相対論講義録2006年度第6回


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 今日の授業は、まず先週おもにアニメーションをみせて説明した内容を数式 で補完。というわけで、内容のうち半分以上は前回のテキストの数式部分を解説。その途中で出た質問。

 光速度だけが特別に不変なのですか?
 「光速度が不変」ということがクローズアップされがちなんですが、「どの座標系から見てもマックスウェル方程式が成立する」ということが大事なんです。 マックスウェル方程式が成立すれば、自動的に光速度はcになってしまいます。「光速度が不変」というのは「マックスウェル方程式が成立する」という現象の うちの一部だけを取り出していることになるんです。
 アインシュタインも「マックスウェル方程式が成立すること」から初めて相対論を作ってます。実際我々の普段眼にする物理現象というのは元をただせばほと んどは電磁気的現象なので、マックスウェル方程式が誰から見ても成立すると言うことはとても大事なのです。

 ウラシマ効果で、ロケットが地球に戻ってくるとおかしなことになりませんか?
 そう思ってしまうかもしれませんが、実は「戻ってくる」ためにはUターンとか、とにかく加速が必要で、そうすると座標系がもう1個、都合3つ(地球とロ ケットの行きとロケットの帰り)が必要になって、2個の座標系の時のように単純な話にはならないんです。その辺りは、ローレンツ変換についてきっちり説明 した後でちゃんと話します。

第5章 光速度不変の数式的理解-ローレンツ変換

5.1  x−ctグラフで見るローレンツ変換

 前章の電車の問題で、同時刻線が傾くということを確認した。ここで、どれくらい座標系が傾かなくてはいけないかを作図で示してみよう。
図の(x,t)座標系は電車が速度vで動いているように見える座標系で、(x′,t′)座標系は電車の静止系である。x′=0の線、すなわちt′軸が電車 の後端の軌跡に重なるようにグラフを書いた。このx′=0の線上では、x=vtが成立する((x,t)座標系では電車が速度vで走っている)ことに注意し よう。
 電車の先端と後端から光が出てPに到達したわけだが、先端から光が出たその瞬間の時空点をQとした。電車の静止系で見ると、先端と後端から光が出た瞬間 (Q とO)は同時刻である。ここで、Q→Pと来た光がそのまま突き抜けて、後端に達した時空点をRとする。また、O→Pと来た光がそのまま突き抜けて、先端に 達した時空点をSとする。ORとQSは、どちらも同じ電車の一部の運動を表しているので、平行線である。また、OQとRSは、どちらも電車にとっての「同 時刻」線であり、電車は一様な運動をしているのだから、平行線である。よってOQSRは平行四辺形なのだが、ここでP点でのOSとQRの交わりを考える。 この二つの線分はどちらも45度の斜め線であるから、直交している。対角線が直交する平行四辺形は菱形である。このことは、このグラフ上におけるx′軸と x 軸の角度が、ct′軸とct軸の角度と等しいことを意味する。つまり、この図はx↔ ctという取り替え(図で言うと、45度線を対称軸とした折り返し)で対称である。
ct′軸状ではx−vt=0が成立するのだから、
x− v
c
(ct)=0 ↔ ct − v
c
x = 0
(5.1)
という対称変換をほどこすことで、x′軸の上ではct −v/cx = 0が成立していることがわかる。
r5cm Figure 対称変換がわかりにくい人は、こう考えよう。(x,ct)座標系で見ると、ct′軸の傾きはc/vである (つまり、ct′軸上でx方向にv進むと、ct軸方向にc進む)。式で書けば、ct′軸は
ct= c
v
x     書き直せば   x= v
c
ct
(5.2)
なのである。 一方、x′軸とx軸の傾きは、ct′軸とct軸の傾きと同じ角度であることを考えると、x′軸は(x,ct)座標ではv/cの 傾きを持つ。そう考えると、x′軸は
ct= v
c
x
(5.3)
となる。
x′=0がx−v/cct=0に対応し、ct′=0がct−v/cx= 0に対応する ということから、

x′
=
A ( x− v
c
ct )

(5.4)

ct′
=
B ( ct− v
c
x )

(5.5)
となることがわかる。
さらに、どちらの座標系でも光速がcであるということからA=Bであることがわかる。なぜならば、x座標系で原点から右へ進む光の光線上では、x=ctが 成立する。この式が成立する時、x′座標系ではx′=ct′ が成立しなくてはおかしい(光速度不変)。(4) と(5)に、x=ctとx′=ct′を使うと、

A ( ct− v
c
ct )
=
B ( ct− v
c
ct )

(5.6)
となる。つまり、A=Bでなくてはならない。ここまでの結果は、

x′
=
A ( x− v
c
ct )

(5.7)

ct′
=
A ( ct− v
c
x )

(5.8)
である。相対論以前の`常識'に従えば、A=1と言いたいところである(A=1ならば、x′の式に関してはガリレイ変換と一致することにな る)。しかし、そうはいかない。このAの値を決めるにはいろいろな方法がある。
ローレンツ短縮から
(x,t)座標系で測定した長さが、(x′,t′)系で測定したものの√{1−[(v2)/(c2)]} 倍になるようにする。
たとえば、x′=0の線(電車の後端)とx′=Lの線(電車の先端)を考える。(x′,t′)座標系ではこの間の距離はLである。(x,t)座標系ではど うなるかを考えよう。x′=0の線はx=vtであった。x′=Lの線はというと、
A(x−vt)=L   すなわち、   x= L
A
+vt
(5.9)
である。(x,t)座標系で電車の長さを測ると、
(先端の位置)−(後端の位置)= L
A
+vt −vt = L
A

(5.10)
である。電車がローレンツ短縮すべきだと考えると、1/A=sqrt(1-v^2/c^2)、 つまり、
A= 1

 sqrt(1-v^2/c^2)



(5.11)
となるのであった。

ウラシマ効果から
(x,t)座標系で測定した時間が、(x′,t′)系で測定したもののsqrt(1-v^2/c^2)倍 になるようにする。
たとえば、t′=0という時刻と、t′=Tという時刻を考える。(x′,t′)座標系ではこの間の時間はTである。(x,t)座標系ではどうなるかを考え よう。t′=0の線はt=[v/(c2)]xであった。t′=Tの線はというと、
A ( t− v
c2
x ) =T   すなわち、   x= T
A
+ v
c2
t
(5.12)
である。よって(x,t)座標系での時間差は

T
A
+ v
c2
x − v
c2
x = T
A

(5.13)
である。ウラシマ効果を考えるとT/A=Asqrt(1-v^2/c^2) なので、
A= 1

sqrt(1-v^2/c^2)



(5.14)
となるのであった。

速度−vの変換が逆変換となること
もう一つの方法は、「速度vのローレンツ変換をした後、速度−vのローレンツ変換をしたら、元に戻るはず」ということ、そして「速度vのローレンツ変換 と、速度−vのローレンツ変換で、Aの値は同じはず」ということを使う。なぜAが同じになるべきかというと、速度がvであるか−vであるかというのは座標 系の正の方向をどちらにとうかという「人間の都合」で来まったものである。一方、Aの値は(上二つからもわかるように)二つの座標系のスケールの伸び縮み を表す値なので、どちらに動いても同じであるべきである(ある方向へ動いた時のスケールの倍伸びが、それと逆方向では違うとすると、宇宙には特定の方向が あることになってしまう)。
すると、逆変換は(v→ −vと置き換えて)
x=A ( x′+ v
c
ct′ ) ,   ct=A ( ct′+ v
c
x′ )
(5.15)
ということなので、これに変換式を代入すると、
x=A ( A(x−vt)+ v
c
A ( ct− v
c
x ) ) =A ( 1− v2
c2
) x
(5.16)
となって(ctに関する式も同様)、A=[1/sqrt(1-v^2/c^2)] となる。
以上から、ローレンツ変換とは、
x′= 1

sqrt(1-v^2/c^2)
(x−vt),    t′= 1

 sqrt(1-v^2/c^2)

( t− v
c2
t )
(5.17)
という座標変換であることがわかる。なお、よく出てくる因子[1/sqrt(1-v^2/c^2)] をγと書き、v/c=βと書くことが多い。この文字を使うと、ローレンツ変換は
x′=γ(x−βct),     ct′=γ(ct−βx)
(5.18)
という形にまとまる。




学生の感想・コメントから


 計算がややこしくなってきた(多数)。
 この程度でややこしがっていては困るなぁ。それほど複雑な計算はしてない ので、じっくり見直してみてください。

 ローレンツ変 換の式で、普通の生活ではほとんどA=1になり、ガリレイ変換の式になるので、日常起こる物理現象ではガリレイ変換でよいというのが理解できました。
 その感覚はとても大事です。

 今日までの理解では、相対論をどれくらいまでつきとめたこちなるのでしょうか? この後どう いう風に話が展開していくか楽しみです。
 この後、ニュートン力学を相対論的に書き換えるという作業があります。こ れもなかなか面白い。

 相対論って半 分は信じているんですけど、半分はなんか疑ってしまうんですよねぇ〜〜。
 疑うのはよいことです。だから今でも光速度不変について実験している人は いる(精密実験でずれが出ないかどうかのチェック)。

 速度が光速より遅いとガリレイ変換、光速に近いとローレンツ変換するのですが、光速の半分ぐ らいならどっちを使った方がいいですか?
 v=0.5cだと、ローレンツ変換の因子は1.155ぐらいになります。 15%の狂いを許せるような話なら、ガリレイ変換でOK。

 ∂/∂tと、 ∂/∂t' って同じなんですか??
 違います。ガリレイ変換であっても、時間軸は傾いているので違う方向の微 分になる。

 ウラシマ効果で、ロケット内と地上とどちらの立場でも相手が遅れているように思うのは、おか しくありませんか(同様の質問多数)。
 先週のテキストの後半のところに書いてありますが、説明は飛ばしました。 後でちゃんともう一回説明しようと思いますが、互いに互いを遅れていると感じて、それでいいのです。そうなる理由は同時刻の相対性のせいです。

 漫画みたいに、光速の90%とか出すのは可能でしょうか?
 理論的には可能です。しかし、エネルギーが莫大なものとなるので、今の人 間には無理です。

 ガリレイ変換が間違いだということは、光の現象だけでなく、そのほかの物理現象もローレンツ 変換を適用すべきだということですか?
 その通りです。力学もローレンツ変換に合わせて修正する必要があります。

 相対性理論を 考える時の原理とは「どんな慣性系でもMaxwell方程式が成立する」だけでいいのでしょうか?
 Maxwell方程式だけじゃなくて、全ての物理法則が成立する、という ことにあります。力学もニュートン力学のままではだめなので、修正します。

 人間は光速度 で動けないのはなぜですか?
 あと2〜3週間後に説明しますが、人を光速度で動かすために必要なエネル ギーは∞だからです。



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On 6 Jun 2006, 12:05.