ある物体の大きさを測りたいとしましょう。もしこの「ある物体」が手に取れる程度の大きさなら「物差しを当てる」のが一番簡単な測り方です。しかし、物差しが当てられないほど大きな物体---たとえば地球---ならどうしましょうか?? 今回は「空間」のお話として、「メジャーや物差しでは測れない、大きな距離を測るには?」を考えてみたいと思います。。
1.1 地球の大きさを測る 1.2 太陽・地球・月の位置関係 1.2 太陽・地球・月の位置関係(承前) 今日の問題と感想・コメント まず、大きいものの一例として、地球を考えてみましょう。
地球の半径は約六千四百キロほどで、この半径からすると、10キロ向うの地面は、約15メートルだけ地面をまっすぐ伸ばした線より下にあることになります(左の図参照)。このような水平をちゃんと測る技術ができてからでないと、地球が丸いことには気が付きませんしかし、逆に地球が平たいとすると、今度は「端っこどうなっているの?」という悩みが発生しますよね…。。人間が直観的に理解できるスケールに比べて、この差はかなり「微妙」ですこの授業ではこの後、宇宙の話をしたり逆に原子の話をしたりと、日常的スケールでない話ばかりになると思います。。だからこそ昔の人が地球を平面だと思ってしまったとしても仕方のない面もあるわけです。
ちなみに…
琉大から辺戸岬まで:約80km
琉大から奄美大島まで:約250km
琉大から種子島まで:約500km
琉大から関西空港まで:約1200km
琉大から東京まで:約1600km
琉大から札幌まで:約2200km
とはいえ、たとえば向うからくる船がマストのてっぺんから見えはじめる、という現象から地球の丸さに気が付くことはできます。そうやって地球の丸さに気づいた人たちは今度は「では地球の大きさはどれだけなのか?」を考えることになります。
ヘレニズム時代のエラトステネスは地球の大きさを右の図のような原理で測定しています。まず、 右の図のA地点(シエネ)で、太陽が真上に来るのを待ちます。その時、そこから L だけ離れたB地点(アレキサンドリア)では、太陽は真上にはなく、真上から角度 α だけ傾いた場所にあります(地球が丸いから)。A地点からB地点までの距離を手押し車(進んだ距離を車の回転数から測定できる)で測っておくと、B地点での太陽の角度から地球の大きさを求めることができます。この測定の結果は現在知られている値より15%大きいだけです。
ところで、この「地球の大きさの測り方」を見ていると「太陽光線は平行である」と決めつけていることになりますね。それは本当でしょうか??---ほとんど平行だが平行ではない、ということを使うと、今度は太陽の距離を測ることができます。
太陽と月は、だいたい同じ「大きさ」(図の角度aが約0.5度)に見えます(日食の時にちょうど月は太陽を隠します全くの偶然でこうなっています。もっと月が大きければ日食はもっと頻繁に起きただろうし、逆に月が小さければ金環食がもっと見えたことになります。}。しかしこれは「見かけの大きさ」であって、実際の大きさは、遠いところにある太陽の方が大きいわけです大きさがすでにわかっている物体ならば逆に「見かけの大きさ」を知ることが距離を測ることになります。しかし、太陽と月の大きさはまだわからないのです。
ギリシャ時代のアリスタルコスは太陽の大きさを以下のような考察で求めています。次の図のように、地球、月、太陽が配置されると、地球から見ると月が半月に見えます。
この時、図に示された角度Aを測定します。すると、地球と月の間の距離と、地球と太陽の間の距離の比がわかることになります。
この時図の角度Aが87°になるとアリスタルコスは測定しました。ほぼ90° なので、太陽は非常に遠いことがわかるわけです(図では角度Aは87°よりずっと小さく描いています)。
さらに、日食の時に月がちょうど太陽を隠すこと、地球が月食の時に月に落す影の大きさを考えると、太陽・地球・月の大きさの比がわかるわけです。
以上のような考察から、アリスタルコスは以下の表のように月の大きさなどを計算しています。
月の直径 | 地球・月間 | 太陽の直径 | 太陽・地球間 | |
アリスタルコス | 0.36 | 9.5 | 6.7 | 180 |
現在の観測値 | 0.27 | 30.2 | 109 | 11726 |
この値を現在の観測値と比べると下の表のようになりますアリスタルコスが87°だと思ったこの角度は現在の測定では89.5°くらいであることがわかっています。このため、太陽は実はアリスタルコスの予想よりもずっと、遠くにあることになるのです。。数字はだいぶずれていますが、太陽は地球より遥かに大きいこと、逆に月は地球より小さいことはかなり古くから知られていたのです。
表を見るとわかるように、月や太陽は実際には結構大きいものが、遠くにあるおかげであの大きさに見えていることになります。だから、地球上どこから見ても太陽や月の大きさはほとんど変わりません(月の場合でも、地球のどこで見るかによる距離の違いは、全体の${1\over 30}$程度です)実際の月は円ではなく楕円上を運動していて、地球に近い時と遠い時で10%ぐらい距離は変わるので、そっちの影響の方が大きいことになります。。
望遠鏡などがない時代の観測でも、太陽の大きさ、そして太陽までの距離の遠さなどをこのような方法で実感することが当時の人にはできました(もちろん今ならもっと精度よく測れるのです)。
では、もっと遠い星はどうしましょう?---基本的な考え方は「三角測量」と言われるもので、別々の2点から距離を測りたい物体を見た角度から距離を計算するものです。たとえば地球上の2点A,B(直線距離で一万キロ離れているとする)から月を見たとします。実際には月までの距離は38万キロあります。するとA地点から月のある位置を見る角度と、B地点から同じ場所を見る角度は、だいたい1.5度違います(下の図は実際よりかなり月が近く書いてある)。
この角度から逆に、近くの天体までの距離を測定することができます現在では月にレーザー光線を当て、跳ね返ってくるまでの時間を測定するなど、より精密な方法があります。。
このような角度の違いを「視差」と言います。実は、人間が目の前にあるものの遠い近いを判断するときも、無意識にこれをやっています。人間の目が二つあるのはこの視差を使って物体の距離を測ることができるようにです。そのため、片目をつぶると遠近感覚がにぶります。写真を見るときはむしろ片目をつぶった方が遠近感が増します。逆にこれを使って「右目と左目に違う画像を見せる」ことで遠近感のある画像を作るのが3D写真の技術です。
上の絵の、左の図を左目で、右の図を右目で見てください(難しいんですが、慣れるとできます)。そうすると、この物体が紙から飛び出しているように見えるはずです。
右側の(右目で見るための)画像の方が、側面が大きく写っていることがわかるでしょうか。実際に人間が立体的なものを見たとき、このように見える角度が違ってくるということが、右の図でもわかります。
人間は右目の画像と左目の画像がどれくらい違っているか、ということで「遠さ」を感じているわけです。人間の目の場合、観測点(つまり目)の間の距離は15センチ程度です。そして、視力1.0の人は1分の角度の違いを見分けることができます視力1.0というのは、1分まで見分けられるということです。2.0なら0.5分まで見分けられます(反比例の関係です)。。1分というのは(時間ではなく)角度の単位で、1度の${1\over 60}$ですちなみに太陽や月の見かけの大きさはだいたい30分(0.5度ぐらい)です。。この場合の三角形の底辺と高さの比は約3400倍。つまり、「左目と右目で見た時の見え方の違い」で距離がわかるのは、$3400\times 0.15$で、約500メートルぐらいまで、ということになります。最初の例であげたように2地点の距離が1万キロで、人間の眼と同じ性能で角度がわかれば、400万キロぐらいまでの距離はわかることになります。
望遠鏡に頼ればもっと遠くまで測れるようになります。角度1秒時間同様、角度も1分の${1\over 60}$が1秒です。まで測れるような望遠鏡(当然、望遠鏡自体に精密に角度を測る機能がついてます)を使ったとすると、この場合の三角形の底辺と高さの比はさらに60倍になって、20万倍ぐらいとなります。星の距離は地球上の二点(1万キロぐらい離れている)で三角測量しているかぎり、20億キロ程度までなら測れる(それ以上は無理)ことになります。20億キロは土星より少し遠いぐらいですから、太陽系外の星の距離はとてもではありませんが測れません。
では、もっと遠い星までの距離はどのように測ればいいでしょうか。
ハレー彗星にその名を残すハレー(1654〜1742)は、シリウスが太陽と同じ明るさの星だったとしたら、地球から2光年の距離にあるはずだと結論しました。星の明るさは距離の二乗に反比例するからです。しかし、このハレーの仮定(太陽の明るさとシリウスの明るさは等しい)はもちろん間違っています(実際のシリウスの距離は約9光年)。シリウスは太陽よりもかなり明るい星だからです。しかし、そのことを知る方法は当時はありませんでした。
のちにハーシェル(天王星を発見した天文学者:1738〜1822)が星の明るさは等しくないことをみつけます。彼は二つの星が重なっているように見える「連星」をたくさん観測しつづけ、その中には星が互いのまわりをぐるぐる回っていると思われるものがたくさんあることに気付きました。これはこの二つの星が太陽と地球、もしくは地球と月のように万有引力を及ぼしあっていることを意味します。ところが、この二つの星の明るさは全く違いました。
距離をより直接的に測るには、結局三角測量を使うしかありません。しかし、地上の2地点で測定したぐらいでは、隣の恒星の距離を測ることすら、当時の望遠鏡では不可能でした。そこで三角形の底辺を大きくすることを考えます。地球は半径約1億5千万キロの円(に近い楕円)を描いて太陽の回りを回っていますから、半年前の位置とは約3億キロ離れた場所にいることになります。そこで半年前に見えた星の位置と今見える星の位置を比べると、星の位置には差が出ます。しかもこの差は、近い星ほど大きく、遠い星ほど小さくなるはずです。
ここで、星との間の距離のような、非常に長い距離を表すための単位を二つ紹介しておきます。
一つは「光年」で、これは「光が1年間に進む距離」です。計算してみると、
$$300000キロ/秒 \times 60 \times 60 \times 24 \times 365.25$$
という距離になります。もう一つよく使われる単位は「パーセク」で、図で書いた角度$\theta$が1秒になる距離で、約3.3光年≒約31兆キロにあたりますたまに間違う人がいるので注意。2パーセクは単に1パーセクの2倍であって、$\theta$が2秒になる距離というわけではありません(だとすると近くなってしまう)。。
これである程度の距離までは星の距離を測定することが可能になります。しかし、それより望遠鏡で見ても視差がわからないような遠い距離の星は、これだけではわかりません。1989年に打ち上げられた人工衛星ヒッパルコスに乗せられた望遠鏡では${1\over 1000}$秒の精度で年周視差を測定することができました。
では、それより遠い星はどうするの?(何万光年彼方の銀河系、なんて話ありますね?)---そのあたりは、また日を改めて話することにしましょう。
多かった解答を図で示そう。
上の二つがもっとも多かった解答。つまりはスカイツリーを含む三角形と、それに相似な三角形を考えて、辺の比から考えようというもの。
「自分の指を使う」「手に持った物差しを使う」などの案もあった。
なお、解答の中でなぜか「三平方の定理を使って」というのがたくさんあったが、この解答には三平方の定理は出番がない。
もう一つ多かったのが「スカイツリーがみえなくなるまで離れて、その距離から高さがわかる」というもの(図のように考える)。これは原理としてはいいのだが、400キロぐらい(大阪ぐらいまで)下がらなくてはいけなくて、そうすると途中には山もあるし、ということでちょっと難しい(船にのって海の方向に離れればよいか??)。
珍しい解答としては
「石を落として落ちるまでの時間を使って計算する」
なんてのもあった。
青字は受講者からの声、赤字は前野よりの返答です。