相対論講義録2006年第3回

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2.6  2次元の直線座標の間の変換

一つ次元をあげて、2次元空間の場合で考えてみる。2次元、3次元の場合の座標変換の考え方は、いずれ4次元時空での座標変換を考える時のガイドラインに なるからである。
二つの空間座標をx,yとすると、x,yに対して別々の平行移動を行う座標変換
x′=x−a,    y′=y−b
であるとか、それぞれ別の速度でガリレイ変換する座標変換
x′=x−vx t,    y′=y−vy t
などがある。
 しかしここまでは1次元の話を重ねているだけで面白味がない。2次元ならではの座標変換は、右の図のような、座標軸の回転である。


x′=  
xcosθ+ ysinθ
y′=
−xsinθ+ ycosθ

(2.11)



[問い2-1] 右の図に適当に補助線を引くことにより、(2.11) を図的に示せ。



(2.11)は、行列を使って




x′
y′



=


cosθ
sinθ
−sinθ
cosθ







x
y




(2.12)
と書くこともできる。

 行列と列ベクトル16の計算のルー ルは、左の図である。このルールを(2.12)に適用すれば、(2.11) が出てくる。
(x,y)=(1,0)という点と、(x,y)=(0,1)という点が(x′,y′)座標でみるとどう表せるかを考えよう。行列計算で書けば、





cosθ
−sinθ



=


cosθ
sinθ
−sinθ
cosθ







1
0





(2.13)





sinθ
cosθ



=


cosθ
sinθ
−sinθ
cosθ







0
1





(2.14)
となる。つまり行列



cosθ
sinθ
−sinθ
cosθ






1
0



を座標変換した結果の



cosθ
−sinθ



と、



0
1



を座標変換した結果である



sinθ
cosθ



を横に並べて作った行列であると考えることができる。




0
1






1
0



は互いに直交し、それ自体の長さは1である。したがって、



cosθ
−sinθ



と、



sinθ
cosθ



も互いに直交して長さは1である。「長さが1である」という性質や「直交する」という性質はどの座標系で見ても((x,y)座標系でも(x′,y′)座標 系でも)同じだからである。

 長さを2倍するような座標変換は考えないんですか?
 考えること自体はかまいませんが、今扱っている座標変換は運動方程式を変 えないような変換だけなので、考えていません。
 たとえばメートルを使うのをやめてセンチを使ったりすれば、長さを表す数 字は全部100倍になります。

 ここで、「物理で扱うべきなのは座標変換で不変な意味を持つ量である」という話を少しした。座標系は人間の都合で引くものだから、特定の座標でしか意味 を持たないような量は、物理的考察の中では排除されるべきである。そういう意味でも「座標変換した時にある物理量はどのように変化するのか(あるいは変化 しないのか)」ということを考えるのは非常に大事なのである。

 
 回転であるから当然であるが、この式は
(x′)2+(y′)2 = x2+y2
(2.15)
を満足する。つまり、原点からの距離(上の式は距離の自乗)はこの変換で保存する。 これを行列で考えよう。まず、

          
( x    y )




x
y



= x2+y2
(2.16)
のように、行ベクトルと列ベクトルのかけ算という形で距離の自乗を表現する。列ベクトルの座標変換は(2.12) だったが、行ベクトルの座標変換は

          
( x′   y′)
=           
( x    y )




cosθ
−sinθ
sinθ
cosθ



=           
( xcosθ+ ysinθ   −xsinθ+ ycosθ)

(2.17)
と書ける。(2.12)と場合とは行列の並び方が変わっているものになっていることに注意しよう(具体 的に行列計算をしてみればこれで正しいことはすぐにわかる)。この、
A =


a11
a12
a21
a22



→At =


a11
a21
a12
a22




(2.18)
のような並び替えを「転置(transpose)」と呼び、行列Aの転置はAtという記号で表す。転置はaij→ ajiと書くこともできる。aijとは「i番目の行の、j番目の列の成分」であるから、iとjを入れ替える ということは行番号と列番号を取り替えることである。ゆえに、転置を「行と列を入れ替える」とも表現する。
この式を使って、(x′)2+(y′)2を計算すると、

          
( x′   y′)






x′
y′



=           
( x    y )






cosθ
−sinθ
sinθ
cosθ







cosθ
sinθ
−sinθ
cosθ







x
y




(2.19)
となるが、




cosθ
−sinθ
sinθ
cosθ







cosθ
sinθ
−sinθ
cosθ



=


cos2θ+sin2θ
cosθsinθ− sinθcosθ
sinθcosθ− cosθsinθ
sin2θ+ cos2θ



=


1
0
0
1




(2.20)
となることを考えると、          
          
( x′   y′)







x′
y′



=           
( x    y )







x
y



すなわち、(x′)2+(y′)2=x2+y2になることが わかる。このように必要な部分だけを計算できるのが行列計算のメリットの一つである。
(2.20)が成立することは、直接的計算でももちろんわかるのだが、ベクトルの意味を考えればその意味が明 白に理解できる。
上の図のように、行列のかけ算というのは結局、行ベクトルと列ベクトルの内積の計算を繰り返すものである。そして、



cosθ
sinθ
−sinθ
cosθ



が「互いに直交して長さが1であるような二つのベクトルを横に並べたもの」であり、



cosθ
−sinθ
sinθ
cosθ



は同じベクトルを縦に二つ並べたものである。計算の結果1になるのは「自分自身との内積」すなわち「ベクトルの長さの自乗」を計算している部分で、0にな る部分は「直交している」というところを計算している部分である。
今の一例に限らず、回転を表すような行列は「互いに直交して長さが1になるベクトルを並べたもの」という性質を持っていなくてはならない。
逆に、(2.15)を満足するような座標変換が




x′
y′



=


a11
a12
a21
a22







x
y




(2.21)
と書けていたとすると、二つの列ベクトル



a11
a21



,



a12
a22





は、どちらも長さが1で、互いに直交しなくてはいけない。このような条件を満たしている行列を直交行列といい、Aが直交行列であれば、AtA は単位行列となる。
直交行列であれ、というだけの条件では回転の行列になるとは限らない。たとえば、



1
0
0
-1




は直交行列であるが、その物理的内容は回転ではなく、y軸の反転である。直交行列で、かつ行列式が1であるという条件を満たす場合、その行列は回転を表 す。

 座標系が回転しながら運動したりする場合はどうなるんでしょうか?
 その場合は慣性系じゃなくなってしまいます。もちろんそういう座標を使っ た方が便利な時もあって、その時は使いますが、その場合は遠心力や慣性力をちゃんと考慮しなくてはいけません。今日やった座標変換は、慣性系から慣性系へ の座標変換だけです。

 座標変換って、どうしてそんなに大切なんでしょうか?
 力学でもなんでも、何か問題を解く時には、その問題に適した座標というも のがあります。問題によっては、解いていくうちに「ここから先は座標の取り方を変えた方がいい」と気づくこともありますが、座標変換の仕方を知らないと、 不便な座標でもそのまま使い続けるしかなくて、とても困ったことになるでしょう。



[問い2-3] 行列



cosθ
sinθ
sinθ
-cosθ




はどんな座標変換を表す行列か。図で表現せよ。
[問い2-4] 直交行列の行列式は1か−1か、どちらかであることを以下を 使って示せ。
  1. 二つの行列(A,B)の積(AB)の行列式(det(AB))は、それぞれの行列式の積(detAdetB)であ る。
  2. 転置しても行列式は変わらない(detA = det(At))。
[問い2-5] 今考えた直交行列Aの行列式detAには、どのような幾何学 的意味があるか。その意味を考え て、detAが1または−1であることの意味を説明せよ。
ヒント:行列式detA = a11a22−a12a21は、 ベクトル




a11
a21







a12
a22



の何???



2.7  テンソルを使った表現

以上のような多次元の計算をする時、いちいちx座標はこう、y座標はこう、と式を並べるのは面倒なので、約束ごととして、x1=x,x2=y のようにxの肩に添字(「足」と呼ぶこともある)をつけて表すことが多い。x1は「xの1乗」と、x2は 「xの2乗」と間違えやすいので注意すること17   。この書き方を使うと、(2.21)は
x′i = 2

j=1 
aijxj
(2.22)
と書ける。

 中途半端だがここで時間切れ。来週はテンソルの話から。


Footnotes:

16縦に並んでいるの を「列ベクトル」、横に並んでいるのを「行ベクトル」と呼ぶ。「行」と「列」という漢字には横線2本、縦線2本がそれぞれ含まれているので「縦線が含まれ ている『列』が縦のベクトル」と覚えておくとよい。
17添字は肩でなく下 につけてx1,x2とする場合もある(この場合を「下付き添字」などと言う)。上付き添字と下付き添字は厳 密には意味が違う。その差はこの講義の後半で出現する予定。実は厳密に考えると、(2.21) はxi=aijxjのように書かなくてはいけない。今考えて いる2次元や3次元で直交座標を使っている場合ではそこまで厳密にしなくても支障無い。


学生の感想・コメントから

 行列が大事なものだということがわかった(とっても多数)。
 わかってくれたのはうれしいけど、もうちょっと早くわかっていて欲しかっ たなぁ。

 行列は嫌いだ (これも多数)
 でも、嫌いだからと言って使わないのではかえってややこしい計算をする羽 目になります。

 今日は計算で 終わってしまって、少し物足りなかったです。
 今後使う(使いまくる)計算なので、少し我慢してください。

 行列、テンソ ルなどは、物理数学でやった時にはよくわからなかった。
 実際に物理の問題で使わないと、なかなか「わかった」という気分にはなら ないものです。

 detって何 の略ですか。なんと読むんですか?
 determinant。「デターミナント」と読みます。

 物理の話をす る時には必ず座標がいるのでしょうか。力学とかでは必ず使ってますが、座標を使わずに物理をやることはできますか?
 難しいですね。たぶんできないのでは。

 相対論は、座 標変換をつっこんで考える学問に思えますけど、それにつきるんでしょうか?
 それにつきます。でもそれだからつまらないということはないですよ。座標 は力学の基礎ですから、相対論は力学全部を変えてしまうほどの発展なのです。

 行列にテンソ ルを乗せるとどんな意味があるんでしょう?
 あまりそういうことはしませんね。行列なら最後まで行列で、テンソルなら 最後までテンソルで行きます。
 


File translated from TEX by TTHgold, version 3.63.
On 9 May 2006, 14:57.