アリストテレス的考え方では、天上の世界と地上の世界では別の法則が成立します。この二つの世界の大きな違いが「地上での運動はいつか止まるが、天上の世界は永遠に同じ運動を続ける」というものでした。ところが、ガリレオ的考え方からすると、地上の運動は`いつか止まる'というのは摩擦という(アリストテレスが考慮に入れ忘れていた)力による現象であり、本来は地上の運動も`いつまでも同じ運動を続ける'という性質を持っているということになります。
それならば、天上の世界と地上の世界は、同じ法則に従っているのではないのか?---という考え方が出てくるのは当然のことでしょう。天上の世界と地上の世界では、摩擦や空気抵抗という形の「邪魔」の入り方が違うだけのことです天体の運動に関しては、摩擦や空気抵抗がほぼ「ない」と思ってよいわけです。全然ないとは言わないが、数百年レベルで見ている限りはないとみなして支障ない。}。
ニュートンはこの考え方にしたがって、月や惑星などの天体が観測されている通りの運動をするにはどのような力が働いているべきかを考え、「万有引力の法則」を見つけました逆に言えば、摩擦や空気抵抗のある「地上の世界」の方がニュートンの理論を使って実践的計算を行うには不向きな場所だった、とも言えます。。
ニュートンというと「リンゴが落ちるのを見て万有引力を発見した」ということで有名ですが、実際には「リンゴを落とす力が、天体を円運動させる力と同じ力であることを発見した」と言うべきです。
少し精密に、万有引力の法則を作る前に、ニュートンが知っていた事実を整理しましょう。
ティコ・ブラーエによる惑星の運動を詳細に観測したデータを解析したヨハネス・ケプラーが惑星の運動に関する三つの法則を発見している肉眼による観測だけで膨大なデータを積み上げ、このような法則を導き出すというのはたいへんなことである。実は太陽と惑星に限らず、惑星と衛星など、万有引力が働く系では同様の法則が成り立つ。自然は楕円という簡単な図形を運動の法則を通じて選んでいる。。
楕円の「焦点」というのは二つあり、その二つの焦点から、楕円の周上の一点に向けて線を引くと、その線分の長さの和が一定になる点である太陽がいない側の焦点には、特に何もない。。
この講のタイトルは「万有引力は世界を回す?」としましたが、この「回す」という言葉を「回転の方向に力を加えている」と思ってはいけません。実際にこの場合の万有引力は、運動の方向とは直角な「月から地球へと向かう向き」の力です。それなのになぜ動き続けるのか??---というのはもちろん慣性の法則のおかげです。万有引力は、「運動の向きを変える」のに使われています。「万有引力は世界を回す」という言葉は「万有引力がなければまっすぐ進んでしまう」という意味に解釈しましょう。これは地球から月に働く力が「運動を起こす」のではなく「運動を変化させる」という作用を持っていて、その力によって月は運動の方向を刻一刻と変えているからです。
「もし、月とリンゴが同じ法則に従うのなら、なぜ月は落ちてこないのか」という素朴な疑問に対し、ニュートンは「もしリンゴが最初十分な速さを持っていれば、やはり地球には落ちてこない」と説明しています。その説明に描いた図が右のようなものです。物が落ちるということは物体の軌道が直線ではなく曲線になる、ということです。もしその物体の軌道の曲がり具合が、ちょうど地球の表面の曲がり具合と一致すると、月は全く落ちてくることなく回り続けることになります。
最後にアリストテレスの弁護をしておきましょう。今日の話の中では彼の間違っている部分だけを強調してきたので、「間違ったことがずっと信じられる原因を作った」という点で、ついアリストテレスをマイナス評価してしまうかもしれません。しかし、彼が今日述べたような結論に達した最大の理由は、当時の観測や実験が不足だったことです。観測や実験の成果が乏しいために、間違った結論が「とりあえず正しいと思えること」として認知されるということは別に珍しいことではありません。
実際、ニュートン力学はこの後200年の間「正しい」と信じられてきましたが、20世紀に入るとアインシュタインの手で修正されます。ニュートンの時代には観測にかからなかったような、ニュートン力学では説明のつかない現象が発見されたからです。そうなったからといって、ニュートン力学が死んでしまったわけではないし、ニュートンの業績が0になったわけでもありません。ニュートンの力学は今でも日常生活のレベルでは十分役に立ちます。同様にアリストテレス的考え方も、全部が否定されたわけではないし、科学的な思考の方法を確立するという点で、アリストテレスは大きな貢献をした、と言うことができるでしょう。アリストテレスが天上の世界と地上の世界は違う物理法則が支配していると考えたことなどは、今の目から見ると妙に思えます。それはいわば「思い込み」に過ぎなかったわけです。しかし、ガリレオやニュートンの考え方の中にも「思い込み」はあります。そして、たぶん今「とりあえず正しいと思えること」の中にも。我々はこれらの過去の教訓から、いかにして自分の思考の中から「思い込み」を排除していくべきかを学ぶべきでしょう。
正解は以下の通りです
(1)慣性の法則により、人間は等速直線運動を続けます。よって、
のように一直線に約1670km/時で飛んでいく、ということになります。
ここでよくあった間違いは、
のように人間が円運動してしまうというもの。慣性の法則によれば、力が働かない物体は等速直線運動するのですから、まっすぐ飛んでいかなくては駄目です。
「真上に飛んで行く」「左斜め上に飛んで行く」などの間違いもありました。実際には最初の速度をそのまま保つので、この図の状況なら真左に飛んでいきます。
また、「人はその場にとどまり、地球だけが回転を続ける」という答えもありましたが、最初の段階で人はすでに動いているのですから、万有引力がなくなったら静止する、というのは間違いです。力がないなら「同じ運動を続ける」というのが自然法則です。
(2)自転を続けている地球からこの人を見るのですから、
問題(1)の答えである
が、地球から見ると
のように見えます。
人は直線運動、地球は円運動を続けますが、その速さは同じです。よって、地球から見ると人はまず最初人は前に上がっていきます。その後、円運動の地球と直線運動の人間の動きのずれの分だけ、図の右斜めの方向に進んでいくように見えます。
「万有引力がなくなったからふわふわ浮き上がる」と書いた人は半分正解です。「真上に上がる」と書いた人は70%正解です。
なぜか「地球から見ると地球が○○方向に運動して」という答えがいくつかありませしたが「地球から見ると」なら地球は動かないはずなので、不正解です。
だいたい考えているな、と思われるものはAにしましたが、あまりに書き方がぞんざいで何を書いているのかわからないような図や文章は減点してBとしました。
青字は受講者からの声、赤字は前野よりの返答です。