。

 やっとrotやdivが理解できた!!
 遅い、と言いたいけど、まぁ理解できたならよかったよかった。

 今日は難しかった(多数)
 これまでよりも計算量が多かったかな。でもせっかく相対論でテンソル計算 しているんだから、これぐらいはやらないと。

 やっとテンソルのありがたみがわかってきた。
 こういう計算では威力発揮しますね。テンソル使わないとどんどん式が長く なっていく。

 質量って何な んですか?
 E2-p2c2=m2c4を定義だと思った方がいいでしょう。「何なのか?」を言葉で定義しようとしてもどうし ても曖昧になる。

 rotについてですが、左の図の符号は正しいですか?
 はい、こうでいいです。

 ∂Fの意味が わかりません。∂F/∂xならxで微分ですが、∂Fだとどういう意味になるのですか?(同様の質問他にもあり)
 よく見てください。∂1Fとか、∂xFとか、下付き添字がついているはずです。この下付き添字が、「何で微分するか」を表 しています。たとえば、∂1F=∂F/∂x1です。

 レポートはテ ストの日まででしょうか。
 はい、それ以上遅くしても意味ないですから。

 質量欠損のこ とですが、鉄はエネルギーが小さいんですね、あんなに強そうなのに。
 エネルギーが小さいということは、あまり変化せず安定しているということ なので、むしろだからこそ強そうだと思えばいいのでは。

 


File translated from TEX by TTHgold, version 3.63.
On 25 Jul 2006, 17:54.